New Innovations 山田 奨|日本のものづくりを、AIとロボットで変える

※このインタビュー内容は2026年04月に行われた取材時点のものです。

泥臭い現場主義が導き出したAIロボティクスの社会実装


人手不足と人件費の高騰が深刻化する中、飲食・小売・宿泊といった労働集約型産業の現場を変えようとしているのが株式会社New Innovations です。

共同代表を務める山田奨さんは、10代で起業を経験し、AI特化ファンドでの投資支援を経て2019年に同社へ参画。累計85.6億円超の資金調達を実現しながら、日本のものづくりの強みを活かした省人化に挑んでいます。

飲食・小売・宿泊の3領域を軸に、リアルな現場をテクノロジーで最適化する「OMO(※1)」の最前線と、起業家が持つべき「圧倒的な現場感」の重要性についてお話を伺いました。

※1 OMO:「Online Merges with Offline」の略。ネット(オンライン)と実店舗(オフライン)の垣根をなくし、顧客体験を向上させる設計のこと。

山田 奨(やまだ つとむ)株式会社New Innovations 代表取締役 Co-CEO
2社を創業後、ソフトバンクグループ傘下のAI・DeepTech特化ファンドDEEPCOREにて、AI・Robotics・IoT領域のスタートアップ支援に従事。New Innovations にて取締役 COO、取締役 COO 兼 CFOを経て、代表取締役 Co-CEO(現任)を務める。

AI投資支援の現場で確信した「日本が世界で勝てる領域」とは

ーまず、山田さんのこれまでの歩みについて教えてください。

山田:中高生の頃から、デザインなどのクリエイティブ制作や電子機器の貿易など、いくつかの事業を立ち上げていました。「安く仕入れて付加価値を付けて売る」という商売の基本を、10代のうちに実体験として学べたのは非常に大きかったです。

ただ、事業を続けるうちに「この活動は、本当に社会を良くしているのだろうか」という疑問が湧いてきました。対価をいただき、お客様に喜んでもらう手応えはありましたが、もっと多くの人の役に立ち、社会に大きなインパクトを与える仕事がしたいと考えるようになったんです。

もともとテクノロジーへの関心が強かったこともあり、次第に最新技術を使って社会課題を解決する領域へと目が向くようになりました。

ーその気づきが、AI特化ファンド「DEEPCORE」での活動につながるのですね。

山田:はい。DEEPCOREはソフトバンクグループ傘下の、AI(人工知能)などの最先端技術に特化した投資ファンドです。私が参画した2018年当時は「第3次AIブーム」の真っ只中で、大学の研究室発のスタートアップが次々と誕生していました。私はそこで、多くのAIスタートアップを支援する側に回ったんです。

数多くの起業家を間近で見ながら、私はある確信を持ちました。それは「日本がアプリやWebサービス(ソフトウェア)だけで世界に勝つのは、非常にハードルが高い」ということです。

一方で、日本には世界に誇れる「精密なものづくり(ハードウェア)」の伝統と技術があります。さらに、日本は世界で最も早く「少子高齢化による人手不足」に直面する課題先進国です。

「日本の強みであるハードウェア」と「最新のAI」を掛け合わせれば、これらの課題を解決して世界に打って出られる。そう考え、現場の課題を物理的に解決する「ロボット・ハードウェア」の道を選びました。

単なる導入で終わらない「現場から人を減らす」支援

ーその後、New Innovations へ参画されますが、どのような経緯だったのでしょうか。

山田:共同代表の中尾(現CEO兼CTO)との出会いがきっかけです。当時、彼は1人で起業したばかりで、まだ製品(プロダクト)も何もない状態でした。しかし、彼はエンジニアでありながら「その技術は本当にお客さんの役に立つか」「商売として成り立つか」という経営者視点を強く持っていたんです。

技術を過信せず、徹底して現場の課題に向き合う彼の姿勢を見て、私が抱いていた「日本のものづくりで社会課題を解決したい」という理想を実現できるのはここだと確信し、2019年に参画を決めました。

現在は、主に飲食・小売・宿泊の3業界を中心に、AIを活用した「省人化ソリューション」を提供しています。

ー「省人化」とは、具体的にどのようなアプローチなのでしょうか。

山田:私たちの最大の特徴は、単にロボットやシステムを販売して終わりではない、という点です。お客様である企業の「人件費を削減したい」「採用難を解決したい」という切実な悩みに対し、「現場からスタッフを1人減らせる状態」をつくるまで徹底的に伴走します。

たとえば現在、日本の最低賃金は年々上昇しており、2024年度には全国平均が1,000円を超え、今後数年でさらに上昇すると予測されています。人件費が高騰する中で利益を出すには、業務を効率化して「必要な人数」そのものを減らさなければなりません。

私たちはまず、お客様の店舗の動きを細かく分析します。「この作業を自動化すれば0.3人分の工数が浮く」「このシステムで0.7人分浮く」といった具合にパズルを組み立て、合計で「1人分」の削減を実現する。そこまで踏み込んでコンサルティングを行い、自社で開発した最適なプロダクトを導入する。この「現場に深く入り込む姿勢」こそが、スターバックス様やモスバーガー様といった大手チェーンから信頼をいただいている理由です。

「自分が一番詳しい」と言い切れるまで、机上の空論を捨てろ

ー創業期において特に苦労されたことは何でしょうか。

山田:一番の難関は、前例のない多角的なビジネスにおいて、自分たちで正解を作り続けなければならなかったことですね。

当時はまだ5〜6人の少人数組織でしたが、取り組んでいる領域は「飲食・ハードウェア・ソフトウェア」と、本来なら全く別々の専門知識を要する分野が重なり合っていました。各分野の専門部署があるわけではないので、一人ひとりが複数の領域を兼務しながら、誰も答えを持っていない課題に同時並行で立ち向かう必要があったんです。

私自身、前職では投資ファンドで企業を支援する側にいましたが、いざ自分が事業を運営する立場になると、投資家の視点だけでは見えないことがたくさんあると知りました。要するに、自分の作りたいものを作ればいいのではなく、現場の数百円の売上がどのように事業全体の大きな利益に繋がっていくのか、その道筋を自分の頭と足を使って考え抜くことが重要だと痛感しましたね。

ー具体的にはどのようにしてその道筋を見つけ出していったのでしょうか。

山田:たとえば、自前で中古のコーヒーマシンを調達してバラバラに分解し、機械の構造を徹底的に調べたり、メーカーさんの工場を見学させてもらったり。毎日店舗に張り付いて、どんなお客さまがいくらの商品を買っていくのかをずっと観察し続けたりもしました。とにかく、自分がその領域で一番詳しいと言い切れるまでとことん突き詰めました

いくら素晴らしい機械ができても、それが売上に繋がらなければ意味がありません。「お客様はなぜそれを買うのか」「それをどうやって収益に変えるのか」という生々しい問いの答えは、AIに聞いても正しい答えは教えてくれません。

「AIロボティクス事業」と聞くとパソコンの前で完結するようなスマートなイメージを持たれるかもしれませんが、実際には現場を泥臭く駆け回り、一次情報を自分の目で見て考え抜いた、地道なスタートでした。

失敗は「答え」を教えてくれる。現場で突きつけられた「数字」は嘘をつかない

ー最初のプロダクトである、AI搭載のスマートコーヒースタンド「root C」はどのように展開していったのですか。

山田:最初は大手鉄道会社や不動産会社との実証実験から始まりました。当時は精密機械を設置できる専門業者もいなかったので、自分たちでハイエース2台を運転し、徹夜で機材を運んで組み立てたこともあります。文字通り「手作り」のスタートでした。

しかし、いざ設置してみると大きな壁にぶつかりました。当初「root C」はスマホアプリからしか注文できない仕組みだったのですが、実際の利用率はわずか9%。ほとんどの方は、アプリを使ってくれなかったんです。

ー「便利になればみんな使う」とはいかなかったのですね。

山田:そこが一番の誤算でした。IT業界の人間は「アプリの方が効率的で便利だ」と考えがちですが、一般のお客様にとっては「アプリを入れる手間」や「スマホの容量不足」の方が大きな壁だったんです。

「消費者は必ずしも合理的には動かない」というこの失敗から学び、すぐにPayPayなどのQRコード決済や、クレジットカードのタッチ決済など、アプリなしでもその場で買える機能を次々と追加しました。

ー「ハードウェアとソフトウェアの両方」を自社で持っている強みが、そこで活きたのでしょうか。

山田:まさにそうです。たとえば、自動販売機の中身を動かす「制御ソフト」と、お客様が触れる「決済画面」は、本来別々の技術領域です。この両方を一社で開発できる会社は、実は世界的に見ても多くありません。

私たちはハードとソフトの両方に精通しているからこそ、現場で見つけた「アプリは面倒」という課題に対し、物理的な機械の動作からアプリの画面までを一体でスピーディーに改善できました。失敗したら、現場を観察してすぐに改善する。 この改善サイクルを回し続けたことが、今も私たちを支えています。

累計85.6億円の調達。共同代表で描く「次世代メーカー」への未来図

ー現在、山田さんと中尾さんの共同代表体制(※2)をとられていますが、その理由を教えてください。

山田:New Innovationsは現在、大きく分けて3つの顔を持つ会社です。まず1つ目が、メーカーとして自動調理器などの「ハードウェア」をつくる機能。2つ目が、AIとロボットを用いて現場の「オペレーション」自体を効率化する機能。そして3つ目が、製造業全体に向けて「熟練の知恵」をデジタルで継承するシステムを提供する機能です。

これらは本来、別々の会社が担うほど専門性が高い領域です。そのため、技術に強い中尾と、経営・ビジネスに強みを持つ私が役割を分担することで、意思決定の精度とスピードを最大化しています。

ー資金調達も順調に進んでいますね。2025年にはシリーズB(※3)も完了したと伺いました。

山田:はい。おかげさまで累計調達額は85億円を超えました。ハードウェアを伴う事業は、ソフトウェアのみの事業に比べて研究開発や製造に多額の資金を必要とします。この大きな金額は、私たちのビジョンだけでなく、これまでの現場での実績を評価していただいた結果だと受け止めています。

ー製造業向けの事業である「AI図面管理システム(図面バンク)」についても、詳しく伺えますか。

山田:日本の製造業には、熟練技術者のノウハウが失われていく「知の継承」という大きな課題があります。例えば、ある部品の配置が決まった背景には、図面には書ききれない職人の意図や試行錯誤があります。しかし、それらは個人の経験の中に留まり、世代交代とともに消えてしまいがちです。

私たちが省人化ソリューションを作れるのも、日本の素晴らしいサプライヤー(部品供給メーカー)の方々がいてこそです。自分たちの製品を作るだけでなく、日本の製造業そのものを強くする仕組みを提供することで、産業全体に恩返しをしたいという思いからこの事業を続けています。

※2 共同代表体制:複数の人間が代表権を持ち、対等な立場で経営を行う形態。
※3 シリーズB:スタートアップの投資段階(ラウンド)の一つ。事業が軌道に乗り、さらに成長を加速させるための資金調達フェーズを指す。

答えは現場にある。AI時代だからこそ、自分の足で「正解」を創り出そう

ー今後の目標について教えてください。

山田:まずは、飲食・小売・宿泊といった現場の「省人化」を本当の意味で前進させることです。単に珍しいロボットを作るのではなく、「導入して本当に人手不足が解消されたか」という結果にこだわり、定量的な数字で効果を証明し続けていきたいですね。今後は宿泊業界への展開も加速させ、より多くの現場を支えていく予定です。

ー最後に、これから起業を目指す方へメッセージをお願いします。

山田:まず大切にしてほしいのは、自分が本当に好きなこと、興味があることで起業するという点です。動機は「お金持ちになりたい」でも「有名になりたい」でも何でも構いません。ただ、困難に直面したときに最後の一歩を踏み出せるのは、やはりその領域が好きでたまらないという熱意なんです。

そして、一度始めたら行動を止めないこと。行き詰まったら知人に相談する、公的な窓口に電話してみるなど、無料でできることは山ほどあります。

今の時代、AIを使えば一定の知識は手に入ります。しかし、現場でのお客様の細かな表情や、店員さんのちょっとした不便さといった「生の情報」は、現場に足を運ばなければ決して手に入りません答えは常に現場にあると信じて、自分の目と頭を使って動き続けてください。その泥臭い積み重ねが、いつかあなただけの強力な差別化ポイントになるはずです。

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