KS International Strategies 島田 久仁彦|最強の国際紛争の交渉人が語る!NoをYesにする極意【前編】
国際紛争の調停人が語る究極の交渉術
(2020/04/07更新)
起業や経営では交渉の連続です。営業や採用、資金調達まで代表の交渉手腕が問われるからこそ、身につけたいスキルのひとつが「交渉力」ではないでしょうか。
究極的に高い交渉力を持つのが、国同士の紛争を解決する「紛争調停人」。利害と歴史も絡み合った国際紛争を調停するプロである島田久仁彦氏に、起業家に向けて交渉の極意をうかがいます。
前編では、島田氏自身の交渉スキルの学び方や、そのスキルをもとに交渉したエピソードなどを語っていただきました。
1975年大阪府生まれ。(株)KS International Strategies CEO、環境省参与。1998年同志社大学法学部卒業。2000年アマースト大学を卒業(政治学・国際関係学)。2002年ジョンズ・ホプキンス大学大学院にて国際学修士号を取得(紛争解決・国際経済学)。
1998年より国連の紛争調停官としてコソボ、東ティモール、イラクなどの紛争解決に従事。紛争地での人権保護、女性の権利向上、アフリカ開発などの調停も行う。2005年に日本政府に任用され、環境省国際調整官として日本政府代表団の地球温暖化交渉時にリード交渉官と交渉議題の議長を歴任。
2011年に独立してからは、国内外の政府に対して環境・エネルギーおよび安全保障問題についてのアドバイザーや、丸紅やハネウェルジャパンなどの民間企業のコンサルティングを行うほか、ハーバード大学、カリフォルニア大学バークレー校、オックスフォード大学など国内外の大学・大学院などで交渉プログラムのインストラクターを務めている。現在、メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の無敵の交渉・コミュニケーション術』を毎週発行中
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。
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セルビアのミロシェビッチ元大統領に「我が息子」と言われるまで
島田:大学で国際政治は勉強しましたが、机上の知識では全く歯が立ちませんでした。現場で痛い目にあいながら交渉スキルを学んだんです。
交渉の場で対峙するのは、独裁者とかIS(イスラム国)とかだけでなく、ロシアや中国、インドといった国々もあります。一筋縄では行かない相手ばかりです。しかも、相手は二枚も三枚も上ですから、失敗に失敗を重ねました。大学の勉強で知ったつもりになっていたプライドはズタズタ。交渉もなかなかまとまらなかったですね。
島田:うまくいかなくて行き詰まってから、はじめてプライドを捨てて、素直に詳しい人の言うことを聞くようになりました。すると、物事がようやく前に進むようになったんです。
ビジネスでもその道に詳しい人っていますよね。そういう人に頭を下げて教えてもらうことにしたんです。すると、その人が20〜30年かけて得たことをたった30分で得られた。起業家のみなさんも同じだと思いますが、「詳しい人に聞いてしまう」ということの効用は計り知れないです。
あとは、とにかく上手な人やすごい人を真似してコピーしていました。良いところは服装から行動まで全て真似ることもありましたね。真似したことに自分の特徴を加えていくことで、自分のスタイルをつくっていきました。
また、相手の目線やしぐさが何を語るのかといった行動心理学も自分で勉強しました。勉強しながら、現実に当てはめてテストしていくと、どういうときに人が嘘をついているかといったことが手に取るようにわかるようになったんです。理論だけでなく実践で試すことで、必然的に上達しました。
島田:僕自身は本当はワインが好きなんだけど、周りの交渉人たちがなぜかシングルモルトウィスキーを飲んでいたので、真似してシングルモルトを飲むようにしたんです。そうしたら、シングルモルトがきっかけで、ミロシェビッチ元大統領(スロボダン・ミロシェヴィッチ氏、旧ユーゴスラビア、セルビアの大統領。独裁者)と仲良くなりました。
ミロシェヴィッチ元大統領とは、国連の職員として国際調停で交渉していました。その際に、勝手に交渉の部屋にあったシングルモルトウィスキーを飲んでいたところ、ミロシェビッチ大統領に見つかってしまって。怒られるかと思いましたが「飲み方を教えてやる」と言われて仲良くなりました。その後の交渉でも有利に働いたのは言うまでもありません。
島田:ミロシェビッチ元大統領とはやりあいましたね。何枚も上手だった。もともとミロシェビッチ氏は弁護士で国際刑事裁判所で、自分で自分の弁護をしたくらい。だから非常に手強い交渉人です。
ミロシェビッチ元大統領からすると、僕は新入りで平和を愛する日本人。正直、最初はなめられていましたね。「俺は大統領で支持率100%で選ばれた。だから、国民を生かそうと殺そうと勝手だ!」とも言っていました。
僕は下っ端だったのですが、だんだん聞いているうちに腹が立って、英語で「お前アホか」とキレて机を叩いて怒ってしまったんです。議場から退出させられ、出入り禁止になりました。
それでも、シングルモルトウィスキーの件などをきっかけにだんだんと打ち解けていって、最後には「我が息子よ」と呼ばれるまでの信頼関係ができました。
いろんなことをけしかけられても動じないこと。相手を包み込んでしまうこと。交渉するときにはそういう姿勢も大事だと思います。
命の危険を感じるときこそ、腹がすわる
島田:やはり、紛争地域に出向いたときは、いつ流れ弾が飛んでくるかわからないので、命の危険を感じていましたね。至近距離で銃弾が飛び交ったり爆撃があるような場面に何度も遭遇しました。
戦争が収まっていて安全だと聞いていたのに銃撃戦が繰り広げられていた、ということもありました。スリランカではゲリラ「タミールの虎」に取り囲まれて、機関銃を突きつけられたこともありましたね。
それ以外にも、テロリストのボスだと思って話していた人が、実はボスではなくて横にいた人がボスだった、とか冷や汗をかいた経験もたくさんあります。ひとつ間違えば危なかったですね。
島田:そういうときこそ、腹がすわるものです。自分の要求も相手の要求も満たして、自分も相手も生きて帰ることを考える。問題を解決することに集中する、ということですね。
交渉の場では、沈黙や食事が武器にもなることも
島田:交渉の場においては「沈黙」が武器になることもあります。
僕が経験した例だと、ロシア人と交渉していたとき、相手が無理難題を言ってきたことがありました。そのうえ、相手はふんぞり返って黙っている。僕も「面白い」と言ってふんぞり返って、2週間互いに黙っていたんです。そうしたら、なぜかだんだん話をするようになって、条件提示の話が進みました。
普通は交渉を進めるためにはしゃべらないといけないと思ってしまいますよね。でも、こういうときは反応したら相手の思うつぼです。ノンバーバルでも思いを伝えられるのが、沈黙。これが武器になることもあるんです。
島田:僕はよく食べますね(笑)。この「よく食べるキャラ」というのも、実は国際交渉では有利なんですよ。
交渉がうまくいっていない局面で「間を置きたい」「時間を稼ぎたい」というときに、わざと「お腹が空いて頭が回らないときに大事なことを決めるのは良くないよね」とブレイクを入れるんです。
ご飯を食べると、相手はしゃべりやすくなる。だから、国際交渉の現場では、表の議場の話とは別に、そういう食事の場でいろいろ決まっていくということもあります。食事の話や息子や娘の話になると打ち解けやすいんです。
また、自分はタバコは吸わないけど、面白い形のライターを持っていて、喫煙所に行って火をつけてあげることもあります。そこで議場ではしない話をするんです。
相手も本音ではすんなりと合意したいと思っています。でも、お互いに国を背負っていて、安易に合意すると叩かれてしまう。だからこそ、交渉でバチバチやりあっているという形の末に合意したように見せないと、国内の世論や関係者が収まらないということもあるんですよね。
だからメンツを立てて「今日はわざと議場では揉めよう。でも明日には合意しようか」とか、食事の場や喫煙所などで裏の手をこそっと決めることもあります。八百長のプロレスみたいですけどね(笑)
島田:おしとやかに、自信なさげに、和を重んじるのが日本人で、俺とお前という濃い関係を意識するのが中国人といった傾向はありますね。
インド人とエジプト人は、弁が立つし頭も回るし、先週と違う話を平気でしてくるとか、そういった図太いところもありますね。日本人と違う種類の生き物のよう。なので交渉になると、日本人は我慢ができず折れてしまいがちです。
ただ、さまざまな国の人と交渉したからこそ実感するのは「◯◯人はこうだ」とひとくくりにはできないということ。やはり、一人ひとり違う人間だという心構えが大事だと思います。
※島田さんの交渉術はメルマガでも紹介されています。
最後の調停官 島田久仁彦の無敵の交渉・コミュニケーション術
(取材協力: 株式会社KS International Strategies CEO/島田 久仁彦)
(執筆協力:前川哲弥/木舟周作)
(編集:創業手帳)