アリススタイル 村本 理恵子|「所有」から「体験」へ。シェアリングサービスが変える、新しい消費のかたち

※このインタビュー内容は2026年09月に行われた取材時点のものです。

多様なキャリアを経て61歳で起業。市場を信じ、シェアリング事業を育てるまで

アリススタイル村本理恵子氏
貸し借りのシェアリングプラットフォーム「Alice.style(アリススタイル)」を開発・運営している株式会社アリススタイル。話題の家電や美容機器などを購入せずに気軽に試せる仕組みを通じ、「所有」から「体験」へと変わる消費行動を後押ししています。

代表取締役の村本理恵子さんは、2021年に『日経WOMAN』「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2021」に選出され、2026年には「スタートアップワールドカップ」東京予選のファイナリストにも名を連ねました。

約100社のVCに断られながらも自らの仮説を信じ、事業を育ててきた村本さん。どのように消費者行動の変化を捉え、事業機会を見出したのか、また資金調達、事業立ち上げにおける苦労などについて伺いました。

アリススタイル村本理恵子氏
村本 理恵子(むらもと りえこ)

東京大学卒業後、時事通信社にて世論調査・マーケティングリサーチの分析業務に従事。専修大学経営学部にてマーケティング教授、ネットベンチャー「ガーラ」のナスダックジャパン上場に貢献。法政大学大学院教授として勤務したのち、エイベックスでモバイル動画配信事業「BeeTV」(のちに「dTV」に発展)の立ち上げに参画。エイベックス・デジタル取締役事業本部長としてデジタル事業を推進。2017年4月に、株式会社ピーステックラボを起業しモノの貸し借りサービス「アリススタイル」をローンチ。消費者が購入に踏み切る前の段階で実際に商品を使って驚きや感動、楽しさを得られる体験を創出するとともに、商品メーカーにとっては新たな顧客との接点を提供している。

経済が大きく変わる21世紀には、新しいビジネスが必要

株式会社アリススタイル

ーどのようなサービスを展開されているのでしょうか?

村本:大きく分けて主に3つのサービスがあります。まずCtoCシェアリングプラットフォーム「アリススタイル」は、モノを貸したいユーザーや企業(貸し手)と、借りたいユーザー(借り手)を繋ぐプラットフォームです。旅行用品や話題の最新家電などを気軽に借りて試すことができます。次に、BtoC定額制シェアリングサービス「アリスプライム」は、話題の最新家電や美容家電など1,000種類以上の商品が、月額制で自由に利用できるシェアリングサービスです。多様なカテゴリーの商品を取り揃えており、往復送料無料でいつでもお好きな商品に交換ができ、返却期限もありません。最後に旅行先で必要なものを、現地で借りて、現地で返すBtoB旅行事業シェアリングサービス「アリストラベル」があります。旅行中に使用するヘアドライヤー、デジタル一眼レフカメラ、ビーチ用品、ベビーカー、美容家電などを、旅行先のホテルなどで受取・返却できるパッケージ型レンタル商品の提供サービスです。

ーマーケティングリサーチ、大学教授、ネットベンチャーでの上場経験、エイベックスでの動画配信事業など、幅広いご経験の中で、現在の事業につながっている点はどこにあるのでしょうか?

村本:それでいうと今までの経験のすべてだと思っています。最初のキャリアがマーケティングだったので、消費者行動を学び、そこからマーケティングの新しい施策を考えるという軸は現時点まで変わっていません。大学でもマーケティングを教えていたので、消費者に何が望まれているかをユーザーの立場に立って考えるという視点が自分の中に根付いています。

一方で、インターネットが日本に上陸した20世紀の終わり頃に、ネットの事業に携わったことや、経営するという立場でベンチャー企業の経験をしたことは非常に大きな意味を持ち、今のネット事業を経営する入り口になってくれました。次に携わった動画配信事業は、DVDを買わなくても定額を払っていれば自分の好きな動画にアクセスができるというサービスです。この事業を始める際には、マーケットリサーチや戦略など、そういったことをかなり緻密に作っていきました。この事業が、今の事業を始める際の大きな原動力になりました。今の私がやっている事業は、ビデオオンデマンドを物のオンデマンドにしただけだと思っています。映像と物という違いはありますが、実際は非常にリンクしていて、今の事業に至っているなという実感があります。

ー61歳の時にアリススタイルを起業されていますが、なぜそのタイミングで新しい事業に挑戦しようと思われたのでしょうか。

村本:私は「10年後の常識を作りたい」と常に思いながら事業をやってきました。「21世紀の経済はきっと大幅に変わっていくだろう」と漠然と考えていた2015年ぐらいから、AIや環境問題やブロックチェーンというキーワードが話題になってきて、これから時代が大きく変わるという時に、61歳ならまだ新しいことがもうひとつできるんじゃないか?と思ったことがきっかけですね。

新しい時代になり、経済が大幅に変わっていくなら、当然それに合った新しいビジネスが生まれてくるだろうという直感のようなものがありました。

ー周囲の反応を理由に、迷いや不安を感じることはありましたか。

村本:起業やベンチャーというと、若者がするものという先入観があるようで、当時ベンチャーキャピタルを訪問して事業の説明をしていたら、担当の方から「老後の趣味ですか?」と言われてショックを受けたことは今でも覚えていますね。資金調達のため、100社ほどのベンチャーキャピタルを回ったものの、なかなか理解されずに苦労しました。

断られ続けても前に進めた理由は、市場の可能性を確信していたから

ーベンチャーキャピタルに出資を断られ続ける中で、何かを意識的に変えた部分はありましたか。

村本:最初は「なぜわかってくれないんだろう」という思いが強かったんですが、途中から、きっと私の説明の仕方や説明資料が悪いんだなと思うようになったんですね。私はずっと事業しかやってこなかった人間なので、投資家の気持ちが分からなかったんです。やはり、事業の説明と、お金を出してくださいという説明は違います。投資家の方が知りたい情報である、「このお金を投資したら、何年後にこうなります」という部分をきちんとデータに基づいてお見せすることが大切だということを、少しずつ学び、資料作りに反映していきました。

ー断られ続けても、くじけずに継続できた理由は何だったのでしょうか。

村本「この市場は絶対あるんだ」っていう自分の中の確信ですよね。これまでにない市場を説明するってすごく難しくて、個人が普段の生活で使うドライヤーを借りるということ自体、当時なかなか理解されませんでした。意思決定をする方々って、やっぱり男性が多くて、「そんなもの買うでしょう」と皆さんおっしゃるんですよね。たまたまそういう席に女性がいたりすると、「わたし借ります」って言ってくださる方がいたりして、やはり需要はあるんだとうれしく思いました。ですから、断られても自分の確信を信じて次の投資家に会いに行っていましたね。最後は事業というよりも、私自身を信じてくださる投資家の方と出会えたのですが、100人ぐらいいればひとりぐらいは理解してくれる方がいるだろうとも思っていたので、あきらめずに行動し続けてよかったと思っています。

「買う人はごく一部」という仮説から、サービスを形にするまで

株式会社アリススタイルの包装箱のイメージ図

ー物のシェアリングサービスを始めるうえで、どのような仮説を持っていましたか?

村本「ある物を欲しいと思っても、買う人はごく一部だ」という仮説を持っていました。例えば、100人の人が「あの商品いいな」、とか「あの商品使ってみたいな」と思っても、買う人はせいぜい10人いないぐらいなのではないかと。つまり裏を返せば、「買おうと思ったけれど実際には使えていない」人たちが多くいるということです。

また、買っても結局使わないで家に転がっているケースもあります。例えば美容機器は買って3カ月ぐらいは一生懸命使うけれど、それが過ぎると急に使わなくなって、次のものが欲しくなるというのはよくある話で、無駄だしもっと合理的にできないのかとずっと思っていたんです。また、ヒーターやサーキュレーターなどの季節家電も、毎回しまうのも面倒だし場所を取りますよね。つまり使われていない多くのものがあり、買いたくても買えていない人がいるということです。

ー実証実験や初期ユーザーの反応から、想定と違った発見はありましたか?

村本:まず女性をターゲットにして、多様な商品を用意したり、ユーザーさんに出品してもらったりしながら、100人の方々に何を借りたいかを聞いて、貸し借りを行いました。洋服やブランド品が人気だろうという仮説を立てていたのですが、実際は美容家電が圧倒的に人気でした。「他人の肌に触れたことがあるものを使用することに違和感はないか?」という懸念がありましたが、お客様は全く気にせずにそういった物を借りるということが分かりました。現在、アリススタイルで一番大きな領域はビューティーなんですが、その点は10年以上前の実証実験の結果から自信を持って進めることができました。

ーシェアリング・レンタルサービスを展開する上で、返却後の清掃・梱包・品質管理など、安心して使ってもらうためのオペレーション面で工夫していることはありますか?

村本届いたものに人の使った形跡があった途端に、人はがっかりすると常々思っているんです。ホテルの部屋って、数時間前まで誰かが寝ていた部屋ですよね。でも、部屋に入るとそんな感じは全くない。だから、私たちの商品はそのホテルの部屋と同じだと思っています。商品が返ってきたら徹底的にきれいにして、オリジナルの梱包で発送します。人が使った痕跡を残さないことと、お客様に新しい物が届く気分を大切にしていますね。

ー事業を立ち上げる中で、想像以上に難しかった点はありますか?

村本:まず私自身が物流を全く知りませんでした。最初は「倉庫ってどうやって、誰が貸してくれるんだろう?」という状態だったほどです(笑)。前職の部下と3人で事業を立ち上げ、最初はとりあえず事業をなんとか形にするため、パッションや腕力、ある種の無謀さで突き進んできました。しかし、事業が大きくなる中で0から1が得意な人と、1から10が得意な人はやはり違うということに気づきました。実は、現在は創業時の人はほとんど残っていないんです。

私自身、どちらかというと事業の立ち上げの方が向いていて、組織づくりがうまいというわけではないので、ある程度できあがった組織の中でしっかりと事業を回してもらえる人たちを採用することを意識してきました。

ーCtoC、BtoC、BtoB、旅行事業など、事業領域を広げる際にどのような基準で判断されていますか?

村本:実は我々がもともとやりたかったのは、自分たちで商品を持っていて、お客様に確実にいい物を届けるということだったんです。創業当時は潤沢な資金があるわけではなかったので、CtoCで事業を始め、個人間で物の貸し借りをするというところからスタートしました。そういう意味で、BtoC事業については、本来やりたかったことがようやく実現できるようになったと考えています。旅行事業については、お客様にシェアリングやレンタルを便利に使っていただくためにどうすればいいかと考えた結果の自然な流れでスタートしました。

Z世代から他の世代へ。広がるシェアリングの可能性

双眼鏡をのぞく女性と、レンタルサービス「Alice.style」の広告。「パッとレンタル ピッと手軽に」「駅で借りて駅で返す」「気軽なレンタルサービス」「ライブの双眼鏡、駅で手軽に」の文字。

ー「所有より体験」「シェアリングを当たり前にする社会」を実現するうえで、今後の課題は何だと感じていますか?

村本:やはり、シェアリングサービスを実際に体験し、便利だと感じる人が増えていかないとこのサービスは広がりにくいと思っています。そういう意味では、まだこれから知っていただける余地がたくさんあると感じています。

わたしは10年間シェアハウスに住んでいるのですが、自分の母や友人が亡くなった後の物の整理を経験して、自分にもし何かあったときに、たくさんの物を残して人に迷惑をかけたくないと感じたのがシェアハウスに住み始めたひとつの理由でした。

たくさん物を持たなくても、一緒に住むことで家電も服も共有できて合理的なんです。カーシェアなどを上手に使うZ世代の若者たちが好むのは「所有より使用」とよく言われますけれども、これからはシニア世代にもそういった思考が広がってくると思っています。そういう意味ではマーケットの広がりは大きいという確信を持っていますね。

ーこれから起業する方や、事業づくりに悩んでいる創業者に向けて、村本さん様のご経験から伝えたいことを教えてください。

村本事業をやるということは、どれだけ失敗するかということだと思っています。失敗した分、経験値が貯まるようなイメージですね。私たちも順調のように見えるかもしれませんが、その裏では山のような失敗をしてきました。最近は配送費の値上がりが予想以上で、どのように他の部分でコストカットするかを必死になって考え、何とか乗り越えました。

ですから、起業をしたり、これから事業を伸ばしていくという時に、失敗することを恐れないでいただきたいですね。失敗するのは当たり前で、それが自分の経験になり、次は同じ失敗をしないように行動することが実は一番のポイントなのではないかと思っています。

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