iOffice 五十棲剛史|元船井総研取締役が語る3ヶ月で会社に利益を生む「黒字社員」の育成方法

創業手帳
※このインタビュー内容は2023年08月に行われた取材時点のものです。

優秀な起業家ほど組織づくりに苦労する。成功の鍵は「設計図」

企業で成果を出せる優秀なビジネスパーソンほど、部下に仕事を任せられず、起業家として組織づくりに苦戦する傾向にあります。

このような企業に入社した業界未経験者でも、たった3ヶ月で会社に利益を生み出す「黒字社員」へと育成するサポートを行っているのが元船井総研取締役で、今はiOffice代表の五十棲さんです。

そこで今回は、黒字社員を育成するコツや、起業家がよくしてしまう失敗事例とそれを乗り越える方法について創業手帳の大久保が聞きました。

五十棲 剛史(いそずみ たけし)
株式会社iOffice 代表取締役
京都生まれ。大手百貨店、コンサルティング会社を経て、1994年船井総合研究所入社。入社以来クライアントの業績アップ技術には長けており、「行列のできるコンサルタント」として、船井総研全コンサルタントの中で、11年連続コンサルタント実績NO.1など不滅の記録を数々樹立。その後、船井総研ホールディングスの事業開発取締役として、アドテク等の新規事業を手掛け全て成功に導いている。
2018年3月24日退任後、「世界に通用するスタートアップ企業をつくる専門に支援をしたい」という思いで、iOfficeをスタート。
2023年7月5日に『売上2億円の会社を10億円にする方法』(ダイアモンド社)の改訂版が発売。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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著書『売上2億円の会社を10億円にする方法』に書かれた「企業成長の秘訣」とは?

大久保:7月5日に『売上2億円の会社を10億円にする方法』(ダイアモンド社)の改訂版が発売されたということで、まずはこの本を書かれた理由を教えてください。

五十棲:この本を最初に出したのは2005年で、このテーマにした理由は、それまでのキャリアに影響しています。

私は、1994年にコンサルティング会社に入社し、住宅業界をメインにコンサル業をしてきました。

社長がトップセールスとして引っ張っている会社では、大体2億円規模の企業が多いです。

そこから「本格的に組織を作りたい」「飛躍して売り上げを伸ばしていきたい」という会社を相手にしており、その時に身に着けた知識や経験を本にしました。

肝となるのは、拡大のために社員を採用しても、なかなか上手く機能しないことです。社長が自身で提案すれば買ってくれるものを、社員が提案すると買ってくれない、という壁に当たることは、よくある話でした。

このように、売り上げが伸び悩む原因に関して、コンサルティング会社に入社後、早い段階で気づきました。

それにより、入社4年目の頃にはナンバーワンコンサルタントになり、様々な企業からコンサルティングの依頼をもらい、行列ができるほどになりました。

プレイヤーとして優秀な方ほど起業に苦戦する

大久保:プレイヤーとして優秀な社長ほど、仕事を任せることができない人も多いですよね。

五十棲:おっしゃる通りです。雇われてるときに、優秀な結果を出しているのに報酬が少ないということが、そもそも起業のきっかけとしている人も多いです。

大久保:とはいえ、1人でやってても個人事業主ではないので、みんな苦戦するところですよね。

五十棲:個人の資産づくりとしては、1人の方が儲かったりもしますからね。

起業を続ける目的が「資産形成」なのか「社会に影響を与える」ためにやるのかは、社員を採用するくらいのタイミングで分かれ道となってきます。

大久保:本には「社員の出す成果が自分がやる成果の3分の1程度で満足するようにすることが大切」といったことが書かれていたと思いますが、簡単そうに思えて、重要さにすら気付けない方も多いと思います。

五十棲:これも優秀な方にありがちですが、自分と同レベルの人、つまり右腕となる人を採用したい、と思われている経営者も多いのですが、簡単ではありません。

つまり、高望みせず、普通レベルの方を採用して、会社の利益を減らす、いわゆる「赤字社員」を脱却させる仕組みづくりをしていかなければなりません。

大久保:優秀な人を採用したくなる気持ちはわかりますが、たくさん居るわけでもありませんし、人を育てていく方が重要ですよね。

五十棲:20〜30人採用すれば、1人や2人はその中から出てきます。所詮、その程度の確率です。

企業に利益を生む「黒字社員」育成のコツ

大久保:赤字社員のお話もでましたが、つまりは、トレーニングの期間を見ておくことが必要ということでしょうか?

五十棲:営業系の仕事であればわかりやすいと思いますが、その人の人件費以上の粗利を稼ぐことができれば、黒字社員になります。

私はその期間を3ヶ月で突破できるように指導していました。

もちろん、最初から黒字を出してくれる社員の方が嬉しいですが、業界未経験の方の採用も多々いらっしゃったので、そういった方でも黒字にしてける仕組みづくりが大事になってきます。

大久保:黒字社員にしていくためのコツや気を付けておくべきポイントなどがあれば教えていただけますか?

五十棲:最初にやっておかなければいけないのは設計図を作ることです。

業務プロセスを細分化し、自分でもできる領域は任せてやってもらうようにしますが、難易度が高いクロージングなどは、先輩と動きながら、できることを増やしていきます。

商材に関しても、難易度の低いものから売れるようにしていき、もっとやりたいという方には、難易度の高い商材を売ってもらうなど、ステップアップできるカリキュラムを用意していました。

大久保:細分化させることで、業界未経験者でも成果を出せる領域を見つけられるのは、とても良いですね。

五十棲何事も細分化して、難易度をつければ、新人でもできることは見つけられます。

大久保:設計図を持たずして、家は立ちませんからね。

五十棲:おっしゃる通りです。クロス張り替えの作業は必要ありませんが、家を1軒建てるとなると、絶対に設計図は必要です。

組織単位でも、それぞれの社員がどのような役割で動くか、といった戦略が必要です。

これに関しても設計図をしっかり作っておけば、社員が何をするべきか明確になり、社長が動かなくても、前に進む仕組みになっていきます。

もちろん社長には、社長にしかできない仕事はありますけどね。

最短で成果を出すには「設計図」が必要

大久保:3ヶ月で黒字社員を生み出すための流れを具体的に教えていただけますか?

五十棲マニュアルやツール、エクセルで管理できるフォーマットなどを提供していました。

大久保:設計図としては、紙でもデータでも、これを見れば細分化した業務がわかるということが大事なんですね。

五十棲基本業務の判断をさせないことがポイントです。

大久保:その設計図を社員に根付かせることも必要になると思いますが、どのようにしていましたか?

五十棲:まずは、日々のコミュニケーションで伝えることです。

設計図に基づいた業務内容を仕事に落とし込んで、機能させ、徹底させることが大事です。

徹底できれば、それが当たり前の環境になるため、新しい社員が入った時の教育スピードが変わってきます。

さらに、20個ほどの行動指針「クレド」(※1)を作り、人事の評価項目と連動させることも効果的です。

評価項目にすることで、実行すれば評価されるというシンプルな環境になります。

それにより、やらざるを得ない環境を作ることもできます。

このようにコンサルティングをしていくことで、数年間、売り上げが横ばいだった会社の方に「この人だったらブレイクスルーしてくれるかもしれない」と期待を持っていただけるようになりましたね。

大久保:世の中には、たくさんのマネジメントツールがありますが、それらに対してはどのようにお考えですか?

五十棲:良いと思います。ただ、同じようなことが書かれているという印象です。

それよりも大事なことは、社長、管理職、一般社員、それぞれの役割にある仕事をすることです。管理職を置いているにもかかわらず、社長が管理職の仕事を奪って、一般社員へ直接指導することは好ましくありません。

会社を大きくしようとするならば、それぞれ与えられた役割を果たさずして、大きな成長はありません。つまり、経営者によって、会社の未来が決まります。

大久保:マニュアルも作り終えて、役割にあった仕事ができるようになると、楽になるということですね。

※1:クレド・・・企業全体の従業員が心がける信条や行動指針

スタートアップでよくある「3つの間違い」

大久保:スタートアップでよくある間違いについて教えていただけますか?

五十棲1つ目のよくある間違いは、株の持分の比率を考えることです。

特に代表がしっかりと持つことが重要です。安易に均等に分けるといったことは避けてください。

会社が上手く行っても、失敗しても、揉める確率が格段に上がります。

2つ目のよくある間違いは、CXO(企業活動における業務および機能の責任者)を、紹介会社を使って採用した場合は、ほぼ上手くいかないと思います。

人材会社が悪いのではなく、状況を変えるべく、安易に行動してしまうことだ問題なのです。右腕的存在を作りたいのであれば、現場から叩き上げで育った方にするべきです。

私の経験上、社員20〜30人ほどの規模であれば幹部は必要なく、社長1人でもなんとかなります。それよりも、先ほどお話しした仕組みづくりを優先するべきです。

大久保:今1つ気がついたのですが、起業家はサラリーマン時代に相対的に出世していた方も多いことから、マネージャーに求めるレベルも高そうですよね。

五十棲:組織としての仕組みがしっかりできていれば、マネジメントも問題なくできるはずです。1つポイントとしては、仕組みづくりでは属人性を排除してください。

属人的なところでしか社員を惹きつけられない組織になると、その先に大きな成長は望めません。

3つ目のよくある間違いは、間接部門を急いで入れることです。

PMF(プロダクトマーケティングフィット)(※2)ができたばかりなのに、ショートレビュー(※3)を入れようとしたりと、間接部門をあまり重くしないように、物事のタイミングを見て実行してください。

直接利益を生むプロフィットセンターと、管理部・社内広報等を行うコストセンターの比率としては、9:1をおすすめしています。

スタート期は、トップラインに重きを置くべきで、コストセンターはアウトソーシングやSaaSを活用しましょう。

大久保:保存版になるBest3ですね。

※2:PMF(プロダクトマーケティングフィット)・・・提供しているサービスや商品が市場に合っている状態のこと

※3:ショートレビュー・・・株式上場を検討する企業が監査法人または公認会計士に行ってもらう調査のこと

会社経営には上手くいく型がある

大久保:立て直すときのポイントについても教えてください。

五十棲:基本に立ち返ることが大切です。

資金繰りの話であれば、入っていくお金より、出ていくお金が多ければ、そこを見直すべきです。

経営とは、上手くいく型があります。それを外さないようにすれば、大きく失敗する確率を減らせます。

人がすぐにやめていく状況であれば、人間関係のトラブルが起きていないか、調査するべきですし、何か原因があるはずです。

大久保:急成長している会社ほど、人間関係のトラブルがありがちですよね。

五十棲:強烈な体育系の営業会社で育った人は、人間関係のトラブルを起こしがちです。

大久保:当たり前のことをやると、視野も広がりますよね。基本に立ち返ることの大切さがわかります。

五十棲:資金繰りができていなければ、会計会社さんや銀行さんとの仕事になるかもしれませんが、その手前で基本的なことを見直せば、良い方向に進むと思います。

大久保:最後に起業家へのメッセージをお願いします。

五十棲:自分が経営者の人生として、最高の状態はどういうものなのかを想像してみてください。

売上なのか、社員数なのか、時価総額をいくらまで上げるなど。

それをできる限り大きく考えてください。

それを作るためにどうするべきかを、真剣になって考えてみてください。

そうすれば未来は開けます。

大久保写真大久保の感想

非凡な人が書いた平凡な人で会社をスケールさせる方法を書いた本

五十棲さんと最初に会ったのはカンボジアのバスの中でした。
カンボジアで開かれた起業家のイベントに一緒に登壇したのがきっかけで、長いお付き合いになっています。

関連記事:キリロム工科大
https://sogyotecho.jp/takeshi-izuka-interview-1/

五十棲さんの2億10億の本ですが、実際、今でも成長しているスタートアップの人が読んでおり、人からすすめられることもあり、発売から長い時間が立っていることを驚異的なことだと思います。

内容は読みやすく正攻法だけれども起業家が忘れてしまいがちなことが書かれています。

五十棲さん自身は強烈な個性と鋭い思考を持った非凡な人ですが、面白いのが平凡な「普通の人」を使って組織運営する方法を説いていることです。

起業家は自分自身もコミットする分、現実離れしたハイレベルなものを社員に求めがちですが、現実問題として、それに答えられる人材はそう多くはないもので、また優秀な個人の能力に依存すると組織が作りにくい面もあります。今、人間の数が益々減ってきていますので、仕組みで少ない人数で結果を出す、普通の人に普通に働いてもらって並外れた結果を出す方法が益々求められてきます。

世の中の大多数の普通の人に、高いパフォーマンスを出せたほうが当然スケールするわけですが、起業家は自分自身が普通ではない情熱や能力を持っているが故にその当たり前のことに気づきにくいのです。なんで上手く行かないんだろう?というケースや組織で悩んでいる方(成長している会社に多い)におすすめの本と言えます。

他にも、組織の成長ステージで必要なポイントが書かれた分かりやすく、実用的な名著だと思いました。

創業手帳冊子版は毎月アップデートしており、起業家や経営者の方に今知っておいてほしい最新の情報をお届けしています。無料でお取り寄せ可能となっています。

(取材協力: 株式会社iOffice 代表取締役 五十棲 剛史
(編集: 創業手帳編集部)



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