やまやま 猪原有紀子|育児ストレスから生まれた無添加グミで三つの社会課題を同時解決
関わるすべての人を笑顔にしたい。利益度外視で守り抜く「ゴールデントライアングル」

和歌山県かつらぎ町で「子どもにとっていい社会をつくる!」というミッションのもと、社会課題解決型の事業を展開する株式会社やまやま。代表の猪原さんは、自身の子育て体験から生まれた「おやつストレス」の解決策として無添加グミを開発し、廃棄フルーツの活用と障がい者雇用創出を実現しました。都会から地方への移住、子育てと起業の両立、そして世界展開への挑戦など、猪原さんの起業ストーリーと経営哲学について伺いました。
大阪市出身。2018年、三男出産の1ヶ月後に和歌山県かつらぎ町に移住。廃棄フルーツを活用した無添加おやつ「無添加こどもグミぃ〜。」の開発を皮切りに、ベビーシッター付きキャンプ場くつろぎたいのも山々、女性向け社会企業スクール「SBC」を立ち上げ、「ママと子ども」をドメインとした社会課題解決型ビジネスを展開している。
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この記事の目次
子どもが欲しがるおやつは添加物だらけ。そんな「おやつストレス」解消の救世主は、たまたま目にした廃棄フルーツだった

猪原:当社は「子どもにとっていい社会をつくる!」というミッションのもと、廃棄フルーツを活用した無添加おやつの製造販売事業、ファミリーキャンプ事業、社会起業スクール事業を手がけています。無添加おやつ事業では、フルーツ王国和歌山県の廃棄・規格外フルーツを使い、添加物を一切使わずお子さんも安心して食べられるグミを販売しており、累計販売数は12万袋を突破しました。ファミリーキャンプ事業では、60年ほど耕されていなかった耕作放棄地を2年半かけて開拓。ベビーシッター付きの観光農園キャンプ場として、この2年間で7,000人ほどのお客様に来ていただいています。子どもが大暴れしても大歓迎という、育児ストレスを解消するコンセプトの施設です。社会起業スクール事業は、女性が社会課題解決型のビジネスを学ぶスクールで、北海道から沖縄まで250人の受講生がいます。受講生はそれぞれ各地域のビジネスコンテストで優勝したり、地方自治体と連携したりしています。どのビジネスも「ママと子ども」をドメインに、社会課題の解決を目指しています。

猪原:実は地方移住に憧れもなく、田舎で暮らしたいとも思っていませんでした。私はもともと大阪府出身で、天満橋で子育てをしたり新宿に住んだりもしてきたので、どちらかというとシティガールです(笑)。
そんな私が移住を決めたきっかけは、次男出産後に産後うつになりマミートラック(キャリア迷子)に陥ったことでした。かつらぎ町には長男妊娠中に一度来たことがあったのですが、そのときは全く心が動かなかったんです。ですが、自分の生き方を見つめ直す中で「環境を大きく変えた方がうまくいくのではないか」と考えるように。ちょうど「無添加こどもグミぃ〜。」の構想も練っていたタイミングだったのですが、「かつらぎ町に移住して廃棄フルーツのおやつ事業をやりなさい」と宇宙が言っていると思えるほど偶然の出来事が重なり、三男を出産した直後に移住を決めました。
猪原:きっかけは長男のイヤイヤ期でした。義理の父が息子にカラフルなグミをあげてしまい、そこから息子はグミ中毒に。ごはんよりもおやつばかりを求めてくることはもちろん、そのおやつが添加物だらけなことにもストレスを感じ、これを「おやつストレス」と名付けました。できるだけ無添加のおやつをあげたいとスーパーで探しても、成分表を見ると添加物だらけ。一切添加物が入っていないドライフルーツは、茶色くて硬くて不味く、到底子どもが喜ぶとは思えませんでした。そんな日々を送る中で「なぜカラフルで甘くて小さくて、子どもが欲しがる無添加おやつが売っていないんだろう」という疑問が生まれたんです。
そんな悩みを抱える中でたまたま訪れたかつらぎ町は、串柿生産量日本一の町で、至る所に鮮やかなオレンジ色の柿が捨てられていました。その光景が、頭の中にあった「カラフルで甘くて小さくて無添加のおやつ」というアイデアと結びつき、廃棄フルーツでグミを作りたいと思うようになりました。
3回目で掴んだ共同開発のチャンス!完全なる無添加を目指して試行錯誤

猪原:まず「かつらぎ町 起業」で検索して起業補助金制度を見つけました。移住の意思があれば応募できる制度だったので、移住も視野に入れながらプレゼン資料を作りました。しかし、審査員は70代の商工会議所の方や大学教授など、起業経験のない人たちばかり。「おやつストレス」というコンセプトは全く刺さらず、3回連続で落選してしまったんです。そんな中、3回目のプレゼン終了後、1回目から見てくれていた審査員の方が、和歌山県の農商工連携ファンドを紹介してくれました。そこから、大阪市立大学さんとの共同開発のチャンスを掴み、試行錯誤の末、商品化に成功したんです。
猪原:「完全なる無添加」を目指したことです。大学の教授からは「添加物は安全であるというエビデンスがある」という意見もいただきましたが、それでも「無添加」だけはどうしても譲れませんでした。私自身もそうでしたが、子どもを持つお母さんは「無添加の方が安心」と思う方も多いですし、少しでも不安になるような材料は取り除きたかったんです。ですが、フルーツを乾燥させるだけで柔らかく、かつカラフルにするのは困難を極めました。フルーツごとに最適な乾燥温度、湿度、時間を見つけるまでには、2万通り以上も試しましたね。
猪原:発売時はコロナ真っ只中で、多くの障がい者福祉施設で仕事がなくなる問題が発生していました。一方、私の事業では規格外フルーツの加工に難航。規格外フルーツは形も様々で完熟しているため、人の手による丁寧な加工が必要だったんです。そこで、知り合いの施設長を通じて福祉施設にお声がけさせていただき、連携がスタートしました。
福祉施設の方々からは「職場が良い匂いで毎日楽しい」「自分の仕事が子どものおやつになると思うとやる気が出る」など嬉しいお言葉も多数いただいています。さらに、「無添加こどもグミぃ〜。」は売上の9割がサブスクなので、安定してお仕事を提供できています。

猪原:SNS戦略に力を入れていたことです。販売前からInstagramのアカウントを立ち上げ、同じ悩みを抱えるお母さんたちに向けて「おやつストレス」について発信をしていました。フォロワーが1,000人を超えたタイミングで「無添加こどもグミぃ〜。」のアンバサダー企画を実施したところ、なんと700人もの応募があったんです。そこから70人を選び、DMで丁寧にコミュニケーションを取り、お母さんたちの意見やアイデアを取り入れながら商品化を進めました。ポイントは一対一でのコミュニケーションです。しっかりと対話を重ねることでアンバサダーの方から「猪原さん頑張って!」と応援していただけるようになり、発売日には熱量の高い口コミが集まりました。
ゴールデントライアングルを守ることこそが、私の介在価値

猪原:事業が軌道に乗り始めた頃、投資家からは「コストを下げるために障がい者福祉施設を使うのはやめた方がいい」「未熟なフルーツを一気に買い取ってOEM工場で大量生産した方が効率的」というアドバイスをいただきました。確かにビジネス的には正しい判断かもしれません。
ですが「小規模農家から規格外フルーツを買い取り、障がい者福祉施設で加工し、全国のママと子どもに届ける」というゴールデントライアングルを作ることこそが、私が介在する価値だと思っています。OEM工場で青いフルーツを加工し、添加物を入れて賞味期限を伸ばして安く売るなら、別に私がやる理由はありません。たとえ利益率が低くても、このゴールデントライアングルだけは崩さない、という想いがより強固になりました。
猪原:今目指しているのは「無添加こどもグミぃ〜。」の世界進出です。アフリカで大量に廃棄されているマンゴーを買い取り、現地の女性を雇用しグミを作ってアメリカに輸出できればと考えています。商品をアメリカに輸出するために必要なFDA認証も取得しました。ゴールデントライアングルの輪をもっともっと大きくして、幸せになる人を増やしていきたいですね。

猪原:特に大変だったのは、キャンプ場の立ち上げ期間です。200人以上の若者がボランティアで来てくれたのですが、常に家に他人が泊まっているような状態でした。毎日10人ほどでご飯を食べるなど、本当に大変で記憶がほとんどないくらいです。
当時はまだ赤字経営の真っ只中でしたが、子どもとの時間を確保するために家事代行サービスを利用する決断をしました。「自分が洗濯物を干す時間は外注できるけれど、子どもを抱っこする時間は外注できない」と思ったからです。おかげで子どもたちと過ごす時間もしっかり確保できましたし、ボランティアメンバーも子どもたちとたくさん遊んでくれたので、寂しい思いをさせることはありませんでした。
地方発ビジネス成功の掟は「ローカルを市場にしない」

猪原:地方で起業する人によくある失敗が「ローカルを市場と考えてしまう」ことです。例えば「無添加こどもグミぃ〜。」ならマルシェに出展するといった発想です。ローカルだけを市場にしてしまうと、よっぽど独自性や希少性がない限りビジネスは一向に広がりません。私が大事だと思うのは「ローカルは拠点であって市場ではない」ということ。地方資源を使って、最初から全国・全世界に届ける仕組みを考えることが重要です。
そう聞くと難しく感じるかもしれませんが、地方で起業することには大きなメリットもあります。私は毎日美しい景色が見える家で仕事をしていますし、都会で生活していた頃より家族との時間も多く持てています。こうした環境でエネルギーを蓄えながら仕事ができるのは、地方ならではの魅力ではないでしょうか。
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(取材協力:
株式会社やまやま 代表取締役 猪原有紀子)
(編集: 創業手帳編集部)






