「検収が終わらない」「まだ入金がない」を防ぐ。業務委託の検収・支払い・著作権の注意点【後編】
納品後に損をしないために。受注者が確認したい取引条件

前編では、見積もりの段階で「何をするか」だけでなく「何をしないか」を決めておくことや、修正と追加業務の線引き、メール・チャットでの合意の残し方について伺いました。しかし、トラブルの種は、契約前だけでなく、納品後にも潜んでいます。
「検収がいつまでも終わらない」「支払いが遅れる」「納品した成果物を、想定していなかった形で使われた」——こうした事態は、検収・支払い・著作権について、事前にルールを決めていなかったことから起こります。また、仕事の途中で条件変更を求められたとき、その場の流れで無償対応を続けてしまうと、次の案件以降も同じ要求をされてしまうことがあります。
後編では、検収期限と支払期日の決め方、フリーランス法で知っておきたいポイント、著作権・利用範囲の合意の仕方、そして実際に条件変更を求められたときの対応手順まで、リーガルブレスD法律事務所の湯原伸一代表弁護士に伺いました。
大阪弁護士会所属。1999年、同志社大学大学院法学研究科在学中に司法試験合格。2001年に弁護士登録。IT法務をはじめ、契約法務、労務、広告・マーケティング法務、債権回収など、中小・ベンチャー企業を中心とした企業法務に取り組む。2012年、リーガルブレスD法律事務所を開設。これまで200社以上の企業との顧問契約実績を有する。
特に、システム開発、SaaS・クラウドサービス、Web・広告、人材ビジネスなど、IT・インターネット関連企業の契約書・利用規約の作成、リーガルチェック、ビジネスモデルの法的検証等を得意とする。
著書に『「情報管理」に強くなる法務戦略―個人情報・企業秘密の保護とノウハウ等の活用』(中央経済社)がある。
この記事の目次
検収・支払いで受注者が損をしないために|期限・請求・支払期日の決め方

湯原:まず、受注者の立場から特に気を付けたいのは、納品後の手続を発注者任せにしないことです。
例えば、「納品後、発注者が検収する」とだけ決めていると、発注者がなかなか確認してくれず、いつまでも検収が終わらないことがあります。そのため、「納品後5営業日以内」「納品後7日以内」など、具体的な検収期限を決めておくことをお勧めします。
また、検収では何を確認するのかも重要です。例えばWebサイトやシステムであれば、発注者が「気に入ったかどうか」で判断するのではなく、あらかじめ合意した仕様や業務内容に適合しているかどうかを基準にします。不合格とする場合も、「修正してください」とだけ伝えるのではなく、「合意した仕様のどの部分と異なっているのか」を期限内に具体的に通知してもらう形がよいでしょう。
さらに、受注者側としては、「期限までに検収結果の連絡がない場合には、検収に合格したものとみなす」というルールを設けておくと、発注者から連絡がないために案件がいつまでも終わらないという事態を防ぎやすくなります。
湯原:請求については、「発注者から検収合格の連絡があった後でなければ請求できない」という仕組みにしないことがポイントです。
例えば、納品時に請求書を発行できるようにしておく、あるいは遅くとも検収期間が満了した時点では請求できるようにしておく、といった決め方が考えられます。発注者から検収結果が来なければ請求書も出せないという仕組みにしてしまうと、発注者の対応次第で請求時期まで先延ばしになってしまうからです。
支払期日についても、「検収後に支払う」「請求書受領後に支払う」といった曖昧な定め方ではなく、「毎月末日締め、翌月末日払い」「○年○月○日支払い」など、いつ支払われるのかが客観的に分かる形で決めておいた方がよいでしょう。
受注者の立場からすれば、検収、請求、支払いをそれぞれ発注者の判断に連動させるのではなく、一定の期限が来れば次の手続に進む仕組みにしておくことが重要です。
契約書・発注書に入れておきたい条件
先ほど説明した内容と重なりますが、契約書や発注書に入れておきたい内容としては、少なくとも次の点が重要だと思います。
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- 検収期間を「納品後○営業日以内」などと具体的に決める
- 検収基準を、当初合意した仕様・業務内容に適合しているかどうかとする
- 不合格の場合には、不適合箇所と理由を具体的に通知してもらう
- 検収期間内に通知がなければ、検収に合格したものとみなす
- 当初の仕様を超える変更・追加は、検収のための修正ではなく追加業務として扱う
- 請求できる時期を明確にする
- 支払期日を具体的に決める
特に気を付けたいのは、「検収」と「追加修正」を混同しないことです。例えば、納品したWebサイトが当初合意した仕様と違っていれば、受注者側で修正すべき場合があります。一方、当初合意したとおりに作っているのに、「やはりデザインを変えたい」「この機能も追加してほしい」と言われたのであれば、それは検収に伴う修正ではなく、追加業務として扱うべきでしょう。ここが曖昧ですと、「検収が終わるまで無償で何度でも修正しなければならない」という状態になりかねません。
フリーランス法について受注者が知っておきたいこと
湯原:フリーランスとして仕事を受けている方には、フリーランス法についても知っておいていただきたいと思います。
法律上の「フリーランス」は、典型的には、従業員を使用していない個人事業主です。また、法人であっても、代表者以外に役員がおらず、従業員も使用していない場合には対象となります。対象となる「業務委託」には、プログラム、動画、デザイン、文章などの情報成果物の作成や、各種サービスの提供などが含まれます。
まず重要なのが、取引条件の明示です。発注者は、フリーランスに業務委託をする場合、業務内容、納期・作業日、報酬額、支払期日などを、書面又はメール等の電磁的方法で明示する必要があります。検査を行う場合には、「いつまでに検査を完了するのか」も明示事項になります。
次に、一定の発注事業者には、報酬について、フリーランスから給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を定め、その期日までに支払う義務があります。ここで重要なのは、「検収が終わった日から60日」ではないことです。法律上、検査をするかどうかにかかわらず、原則として給付を受領した日が起算点になります。
例えば、Webサイトのデータなどをオンラインで納品する場合には、原則として、発注者側のコンピューターに情報成果物が記録された時点が「受領」の基準になります。したがって、「社内の検収に1か月かかったので、検収終了後からさらに60日後に支払います」という考え方ではありません。
支払期日についても、「納品後60日以内」のような幅のある表現ではなく、具体的な支払日を特定できる形で決める必要があります。公正取引委員会が公表している資料では、「○月○日支払」「毎月○日締切、翌月○日支払」といった定め方が例示されています。
また、請求書の提出が遅れていることを理由に、あらかじめ決めた支払期日を過ぎてよいわけでもありません。フリーランス法上は、請求書が提出されていなくても、定められた支払期日までに報酬を支払う必要があります。
なお、フリーランス側に責任がないのに、発注後に業務内容を変更させたり、納品後にやり直しをさせたりして、フリーランスの利益を不当に害することも、一定の場合には禁止されています。ですから、「検収だから何度でも無料で修正させられる」というわけではありません。
著作権・二次利用で「作ったのに使えない」を防ぐには

湯原:Webサイト、動画、デザイン、システムなどを制作する場合、受注者として最初に確認しておきたいのは、制作物の著作権を自分に残すのか、それとも発注者に譲渡するのかという点です。
ここで注意していただきたいのは、「制作費を支払ってもらって成果物を納品すれば、著作権も当然に発注者へ移る」というわけではないことです。著作権を発注者へ移転させるのであれば、その旨を契約で定める必要があります。著作権は全部又は一部を譲渡することもできますし、受注者が著作権を保有したまま、発注者に必要な範囲で利用を許諾することもできます。
どちらが正解というわけではありません。例えば、企業ロゴのように、発注者が今後自由に使用・改変していく必要性が高いものについては、著作権を譲渡することも考えられます。一方、Webサイトやシステムなどで、受注者が他の案件でも利用するテンプレートやプログラム、汎用的な部品が含まれている場合には、何でも発注者へ譲渡してしまうと、受注者自身がその後利用できるのかという問題が出てきます。そのため、受注者としては、単に「著作権を譲渡する、しない」と考えるのではなく、発注者がどのような利用をするために、どこまでの権利が必要なのかを考えることが重要です。
次に重要なのが、契約で何を決めるかです。著作権を受注者に残して発注者に利用を許諾するのであれば、どのような目的で利用できるのか、Web、SNS、広告、印刷物など、どの媒体で利用できるのか、発注者が自由に改変できるのか、グループ会社や外部の制作会社など、第三者にも利用させられるのか、当初予定していなかった用途へ二次利用できるのか、といった点を決めておいた方がよいでしょう。利用許諾については、利用方法や範囲を具体的に定めることが重要です。
反対に、発注者へ著作権を譲渡するのであれば、何を譲渡して、何を受注者に残すのかを明確にすることが重要です。
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「今回の制作物の著作権は発注者に譲渡します。ただし、受注者が従来から使用しているテンプレート、素材、プログラム、汎用的な部品等の権利は受注者に残ります」
特にシステム開発では、この切り分けが重要になります。なお、著作権を全面的に譲渡する場合には、著作権法27条・28条の権利についても譲渡対象とするのであれば、その旨を契約書に明記する必要があります。また、著作者人格権は著作権とは異なり譲渡できませんので、発注者による改変等を予定する場合には、その取扱いについても検討する必要があります。
著作権の「全部譲渡」に注意|受注者が損をしやすいケース
湯原:受注者側で注意していただきたい典型例の一つが、発注者から提示された契約書に、「成果物に関する著作権その他一切の権利は発注者に帰属する」と書かれていて、その範囲を確認せずに契約してしまうケースです。
例えばWeb制作会社が、いろいろな案件で共通して利用しているテンプレートやプログラムを使ってWebサイトを制作したとします。この場合に、成果物の著作権をすべて発注者へ譲渡するとだけ定めてしまうと、そのテンプレートや汎用的なプログラムまで譲渡対象なのかが問題となり、受注者が別の顧客の仕事で利用しづらくなる可能性があります。
また、利用許諾にする場合でも、利用範囲を決めていなかったために、例えば「Webサイトで利用することだけを想定して制作したデザインが、広告や商品パッケージなどにも利用された」といった認識のずれが生じることがあります。
ですから、受注者側では、「今回、相手のためだけに作ったもの」と「自分がもともと持っているもの、今後も他の仕事で使うもの」を区別することが特に重要だと思います。なお、これは視点が異なる話ですが、著作権を譲渡する場合、報酬を確実に支払ってもらうための担保として、「報酬が全額支払われた時点で著作権を移転する」と定める方法も検討したいところです。
コンサルティングやIT支援では、成果物とノウハウを分けて考える
湯原:コンサルティングやIT支援の場合も、基本的な考え方は同じですが、Webサイトや動画などの制作業務とは少し違った視点が必要です。
例えば、コンサルティングで作成する報告書、提案書、研修資料、マニュアルなどについては、その内容によって著作物となることがあります。IT支援でも、システムの設定手順書、運用マニュアル、調査報告書、作業のために作成したプログラムやスクリプトなど、成果物が作成される場合には、その著作権を誰が持つのか、発注者がどこまで利用できるのかという問題が生じます。
一方で、コンサルタントやIT支援事業者が持っているアイデア、知識、経験、作業手法、ノウハウなどが、すべて著作権で保護されるわけではありません。著作権で保護されるのは創作的な「表現」であり、アイデアや手法など、それ自体が当然に著作物になるわけではないからです。
そのため、こうした業務では、作成した報告書やマニュアルなどを発注者がどこまで利用できるのか、受注者が従来から持っているノウハウや作業手法をどう扱うのか、今回の業務で得た知見や汎用的な手法を、受注者が他の案件でも利用できるのか、といった点を分けて考える必要があります。
特に、受注者が従来から持っているノウハウや手法については、著作権の帰属を決めるだけでは十分ではありません。必要に応じて、秘密保持や情報の利用範囲などを別に決めておくことになります。
制作業務でもコンサルティングでもIT支援でも共通して言えるのは、「成果物を納品するのだから、受注者が持っている権利やノウハウまで全部相手に渡す」と考える必要はないということです。発注者が今回の業務の成果を利用するために必要な権利は認める。一方で、受注者が従来から持っているテンプレート、ノウハウ、手法など、今後の事業でも利用するものまで一緒に手放さない。この区別を契約前に考えておくことが重要だと思います。
業務委託で条件変更を求められたときの対応手順

湯原:仕事を始めた後に、当初予定していなかった修正や追加作業、納期・報酬条件の変更を求められた場合には、次のような順番で対応するのがよいと思います。
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- ①依頼内容を具体的に確認する
- ②当初の業務範囲に含まれるかを確認する
- ③追加業務であれば、料金と納期を提示する
- ④了承を得てから作業を始める
- ⑤条件が折り合わなければ、追加部分には着手しない
まず、依頼内容を具体的に確認します。例えば、「少し修正してほしい」と言われても、文字を数か所直すだけなのか、ページ構成を変えるのか、新しい機能を追加するのかによって対応は変わります。口頭で依頼を受けた場合も、重要な内容であれば、後からメールやチャットで確認しておくとよいでしょう。
次に、契約書、見積書、発注書などと照らし合わせて、今回の依頼が当初の料金に含まれる業務なのか、追加業務なのかを判断します。例えば、受注者のミスを直したり、当初合意した仕様に合わせたりする作業であれば、通常は当初の業務範囲内です。一方、当初予定していなかったページや機能の追加、一度承認されたデザインの変更、成果物の追加、予定回数を超える打ち合わせなどは、追加業務として扱うことが考えられます。ここでは、感覚で「追加だ」と判断するのではなく、当初の見積内容や業務範囲と何が違うのかを確認することが重要です。
追加業務であれば、そのまま作業を始めず、追加料金と納期への影響を伝えます。例えば、「対応可能です。ただ、今回のご依頼は当初のお見積もりには含まれていないため、追加業務となります。追加料金○万円、納期を○日延長するという条件であれば対応できます」といった伝え方です。いきなり「追加料金がかかります」と伝えるよりも、まず対応可能であることを示したうえで、「依頼内容が変わるため、料金や納期も変わる」と説明する方が理解を得やすいと思います。なお、事前に金額を確定しにくい場合には、「1時間○円」「上限○円」など、料金の計算方法や上限を提示する方法もあります。
追加業務の内容、料金、納期を提示したら、発注者から了承を得てから着手します。日常的な追加作業であれば、メールやチャットで、「追加作業は○、追加料金は○円、変更後の納期は○月○日となります。この条件で進めてよろしいでしょうか」と確認し、「その内容でお願いします」と返信をもらう方法でもよいと思います。一方、追加料金が大きい場合や、仕様・成果物を大きく変更する場合には、追加見積書や変更発注書を作成した方が安全です。重要なのは形式そのものではなく、「何を、いくらで、いつまでに行うことに合意したのか」が後から確認できることです。
発注者から「追加料金は払えないが対応してほしい」と言われた場合には、「当初のお見積もりの範囲では対応できませんので、追加部分については条件が合意できた後に対応します」と説明し、追加部分には着手しないことが基本です。
湯原:特に避けたいのは、「料金については後で決めればよい」と考えて先に作業を始めてしまうことです。
作業後に追加料金を請求すると、発注者から「その金額なら頼まなかった」「最初の料金に含まれていると思っていた」と言われ、請求しづらくなることがあります。
また、小さな追加依頼を営業上の判断で無償対応すること自体はあり得ますが、何も言わずに繰り返すと、発注者から「この程度は当初の料金に含まれている」と認識される可能性があります。そのため、無償で対応する場合でも、「本来は追加料金の対象ですが、今回は無償で対応します」と伝えておく方がよいでしょう。
要するに、仕事の開始後に条件が変わった場合には、①依頼内容を確認する、②当初の業務範囲内かを判断する、③追加業務であれば料金・納期を提示する、④了承を得てから着手する、⑤合意できなければ追加部分には着手しない、という順番で対応することが重要だと思います。
湯原:創業期は、仕事を受注したいという思いから、相手の要望をできるだけ受け入れてしまいがちです。ただ、業務範囲や追加料金を曖昧にしたまま進めると、後から自分の負担が大きくなってしまいます。
契約条件を明確にすることは、相手を疑うことではありません。「この金額でどこまで対応するのか」「追加依頼があった場合はどうするのか」を最初に共有しておくことは、お互いに安心して仕事を進めるために必要です。
完璧な契約書を作ることよりも、見積書やメール、チャットも使いながら、業務の範囲と対価を曖昧にしないことを意識していただきたいと思います。
業務範囲の決め方から、修正と追加業務の線引き、検収・支払いのルール、著作権の扱い、そして実際に条件変更を求められたときの対応手順まで——業務委託で受注者が損をしないための土台は、一つひとつは地味でも、積み重なれば大きな差になります。「完璧な契約書」を目指すより先に、まずは自分の取引を一つ点検してみることから始めてみてはいかがでしょうか。

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