顧客を“わくわく”させる新星バニラエア、挑戦の舞台裏

創業手帳
※このインタビュー内容は2014年06月に行われた取材時点のものです。

【石井知祥社長インタビュー】顧客を“わくわく”させる新星バニラエア、挑戦の舞台裏

成田空港へ着き、社員専用の階段を上がりオフィスへ入ると、空色と黄色が爽やかな社内の応接室に案内された。バニラエアは、ANAホールディングスが100%出資する新星のLCCだ。昨年、ANAがエアアジアとの共同事業を解消し、バニラエアとして生まれ変わった。「ANA ロサンゼルス支店長」「AIRDO 営業本部長」などを経て、同社代表取締役に就任した石井氏に、挑戦の舞台裏を聞いた。
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石井知祥
■バニラ・エア株式会社代表取締役
 
■プロフィール
早稲田大学商学部を卒業後、1974年4月に全日本空輸株式会社(ANA)入社。ワシントン支店長や営業推進本部副本部長などを歴任し、2010年7月から2013年7月まで株式会社AIRDO(旧 北海道国際航空)で営業本部長を務める。2013年8月、エアアジア・ジャパン入社、同社代表取締役社長に就任。2013年11月1日に商号をバニラ・エア株式会社に変更。

 

チープから一変、シンプル・エクセレント・ニューベーシックなLCCへ

“LCC”というと「運賃は安いがそれ以外のサービスは有料」、「徹底的なコストカットでチープ」などのイメージを持つ人は少なくないだろう。石井社長は、単なる移動手段化するLCCに違和感を抱く。

「今の世界のLCC業界を見ていると、飛行機が単なる移動手段になってきてしまっている気がするのです。私はやはり、空の旅というのは本来「ロマン」だと思います。人間は昔から「空を自由に飛びたい」という夢がありました。空港に行くとなんだかワクワクします。空の旅というのは、地上の電車や車とは違う、ロマンがあると思うのです。」

バニラエアは、札幌、那覇、奄美大島(7/1より就航)、東京、台北、ソウルなど、主に観光を目的とした旅行客が利用するレジャー・リゾート路線に展開している。

※LCC:Low Cost Carrier の略で、効率化の向上によって低い運航費用を実現し、低価格かつサービスが簡素化された航空サービスを提供する航空会社のこと。

加えて、従来のLCCとは異なり「価格以上の満足を提供する新しいLCC」を目指し、具体的に3つのミッション・コンセプトを掲げている。それは「シンプル」「エクセレント」「ニューベーシック」だ。リーズナブルな価格を保ちつつサービス品質を向上させることに加え、一歩先の使いやすさを提供する。旅のスタイルの新しいベーシックを創り出そうという挑戦だ。

「ですから我々は、これまでのLCCでは有料とされていた手荷物のお預けを無料にしました。基本運賃の中に手荷物のお預かりの料金を含めることで、荷物の心配なく空の旅を楽しんでいただきたいからです。」

LCC航空会社にとって手荷物料金は大きな収入源となる。しかし、新たなスタイルの提案のためこれを手放したことに、バニラエアが目指すサービスのあり方が1つ表れている。

「また、旅をより楽しんでいただくために「わくわくバニラ」というチケットのプランを用意しています。これは大手航空会社の約10分の1の価格で空の旅を楽しめる非常にお得なプランです。」

不定期に発売される「わくわくバニラ」のチケットを購入すると、成田から沖縄まで3,000円で行けてしまう。(※発売都度、運賃設定は異なる。)

独自のルートを切り開き、新しい需要を生み出す

また同社は、2014年の7月に、成田〜奄美大島という新しいルートを就航させる予定だ。バニラエアは「新しい需要の創出」を大きく掲げている。

「我々が目指すのは、既存の大手航空会社とお客様を取り合うことではありません。新しい需要を生み出すことが我々の使命です。新しい需要を生み出すというのは、未だあまり知られていない場所へルートをつくり、そこへ行くお客様を増やす事です。

例えば、今年7月に就航した奄美大島は、島全体がパワースポットのような自然豊かな島です。しかし、あまり知られていない観光スポットなのです。未だ知られていない価値ある場所へルートを展開していくことで、その地域の経済も活性化しますし、皆が幸せになれると思います。」

新しい需要をつくり、その地域にも貢献しようというのが、バニラエアの目指すところである。

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様々な部署がみな「一つ屋根の下」で働く、徹底したコストカットの舞台裏

リーズナブルな価格を保ちつつ、価格以上の満足を提供する。なぜこれが可能になるのだろうか。実際、チケット価格を大手の半額〜10分の1で提供するには多大なコストカットが必要になるだろう。バニラエアでは様々な取り組みを行っている。例えば「飛行機一機あたりの稼働率」や「仕事の効率」を上げることだ。安全運航のために決められたルールは厳守しつつ、効率化を図っているという。

加えて、お客様に信頼していただける会社であるために、定時出発率などの情報公開もホームページを通じて積極的に行っている。これも“バニラらしさ”の一つだろう。また、社内を見渡すと壁一つないことがわかる。全ての部署を「一つ屋根の下」に同居させることで固定費を削減しているのだ。社長はふらりとパイロットに話しかけ、真剣に話し込む。
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航空人生40年、空のテーマパークへの夢

石井社長の父親は、戦前の満州航空のパイロットだった。幼少期から飛行機を見て育ったという。40年を超える「航空人生」を振り返り、今後の展望を聞いてみた。「私は札幌で生まれ育ったのですが、3歳から大学に行くまで、目の前は飛行場という場所で育ってきました。パイロットだった父は、私が子どもの頃に時々「ちょっと散歩へ」といってセスナ飛行機に乗ってパーっと飛んだりしていた。今だったら会社の飛行機を勝手に乗っているのでクビでしょう(笑)

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先日ある社員が、「お客様にとって、バニラエアをどのような会社にしていきたいか?」というお題に対して、「空のテーマパークにしたい」と言っていました。バニラエアの未来は、そんな楽しみを提供する“夢のある会社”にしたいと思います。そのためには社員一人一人の働き方も大切です。まず仕事として質の高いサービスを提供する。そうしてお客様に感動していただく。今度はその喜びを味わってまた自分も成長する。そんな会社にしたいですね。」

日本のお客様は世界的に見てもサービスの質に厳しいことで有名だ。そんな日本で高いサービス水準を保ちつつ、LCCとして新たな需要を生み出す事は、簡単ではないだろう。これからどんな“わくわく”が生まれるのか、一顧客としてとても楽しみだ。

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(インタビュー・編集:田中嘉)

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