NTTソルマーレ 朝日利彰|紙全盛期に電子コミック事業立ち上げ!20周年を迎えた「コミックシーモア」の軌跡

創業手帳
※このインタビュー内容は2025年03月に行われた取材時点のものです。

NTTグループから「電子コミック事業」が生まれたワケ

朝日 利彰
NTTソルマーレは、日本最大級のコミックサイト「コミックシーモア」の運営を行う会社です。同社は紙マンガの全盛期に電子書籍サイトを設立し、昨年で20周年を迎えました。

そこで今回は、NTTソルマーレ代表の朝日さんに創業手帳代表の大久保がインタビュー。NTT西日本の完全子会社として会社が設立された背景や、電子コミック市場黎明期に参入したからこその苦労、海外進出にかける思いをお聞きしました。

朝日 利彰(あさひ としあき)
NTTソルマーレ株式会社 代表取締役社長
1992年NTT(日本電信電話株式会社)入社。2011年から約4年間NTTスマイルエナジーで取締役を務める。2020年7月NTTソルマーレ代表取締役社長に就任。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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インフラ収益に頼らない強さが必要だった


大久保:朝日さんは、新卒で分社前のNTTに入社されたんですよね。

朝日:そうですね。1992年に入社した当時、NTTはまだ1社でした。

それから7年後に再編成されてからは、NTT西日本に籍を移しました。ですが、当初からNTT西日本は赤字になるだろうと言われていたんです。

大久保:NTT西日本は、設立時点で赤字が見込まれていたのですか?

朝日:当時のNTTは、主に通信というインフラ事業で成り立っていました。インフラ事業は、狭い地域にユーザーが密集していればいるほど、少ない投資で通信サービスを展開することができますよね。

そのため、東京市場が最も効率が良い地域だと言えます。ところがNTT西日本が担当する地域は、大阪、広島、福岡といった大きな都市が点在しています。インフラ事業会社として、東日本に比べて効率が悪いのは明白でしたから、赤字になるだろうと見込まれていました。

大久保:だからこそ、NTT西日本は自分たちで利益を出すために、新規事業を立ち上げたということでしょうか?

朝日:そうですね。設立当初から危機感が強かったために、1999年時点ですでに新規ビジネスを専門とする組織が会社にありました。26年前の大企業ではめずらしかったと思います。

そして、新規事業の取り組みの1つが、新しい会社を立ち上げることでした。NTTソルマーレもその一環で立ち上がった会社です。1999年の再編成から3年後の2002年に誕生しています。

大久保:朝日さんがNTTソルマーレの社長に就任されるまでの流れもお伺いできますか?

朝日:皆さんおなじみの電柱に登る仕事からスタートして、人材育成をしたり、研究開発をしたりと様々な畑を経験しました。

2011年には、他の社員と共同で「NTTスマイルエナジー」という企業内ベンチャーも立ち上げています。2015年までは同社の取締役を務めまして、その後は博多で法人営業をしていました。

NTTソルマーレの代表を打診されたのは、博多にいた2020年ごろです。赴任してから2年しかたっておらず、まだまだ営業をやる気でいましたから、正直とても驚きましたね。

PDA向け事業はなんと3年で終了


大久保:NTTソルマーレは設立当初から順調だったのでしょうか?

朝日:順調ではありませんでした。と言いますのも、最初の事業は立ち上げ3年で終了しているんです。

大久保:1つ目の事業は、今の電子書籍とは別の事業ですよね。

朝日:1つ目の事業は、コンテンツ配信代行サービス「Foobio」でした。

当時、携帯電話は7割ぐらいの普及率だったのですが、それとは別にPDA(Personal Digital Assistant)がサラリーマンを中心に一世を風靡していました。電子手帳のような端末なのですが、これが携帯電話よりも伸びると言われた時代だったんです。

PDAはネットワーク機能を持ちませんから、PDAにコンテンツを運んであげれば大きなビジネスになるだろうという事業構想がありました。

そこで、コンパクトフラッシュやSDカードへのダウンロードを代行するFoobioを立ち上げました。PDA端末にメモリカードを挿せば、ダウンロードしたコンテンツを楽しんでもらえるサービスです。

大久保:ダウンロードできるコンテンツは、当時から電子コミックのみだったのでしょうか?

朝日:コミックに限ってはいませんでした。音楽や写真集など、デジタルコンテンツ全般を扱っていました。

ところが、携帯電話の通信定額サービス「パケ放題」が登場して、私たちがコンテンツのダウンロードを代行する意味がなくなってしまったんです。だから、ターゲットは携帯にすべきという判断でFoobioは終了しました。

大久保:そこから携帯向けのサービスに方向転換をされたのですね。

朝日:そうですね。Foobioを展開している間に気づいたことがもう1つありまして、それは「ダウンロードされているコンテンツは、コミックが非常に多いこと」でした。

そこで、「携帯向けにコミックを売ればいいのでは」というアイデアがでてきました。2004年に現在のコミックシーモアの原型「コミックi」がスタートしたのは、そのような経緯です。

大久保:2002年に会社が設立され、1つ目のサービスは3年で終了し、2004年には次のサービスがスタート。かなりスピード感がありますね。

朝日:独自に判断ができるがゆえのスピード感が、私たちの大きな強みかもしれません。

それからは、携帯(当時のガラケー)向けのiモードコンテンツの中で、コミックiが数年間トップを維持しました。

反響が大きかったため、2005年からはauさんや当時のVodafoneさんのキャリアプラットフォーム上でも「コミックシーモア」という名称で同じサービスを展開させてもらうことになりました。

22作品でスタート!携帯の画面に合わせてコマ割作業まで


大久保:「コミックi」は、あっという間に成長したのですね。サービスを始めるまでにご苦労はなかったのでしょうか?

朝日:もちろんありました。コミックiをスタートしたころは、書籍は紙全盛期の時代です。当然ながら、業界からもなかなか受け入れてもらえませんでした。

そのためスタート自体も危ぶまれていたのですが、ある漫画家さんの出版社に「こういうモデルも面白いね」と認めてもらうことができまして。その先生から他の先生もご紹介いただき、22作品のみでサービスを始めたんです。

大久保:出版社には、「紙が売れなくなるのでは」という懸念もあったのかもしれませんね。

朝日:そうですね。ただ、サービスがスタートしてからは少しずつ大手の出版社も賛同してくれるところが出てきました。

意外だったのは、女性からの需要が非常に大きかったことです。例えば、男性ユーザーを意識して出した「静かなるドン」も、実は男性より女性ユーザーによく読まれたんですよね。

当時男性が屋外でマンガや雑誌を広げている姿はよく見かけましたが、女性が外でマンガを読んでいるところはあまり見たことがなかった気がします。女性が外でマンガを読むには周りの目が気になる時代だからこそ、需要があったのかもしれません。

ですから初期の頃は特に、女性向けコミックに注力をしていました。

大久保:ガラケ―は今のスマートフォンのように画面が大きくないですから、マンガの見せ方も難しかったのではないでしょうか?

朝日:おっしゃる通りで、小さいスクリーンでもマンガを読みやすくするために、コマで見せる必要がありました。

世の中には見開きのマンガしかなかったので、1つ1つコマに切る作業をしなければなりません。それには相当な労力を要したので、コンテンツを増やすために社員の公募までしていたと聞いています。

なぜ課金したくなる?コミックシーモアの「広告ノウハウ」


大久保:コミックシーモアさんの、マンガの一部分だけ無料で見せて、続きは有料にするテクニックにはうならされます。そのようなプロモーションも社内で考えられているのでしょうか?

朝日:広告は弊社が時間をかけて磨いてきた技術の1つです。

元々iモードを中心とするキャリアプラットフォームでは、すでにユーザーがいる状態なので集客をする必要はありませんでした。

ところが、2008年ごろからスマートフォンが出始めて、いわゆるWebプロモーションを自分たちでしなければならなくなったんです。しかも、私たちが携帯電話で我が世の春を謳歌してる間に、スマートフォンをターゲットにすでにサービスを展開していた企業もありました。

それを巻き返すためには、Webプロモーション方法を打ち立てる必要があったわけです。コマで見せていたものをスマホ用に見開きに戻す作業とあわせて、とにかくスピード重視で施策を実施しました。

大久保:プロモーション方法は自社で確立されていったのですね。どのような点が御社の特徴なのでしょうか?

朝日:マンガのどの部分までを無料で提供して、どこからは有料にするのか。ベストな箇所が必ずあります。それは私たちが感覚を研ぎ澄まして、物語の展開を見ながら考えているんです。

さらにバナー広告では、どの作品のどの場面、どのキャラクターのどの表情やコメントを表示すれば興味をもっていただけるのか。そういったノウハウを蓄積してきました。もちろん個人の興味や関心、嗜好など、いわゆるパーソナライズレコメンドも実装しています。

ですから、ユーザーの興味関心に近い広告を打つ技術が秀でているのがコミックシーモアだと自負していますし、今後も追及していきたいですね。

大久保:Web広告は代理店に任せてしまう方が楽だと思いがちですが、御社はユーザーとプロダクトを知り尽くした社内の人たちの知見を駆使して、広告を打っているのですね。

朝日:もちろん代理店さんの知識やノウハウをお借りすることもあります。ですが私たちは、委託するというよりは対話しながら、お互いに納得した広告を打つよう心がけています。

特に、今どのような作品を押し出していくか、世の中に打ち出していくかは、弊社の書店員がしっかり作品を読み込んで決めています。それは、新しい作品か古い作品かは関係ありません。良い作品を広めたいという想いで、プライドを持って取り組んでいる部分です。

北米で電子マンガは1割…日米の違いと共通点


大久保:すでに海外展開もされていますよね。

朝日:ゲームアプリは十数年前から海外向けに展開してきました。電子コミックは北米向けに「MangaPlaza(マンガプラザ)」をローンチしています。

集英社さんがアメリカでアプリサービスを始めているように、出版社が自分たちの作品を売るために海外展開をしているケースは多くあります。

一方で、私たちのような総合型の書店は海外で事業をスタートした例はほとんどありません。そのような状態を鑑みて、3年前からチャレンジを始めたところです。

大久保:電子書籍マーケットについて、日本国内と海外の違いはどのような点なのでしょうか?

朝日:コミックで言いますと、日本では電子と紙の割合がすでに2:1になっています。さらに、今後も電子の比率が高まっていく見通しです。

ところが、北米ではいまだにコミックの9割が紙なんです。要因は、出ている作品が少なかったり、家の蔵書スペースに余裕があったり、通勤中やカフェなどでスマホを見る習慣が日本ほど浸透していなかったりなどが考えられます。加えて、私の意見にはなりますが、アメリカではアニメから入る方が多いことも原因の1つだと感じています。

日本では、コミックを最初のコンテンツとして読んでいただき、アニメ化されたものや映画を見てもらう流れも少なくありません。しかしアメリカでは、アニメを見て気に入ったから、原作のマンガを蔵書したい方が多いのだろうと思います。

大久保:つまり海外でのマンガは、作品を初めて知るコンテンツではなく、コレクション対象なのですね。

朝日:ただ、海外でも日本と同じように、紙のコストの問題や物流問題は出てくるはずです。電子書籍の需要も高くなると信じて、市場拡大に貢献していきたいですね。

大久保:海外では、マンガは子どもが読むものというイメージがまだありますよね。でも、御社のマンガの主力は子ども向けではないと思います。その点はいかがでしょうか?

朝日:その問題を解決するには、ある程度時代を経ないと難しいですね。例えば、日本では私たちの世代が子どもの頃にマンガを読んで育ちました。この世代が今、子どもや孫がいる世代になっているんだと思うんです。その結果、マンガ文化が大人にも浸透してきたのではないでしょうか。

そういう意味では、海外でも世代が変わることで、マンガ文化も大人へ広がると思います。ただ、それを待っていると途方もなく時間がかかるので、どうバイアスをかけるかが私たちの勝負ですね。

この勝負は私たちだけではなく日本として取り組むべきことだと考えていますから、今後も力を入れていくつもりです。

マンガをカルチャーにするための挑戦


大久保:今後の展望をお伺いできますか?

朝日:若い世代が減っている今の日本は、コミック事業にとっては芳しくない状況だと言えます。実際に、紙と電子を足したコミックの市場規模は、ほぼ横ばいになっているんです。そのため、よりユーザーに選んでもらうために、さらに運営力に磨きをかけなければなりません。

海外では、コミック市場をもっと一般化すること、いわゆる「サブカルチャー」ではなく「カルチャー」にしたいと思っています。何十年とかかるかもしれませんが、ウォール街の金融マンが、当たり前のように電子コミックを読むような世界を目指します。

あともう1つは、これまで蓄積した販売データを元に作品作りにも注力していきます。実はすでにオリジナルコミックはスタートしているのですが、今後はコミックに限らず、アニメや映画、グッズなど、さまざまなコンテンツを展開していければと考えています。

大久保:最後に、起業したばかりの方へアドバイスをいただけますか?

朝日:私たちは23年前に企業内ベンチャーとして立ち上がりました。エンターテインメント業界にいますから、読者の皆さまには馴染みの薄い存在のように感じるかもしれません。

ですが、ゼロから出発して、事業が上手くいかない時期も乗り越え今に至っていますから、ご参考になる点が少しはあるかもしれません。

もしご興味がある方がいらっしゃれば、真摯にご対応いたしますので、ぜひ当社にアクセスいただければと思います。

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(編集:創業手帳編集部)

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(取材協力: NTTソルマーレ株式会社 代表取締役社長 朝日 利彰
(編集: 創業手帳編集部)



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