定年後に個人事業主になると年金はいくら?在職老齢年金の仕組みと計算方法

定年後に個人事業主になると年金制度はどう変わるか


定年後に個人事業主になる場合、年金について疑問を抱く人は多いかもしれません。
「どの程度もらえるのか」「どんな手続きが必要になるのか」など、様々な疑問が浮かびます。
スムーズに対応するためにも、前もって制度について理解しておくことが肝心です。

そこで本記事では、定年後に個人事業主になる場合の年金制度の変化について紹介していきます。
受給できる額や在職老齢年金の仕組み、老後資金を増やす方法などを解説していくので、ぜひ参考にしてみてください。

定年後に個人事業主になった場合の年金はいくら?


日本の公的年金は、職業に応じて2つの階層に分かれています。1階部分は20歳以上から60歳未満のすべての国民が対象となる国民年金です。
2階部分は、民間企業に勤める会社員や公務員が対象の厚生年金です。保険料は給与や賞与に応じて変動する仕組みで、会社と本人が半分ずつ負担します。

ここでは、厚生年金と国民年金の受給額の違いや厚生年金の平均受給額について、そして個人事業主になった場合の年金額をモデルケースで紹介します。

厚生年金と国民年金の受給額の違い

対象者や保険料、将来の受給額など、厚生年金と国民年金の違いは複数あります。主な違いは以下の通りです。

国民年金 厚生年金
加入対象 日本国内に住民票がある20歳以上60歳未満のすべての人 民間企業に勤める会社員や公務員
保険料(月額) 定額 給与や賞与によって変動
保険料の負担 本人が全額負担
(2026年度は17,920円)
会社と本人が折半
受給額 加入期間に応じて一律が支給される 収入と加入期間によって異なる
受給開始年齢 原則65歳 原則65歳

受給額に関しては、国民年金は加入期間に応じて一律で支給されます。平均年金月額は以下のようになっています。

年度 月額受給平均
2020年 56,358円
2021年 56,479円
2022年 56,428円
2023年 57,700円
2024年 59,431円

参照:厚生労働省年金局「令和6年度厚生年金保険・国民年金事業の概況

月額平均は、2020年度と比較すると3,000円程度上昇しています。

一方、厚生年金の受給額は受け取った収入や加入期間によって異なる特徴があります。
2024年度の平均年金月額は約151,000円です。国民年金と比較すると大きく違うことがわかります。

厚生年金の平均受給額

厚生年金の受給額は、前述したように収入や加入期間によって異なります。
厚生年金の平均年金月額の詳細については、厚生労働省年金局による「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概要」でチェックできます。
2020年度~2024年度の平均年金月額は以下の通りです。

年度 月額受給平均
2020年 146,145円
2021年 146,145円
2022年 144,982円
2023年 147,360円
2024年 151,142円

年々少しずつ平均受給額は上がっており、2024年度には15万円代を突破しています。

モデルケースで試算|個人事業主になると年金はいくら?

会社員として長年厚生年金に加入してきた場合、定年後に個人事業主へ転身すると年金受給額はどう変わるのでしょうか。以下のモデルケースで確認してみましょう。

【モデルケースの前提条件】

  • 会社員として40年間勤務(22歳~62歳)
  • 平均標準報酬月額:35万円
  • 65歳から年金受給開始
  • 62歳で定年退職後、個人事業主として独立

【試算結果のイメージ】

会社員のまま継続した場合 個人事業主に転身した場合
老齢基礎年金 約78万円/年 約78万円/年
老齢厚生年金 約120万円/年 約100万円/年※
合計(年間) 約198万円 約178万円
合計(月額) 約16.5万円 約14.8万円

※退職後の厚生年金加入期間がなくなるため、その分の受給額が増えない
※あくまでも試算例です

このモデルケースでは、月額にして約1.7万円、年間で約20万円の差が生じます。
個人事業主への転身のタイミングが早いほど、厚生年金の加入期間が短くなり、受給額への影響は大きくなります。
なお、実際の年金額は加入期間や報酬額によって異なるため、ねんきんネットや年金定期便で見込み額を確認することをおすすめします。

自分の年金額を知る方法

自分が受給できる年金額を調べる方法は3つあります。自分に合う方法で年金額を調べてみてください。

年金定期便

日本年金機構から郵送される通知書が年金定期便です。毎年誕生月に発送されて自宅に届きます。
年金加入期間や保険料納付額、年金の見込み額などが記載されているため、手軽に受給額を調べることができます。
ただし、年齢によって年金額の意味合いが異なる点に注意してください。

年齢 内容の特徴
50歳未満 ・これまでの加入実績に応じた年金額が記載されている
・今後も保険料を納め続けることで年金が増えていく
50歳以上 ・現在の加入状況が60歳まで続くと仮定した年金見込み額が記載されている

また、35歳・45歳・59歳には、全期間の加入履歴が記載された封書形式で年金定期便が郵送されます。

ねんきんネット

日本年金機構が提供しているインターネットサービスで、24時間好きな時にスマホやパソコンで自分の年金記録や将来の年金見込み額を試算できます。
試算機能は2種類あり、それぞれ特徴が異なります。

  • かんたん試算:現在の加入状況が60歳まで続くと想定して、見込み額を算出する仕組み
  • 詳細な条件で試算:働き方や収入、受給開始年齢などを設定して、より自分のライフプランに沿ったシミュレーションができる

利用する場合は、マイナポータルとの連携もしくはユーザIDの取得による登録を行う必要があります。

公的年金シミュレーター

働き方やライフスタイルの変化に応じて将来受け取れる年金額を簡単に試算できるのが公的年金シミュレーターです。
ねんきんネットとは異なり、利用するための登録や連携などは必要ないため、より手軽に算出できます。

平均年収の入力でもシミレーションできますが、「年金定期便」に記載されている二次元バーコードを使うと、具体的な数値が確認可能です。
二次元バーコードを読み取り、生年月日を入力することで試算できます。
将来の働き方や暮らし方を入力することで、様々なシミュレーションが可能です。また、繰り上げ受給や繰り下げ需給をした場合の年金額の試算も行えます。

定年後に個人事業主になる場合の年金の仕組み


定年後、個人事業主になる場合は、年金制度にどんな違いが生まれるのか解説していきます。

国民年金に切り替えとなる

個人事業主が加入できる公的年金は、原則「国民年金」のみです。厚生年金は、法人や常時5人以上の従業員がいる個人事業所を対象にした制度です。
会社員や公務員が対象であり、フリーランスや自営業者といった個人事業主は加入要件を満たしていません。そのため、会社を退職した後には年金の切り替えが必要です。

定年退職後の年金切り替え手続きと期限

定年退職後に個人事業主として独立する場合、厚生年金から国民年金への切り替え手続きが必要です。この手続きには期限があるため、退職後すぐに対応しましょう。

【手続きの流れ】
①退職日の翌日から14日以内に市区町村窓口へ
退職した翌日から国民年金の加入義務が発生します。
お住まいの市区町村の窓口へ出向き、国民年金への種別変更手続きを行います。

②必要な持ち物
・年金手帳または基礎年金番号通知書
・退職日が確認できる書類(離職票・退職証明書など)
・本人確認書類(運転免許証など)
・マイナンバーカード(または通知カード)

③国民年金保険料の納付
切り替え後は、毎月国民年金保険料(2026年度(2026年4月~2027年3月)月額17,920円)を自分で納付します。
会社員時代は給与から自動で天引きされていたため、納付忘れに注意が必要です。口座振替の設定を同時に行っておくとスムーズです。

なお、14日を過ぎても手続き自体は可能ですが、未加入期間が生じると将来の年金受給額に影響する場合があります。退職が決まったら早めに準備しておきましょう。

在職老齢年金は対象外

会社員が働きながら厚生年金を受け取る場合、給与と年金の合計額によって年金が減額される「在職老齢年金制度」が適用されます。
しかし、個人事業主の場合は在職老齢年金の対象外となるため、事業収入がいくらあっても受け取る年金額が減額されることはありません。
働きながらでも年金を満額受け取れるので、安心して働くことができます。

在職老齢年金の仕組み


在職老齢年金について内容を理解していない人もいるでしょう。ここでは、在職老齢年金の概要や支給停止額の計算方法などについて解説していきます。

概要

60歳以上の厚生年金に加入して働く高齢者の給与と年金額の合計額が一定を超えた場合に年金の一部が停止となる制度を在職老齢年金制度と言います。
年金を受け取っている高齢者がたくさん働いて収入が増えると、年金が減額される仕組みです。

ただし、在職老齢年金による調整の対象は「老齢厚生年金」のみです。
すべての人に共通して支給される「老齢基礎年金」は報酬額に関わらず全額が支給されるので、国民年金となる個人事業主であれば、受け取る年金の額が変わることはありません

支給停止額の計算方法

在職老齢年金の支給停止額は、以下の計算式で表すことができます。(65歳以上の場合)

(基本月額+総報酬月額相当額-支給停止調整額)÷2=支給停止額

  • 基本月額:老齢厚生年金の年額を12で割った数
  • 総報酬月額相当額:その月の標準報酬月額+(直近1年間の標準賞与額の合計÷12)
  • 支給停止基準額:65万円

つまり、老齢厚生年金の月額と総報酬月額相当額(月給+ボーナスの月割り額)の合計が65万円を超えてしまうと、超えた分の半額だけ受給額が減る仕組みです。

2026年4月からは支給停止額が変更

2026年6月時点での支給停止額は65万円です。2026年3月までは51万円でした。なぜ停止額が引き上げられたのか、その理由や引き上げによる影響を解説していきます。

引き上げの背景

支給停止額が変更されて引き上げられた背景の1つに「少子高齢化」が挙げられます。
少子高齢化が進んでいる日本では、20代~50代の働き盛り世代となる人口が減少傾向にあります。労働力不足を解消するためにはシニア世代の活用が重要です。

しかし、在職老齢年金は働けば働くほど受給できる年金が減る仕組みです。
高齢者の働く意欲を削ぐ要因となっているため、その影響を減らすためにも支給停止額が引き上げられたと考えられます。

引き上げによる影響

支給停止額が引き上げられると、年金の受給額が下がってしまう従業員は少なくなります。
年金と収入の合計が65万円を超えるまでは、在職老齢年金の影響を受けなくなるため、年金を満額受け取ることが可能です。

その結果、年金への影響を懸念して働くことを控えていたシニア世代が減るため、「長く働きたい」と考える従業員が増えると予想できます。
シニア世代の転職が増えることも考えられるため、人材不足リスクを減らすことにつながります。

個人事業主になってからも老後資金を増やす方法


企業を退職後に個人事業主になる場合、老後の備えに不安を抱える人もいるかもしれません。
不安を解消したいなら、厚生年金の代わりとなる制度があるため、活用を検討してみてください。

iDeCo(個人型確定拠出年金)

公的年金にプラスして自分で老後資金を作るための私的年金制度がiDeCoです。
毎月掛金を支払い、自分で選んだ金融商品を運用することで、運用益を得られる仕組みになります。iDeCoには様々なメリットがあります。

  • 掛金が全額所得控除される
  • 運用益が非課税となる
  • 受取り時にも控除が適用される

運用益は、原則60歳以降に年金もしくは一時金として受け取ることが可能です。
特別な事情がない限り、途中での引き出しや解約ができないため注意してください。また、元本割れのリスクがある点を理解しておきましょう。

国民年金基金

国民年金だけでは将来不安がある人に向けて、受給額を上乗せできる制度を国民年金基金と言います。
加入できるのは、20歳以上60歳未満の個人事業主やフリーランスといった第1号被保険者です。国民年金基金にもメリットがあります。

  • 掛金は全額控除の対象
  • 一生涯受け取れる終身年金
  • 収入や将来設計に合わせて一口単位で掛金や年金の種類を自由に組み合わせられる

ただし、一度加入すると任意での中途解約はできません。付加年金との同時加入はできず、iDeCoと併用する場合には掛金の合計に上限が定められるため注意してください。

付加年金

国民年金に400円を上乗せすることで年金受給額を増やせる制度が付加年金です。
具体的には、「200円×付加保険料納付月数」の計算式で算出された額が、生涯上乗せされます。
少額の負担だけで生涯にわたって受給額が増えるため、個人事業主におすすめの制度です。

ただし、国民年金基金に加入している人や保険料免除を受けている人は対象外です。
加入や脱退はいつでもできるため、ライフステージに合わせて柔軟に取り入れてみてください。

定年後に個人事業主になる際の年金に関するよくある疑問


定年後に個人事業主になる人が感じやすい疑問とその答えを紹介していきます。

扶養している配偶者の年金はどうなる?

会社員として働いている間、扶養している配偶者(専業主婦・主夫など)は第3号被保険者として、保険料を負担せずに国民年金に加入できていました。
しかし、定年退職後に個人事業主となると、この第3号被保険者の資格は失効します。

配偶者が65歳未満で年金を受給していない場合、第1号被保険者として国民年金に加入し直す手続きが必要です。
この場合、配偶者分の国民年金保険料も別途納付する必要が生じるため、家計への影響をあらかじめ試算しておくことをおすすめします。
手続きは退職日の翌日から14日以内に、配偶者本人が市区町村の窓口で行います。

年金を受け取りながら個人事業主として働けるか?

結論から言うと、個人事業主であれば年金を受け取りながら働くことは基本的に可能です。
会社員として働きながら年金を受給する場合は「在職老齢年金」の制度が適用され、収入によっては年金の一部または全部が支給停止となります。
しかし、個人事業主は厚生年金に加入しないため、在職老齢年金の支給停止の対象外となります。

つまり、個人事業主として事業収入がいくらあっても、原則として年金は全額受け取ることができます。
これは個人事業主として独立する大きなメリットの1つと言えるでしょう。
ただし、確定申告による所得税や住民税の負担は生じるため、手取り額の変化には注意が必要です。

まとめ・定年前に年金制度について正しく理解しよう

個人事業主は厚生年金に加入できないので、会社を退職した後は基本的に国民年金のみに加入することになります。
切り替え時には手続きが必要となるため、必要書類を用意して市町村窓口に申請してください。
将来の生活に不安があれば、iDeCoや付加年金の活用で備えることも可能です。今回紹介した内容を参考に、検討してみてください。

創業手帳(冊子版)では、定年後の起業に役立つ情報や個人事業主が理解しておくべき知識など、様々な情報を掲載しています。ぜひチェックをしてお役立てください。

(編集:創業手帳編集部)