ダイバーシティ経営成功のための3つの掟|Gengo CEOマシュー・ロメイン氏インタビュー

創業手帳
※このインタビュー内容は2016年10月に行われた取材時点のものです。

コミュニケーションへ投資し、家族のような絆を築く

(2016/09/30更新)

高品質な人力翻訳を提供するクラウド型サービス・Gengo®。ネットサービスの展開に伴い急激に増加する翻訳ニーズを満たすため、全世界の翻訳者が日夜活動しています。
このサービスの生みの親は、元ソニーの開発者・マシュー・ロメイン氏。世界中のコミュニケーションの壁を取り去ることを目指す株式会社Gengoは、半数以上が外国籍社員というダイバーシティ経営を行っている企業です。
今回は、今までにない翻訳プラットフォームを生み出したきっかけや、ダイバーシティ経営のメリット・デメリット、ダイバーシティ組織で注意すべきことについて伺いました。

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マシュー・ロメイン
スタンフォード大学を卒業後、ソニー株式会社に入社し、オーディオ関連のエンジニアとして勤務。退社後、ウェブ制作会社を立ち上げる。2008年にクラウド型の人力翻訳プラットフォームGengoを公開。2009年に株式会社Gengoを設立。

開発者なのに、翻訳の仕事が増えていったソニー時代

ーまず、マシューさんのご経歴を教えていただけますか。

マシュー:私はもともと、大学のときにはプログラミングやオーディオのことを勉強していたんです。その組み合わせでソニーに正社員として雇われて、アメリカで働いていました。そこで、日本に来ないかという形で日本に来ました。

当時は、オーディオ関係の研究をしていて、「石の上にも三年」と言われますが、そこで4年頑張りました。すると、ハワード・ストリンガーが会長に就任したころから、社内もほとんどバイリンガルが多くなって、本社には外国の人も増えていてきました。私もそこに呼ばれたんですけど、開発からちょっと離れて、なぜか翻訳の仕事が増えていったんです。開発者として雇われているはずなのに、なんで翻訳の仕事がこんなに多いんだと思って。

ーそれが、独立を志したきっかけになったのですか?

マシュー:そうですね。もちろん、翻訳に携わる中で良い経験もたくさんありました。でも、それと同時に、世の中にはFacebookやmixi、Twitterなど、いろいろなSNS系のサービスが生まれてきたんです。あと、AmazonのMechanical Turkとか、大手が作るクラウドソーシングのサービスが登場して、自分ももっとWeb関係をやってみたいと思って、独立しました。

ー独立してすぐは、どんな事業をされていたんですか?

マシュー:最初は、「株式会社マジです」というウェブ制作会社を設立しました。いろんなアイデアを試しましたが、その時にも、翻訳の仕事を周りに頼まれることがありました。それで、「もっと上手く、ウェブでつながっている人を使って、クラウドソーシングで翻訳を提供できないのか」ということを考え始めたんです。これが、Gengoに繋がったんですよ。

そこで翻訳サービスを立ち上げて日本人にもおもしろいと思われる名前は何かな…と考えだしたのが「myGengo」でした。最初は「myGengo」という名前だったんです。マイブームとか、マイ箸とかをイメージしてつけました。

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個人から大手への転換、APIの導入が転機

ーGengoは、最初から今のようなサービスだったんですか?

マシュー:一番最初のバージョンは「ウェブで誰でも翻訳の依頼ができる」という仕組みで、トップページそのものがオーダーフォームを担っていました。「そこからすぐ依頼できる」というインターフェイスから始まったんです。

ーそこから、サービスの形を変えていくに至っては、どのようなきっかけがあったのでしょうか。

マシュー:お客様の使い方を見ているうちに、翻訳依頼をもっと楽にできないか、わざわざmygengo.comに来なくても翻訳を依頼できないのかと考えたときに、APIのアイデアを思いつきました。APIとは、簡単に言うと、どこにでも翻訳を依頼できる技術のこと。例えば、WordPressのプラグインとか、そういったコネクションを作るための技術なので、その開発を進めました。

すると、お客様は徐々に個人ユーザーから大手企業に変わってきたんですよ。それで今は、エンタープライズ向けのお客様がメインです。

ービジネス向けにシフトしたのは、そのほうが利益を拡大できるからですか?

マシュー:利益というか、ボリュームとスケーラビリティですね。あと、もう1つ言えるのは、弊社で得意なコンテンツが、10年前には存在しなかったということ。というのも、Amazonとかトリップアドバイザーとかのプラットフォームのおかげで、この10年の間に口コミや商品説明など、短い、一般用語が入ったコンテンツが断然増えてきたからです。そのプラットフォームを活用するのはエンタープライズですから。そういうプラットフォームを、スケーラブルにグローバル化するために、Gengoの必要性が増してきたんです。

クラウドソーシングにおける2つの戦略

ー今はランサーズなどのクラウドソーシングサイトでも翻訳することはできますよね。差別化はどうされたんですか?

マシュー:クラウドソーシングには、2つの戦略があると思っています。クラウドソーシングに限らず、他のビジネスもそうだと思うんですけど、「最初に薄く広くから始まる」か、「フォーカスして深く始まるか」。例えば、Googleは検索1本のサービスとして始まりましたし、Facebookはまず大学のみから広がっていきました。

そういう戦略を見ていて、私も「翻訳だけにフォーカスしたクラウドソーシングモデルから始めよう」という選択をしたんです。どちらも良い戦略ですが、弊社としてはまず、翻訳に深くフォーカスしてから、将来的には翻訳以外のクラウドソーシングも視野に入れているという感じです。

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合格率5%のテストで、翻訳者の質を担保

ーGengoのサービスモデルは、翻訳者とユーザー(お客様)のマッチングですが、その場合、翻訳者の集客と質の担保が重要になるのではと思います。サービス立ち上げ当初は、どうされていたんですか?

マシュー:一番最初は、まず本当に翻訳できるかどうかを確かめるテストを受けてもらっていました。元の文章を読んで、それを翻訳する単純なテストです。それを信頼している翻訳者の方に評価してもらって、合格レベルであればGengoの翻訳者になれるというわけです。

ーただ、翻訳者もどんどん数が増えてきますよね。

マシュー:はい。翻訳者もスケーラブルに増やさないといけなくなるので、普通の翻訳のテストの前に、複数選択式のテストを入れました。5つのなかから正しいものを選ぶというような。この方法で、自動的に評価することができ、スケーラブルに翻訳者を増やすことに成功しました。

今は、Gengoの翻訳者になるための2つのテストに合格した後に、最初の翻訳案件がシニアトランスレーターに評価される制度を取っています。案件自体も抜き打ちテスト的にチェックしていて、もちろん全てOKなのが前提ですが、だめだった場合は、もう一度テストを受けてもらうこともありましたし、アカウントを停止にすることもありました。

最初はこんなことやっていなかったんですけど、数が増えてくるとメンテナンスをちゃんとする必要がありますよね。スケーラブルに改善していく中で、こういう仕組みが生まれてきました。

ーどのくらいの人がテストには合格されるんですか?

マシュー:まず、トランスレーターになるためには、全員が選択型と筆記の2つのテストに合格しなければなりません。合格率は、約5%くらいですね。多くの人にテストは受けていただいていますが、結構狭き門ですね。そこで、きちんとクオリティを担保しています。

ーその他に、質を担保するために取り入れていることはありますか?

マシュー:あと、約70名のシニアトランスレーターという人に、約2万人のトランスレーターのクオリティチェックをやってもらっています。翻訳にあたっては、日英、ロシア語英語など、言語によってニュアンスが非常に重要です。そこで各言語ペアになってテストをしているのですが、シニアトランスレーターにはその管理をお願いしたり、先程話した抜き打ちチェックをしてもらっています。

ーちなみに、トランスレーターの方はどのくらい稼いでいるんですか?

マシュー:2015年には、一番多かった人で450万くらいですね。これは年間の額ですから、日本人にとっては、年収450万円はちょっと少ないと感じるかもしれません。でも、所得が低い国にとっては、かなりの大金ですよね。

多様な経験を認めるのが「ダイバーシティ」

ー次は、Gengo自体についてお伺いさせてください。Gengoのミッションは何ですか?

マシュー「Communicate freely.」ですね。言葉の壁をなくしたいということです。

ーそういった世界観を目指しているので、組織自体も多国籍なんですね。50%が外国籍の方とお聞きしていますが、ダイバーシティ経営のメリットとデメリットを教えてください。

マシュー:まず、メリットはいろんな経験が集まるということですね。特に、弊社のようなグローバルな会社を運営していると、世界各地の経験が集まることで、1ヶ所にいても、できるだけ広く、多様なカルチャーやサービスに対応できますから。

あと、アイデア自体は経験から生まれるものですから、カルチャーのダイバーシティと、経験のダイバーシティと、考え方のダイバーシティと、それぞれが人生で成長したダイバーシティと、それらが生きていますね。会社にもよりますが、できる限り同じ大学卒の人を集めるというやり方もあるんですが、弊社では大学卒業していない人もいます。いろんな違う経験があるのが良いことだという考えが、ダイバーシティだと考えています。

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口は1つで、耳は2つ。2倍の力で話を聴く。

ー逆にダイバーシティのデメリットはなんですか?

マシュー:コミュニケーションとアイデア交換がときに難しいことでしょうか。全然違う経験をしている人の意見を聞くと、「なんでそんなことを言い出すのかな」と相手の考え方が分かりにくくなる場合もあるんです。聞き間違えたり、理解に齟齬があったりすると、たまにぶつかったりもしてしまいます。

ダイバーシティ経営の掟①「相手の本音を引き出す」

ーそんなとき、どんなふうに解決されているんですか?

マシュー:ダイバーシティな経営をするポイントを紹介します。まず1つは「相手の本音を引き出すこと」。落ち着いて相手の本音を引っ張り出して、コミュニケーションをすることが何より大事です。考えながら聞いていると、最終的にスムーズに問題を解決できるなと思っています。

ー日本企業でも、本当に伝わらないことってよくありますもんね。

マシュー:今の日本では、単に外国人の社員を雇っただけで「ダイバーシティ経営」と言われることが多いですよね。でも、そういうことではなくて、国籍が違うのは当たり前で、さらに性別や宗教、経験が違うのがダイバーシティ。

ダイバーシティ経営の掟②「辛抱強く聴く」

ー他にポイントはあるのでしょうか。

マシュー:2つ目に、「辛抱強く聴くこと」。相手の思いを汲み取るには、辛抱強く聴くことが重要。
考え方が違うことでイノベーションが促進されやすいのですが、相手の気持ちを考えて意見を言わないと、すぐに食い違ってしまいます。お互いの辛抱強さが試されますよね。

ダイバーシティ経営の掟③「スムーズに解決する」

ーなるほど。では、ムダな衝突が生まれないように、何か工夫はされていますか?

マシュー:生まれないようにというよりも、衝突が生まれたときに”どうスムーズに解決するのか”という方に重きをおいています。衝突は、ゼロにはならないと思いますから。

ときどき私が言うのは、「人に耳が2つと口が1つあるのは、2倍の力で聞くことがとても重要だから」ということなんです。これを頭に入れておけば、常に相手が何を伝えたいのかを考えるということができますよね。

ーなるほど。会社としては、どんなことに気をつけておられますか?

マシュー:結構小さい会社ですから、間違った人を採用してしまうと、その1人が組織に悪影響を与えてしまうということがあります。だから、私たちの会社に合っているような人を採用することと、違う部署の人ともコミュニケーションを取りやすい環境を作るということを行っています。

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コミュニケーションへの投資が仕事の成功を生む

ー社内のコミュニケーションを活性化するために、行っている試みがあれば教えてください。

マシュー「GENGOMG (Gengo Oh My God)」と言って、毎月2回〜3回、ゲストスピーカーを呼んで話を聞く機会を設けています。例えば、ブルーボトルコーヒーのCFOとか、ITジャーナリストの方とか。要は、シリコンバレーから日本に来る方たちです。みんなシリコンバレーでどういうことをやっているのか知りたいという気持ちはあるのですが、全員行くわけにはいきませんから、ゲストの方にストーリーをシェアしていただく場を作ることが重要だと思っているんです。

そこでは、食事をしながら、社外の人も、社員も、自分の趣味のことなどを気楽に発表しています。あまりシリアスな雰囲気ではなくて、オフでの趣味を語ることでそれぞれの人となりが分かってくるんですよね。例えば、今は少なくとも3〜4人はコーヒー通なんです。だから、今はコーヒーをテーマにして、コーヒー業界の方を呼んで市場情報をシェアしてもらっています。

ー他に、社内で取り入れられている制度はありますか?

マシュー:毎週金曜日の17時ごろには、スナックやビールを準備して交流できる場を作っています。メインは、自分と違う職場の人と話し合える場を作るということですね。もちろんみんな忙しいんですけど、一人で仕事をしていたら「自分だけが仕事が難しくて、忙しい」と思ってしまいます。

私たちのようなビジネスだと、開発と営業とプロジェクトマネジメントと、それぞれの部署にコネクションがありますから、上手く相談しつつやり取りを進める必要があります。そんなときに、相手の人柄がわかっていたほうが、やり取りや相談がスムーズですよね。そのためには、仕事以外の時間にどんなことをやっているのかを知るのがとても重要だと思うんです。

ーなるほど。仕事上の交流だけではなく、人柄が分かるようなコミュニケーションの場が大切ということですね。

マシュー:国籍や文化や性別が違うと、伝え方も変わります。例えば、この人はダイレクトに言ってほしいのか、間接的に伝えてほしいのかというのは大きな差がありますから。コミュニケーションを取らないと距離感が掴めません。だから、GENGOMGもそうですし、イベントを開いています。

ー社内イベントをたくさん企画されているんですか?

マシュー:4半期ごとに、家族も呼んで行っています。前回はバーベキューと宝探し。社員をグループに分けて、半日宝探しして、最終ゴールがバーベキューとか、そういうことはすごく重要ですね。

大手企業のような福利厚生があるわけではありませんが、小さい会社だからこそ、家族のように接することができる場を作ろうとしています。

ーベンチャー企業さんにインタビューをすると、伸びているところはコミュニケーションに投資しているところが多いなという印象があります。

マシュー:そうですね。人生の1/3は仕事に費やすので、仕事が辛いとやっていくのが大変でしょうね。

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(取材協力:株式会社Gengo/マシュー・ロメイン
(編集:創業手帳編集部)

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