専門家に聞く、ベンチャー企業が陥りがちな資本政策/法務に関する5つの落とし穴

創業手帳

IPO狙いの起業家はココを気を付けろ!

(2016/01/06更新)

ベンチャー企業の経営者にとって法務や資本政策は、足元をすくわれやすい問題なのではないでしょうか。今回は、ベンチャー企業を多くクライアントに持つ「AZX Professionals Group」の雨宮弁護士に、ベンチャー企業が失敗しがちな法務・資本政策のポイントについて取材しました。

fotolia_112387085_subscription_monthly_m

ーAZXではどういうステージのベンチャー企業が多いですか?

AZXのクライアントには、起業前の会社からシード、アーリー段階はもちろん、IPO後の会社まで様々なステージのベンチャー企業がいます。

従来は、ベンチャーキャピタルからの投資を受けた段階で、「投資を受けるからには、IPOやM&Aに耐えうるよう会社をきちんと整備しなければならない」とAZXに来るクライアントが比較的多かったのですが、昨今は一度エグジットしてから2回目の起業を目指す方なども増えてきており、そのような場合は起業前から法務の重要性を意識されてAZXに相談に来てくださいます。

また、2001年の設立以来ベンチャーサポートをしているため、IPOをしたクライアントも年々増えており、一部上場企業も多数いらっしゃいます。そのほか、既に上場している企業がベンチャーを買収する際に、ベンチャー法務に詳しいAZXに相談したいと依頼してくるケースも多いです。

ーベンチャー企業の法務はどこに注意したほうが良いですか?

ベンチャー企業は、

(1)新しいことに挑戦するため、従来の考え方がそのまま適用出来ないケースがあること
(2)ベンチャーキャピタルなどから投資を受ける場合は、常に資本政策を意識して、適法かつ適切に投資契約の締結やストックオプションの設計を行う必要があること
(3)将来のIPOやM&Aの際の審査に耐えられるよう法的に整備されている必要があること

この3点が特徴的です。

場合によっては、既に上場している企業よりも法的整備の必要性が高い場合もあります。ベンチャー企業だからスピード重視でグレーなことも許され、お金もないから法務にコストを割けないという考え方は誤っており、ベンチャー企業であるからこそ、法律を常に意識して適法なサービスの運営を心掛けないと、自らの発展を自らで阻害してしまうことになります。

また、ストックオプションの設計などにおいては、適法であることはもちろんのこと、税制上の優遇措置への配慮や退職時や上場前の行使を認めるべきかなど実際のトラブル事例も踏まえて設計する必要があり、実務に精通した弁護士に依頼する必要性が高いです。

fotolia_118099283_subscription_monthly_m

ー資本政策で良く失敗した!という話を聞きます。何が問題になるケースが多いですか?

資本政策は後戻りができないため、「失敗した!」という話になることが多いのだと思います。問題となるケースとしては、

(1)創業者間の株の配分のトラブル
(2)ベンチャーキャピタルなどの第三者からの投資を受ける際の条件交渉のトラブル

が多いです。

(1)については、創業者間で仲良く株を持ち合おうとし、リーダーシップが誰にあるのか不明確な状態となってしまうケースや、創業者の一人が脱退することになり、その株の帰趨をどうするのかトラブルになるケースが多いです。これについては、株を持ち合うことになった段階から、それぞれの持株比率がどのような意味をもつのか、誰かが脱退した場合はどのような条件で買い取るのかを十分に話し合い、創業株主間契約を締結しておくことが重要です。

また、株を持ち合うのか、ストックオプションを付与する形にするのかという検討も重要です。これらの問題については、今回の本(「ベンチャー企業の法務Q&A」以下同じ。)でも取り上げています。

ー(2)についてはいかがでしょうか?

(2)については、投資契約は起業家にとって重要な法的責任を負うものであるのに、ベンチャーキャピタルの提示するままに内容を十分に理解せずに締結してしまい、後にその契約に基づく権利を主張されてトラブルになるケースなどがあります。

また、企業価値や持株比率などについて十分に交渉をせずに投資を受けてしまったために、次の投資の条件があわず、追加の資金調達ができなくなってしまったケースもあります。この点についても、今回の本で投資契約の留意点や優先株式の内容について、詳細に解説していますので、是非読んでいただけると良いのではないかと思います。また、資本政策そのものについては、磯崎哲也さんの「起業のファイナンス」(日本実業出版社)をご一読されることをオススメします。

ーベンチャーの弁護士業務のやりがいは?

ベンチャーサポートという仕事は、新しい価値を創造することに貢献する仕事であるという社会的意義を感じることができます。起業家の方をはじめベンチャーに関わる方は、チャレンジャーでいいエネルギーにあふれている方が多く、そのような方達と接しているだけでこちらも楽しくなります。

大企業の大きな案件も、それはそれでやりがいがあるのかもしれないですが、ベンチャー企業は業務が細分化されていないため、全体像を把握したうえで仕事をできる醍醐味もあります。CEO等の経営陣と直接やりとりするようなことも多く、相談内容のひとつひとつが会社やCEO等の経営陣にとって重要な事項であることから、無事契約締結に至った場合などに、とても感謝されることも喜びです。

ー起業家に向けてメッセージをどうぞ!

起業家のみなさんが、新しい価値を創造していくためには、土台となる会社とビジネスの基礎がしっかりとしていなければなりません。AZXでは、今回の本を通じて、ベンチャー業界のエコシステムの構築に役立ち、更なる発展につながることを願っています。

起業家版 法律の実用書!「ベンチャー企業の法務AtoZ」が発売されました!

2016年10月に、起業家にとって最低限知っておくべき法律知識をわかりやすくまとめた「ベンチャー企業の法務AtoZ(商品詳細ページへリンク)」が発売されました!執筆者は、今回取材にご協力いただいた雨宮様を始め、AZX弁護士の方々です。ベンチャー経営者必読の本となっていますので、是非チェックしてください!

SKS4_株主総会cover

(取材協力:AZX Professionals Group)
(編集:創業手帳編集部)

創業手帳
この記事に関連するタグ
創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
創業時に役立つサービス特集
このカテゴリーでみんなが読んでいる記事
カテゴリーから記事を探す