シリアルアントレプレナー 小林 清剛|日系起業家がシリコンバレーで成功するための必勝法

創業手帳
※このインタビュー内容は2025年03月に行われた取材時点のものです。

リアルタイムなトレンドを掴み、その先を読むことがアメリカ攻略の鍵

日本で起業し、将来はアメリカへ事業展開したいと考えている方も多いのではないでしょうか?今回インタビューした小林 清剛さんは、2009年に創業した会社を2年で売却し、アメリカへ拠点を移されました。

近年、今まで王道だった「日本で成功してアメリカに行く」という流れは通用しなくなってきています。

そこで今回の記事では、小林さんがアメリカに拠点を移されるまでの経緯や、日本人起業家がアメリカで成功するために必要なことについて、創業手帳の大久保が聞きました。

小林 清剛(こばやし きよたか)
連続起業家。2009年にスマホ広告事業ノボットを設立し、2011年にKDDIグループの子会社に十数億円で売却。2013年にシリコンバレーに拠点を移し、現在は「Noxx」という海外エンジニア採用のプロダクトを運営。2015年よりTokyo Founders Fundのパートナーとして米国を中心に企業への投資も行なっており、ベイエリアで挑戦する日本人若手起業家のメンタリングも行っている。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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学生起業を経て立ち上げた「ノボット」を2年で売却

大久保:これまでの経歴を教えてください。

小林2009年4月にスマホ広告事業「ノボット」を立ち上げ、2011年7月にKDDIグループに売却しました。

当時、M&Aで事業を売却することは「家族を売るような行為」と考える人も多かったですよね。

しかし昨今は、M&Aは決して悪いことではなく、スタートアップにとっても良いことだと認識されてきています。

本当はノボットを世界中で使われるサービスに育てたかったのですが、Googleに次ぐ2番手までしかいけず。KDDIグループに入っても1位にはなれなかったので、次に立ち上げる事業では「絶対に業界トップになる」と心に誓いました。

サンフランシスコに来てからも、10個以上もの事業を立ち上げては止めることを繰り返して、今やっていることが軌道に乗ってきたところです。

大久保:ノボットの前は何をやられていましたか?

小林学生の時に初めて起業していたのですが、コーヒーの輸出入、コーヒーのEコマース、駅ビルを立ち上げるプロジェクトなどをやって、その後ノボットに至ります。

英語が話せない状態で渡米!約100名の日系起業家コミュニティを作り上げた

大久保:アメリカに移住したことで苦労したことはありませんでしたか?

小林:12年前に渡米した時は英語が喋れなかった上、アメリカにいる日本人同士で助け合う文化もなく、うまく物事を進められませんでした。

一方で、中国系やインド系の方々はお互いに助け合っていたので、日本人も助け合う文化を作らないとアメリカで成功できないと思い、少しずつ仲間を増やすことにしました。

今では日系の起業家が80〜100名ほど集まるコミュニティとなっています。

大久保:どのように仲間を集めていきましたか?

小林:渡米した当初はアメリカに知り合いは1人もいなかったので、語学学校に通って英会話の勉強から始めました。

その後、ビジネスマッチングアプリ「Weave」を使って月に100名以上の人と会い、何かできることはないか?と英語で聞いていました。

そこからコネクションが徐々に広がっていき、仲良くなった人と自分のコミュニティとをつなげ、輪を広げていったという感じになります。

大久保:何か手伝えることはないか?と問いかける姿勢がすごくいいですね。

小林誰かと会話する時は、自分が相手にどういう風に役に立つかと今でも考えるようにしています。

日本でスタートアップのM&Aという事例を作れたように、アメリカでは日本人が作ったプロダクトを世界に届けられるような再現性を作り出したいと思っています。

アメリカでも挑戦し続ければ、必ず結果に結びつくことを証明したいです。

大久保:小林さんが渡米された当初よりも、今は日本人がアメリカで挑戦しやすい環境が整っていますか?

小林:はい、今はかなり環境が整っています。諸々の手続きや現地のコミュニティに入る方法なども、米国の日系創業者の中でお互いに共有し合っています。

そのため、何も知らない起業家がアメリカに来ても、挑戦しやすくはなっているので、これからはその先の成功事例を作って、同じように横展開していきたいと考えています。

具体的には、韓国系と日系のファンドが集まるコミュニティを作っているので、今後は台湾や他の国のファンドも引き入れるつもりです。

大久保:集団の生存率、生存数が上がっていくと、全体にとって良いですね。

小林:米国にいる日系創業者が力を合わせて挑戦し続けているので、日本のVCにもアメリカで挑戦する起業家への支援をどんどん増やしてほしいと思っています。

将来アメリカに行きたいなら、今行くべき

大久保:最近、アメリカで挑戦する日本人は減っていませんか?

小林:逆に増えている印象です。私たちのコミュニティだけでも、ここ数年で10〜20人は増えています。コミュニティに属していない人もいるとすると、徐々に増えていると思います。

大久保:アメリカに来る起業家は、どのような狙いを持つ方が多いのでしょうか?

小林:世界に向けて事業をしたい、世界に通用するプロダクトを作りたいと思っている方が多いです。

日本でもアメリカでも起業したら苦労することには変わりないので、日本で最初に勝負してから世界に展開していくのではなく、最初からアメリカで勝負した方がいいと思っています。

大久保:アメリカでの起業を成功させるために、やっておくべきことややらない方がいいことなどはありますか?

小林アメリカのビザ免除プログラム「ESTA(エスタ)」で2〜3ヶ月は滞在できると思いますので、その期間中にできるだけ多くの現地イベントに参加して、事業内容の壁打ちやブラッシュアップをしてください。

もちろん日本にいる間に考えることも大事ですが、アメリカ現地でしかわからない最新トレンドも掴めますし、現地で考え方が変わることもよくあります。

その後、スタートアップを立ち上げるマイナス1からのプログラムがあるので、そこに参加してスタートアップのいろはを学ぶことをおすすめします。

大久保:プロダクト開発という観点で、アメリカと日本で違いはありますか?

小林:開発のフロー自体は同じですが、創業メンバー以外にメンバーを増やす際に、米国でチームを増やすと給料が高いので苦労する方が多いです。

そのため、アメリカでコアな創業メンバーを集めた上で、時差の問題を考慮しつつ、日本や米国外の人材を採用していくのがおすすめです。日本以外にもブラジルやカナダからメンバーを探す方法もいいと思います。

今後、翻訳ツールがさらに発展すれば言語の壁がなくなり、海外採用も普通になるでしょうね。

アメリカのトレンドは現地でしか掴めない

大久保:改めてサービスの内容について伺わせてください。

小林海外での採用を支援するツールを運営しています。

例えば、日本でエンジニアを採用する際、年収の30%前後をリクルーターに支払うことが一般的ですよね?

そこで、今後はもっと他の国のエンジニアを採用していくべきだと考えています。日本と比べて人件費が安い場合が多いので、お互いにメリットが大きいはずです。

ただし、実際に海外の人材へ募集範囲を広げると、世界中から何千人と応募が集まってしまい、エンジニア経験や職歴、学歴についての良し悪しの判断が難しくなります。

そこでAIの力を借りて、何千人もの応募を数分で評価できるようにすればいいと思いました。

AIはクラウドと同じく、スタートアップのコストを下げる役割になります。この流れの中で我々は、リモート採用を支援するツールを提供しています。

大久保:日本発で日本のマーケット向けにプロダクト開発を行うと、日本ではある程度広まっても、その後に世界に出られないジレンマがありますが、その点はいかがでしょうか?

小林プロダクトが成功するか否かは「市場選定」と「事業選定」で勝率の8割が決まると考えています。

日本からアメリカ向けのプロダクト開発を行っても、アメリカのトレンドさえ追っていれば、ある程度は予測できるかもしれません。しかし、これはかなりハードルが高いです。

その理由としては、最先端のテクノロジーがテックニュースやソーシャルメディアなどの世に出てくるのは、実際に作り始めたタイミングの1〜2年後だからです。

そのため、リアルタイムなトレンドを掴むためには、アメリカで起きていることの一次情報を取りに行く必要がありますし、その領域で事業を成功させるためには、トレンドのさらに先を捉えなければいけません。

大久保:これまでの日本では、アメリカで上手くいった事業を日本に持ってくるケースが多かったですが、AIや自動翻訳などの普及で同じやり方は通用しなくなってきていますよね。

シリコンバレー人材は「経験値」と「人脈」が桁違い

大久保:シリコンバレーは人件費が高いと思いますが、他のエリアにいる人材と比べて何が優れているのでしょうか?

小林経験値と人脈が大きく違いますね。シリコンバレーにいる人は、急成長したスタートアップでの経験や各分野の最先端にいる人とのつながりが多いです。

自社と似たプロダクトの開発経験がある場合は、かなり貴重な人材です。

さらに、シリコンバレーにいる人材の中には、ファウンダーや投資家とのつながりを持っている方も多く、そのような方がメンバーに入ると、物事を動かせるキーになることもあります。

そのため、アメリカでの事業展開を考えている起業家が資金調達をする際には、アメリカとのつながりを持っている複数のエンジェル投資家を集めて進めるべきです。

アメリカ現地に日本人以外の協力者がいると、とても心強いです。もちろんプロダクトがユニークだと、人は自然と集まってきますよ。

大久保:アメリカで成功するコツや注意点があれば教えてください。

小林:日本から世界へと掲げているのに、時間軸が遅い人が多い印象です。世界的に先駆けたことをやれば、面白いと思ってくれる人もいますし、注目してくれる人もいるので、そういう意味でアメリカはフェアな場所だと感じています。

アメリカで成功するには、やはりトレンドを掴むことが大事です。世の中にない物、これから来る物を見つけて、そこに将来のリスクを取って進むことが必要となります。

以前、匿名のデジタル人材をマッチングするサービスを立ち上げたことがあります。

名前や性別、国籍を明かさずにスキルで勝負できるというサービスだったのですが、先駆けすぎて失敗に終わりました。

ただしユニークさは認められたので、色々な人とのつながりは一気に広がりました。

大久保:今後の展望を教えてください。

小林:今やっているサービスを伸ばすことです。これは上手くいくと思っています。

そして、僕の周りにいる起業家も成功させたいです。日系の起業家がアメリカで成功するというロールモデルを作ることで、アメリカでスタートアップを立ち上げることが当たり前の選択肢になるようにしていきます。

これは日本総出で取り組むべき課題です。

大久保:最後に読者への一言をお願いします。

小林:サンフランシスコで勝負する日本人が増えるといいなと思っています。なので皆さん、こっちにきて勝負していきましょう!

いつか世界で勝負したいと思っているのなら、今すぐ来た方がいいです。

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(取材協力: Noxx Co-Founder & CEO 小林 清剛
(編集: 創業手帳編集部)



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