働き方改革法案が可決!起業家が知っておくべき「6つの改正ポイント」

創業手帳

専門家が対応方法を教えます

hatarakikata

(2018/08/09更新)

最近ニュースなどでもよく耳にする「働き方改革」。これに関する法案である「働き方改革法案」が、2018年6月28日に可決されました。
ですが、「可決されたといっても、経営者はどのような対応をすれば良いのだろうか?」と思っている経営者の方も多いのではないでしょうか?
そこで今回は、企業としてどのように働き方改革に取り組んで行かなければならないのかを、専門家に解説していただきました。

しっかり取り組んでおかないと、場合によっては罰金を支払わなければならない、なんてことも・・・。
全体像を理解して、働き方改革に取り組んでいきましょう!

働き方改革法案 重要な改正ポイント

6月28日に可決された「働き方改革法案」に伴い、多くの法律改正(労働基準法・労働安全衛生法・労働契約法など)が行われることになりました。
その中で、経営者が知っておきたい重要なポイントを中心に解説していきます。

企業が有効活用したい制度設立または見直し

新設 特定高度専門業務・成果型労働制の成立

【施行日:2019年4月1日】

いわゆる、「高度プロフェッショナル制度」(以下「高プロ」)といわれている制度です。
ニュースなどでも取り上げられることが多いので、もしかしたら聞いたことがある方が多いかもしれませんね。

この制度は、職務が書面等にて明確に定められている者で、この職務が高度に専門的であり、一定の年収(1,075万円)以上の労働者については、下記の要件を満たすことで労働時間(一日8時間・週40時間を原則とする労働時間の規定や時間外・休日労働に関する規定等)の規制を受けずに働かせることができ、また休憩に関する規定、時間外・休日・深夜の割増賃金に関する規定も適用除外となる、というものです。

つまり、該当した方は管理職同様の労働時間規制の適用除外に加え、深夜勤務の割増賃金の支払いについても不要となります。

【高プロを適用する要件】
● 手続き:労使委員会にて必要事項の決議を行い、労働者本人の同意を得ること
(上記の決議は行政官庁に届ける必要がある。)
● 休日確保:年間最低104日以上(かつ4週4日以上)の休日を確保すること
● 下記の健康確保の措置のうちいずれかを講ずること
・インターバル措置(終業時刻から、次の始業時間の間を一定時間以上あける措置)
・在社時間等の上限措置
・2週間連続の休日確保措置
・臨時の健康診断実施措置
高プロの対象となる業務

なお、「高プロ」適用対象となる業務に関しては、今後厚生労働省が定められるとのことですが、「業務に従事した時間と成果との関連性が強くない」業務とされており、次のような業務が想定されています。

金融商品の開発業務
金融商品のディーリング業務
アナリストの業務(企業・市場等の高度な分析業務)
コンサルタントの業務(事業・業務の企画 運営に関する高度な考案又は助言の業務)
研究開発業務など
高プロ導入の際の注意点

「高プロ」は上手に利用することで、「時間」ではなく「成果」で評価される働き方を希望する労働者に対しては、労働生産性の向上や残業代の削減といった効果が見込めると思います。

ですが、一方で「いくらでも労働させて良い制度」と勘違いしてしまう可能性があるので、労働者自身が自律的に働けるように注意しながら運用する必要があります。

さらに、今回可決された法案では、以前から審議されていた法案内容に加え「本人の同意撤回」が可能となりました。労働者本人からの事後的な「高プロ」適用拒否の意思表示も可能となりましたので、企業としては、より慎重な対応が求められます。

変更 フレックスタイム制の見直し

【施行日:2019年4月1日】

フレックスタイム制とは、一清算期間内で総労働時間を設定し、その範囲内で始業及び終業の時刻を労働者の決定に委ねる制度です。

現在、このフレックスタイム制の「清算期間」は最長1ヶ月とされていますが、この上限が「3ヶ月」に延長されます。(1ヶ月を超える清算期間を定めるフレックスタイム制の労使協定は、行政官庁への届出が必要です。)

例えば、繁忙期1ヶ月間は1日8時間以上勤務し、残りの期間は1日5時間といった短時間勤務にして、3ヶ月間で総労働時間を調整する、といった労働者自身による柔軟でメリハリのついた働き方が可能となります。

原則、清算期間において定められた総労働時間を超過しなければ時間外労働の割増賃金は発生しません。
1~3ヶ月間で繁忙期と閑散期の差が激しい業務に従事する労働者が利用することで、ワークライフバランスの確保及び残業代の抑制につながることが期待できます。

しかし、経営者が始業・終業時刻を一律して決定するような運用はできませんので、ある程度自身の裁量で業務を行える労働者に限る必要はあります。
なお、フレックスタイム制を適用した場合でも、休日に関しては1週1日以上(もしくは4週4日以上)を取得させなければいけないので、注意が必要です。

企業が行うべき制度の新設または見直し


ここまで解説した「高プロ」や「フレックスタイム制の見直し」に関しては、企業が有効活用したい制度設立または見直しなので、取り入れるかどうかは経営者の判断によります。
それに対して、これから解説する制度は、企業が行うべき義務となります。やっておくべき対応もまとめましたので、参考にしてください。

新設・義務 時間外労働の上限規制

【施行日:2019年4月1日(中小企業は2020年4月1日)】

時間外労働の上限が、原則「月45時間・年360時間」とされ、通常予見することのできない業務量の大幅な増加等により臨時的に労働させる必要がある場合には、休日労働を含んで「月100時間未満・年720時間・2~6か月における期間の平均が月80時間以内」と定められました。
今までは、法律的な拘束力のない「基準」という形で定められていた時間外労働の上限が、法律に明記されることになった、ということです。
上に記載されている太字の内容に違反した場合は罰則(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)も設けられました。

実は、今までの36協定の特別条項では、月100時間以上の時間を設定することも可能であり、いわば合法に月100時間超の時間外・休日労働を行わせることが出来ました。

しかし、今後は臨時的で特別な事情のある場合であっても月100時間未満で協定を締結し、これを遵守する必要があります。
(建設事業や医師等に関しては一定期間適用が猶予され、また新技術の研究開発業務に従事する者に関しては、当該規制が適用されません。)

企業がやっておくべき対応
・36協定の内容変更(必要に応じて)

変更・義務 中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し

【施行日:2023年4月1日】

2010年の労働基準法改正により定められた、月60時間超の時間外労働に対する割増賃金を50%とする規定は、従来、中小企業は適用を猶予されていました。
この猶予が2023年4月1日より撤廃されますので、まだ対応していない企業は忘れないでおきましょう。

企業がやっておくべき対応
・就業規則や賃金規程等の変更
・給与計算実務の対応

新設・義務 年次有給休暇の確実な取得義務について

【施行日:2019年4月1日】

企業は、年次有給休暇を10日以上付与される労働者について、5日分を付与日から1年以内に取得させることが義務になります。この5日間については、企業が時季を指定して取得させる必要があります。
(労働者が自身で取得した年次有給休暇及び計画付与による年次有給休暇の取得日数については、この5日間から除くことができます。)

本規定に違反した場合、罰則(30万円以下の罰金)もあるため、一年間の年次有給休暇取得日数が5日未満の労働者に関しては、管理して休暇取得させていく必要があります。

「社員一人ひとりの付与日数を管理するのは難しい!」ということであれば、年次有給休暇の計画付与による夏季休業やリフレッシュ休暇等を導入し、全社的に取得を勧めるのも良いかもしれませんね。

企業がやっておくべき対応
・就業規則の変更
・年次有給休暇計画付与の協定締結(必要に応じて)

新設・努力義務 勤務間インターバル制度の普及促進について

【施行日:2019年4月1日】

勤務間インターバル制度とは、終業時間から翌始業時間までの時間(インターバル)を設定する制度のことです。
例えば、インターバル時間を11時間と定めると、23時に終業した場合、翌日10時までは勤務させることが出来ません。

この制度に関しては、現状は努力義務なので、法的拘束力はありません。
しかし、他の取り組みとともに利用することで、勤務時間と生活時間の良いバランスを取るために有効な制度となるでしょう。

また、前述した「高プロ」導入の際に、勤務間インターバル制度が健康確保措置の選択肢のひとつとして設定されていますので、導入を検討するのも良いでしょう。

まとめ

今回は働き方改革法案の重要な改正ポイントを解説しました。年次有給休暇の取得、残業規制、インターバル制度など、社員の働き方の改善に取り組んでいかねばならないことがお分かりいただけたかと思います。

ですが、経営者が業務改善の一環として積極的に取り組むことによって、時間外労働の賃金のコスト削減、働き方の柔軟化による優秀な人材の確保、生産性の向上などのポジティブな効果が得られる可能性も十分にあります。不明点は専門家に相談しながら、対応していきましょう。

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(監修:寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士 寺島有紀
(編集:創業手帳編集部)

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