社会保険適用拡大で会社負担はいくら増える?計算方法や支援策などを解説

2026年10月から短時間労働者の社会保険適用が拡大!

社会保険適用拡大で会社負担はいくら増える?
2026年10月から、短時間労働者に対する社会保険の適用範囲が段階的に拡大されます。
適用範囲の拡大により、これまで社会保険の加入対象外だったパート・アルバイトなどが加入対象となるケースが増え、企業には社会保険料の事業主負担が新たに発生する可能性があります。
特に、対象となる従業員が複数いる企業では、毎月の人件費や年間の社会保険料負担がどの程度増えるのかを事前に把握しておくことが重要です。

本記事では、社会保険の適用拡大によって会社負担がいくら増えるのか、具体的なシミュレーションや計算方法を解説します。
あわせて、企業が活用できる支援策なども紹介しているので、会社負担の把握と対策を検討したい人はぜひ参考にしてください。

社会保険適用拡大で会社負担はいくら増える?

社会保険適用拡大による会社負担シミュレーション
社会保険の適用拡大によって従業員が新たに健康保険・厚生年金保険に加入した場合、会社側も保険料を負担することになります。
会社負担額は従業員の給与や年齢、加入する健康保険、事業所の所在地などによって異なりますが、目安として給与の約15%前後が会社負担になると言われています。
ここで、従業員が1人加入対象となった際に、会社負担はどれくらい増えるのかシミュレーションし、さらに加入人数別に年間の負担額についても紹介します。

従業員1人あたりの会社負担シミュレーション

従業員1人あたりの会社負担について、以下の条件でシミュレーションを行います。

  • 年齢:40歳
  • 月給:10万円
  • 標準報酬月額:9万8,000円
  • 業種:飲食業
  • 加入先:協会けんぽ東京支部
  • 賞与:なし

月給10万円の場合、健康保険・厚生年金保険の保険料額表から、標準報酬月額は9万8,000円になります。
2026年度の保険料率をもとに計算すると、会社負担の目安は以下のとおりです。

  • 健康保険料:約4,827円
  • 介護保険料:約794円
  • 厚生年金保険料:約8,967円
  • 子ども・子育て支援金:約113円
  • 子ども・子育て拠出金:約353円
  • 合計:約1万5,054円

上記の条件で計算すると、1人あたり約1万5,000円を会社で負担することになります。なお、これは1カ月あたりの負担額で、年間に換算すると約18万648円です。

雇用保険料や労災保険料については、健康保険・厚生年金保険と加入条件が異なり、適用拡大前から雇用保険・労災保険の対象となっていれば、新たに会社が負担する費用はありません。
また、実際の保険料は端数処理や保険料率の改定、通勤手当などを含む報酬額によっても変化することから、上記はあくまで概算として確認してください。

加入人数別の年間負担額

社会保険の適用拡大に伴い、社内で複数人が対象となった場合、会社負担もその分増加することになります。
1人あたりの会社負担(月額)約1万5,000円、年間約18万1,000円とした場合、加入人数別の年間負担額は以下のとおりです。

新たに加入する従業員数 1カ月あたりの会社負担額 1年間の会社負担額
1人 約1万5,000円 約18万1,000円
3人 約4万5,000円 約54万3,000円
5人 約7万5,000円 約90万5,000円
10人 約15万円 約181万円

ただし、従業員ごとに給与額や年齢が変われば、会社が負担する保険料も変わってきます。
特に40歳~64歳の従業員は介護保険料が加わるため、40歳未満の従業員と比べて会社負担は大きくなります。

正確にどれくらい負担額が増加するか把握したい場合は、対象となる従業員について、以下の項目を一覧にし、確認することが大切です。

  • 毎月の給与
  • 年齢
  • 通勤手当の有無と金額
  • 賞与の有無と金額
  • 現在の社会保険加入状況
  • 週の所定労働時間
  • 月の所定内賃金

まず対象者を洗い出してから1人ずつ保険料がどれくらいになるか試算することで、適用拡大後に必要な人件費を把握しやすくなります。

なぜ会社負担が増える?社会保険適用拡大の概要

社会保険適用拡大ルール
そもそもなぜ会社負担が増えるのか理解することも重要です。ここで、社会保険適用拡大の概要について解説します。

短時間労働者に適用される現行ルール(2026年9月末まで)

パート・アルバイトの非正規雇用労働者は、企業規模に関わらず「4分の3基準」と呼ばれる以下の項目を満たしている場合、社会保険の加入対象になります。

  • 1週間の所定労働時間が正社員の4分の3以上
  • 1カ月の所定労働日数が正社員の4分の3以上

一方で、4分の3基準を満たしていない短時間労働者に関しても、以下の一定の条件を満たしていれば、社会保険の加入対象です。

  • 1週間の所定労働時間が20時間以上
  • 所定内賃金が月額8万8,000円以上
  • 2カ月を超えて雇用される見込みがある
  • 学生ではない
  • 厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業などに勤務している

月額8万8,000円を年収に換算すると約106万円になることから、「106万円の壁」と言われています。これが、2026年9月末まで適用される現行ルールです。

2026年10月から賃金要件(106万円の壁)が撤廃

上記で紹介した短時間労働者に適用される社会保険の加入対象条件ですが、2026年10月から変更され、「所定内賃金が月額8万8,000円以上」という項目(賃金要件)が撤廃されます。
これまでは週の所定労働時間が20時間を超えていても、所定内賃金が月額8万8,000円以上でなければ社会保険の加入対象外でした。
しかし、2026年10月からは賃金を問わず、週20時間以上働く人は加入対象となる可能性があります。

なお、2026年10月以降も企業規模要件は残っているため、すべての企業で社会保険の加入対象者が増えるわけではありません。
しかし、2027年10月から段階的に縮小される予定であり、2035年10月には企業規模要件も撤廃され、企業規模にかかわらず条件を満たす短時間労働者は社会保険の加入対象になります。

社会保険料の計算方法

社会保険料は、従業員の給与・賞与に一定の保険料率を掛けて算出します。
ただし、健康保険や厚生年金では、実際に支給した給与額そのものではなく「標準報酬月額」や「標準賞与額」を基準に計算するため、注意が必要です。
ここで、標準報酬月額・標準賞与額についての説明と、各社会保険の計算方法を紹介します。

社会保険料の計算に必要な標準報酬月額・標準賞与額

健康保険・厚生年金の保険料を計算する際には、毎月の給与を一定の幅で区分した「標準報酬月額」を使用します。
標準報酬月額は、基本給に加え、残業手当や通勤手当など、労働の対価として支給される報酬も含めるのが特徴です。
そのため、実際の給与額と標準報酬月額は必ずしも一致するものではありません。

一方、賞与に関しては「標準賞与額」を用いて保険料を計算します。標準賞与額は、原則として賞与の税引き前支給額から1,000円未満を切り捨てた額です。
なお、健康保険・介護保険は年度内の標準賞与額が合計573万円、厚生年金は賞与1回分の標準賞与額150万円という上限があり、超えた分には保険料がかからないことになっています。

各社会保険の計算方法

社会保険料はそれぞれ計算方法が異なっています。各社会保険の計算方法は以下のとおりです。

社会保険 計算方法 会社負担割合
健康保険 給与:標準報酬月額×健康保険料率
賞与:標準賞与額×健康保険料率
50%
厚生年金保険 給与:標準報酬月額×厚生年金保険料率
賞与:標準賞与額×厚生年金保険料率
50%
介護保険 給与:標準報酬月額×介護保険料率
賞与:標準賞与額×介護保険料率
50%
雇用保険 給与:給与額×雇用保険料率
賞与:賞与額×雇用保険料率
業種で異なる
労災保険 給与:給与額×労災保険率
賞与:賞与額×労災保険率
100%

雇用保険の会社負担割合は、業種別で異なります。2026年度の雇用保険料率と負担割合は以下のとおりです。

業種 労働者負担 事業主負担 雇用保険料率
一般の事業 5/1,000 8.5/1,000 13.5/1,000
農林水産・清酒製造の事業 6/1,000 9.5/1,000 15.5/1,000
建設の事業 6/1,000 10.5/1,000 16.5/1,000

社会保険料以外で負担が増加する可能性も

社会保険の適用拡大によって企業が負担するのは、社会保険料だけではありません。
制度改正に備える際は、保険料の増加額だけでなく、関連するコストや業務負担も含めて検討することが大切です。

人件費全体の見直し

社会保険の適用拡大によって、企業は新たに社会保険料の事業主負担を負うことになります。
一方、近年は最低賃金の引き上げも続いているため、社会保険料と賃金の両面から人件費が上昇する可能性があります。

特に、パート・アルバイトなどの短時間労働者を多く雇用している企業では、最低賃金の引き上げによる時給上昇に加えて、社会保険料の負担が発生することで、人件費への影響が大きくなることも考えられます。
今後の人員計画を立てる際は、社会保険料の増加分だけを計算するのではなく、賃金改定の可能性も含めて年間の人件費を試算しておくことが大切です。

社会保険加入手続きの増加

社会保険の加入対象者が増えると、企業側では資格取得の手続きや給与計算、保険料の管理など、労務関連の業務も増加します。
例えば、新たに加入対象となった従業員について、勤務時間や給与などの条件を確認したうえで加入手続きを行い、その後も給与額の変動や資格喪失などに応じて必要な処理を行わなければなりません。
対象者が多い企業ほど、担当者の事務負担が増える可能性があります。

制度改正を機に、対象者を適切に把握できる管理体制を整えたり、給与計算・労務管理システムを活用したりすることも検討してください。

勤務時間の調整への対応

社会保険の加入条件を意識して、従業員が勤務時間を増減させるケースも考えられます。
例えば、社会保険への加入を希望しない従業員が勤務時間を減らした場合、企業側ではシフトの組み直しや人員不足への対応が必要になるかもしれません。
一方で、社会保険への加入を希望する従業員が勤務時間を増やす場合は、必要な労働時間を確保できるようシフトを調整する必要があります。

そのため、制度改正後は従業員の希望を確認しながら、業務量や必要な人員数に応じて勤務時間・シフトを適切に調整することが重要です。
社会保険の適用拡大を単なる保険料負担の問題として捉えるのではなく、人員配置や雇用管理を見直す機会として考えることも大切です。

社会保険適用拡大による負担を軽減する支援策

社会保険適用拡大の負担を軽減する支援策
社会保険適用拡大によって企業側は負担が増える可能性もありますが、この負担を軽減するための支援策も用意されています。ここでは、3つの支援策について紹介します。

保険料調整制度

保険料調整制度とは、事業主が被保険者の保険料の一部を一時的に肩代わりすることで、健康保険・厚生年金保険にかかる本人負担を最長3年間軽減できる制度です。
この制度は社会保険の適用拡大により、労働者の手取り減少を緩和するための時限措置となります。

企業側にとっては負担が一時的に増えてしまうものの、後から軽減した分は事業主が納める保険料から全額控除されるため、最終的には事業主の負担も増えない形となります。
また、この制度を活用しても従業員が将来的に受け取る年金額には影響しないため、従業員側も安心して制度を利用できます。

社会保険適用促進手当

社会保険適用促進手当とは、短時間労働者の社会保険適用を促進させることを目的に、事業主の判断で対象の従業員に支給する手当です。
社会保険適用促進手当は政府から支給されるものではありませんが、社会保険料の取り扱いが変わってきます。
通常、健康保険・厚生年金保険の保険料を計算する際に使用する標準報酬月額には手当も含まれますが、社会保険適用促進手当に関しては標準報酬月額に含まれません。

企業側は従業員の働き控えを防ぎつつ、社会保険料の負担も若干軽減されるというメリットがあります。一方で、手当分の人件費は増えることになるため、注意が必要です。

キャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長支援コース)

キャリアアップ助成金には様々な種類があります。
その中でも「短時間労働者労働時間延長支援コース」は従業員を新たに社会保険へ加入し、収入増加への取り組みも実施した事業主に対して助成されるものです。
1年目・2年目の取り組みに対して、以下の助成額を受け取れます。

【1年目の取り組み】

要件 1人あたり助成額
週所定労働時間の延長 賃金の増額 小規模企業 中小企業 大企業
5時間以上 50万円 40万円 30万円
4時間以上5時間未満 5%以上
3時間以上4時間未満 10%以上
2時間以上3時間未満 15%以上

【2年目の取り組み】

要件 1人あたり助成額
週所定労働時間の延長 賃金の増額 小規模企業 中小企業 大企業
労働時間をさらに2時間以上延長 25万円 20万円 15万円
基本給をさらに5%以上増加または昇給、賞与もしくは退職金制度の活用

社会保険適用拡大でよくある質問

社会保険適用拡大におけるよくある質問についてまとめました。わからない点・気になる点がある人はぜひチェックしてみてください。

会社負担は従業員と折半?

健康保険・厚生年金保険・介護保険の保険料は原則従業員と折半になります。ただし、加入する健康保険によっては会社の負担割合を多くすることも可能です。
なお、雇用保険は従業員も負担しますが会社負担のほうが多く、労災保険は全額会社負担になります。

パート全員が加入対象?

パート全員が社会保険の加入対象者になるわけではありません。
2026年10月以降は、以下の要件を満たす短時間労働者(パート・アルバイトなど)が社会保険加入の対象者になります。

  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 学生ではない
  • 2カ月を超えて雇用される見込みがある
  • 厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業などに勤務している(2027年9月まで)

会社は加入を断れる?

社会保険の加入要件を満たしている短時間労働者から、「加入したい」と言われた場合、会社側が断ることは原則できません。
社会保険への加入は従業員本人の希望より、法律で定められた加入要件を満たしているかどうかで決まります。
そのため、会社が保険料の負担を増やしたくないからという理由で、社会保険に加入させないことはできません。

まとめ・会社負担の増加を想定して早めの対策を心がけよう

2026年10月からの短時間労働者に対する社会保険の適用拡大により、新たに社会保険料の負担が増加する可能性があります。
社会保険の加入対象者が増えれば、人件費の増加や加入手続き・勤務時間の調整といった労務負担の増加も考えられるでしょう。
企業側は社会保険料がいくら増えるか事前にシミュレーションしつつ、計画的に準備を進めていくことが大切です。

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(編集:創業手帳編集部)