ケアリンク 根本 雅文|格闘家から起業家へ。未経験からのアプリ開発と2.3億円調達を実現した介護DX事業の裏側

※このインタビュー内容は2026年09月に行われた取材時点のものです。

ノーコードすら知らなかった元格闘家が、2年で導入1,200施設「ケアリンク」を創るまで

株式会社ケアリンク代表 根本 雅文氏
少子高齢化で人手不足が深刻化する介護・福祉業界。この構造課題に「特化型スポットワーク」で挑む株式会社ケアリンクは、開始2年で1,200施設導入、累計2.3億円を調達し急成長を遂げています。代表取締役の根本雅文さんは、元格闘家。アプリ開発も未経験だったと言います。
「技術や資金の不足」「巨大競合との差別化」「事業成長の壁」にどう立ち向かったのか。元格闘家が手探りで掴んだ事業立ち上げと資金調達の裏側に迫り、創業期の壁を突破するヒントを探ります。

株式会社ケアリンク代表 根本 雅文氏
根本 雅文(ねもと まさふみ)
株式会社ケアリンク 代表取締役

格闘技ジムの運営会社が手がける高齢者デイサービスで働きながら選手として活動。引退を機に、介護業界の人手不足を解決するべく、未経験からアプリ開発を学びエンジニアへ転身。フリーランスを経て法人を設立し、SES事業で得た利益を自社開発に投資しながら、介護・福祉業界特化の単発バイトマッチングサービス「ケアリンク」を立ち上げる。2026年6月までに累計2.3億円の資金調達を実施し、福祉から医療へと事業領域の拡大を目指している。

 
ケアリンクロゴ

格闘家からの転身。デイサービスで見た「人手不足」という現実

ーまずは株式会社ケアリンクの事業内容について教えてください。

根本:介護・福祉専門の単発バイトマッチングサービス「ケアリンク」の開発と運営を行っています。介護・福祉業界の深刻な人手不足と、単発バイトという働き方を掛け合わせたビジネスで、2年で導入施設数は1,200施設、登録ワーカー数1.3万人を突破しました。

ー根本さんはもともと格闘家として活動されていたそうですが、起業を決意するまでのキャリアについて教えてください。

根本:格闘技の選手をしながら、所属していたジムの会社が運営する高齢者デイサービスのスタッフとして働いていました。日中はデイサービスで働き、夕方から練習し、試合にも出るという生活を送っていたんです。
介護・福祉業界は人手不足が深刻で、デイサービスでも派遣人材を活用する場面が多くありました。しかし、なかなか即戦力にならない人が来てしまったり、契約期間が3ヶ月に縛られてしまったりと、課題も多くあったんです。自分の施設だけでなく、周囲の施設でも同じような状況が続いていて「介護に特化した形で人材を供給できるサービスがあれば、人手不足を解決できるのではないか」と考えるようになったのがサービス立ち上げの原点です。

「介護業界を変える」その一心で未経験からエンジニアへ。SESの利益を全額投じた自社開発

ーデイサービスとの出会いは、もともと格闘技を続けるための手段という側面が大きかったとのことですが、引退後もこの分野に全力で取り組もうと思われたのは、どんな思いがあったのでしょうか?

根本:格闘技引退後のキャリアはさまざまな選択肢がありました。例えば「デイサービスの継承」や「介護施設の立ち上げ」などですね。ですが、私自身一スタッフとして働く中で、介護業界全体を良くしていきたいと思う気持ちがあったんです。また「これからはアプリがメインの時代になる」という考えもあり、まずはエンジニアとしてモノを作れるようになりたいと思いました。

ー起業家になりたいという思いは、以前からおありだったのですか?

根本:ジムの社長の影響も大きいのですが、引退後サラリーマンとして働く中で「自分で舵を切って組織を作っていきたい」という思いが如実に自分の中に芽生えていきました。

ーアプリ開発は具体的にどのように学ばれたのですか?

根本:都内の受託開発会社に転職し、8〜9ヶ月ほど在籍しました。スキルはまだまだでしたが、プロジェクトマネージャーの動きや現場の進め方を間近で見て、開発の全体像を自分なりに掴むことができました。退職後は、まず半年間フリーランスとして活動し、その後法人を設立したという経緯です。

ーどんなお仕事をされていたのですか?

根本:いわゆるSESです。最初は三次請け、四次請けでも構わないと割り切り、とにかく「案件はないですか?」と聞いて回るところから始めました。エンジニアを欲しがっている会社は多いので、ありがたいことに仕事には困りませんでした。自分でコードを書きながら、地道に採用活動を続け、最初にエンジニアが一人加わったのは起業から8ヶ月ほど経ってからです。
そこから1年ほどでエンジニアが10名ほど集まり、資金の目処も立ってきたタイミングで自社開発に着手。SESの利益はすべて自社開発、つまりケアリンクに投じ、リリースまでは自己資金と融資だけでこぎつけました。

リリース半年で直面した資金の壁。エクイティ調達への決断

ーリリース後、事業転換のきっかけとなった出来事があれば教えてください。

根本:これまで自己資金のみで回していましたが、リリースから約半年で資金が底をつきました。ワーカーの集客や施設への営業のためにも、一気に資金を投じる必要があると感じ、本格的にエクイティ調達をスタートさせました。

ー調達時にはどんなことを意識されていましたか?

根本:アーリーフェーズでは、事業の伸びはもちろん、それ以上にファウンダーがどれだけ魅力的に映るかが重視されると感じています。投資家は起業家自身を見ていると思うので、自分がどれだけ熱量を持って取り組んでいるか、どんな思いでやっているかを理解してもらうことを意識していました。そのうえで、調達した資金でどこまでトラクションを伸ばせるかというロジックも合わせて伝え、想いに共感していただけるかを大切にしています。
現在は、複数のVCやエンジェル投資家の皆様にご出資いただいています。現在は、複数のVCやエンジェル投資家の皆様にご出資いただいています。今後のさらなる事業成長に向けて、次の資金調達も視野に入れています。

「単発バイト」が介護の課題を解決する?巨大競合がいても「特化型」で勝てるポジショニングの描き方

ー介護・福祉業界の人手不足は他の業界と比較しても深刻ですが、この課題の本質はどこにあるのでしょうか?

根本:ご存じの通り、日本は少子高齢化で人口が減少しており、介護をする側の人材も高齢化しています。毎年、介護の担い手となる人口自体が減っているという構造的な問題があります。
加えて、介護・福祉の現場では「人間関係のいざこざ」も大きな問題です。スタッフ間はもちろん、利用者さんとも距離の近い仕事だからこそ、人間関係を理由に転職を繰り返してしまったり、他業界に流れてしまったりする方も多いんです。「単発バイト」は、人間関係が固定されず、好きなタイミングで働けるため、介護・福祉業界との親和性が高いと考えています。

ケアリンクロゴ

ーケアリンクは一般的なスポットワークサービスと比べて、どのような独自性があると考えられますか?

根本:介護・福祉特化型のスポットワークサービスには有資格者を対象としたサービスもありますが、ケアリンクは有資格者だけでなく、未経験者も含めて施設のニーズに応じた募集ができる点が特徴です。
介護施設には、有資格者の人員配置基準と、施設全体の人員配置基準という二つの基準があります。有資格者が不足しているときは多少時給を上げてでも有資格者を呼びたい一方、充足しているときはなるべく時給を抑えて未経験者でも人を集めたいというニーズがあります。ケアリンクであれば、それぞれのニーズに合わせて利用いただけるんです。
加えて、介護業界はまだまだアナログな方が多く、ファックスを使う施設も少なくありません。そうした特性を踏まえ、ケアリンクはサポート体制を手厚くしています。チャットやフリーダイヤルによる有人サポートなど、施設の方が安心して利用できるサポート体制を整えています。しかもBotではなく人が対応するので、決まった質問にしか答えられないということもありません。

開始2年で導入1,200施設へ。その裏にある『泥臭い』営業活動

ー導入1,200施設、登録ワーカー1.3万人まで急成長されていますが、現場からの反響はいかがですか?

根本:「突発的に人手が足りなくなったときに助かった」「良いワーカーさんだったので、また呼びたい」といった声を多くいただいていますね。実際、月に6〜7回のペースで継続して働いてくださる方も多く、勤務上限の範囲内で常勤に近い形で働くワーカーさんも珍しくありません。

ー事業を伸ばしていく上での課題や、大切にされていることを教えてください。

根本:双方にとって「使いやすい」状態を維持することです。そのためには、ワーカーの集客と施設側の集客、その両輪を回していく必要があります。フェーズによって、ワーカーが足りない時期と、逆に求人が足りない時期が交互にやってきます。求人のマッチング率は75〜80%以上を維持しながら、求人数もワーカー数も増やし続けることが重要なんです。
直近では、施設側のアクティブ率をいかに高めるかが最重要課題になっています。各施設に担当者をつけ、定期的にフォローする体制を構築。「登録していたことを忘れていた」という施設様には状況を伺い「操作が面倒」といった施設様には、アカウント登録から求人テンプレートの作成、掲載までをすべて弊社側で対応。施設様側の手間をできるだけ減らすようにしています。

人材マッチングの先へ。介護・医療現場のDXを支える「バーティカルSaaS」への挑戦

ー今後は福祉だけでなく医療分野への展開も視野に入れているとのことですが、その理由を教えてください。

根本:福祉業界だけに留まるより、横展開できた方が市場規模が大きくなります。市場規模が大きくなれば、投資家の皆様にもそれだけの成長余地を見込んでいただけるので、資金調達もしやすくなります。加えて、介護・福祉だけでなく医療にも価値提供できれば、日本全体の人手不足という課題に対して、より大きな社会的意義を持って貢献できると考えています。

ー領域を広げるほど、他社サービスと競合する可能性も出てきそうですね。

根本:おっしゃる通り、被ってくる部分もあると思います。ただ、医療介護に特化しているからこそ、有資格者や特定業務の経験者を的確に呼べるという使い勝手の面で、バーティカル型ならではの価値を提供できると考えています。
さらに、将来的には人材マッチングのみならず、業務DX化サービスも展開していく方針です。例えば、介護報酬・診療報酬などの請求業務を支援するソフトの開発や、現場に残る手書き書類のDX化、介護用品のEC販売などですね。まだまだアナログな業界だからこそ、デジタルの力でさまざまな問題を解決できると思っています。

ーケアリンクを通じて、ワーカーの方々にはどのような働き方を提供したいとお考えですか。

根本:とにかく「働くこと」を楽しんでもらいたいと思っています。これまで強いられてきた人間関係のトラブルや身体的な負担を軽減できるサービスをこれからも提供し続けたいですね。
また、現場の職員とワーカーの間でトラブルが起きることもあるので、ワーカーが働きやすいよう施設側に注意を促したり、逆にキャンセルの多いワーカーには応募制限や利用停止といったペナルティ制度を設けたりと、双方が安心して利用できる環境づくりにも取り組んでいます。単にマッチングするだけのプラットフォームではなく、施設とワーカー双方の課題を改善していく、良い仲介役でありたいと思っています。

「逃げられない状況」を自ら作ることで、想像以上の力を発揮できる

ー社会課題の解決を掲げて事業をされる中で、大切にしている考え方や信念を教えてください。

根本:一緒に働くメンバーが働きやすい職場を作ることです。私自身、エンジニア時代やその前の会社員時代に、抑圧的な上司のもとで萎縮してしまった経験があります。そういう環境だと、思っていることを発言しにくくなってしまいますよね。しっかり議論ができる環境があれば、それがサービスの改善、ひいては社会課題の解決にもつながっていくと考えています。

ー最後に、これから起業を目指す方や、社会課題の解決に挑戦したい方へメッセージをお願いします。

自分が解決したい社会課題に「全身全霊で向き合える環境」を作ることが大切です。私は、自己資金を全額会社に投じていますし、融資には経営者保証もついています。それが立派と言われると決してそんなわけではありません。しかし、自ら逃げられない状況を作ることが、創業期には必要だと思っています。そうすることで自分自身が一番コミットできますし、その姿をメンバーに見てもらうことで、チーム全体のコミットメントにもつながっていると感じています。
また、判断に迷ったときこそ、原点に立ち返ってほしいです。「何のためにやっているのか」という理念やビジョンを思い返し、それを実現するためにはどんな判断が正しいのかを基準にすること。目の前のトラクションを伸ばすためだけの判断を重ねるより、そうした判断基準を持つことの方が、結果的に中長期的な成長にも、社会貢献にもつながっていくと思います。

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