教育訓練休暇給付金とは?制度の概要やキャリア形成に役立つ制度を紹介
学びに専念できる環境を教育訓練休暇給付金で整備しよう
DXの推進や産業構造の変化などによって、新しいスキルが求められる機会が増えました。
それにともない、スキルアップやキャリア形成を目的としたリスキリングが注目されています。
しかし、働く社会人が学び直すためには、時間の制約や経済的な負担がかかってしまうことが大きな課題です。
このような課題を解消するために、2025年10月から「教育訓練休暇給付金」が創設されます。
今回は、新設される教育訓練休暇給付金の概要や申請方法、そのほかキャリア形成に役立つ制度について紹介します。
従業員が学びに専念できる環境を整備したいと考えている人は、ぜひ参考にしてください。
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この記事の目次
【2025年10月創設】教育訓練休暇給付金とは
2025年10月からスタートする教育訓練休暇給付金はどのような制度なのか、まずは制度の概要や創設される背景、導入の実態について紹介します。
教育訓練休暇給付金の概要
教育訓練休暇給付金は、雇用保険の被保険者が職業に関する教育訓練を受けるために休暇を取得する際に給付金を受け取れる制度です。
離職した時に支給される基本手当(失業手当)の相当額が雇用保険から支給されます。
この給付金を受けるためには、職業に関する教育訓練を受けることがポイントです。趣味の講座など自分の職業とは無関係な訓練では支給対象とならないので注意してください。
教育訓練休暇給付金が創設される背景
教育訓練休暇給付金の目的は、教育訓練を受ける期間中の生活を経済的に支援することです。
普段働いている社会人がスキルアップのために学習をするとなると、時間は制約されてしまい、学びに集中することが困難です。
学習に集中するために一時的に仕事から離れてしまえば、今度は経済的な負担が懸念されます。
現状、労働者が自発的に教育訓練に専念するために仕事を休暇する場合、その期間中の生活を経済的に支援する公的な制度がありません。
労働者が生活費の不安をなくし、教育訓練に集中できる環境を整えることが課題となっていたため、それを解消する目的でこの給付金制度が創設されるようになりました。
教育訓練休暇制度導入の実態
従業員が教育訓練休暇給付金を利用するためには、勤務先で教育訓練休暇制度を導入しておかなければなりません。
しかし、教育訓練休暇を導入している企業は少ないのが現状です。
厚生労働省の「令和5年度 能力基本調査」によれば、教育訓練休暇制度を導入している企業の割合はわずか8%です。
現在導入はしていないものの、導入を予定している割合は9.9%となっています。
導入予定を含めると制度の導入率は17.9%であり、80%以上の企業は導入していない、または導入の予定がないという実態です。
導入が進んでいない理由には、代替要員の確保が難しいという理由が半数以上を占めています。
また教育訓練休暇制度自体を知らなかったという企業も4割近くおり、制度が周知されていないことも導入が進まない原因となっているようです。
そして、教育訓練休暇制度を導入している企業でも、30日以上連続した長期休暇は取得可能だが、有給休暇としては取得できないと回答した企業が7.9%となっています。
そのため、休暇制度はあっても経済的に支援する仕組みがない企業がほとんどです。
教育訓練休暇給付金を受給できる対象者・対象範囲
教育訓練休暇給付金を受けるためには、受給要件を満たさなければなりません。ここで、受給対象者の条件と適用される教育訓練の範囲について解説します。
対象者
受給対象となるのは、解雇予定者を除いた雇用保険の被保険者です。
雇用保険は、勤務先で1カ月以上働き、1週間に20時間以上の労働時間が見込まれることが加入条件となっています。
それに加えて、学生は一定要件を満たさないと原則加入できないため、学生でないことも加入条件です。
上記の条件を満たしていない場合、雇用保険の被保険者ではないため受給対象になりません。
また、雇用保険の被保険者でも被保険者期間が5年以上、かつ休暇開始前2年間にみなし被保険者期間が12カ月以上あるという受給要件もあります。
みなし被保険者期間とは、休暇開始日を被保険者でなくなった日として計算した被保険者期間のことです。
これらの要件を満たした上で、教育訓練を受けることを目的に無給の休暇を取得しなければなりません。
有給休暇として取得すると受給要件を満たさないので注意が必要です。
教育訓練の範囲
現段階で検討されている教育訓練の範囲は、事業主が承認する教育訓練であることです。
そもそも教育訓練休暇は、労働協約や就労規則などに基づいた休暇制度です。
そのため、被保険者が自発的に取得を申し出て、事業主が承認したものを対象にするという案が出ています。
また、被保険者が休暇を申し出るにあたって、休暇期間や教育訓練を受ける目標、訓練内容、教育訓練を実施する機関名を明確にすることが必須です。
教育訓練の実施機関に関しては、学習内容や質を一定水準で担保するために、原則学校教育法に基づいた大学・大学院・短大・専門学校・専修学校、または各種学校、教育訓練給付の講座指定を受ける法人に限定するという案が出ています。
教育訓練休暇制度の給付額や受給期間
教育訓練休暇給付金を利用するにあたって気になることといえば、給付額と受給期間です。
ここで、教育訓練休暇制度の給付額と受給期間に関する条件を解説します。
給付額
給付額は、離職時に支給される基本手当(失業手当)に相当する金額です。
教育訓練休暇の開始日前日を自己都合で退職した日とみなして所定日数(受給日数)を出し、それに準じた基本手当相当額が支給されます。
この所定日数は雇用保険の被保険者となっている期間によって定められているため、人によって上限日数が異なり、給付金額も変わってきます。
また、教育訓練休暇は休暇制度であり退職してはいないため、実際の給付額の計算は失業時に受け取れる基本手当とは違う点にも注意してください。
受給期間
教育訓練休暇は休暇制度であるため、休暇が終了すれば給付金の支給もストップします。
受給期間は、原則教育訓練休暇の開始日から1年以内の期間に取得した休暇が対象です。
この期間中は、30日ごとに公共就職安定所長の認定を受けなければなりません。
妊娠や出産、育児、そのほか厚生労働省が定める理由から30日以上教育訓練を受けられない場合、その日数分を1年に加算することが可能です。
そして、最長4年まで延長させることができます。
また、休暇開始から1年以内となっていますが、1年間ずっと給付金を受け取れるわけでありません。
上記で述べたとおり、雇用保険の加入期間に応じて所定日数が定められており、それを上限に休暇中は基本手当相当額が支給される仕組みとなっています。
雇用保険加入期間ごとの受給期間の上限は以下のとおりです。
-
- 10年未満:90日
- 10~20年未満:120日
- 20年以上:150日
雇用保険の加入期間が長いほど、受給期間の上限も長くなります。
教育訓練休暇は連続ではなく、複数回に分けて取得することも可能です。複数回に分ける場合、初回の休暇開始日が起算点です。
なお、離職した際に基本手当を受給すると雇用保険の加入期間がリセットされます。
教育訓練休暇は離職したわけではありませんが、給付金は失業手当と扱われるため、受給すると加入期間がリセットされます。
そうなると、連続して教育訓練休暇給付金を受けられないかもしれません。
また、給付金の受給直後に離職(倒産や解雇などの会社都合は除く)すると、基本手当を受けられない恐れがある点にも注意してください。
教育訓練休暇制度の申請方法の流れ
教育訓練休暇給付金は雇用保険から支給されるため、受給の手続きは基本手当の手続きと同様の流れになるという案が出ています。
教育訓練休暇給付金の申請から給付金の受給までの大まかな流れは以下のとおりです。
1.被保険者(受給者)が事業主に教育訓練休暇給付金の受給を意思表明する
2.事業主が事業所を管轄するハローワークに給付金受給の意思表明と、当該被保険者の休暇期間や賃金支払状況などを届け出る
3.ハローワークは賃金支払状況などを確認次第、事業主に通知し、事業主から被保険者にも結果を通知する
4.被保険者からハローワークに給付金の支給申請を行う
5.ハローワークが教育訓練休暇給付金の受給資格を確認して受給を決定する
6.被保険者は30日ごとに教育休暇取得の申告をする
7.申告に基づいて休暇取得を認定し、教育訓練休暇給付金を支給する
2・4・6の手続きは、電子申請や郵便申請にも対応する予定です。
そのため、わざわざハローワークの窓口に行かなくても、教育訓練休暇および給付金の申請ができるようになります。
キャリア形成を目指せるその他の制度
新設される教育訓練休暇給付金以外にも、従業員のキャリア形成を後押ししてくれる制度はほかにもあります。
ここで、キャリア形成を目指せる制度を紹介するので、従業員育成の環境を整備する際の参考にしてください。
教育訓練給付制度
教育訓練給付制度とは、労働者のキャリアアップを支援するために設けられた給付制度です。
一定の受給要件を満たした人が厚生労働大臣指定の教育訓練を受講・修了した場合、自己負担した受講費の一部を給付金として支給してもらえる制度です。
入学費や受講料といった受講費を自己負担する必要がありますが、給付金を受けることで経済的な負担を軽くして、新しい知識やスキル、資格を取得できます。
給付金の対象となる教育訓練は、2025年2月時点で約16,000講座です。
訓練の内容やスキルレベルによって一般教育訓練・特定一般教育訓練・専門実践教育訓練の3つに分類されます。
【一般教育訓練】
対象 | 雇用の安定・就職促進に関する教育訓練 |
給付条件・金額 | 訓練終了後に受講費の20%(上限10万円)を支給 |
対象の試験・資格例 | MOS365・日商簿記・ITパスポートなど |
【特定一般教育訓練】
対象 | 労働者の中長期的キャリア形成に関する教育訓練 |
給付条件・金額 | ・訓練終了後に受講費の40%(上限20万円)を支給 ・資格取得かつ訓練終了後1年以内に雇用保険の被保険者として雇用されると、受給費用の10%(上限5万円)を追加支給 |
対象の試験・資格例 | 宅地建物取引士資格試験・ITSSレベル2資格取得を目指す講座(基本情報技術者試験等)など |
【専門実践教育訓練】
対象 | 労働者の中長期的キャリア形成に関する教育訓練 |
給付条件・金額 | ・訓練受給中6カ月ごとに受講費用の50%(年間上限40万円)を支給 ・資格取得かつ訓練終了後1年以内に雇用保険の被保険者として雇用された場合、受講費用の20%(年間上限16万円)を追加支給 ・上記の追加受給を満たした上で、訓練終了後の賃金が受講開始前より5%以上上昇した場合、受講費用の10%(年間上限8万円)を追加支給 |
対象の試験・資格例 | 第四次産業革命スキル取得講座・ITSSレベル3以上の資格取得を目指す講座(シスコ技術者認定資格等)など |
人材開発支援助成金
人材開発支援助成金は、正規雇用の従業員に向けて職務と関連する教育訓練を実施する事業主を支援することを目的にした助成制度です。
計画的に職業訓練などを行った際、発生する経費や訓練期間中の賃金の一部が支給されます。
2025年2月時点で以下6つのコースがあり、対象の教育訓練の内容や助成額などが異なります。
各コースの1事業1年度あたりの限度額は以下のとおりです。
人材育成支援コース | 1,000万円まで |
教育訓練休暇等付与コース | 定額30万円 ※賃金要件や資格等手当要件を満たす場合、36万円 |
人への投資促進コース | ・成長分野等人材訓練以外:2,500万円まで ※そのうち自発的職業能力開発訓練は300万円まで ・成長分野等人材育成:1,000万円 |
事業展開等リスキリング支援コース | 1億円まで |
建設労働者認定訓練コース | 合計1,000万円まで |
建設労働者技能実習コース | 合計500万円まで |
雇用保険被保険者以外の支援策
教育訓練休暇給付金は、雇用保険の被保険者が対象となっています。
そのため、雇用保険が適用されない労働者や離職者、個人事業主・フリーランスといった被保険者以外は給付金を申請できません。
この問題を解消するために、被保険者以外の人に対する支援策が整備される予定です。
教育訓練休暇給付金と合わせて、2025年10月から雇用保険被保険者以外の人を対象に、求職者支援制度の一環として新たな融資制度が創設されます。
この融資制度では、教育訓練費用や訓練期間中の生活費を対象に融資を受けることが可能です。
2025年2月時点では、貸付上限は年間240万円(最大2年間)で、利率は年2%と想定されています。
また、教育訓練終了後に賃金が上昇した場合、残債務の一部が免除される見通しです。
まとめ・従業員育成に向けての支援策を検討しよう
市場や時代の変化に対して柔軟に対応し、事業を成長させていくためには、従業員一人ひとりのスキルアップが欠かせません。
新しい知識・技術の習得には、時間とお金がかかるため、それが従業員育成の機会を奪う理由となっています。
教育訓練休暇給付金の新設によって、時間の制約や経済的な不安を解消できるので、積極的にスキルアップを目指す従業員が増えると期待されます。
新たな給付金制度を利用するには教育訓練休暇制度を整備する必要があるので、従業員育成に力を入れたい時は制度の導入や支援策を検討しましょう。
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(編集:創業手帳編集部)