独立・開業した年の国民健康保険料は高い?負担を抑える方法や減免制度を解説

開業1年目の保険料は「前年の給与所得」で決まる。収入が減っても下がらない仕組みと負担を軽くする4つの手段


独立・開業した年の国民健康保険料が高いのは、保険料が前年の給与所得で計算されるうえ、全額自己負担になるからです。

ただし「減免制度」「法定軽減」「任意継続」「家族の扶養」という4つの打ち手を知っていれば、負担は抑えられます。この記事では、開業1年目の国民健康保険料が高くなる仕組みと、負担を軽くする方法・減免の申請手順を解説します。

柴田 充輝(しばた みつき)

日本大学文理学部卒業後、厚生労働省や不動産業界、保険業界で実務経験を積む。ハローワークで10年間の勤務経験があり、求職者・求人者双方の相談業務やマッチング支援を行う。ハローワークでの実務経験を活かして、社会保険や人事労務などの分野を中心に、これまで1200記事以上の執筆・監修実績あり。保有資格は1級ファイナンシャル・プランニング技能士(FP1級)、社会保険労務士、行政書士、宅地建物取引主任士など。金融財政事情研究会会員。noteでも情報発信中。

開業1年目の国民健康保険料が高いのは「会社員時代の所得」で計算されるから

開業1年目の国民健康保険料が高い理由は、「前年所得で計算される」「会社負担がなくなる」「扶養の仕組みがない」という3つの構造にあります。まずは、国民健康保険料の計算方法を順番に確認していきましょう。

保険料は前年所得ベースで開業直後の収入が少なくても反映されない

国民健康保険料は、前年1月〜12月の所得をもとに計算されます。そのため、開業1年目の保険料の算定基礎は「会社員時代の給与所得」です。
国民健康保険と任意継続の違い
独立直後は売上が安定せず、収入が大きく減るケースが少なくありません。それでも保険料は前年の高い所得で計算されるため、「収入は減ったのに保険料は高いまま」というギャップが生じます。

この時間差こそが、起業初年度の資金繰りを圧迫する最大の要因です。事業計画では、国民健康保険料を「前年年収ベースの固定費」として見込んでおく必要があります。

会社負担がなくなり健康保険料を自分で負担する必要がある

会社員時代は健康保険料を会社と本人で折半していますが、独立して国民健康保険に加入すると、会社による保険料負担はなくなります。

保険料は前年所得や加入人数、自治体ごとの保険料率などをもとに算定されるため、一概には言えません。しかし、会社負担分がなくなることで、多くの場合は独立前より自己負担額が重くなる傾向にあります。

あわせて、年金も厚生年金から国民年金への切り替えが発生し、社会保険関連の手続きと負担が同時期に集中する点にも注意しましょう。

国保に「扶養」はなく世帯人数も保険料に影響する

国民健康保険には、会社員の健康保険にある「被扶養者制度」が存在しません。被扶養者制度とは、一定の収入以下の家族が保険料の負担なしで健康保険に加入できる仕組みです。

国民健康保険では、配偶者や子どもも一人ひとりが加入者としてカウントされます。そして、人数に応じた「均等割」(加入者1人あたり定額でかかる保険料)が発生します。家族が多い世帯ほど、会社員時代との負担差を実感しやすい構造です。

国民健康保険料の減免・軽減を受けられるケース

開業1年目の国民健康保険料は、条件を満たせば減免・軽減を受けられます。主な制度は、申請して減らす「減免制度」と、所得基準を満たせば自動で安くなる「法定軽減」の2つです。あわせて、起業者が誤解しやすい「非自発的失業者軽減」の注意点も紹介します。

所得が激減したら市区町村独自の減免を申請できる『減免制度』

減免制度とは、災害・失業・廃業・所得の大幅な減少などを理由に、申請にもとづいて国民健康保険料の一部または全部が減額される市区町村独自の制度(条例減免)です。前年より所得が大きく減った開業1年目の人は、対象になる可能性があります。

減免の基準や減免率は自治体ごとに大きく異なるため、必ず居住地の国保窓口で確認してください。重要なのは、減免は「申請しなければ1円も減らない」という点です。「該当するかも」と思ったら、納付書を放置せず、まず窓口への相談から始めましょう。

所得基準を満たせば申請不要で7割・5割・2割安くなる『法定軽減』

法定軽減とは、世帯の前年所得が基準以下の場合に、国民健康保険料の均等割など が自動的に7割・5割・2割軽減される全国共通の制度です。

2026年度(令和8年度)は税制改正で基準が拡大され、5割軽減は「43万円+31万円×加入者数等」、2割軽減は「43万円+57万円×加入者数等」以下の所得が対象になりました。

種類 所得の条件
7割軽減 43万円+10万円×(給与所得者等の数−1)以下
5割軽減 上記+31万円×加入者数以下
2割軽減 上記+57万円×加入者数以下

ただし、自治体が世帯の所得を確認できることが前提です。所得がなく確定申告などもしていない場合は、住民税の申告等が必要になることがあります。 開業1年目は前年の給与所得が高く対象外でも、2年目以降は所得次第で軽減対象になる可能性があります。

出典:千葉県横芝光町「国民健康保険税」

注意:起業のための自己都合退職は「非自発的失業者軽減」の対象外

自らの意思で退職して起業した人は、原則として「非自発的失業者軽減」を使えません。非自発的失業者軽減とは、倒産・解雇などで離職した人の前年の給与所得を30%に圧縮して保険料を計算する制度です。

対象は雇用保険の特定受給資格者・特定理由離職者に限られ、離職票の離職理由コードで判定されます。「退職したから使えるはず」という誤解が多いポイントなので、注意してください。

出典:長野市「国民健康保険料の計算・軽減・減免」

国民健康保険以外で保険料負担を抑える方法

国民健康保険以外で保険料負担を抑える方法
そもそも国民健康保険に加入しない、という選択肢もあります。具体的には「任意継続」と「家族の扶養」の2つです。どちらも退職前後の限られた期間しか選べないため、これから起業する人は仕組みや条件を押さえておきましょう。

退職後20日以内なら会社の健康保険を2年間続けられる『任意継続』

任意継続とは、退職後も勤務先の健康保険に最大2年間とどまれる制度です。保険料は全額自己負担になりますが、協会けんぽの場合 、保険料計算のもとになる標準報酬月額に上限が設けられています。そのため、前年の給与が高かった人や扶養家族が多い人は、国民健康保険より安くなるケースが多くあります。

申請期限は退職日の翌日から20日以内と非常に短く、期限を過ぎると加入できません。起業準備で忙しい時期ですが、退職前に国民健康保険との保険料比較を済ませておくのが理想です。

出典:全国健康保険協会「任意継続」

なお、国保と任意継続のどちらが有利化は、こちらの記事でも詳しく解説しています。あわせて参考にしてみてください。

年収130万円未満なら保険料負担をゼロにできる『家族の扶養』

配偶者などが会社員であれば、その健康保険の被扶養者になることで、本人の保険料負担をゼロにできます。要件は原則として年収130万円未満(見込み)で、生計維持関係も問われます。

ただし、個人事業主の場合は「事業所得の扱い」や「必要経費として認める範囲」が健康保険組合ごとに異なり、開業した時点で扶養を認めない組合もあります。加入先の健保に事前確認したうえで、収入が少ない開業直後の「つなぎ」として活用しましょう。

出典:全国健康保険協会「被扶養者の認定における特例について」

減免の申請は納期限前に窓口へ相談

国民健康保険料の減免は申請が原則であり、動くのが早いほど効果も大きくなります。自治体によっては、申請月以降の保険料しか減免対象にならない場合があるため、納付書が届いたら納期限前に窓口へ相談してください。

申請の流れ:自治体へ相談→必要書類を提出→審査

減免申請の基本的な流れは、次の3ステップです。

  • STEP1:市区町村の国保窓口に電話し、該当しそうな制度と必要書類を確認する
  • STEP2:申請書と証明書類を窓口へ提出する(自治体によっては郵送も可能)
  • STEP3:審査後、決定通知と更正後の納付書が届く

申請期限や対象期間は自治体ごとに異なり、申請月以降しか対象にならない場合もあり得るため、迷ったらまず電話または窓口で相談するのが得策です。

必要書類は自治体ごとに異なるので事前確認

減免申請の必要書類は自治体により異なります。一般的には本人確認書類、資格情報を確認できる書類、収入状況がわかる書類(帳簿・収支内訳書など)、廃業や退職を示す書類などです。

開業直後は確定申告前で、収入証明が難しいケースもあるでしょう。その場合、売上台帳や通帳のコピーで代用できる自治体もあります。

減免が難しくても分割納付・徴収猶予という選択肢がある

減免基準に届かない場合でも、分割納付や徴収猶予を活用すれば、当面の資金繰りを守れます。納付が難しいときは、減免と同じく市区町村の窓口で納付相談が可能です。

最も避けたいのは、支払えないまま放置して滞納することです。滞納が続くと延滞金が発生し、有効期間の短い資格確認書への切り替えなどの不利益につながります。「払えないなら、まず相談」を鉄則にしましょう。

まとめ

開業1年目の国民健康保険料が高くなりやすいのは、「前年所得ベースの計算」「全額自己負担」「扶養制度なし」という3つの構造が原因です。特に、在職中の収入が高かった方ほど、負担に感じやすいでしょう。

保険料を軽減する打ち手として、「減免制度」「法定軽減」「任意継続」「家族の扶養」の4つがあります。ご自身の状況に応じて、適した手段を活用し、負担を軽減できないか検討してみてください。