LeapMind 松田総一|海外企業に負けない最先端のディープラーニングシステム
グローバル社会で勝負!機械学習ビジネスで社会課題を解決する
ディープラーニングとは、人間が自然に行っている識別や予測などのタスクをコンピューターに学習させる機械学習技術のひとつです。
創業10年目を迎えるLeapMind(リープマインド)は、超低消費電力AI推論アクセラレータIP Efficieraとディープラーニングモデルの開発を主な事業として運営しています。
代表取締役を務める松田さんは、機械学習を使った人材マッチングサービスで起業した後、同社を設立しました。
松田さんが起業された経緯やディープラーニングの可能性とは?創業手帳代表の大久保がインタビューしました。
LeapMind株式会社 取締役 CEO
2011年にエンジニアのスキルを可視化・マッチングするサービスを立ち上げシンガポール進出をし、同事業を事業譲渡。その後、ディープラーニング技術を「コンパクトに、シンプルに」することで誰でも簡単に使えるプラットフォームを作り、複雑で煩雑な先端技術を社会に還元させ、世の中を一歩先に進めるためにLeapMindを設立。
創業手帳株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。
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この記事の目次
ディープラーニングの実用化を目指して起業
大久保:まずは起業までの経緯についてお聞かせ願えますか。
松田:大学卒業後に証券会社に勤務した後、機械学習で企業とエンジニアをマッチングする会社を設立しました。当時から機械学習をベースとしたビジネスを行っていたため、派生して現在につながっています。
LeapMindを立ち上げたのは、2012年に開催された画像認識コンペティションで、実用化が見込めそうなディープラーニングを発見したことがきっかけです。
インターネットが実用化され、普及していった当時と似たような衝撃を受けたんですね。「この技術で実用化を目指せば、次世代デバイスが作れるのではないか?」と考え、ディープラーニングの社会実装を目指して設立しました。
大久保:起業2社目ということは、創業前後もスムーズでしたか?
松田:いえいえ、まったく違いましたね(笑)。1社目は自己資金だけで運営していたのですが、LeapMindは当初からベンチャーキャピタルの投資を受けています。あらゆる面で1社目とは異なる経験が多いです。
大久保:確かに投資家が入ることでの難しさはありますよね。松田さんはご自身の軸を、経営者・ディープラーニングの専門家・エンジニアのどこに置いていますか。
松田:必然的に全部です。論文からサーベイ、実装、営業、労務、総務とすべて一通りできるようにしています。
最近では徐々に人員が増えてきて、少しずつ分担できるようになってきました。ただ、今度は新たなマネジメント業務が増えてきているんですね。試行錯誤の連続で良い経験をしています。
大久保:攻殻機動隊やエヴァンゲリオンに憧れているというお話を伺ったのですが、なかなかすぐにあの世界にはいかないですよね(笑)。
松田:ガンダムもそうですが、僕の世代はど真ん中でしたので(笑)。憧れてはいるものの、まだまだ遠いですね。
Googleらと競合しながら打ち勝つ醍醐味
大久保:AI業界におけるLeapMindの立ち位置と製品についてお聞かせください。
松田:製品の中で完結する組込みディープラーニングやAIアクセラレータの開発・販売を行っているため、ハードウェアに非常に近い位置にいます。
AIアクセラレータは、ディープラーニングの計算に特化させたAIチップです。CPUを使用せずアクセラレータに計算を任せ、システムのスループット(単位時間あたりに処理できる量)を向上させる目的で作られており、LeapMindはこのアクセラレータ用の設計回路をIPとして提供しています。
例えば、時速150キロの制限がある車をさらに加速させるためには、一般的に大きなエンジンを積んだり燃料を変えるなど、あらゆるものを乗せ替える必要がありますよね。それを1つの部品を入れるだけで可能にしてしまう。バットマン専用車のバットモービルはボタンを押すだけで加速しますが、あのボタンの役割を果たしているのがアクセラレータです。
大久保:エンジンに触媒を搭載するといったイメージなんですね。競合他社は国内と海外、どちらが多いですか。
松田:競合するのはアメリカのGoogleやAmbarella、Gyrfalcon Technology、イスラエルのCEVAです。国内で実用的なディープラーニングモデルやアクセラレータが作れるのは、弊社以外にありません。日本企業へ売り込みに行っても、この2、3社とコンペになります。
大久保:販売先はメーカーですか?
松田:はい。車やデジタルカメラ、テレビといったコンシューマーエレクトロニクスの製造メーカーが顧客になります。
苦労した創業期の励みは応援してくれる存在
大久保:起業後はご苦労される時期があると思うのですが、松田さんは創業から現在までの10年間でどの時期が大変でしたか?
松田:2つあるのですが、1つ目は2014年から2015年頃です。誰もまともに話を聞いてくれない時代でしたので、売上的に厳しい時期でした。
当時は「ニューラルネットワークとはどういうものなのか?」というところから説明しないといけなかったため、商談も1時間では話が進まないことが多かったです。
まず「そんなことできるわけがない」といった感じで返され、「いえ、できるんですよ」と実際にお見せする。そうすると「じゃあ、それって何に使えるの?」というような疑問を投げかけられる。その連続でしたね。
売上が伸びない中でGPU計算機も高価だったので、ジャンク品を集めて組み立てる作業までやっていました。ただ、その状況も含めて楽しかった時期でもあります。
2つ目は、2017年にインテルキャピタルから資金調達を受ける前の時期です。
管理部長と2人で、インテルの100名ほどの弁護士と折衝する毎日を送ったのですが、夜中の2時半くらいに電話会議が入るなど、1ヶ月間くらい家に帰れない状況で奮闘しました。
日本・香港・サンノゼでやりとりしていたため、時差がある中でまとめていかなければならない。海外渡航も多かった時期でしたので、精神的にも肉体的にもきつかったです。
大久保:ご苦労された当時と比べると、現在はハードウェアも良くなっていますよね。
松田:はい、環境が改善されています。インフラのコストもかなり安くなってきましたし、クラウドも使いやすくなりました。機械学習を使ったデバイスの社会的認知度が上がったことも大きいですね。
大久保:大変な反面、他人がそっぽを向いている時期に、自分しか知らない宝の山を見つけて取り組んでいるワクワク感もあったのではないでしょうか。
松田:ありましたね。無邪気に没頭できた時代でもあったというか。
そんな時期に応援してくださる方がいらっしゃったことも嬉しかったです。LeapMindの最初の大型契約は、大手企業の上層部の方が気に入ってくださってご契約いただいたんですね。誰も見向きもしてくれない時代に、見てくださる方もいる。非常に励みになりました。
次世代デバイスの普及とともに課題を克服
大久保:今後の業界や関連分野はどうなっていくのか、松田さんの率直な本音をお聞かせください。
松田:次世代デバイスが普及してくると思います。現在でも自動運転機能付きの車や、暗闇でも綺麗に撮影できるカメラ付きのスマートフォンがありますが、さらに便利な機能が付くのではないかなと。ARグラスやVRヘッドセットももっと進化するはずです。
そうなると、消費電力が重要なキーワードになるんですね。顔や手など体に装着するデバイスに関しては、発熱やバッテリーの問題が課題です。
ディープラーニングと消費電力は相性が悪いのですが、なんとか乗り越えなくてはいけない。今後の次世代デバイスの普及により、一般的な課題になっていくのではないかと思っています。
大久保:その中でLeapMindとしてはネットサービスなどの展開は考えず、アクセラレータを極めていく方針でしょうか。
松田:ネットサービスはすでに飽和していますので考えていません。可能性として、チップを作ってメーカーに販売していく方向性は検討しています。
大久保:先ほど国内のこの領域ではLeapMindのみという優位性をお話いただきましたが、そういうメーカーが国内に1社あるというのは日本の強みになるとお考えですか?
松田:日本はメーカーの製造力が弱まっています。そのため基本的には、より安く、より性能が良ければ、日本メーカーだろうが海外メーカーだろうが関係ない状況です。
日本人同士の行間を読むコミュニケーションは有利に働くとは思いますが、競争上ではそれほどプラスにはならないですね。
大久保:サービスも含めて、すべてグローバルで考えたほうが現実的ということですね。
松田:そうですね。弊社も日本メーカーを中心にした取引というより、台湾や北米カナダのメーカーのほうが話は早いです。
大久保:LeapMindとしての課題をお聞かせください。
松田:採用です。優秀なエンジニアの確保が難しいため、グローバルでの採用力を高めていく必要性を痛感しています。現在、社員の2割〜3割が外国籍なのですが、さらに増やしていきたいです。
世界で戦える日本企業を増やすために望むこと
大久保:開発・生産の現場にいるひとりとして、「日本はもっとこうあるべきだ」という思いがあればお聞かせください。
松田:国と民間企業の連携と、投資力の強化をしてほしいと思っています。
現在、NEDOと東大と弊社を含めた民間企業の産官学でAIチッププロジェクトを進めているのですが、資金投入度が低いのがネックです。また、社会実装を念頭に置いているかいないかの違いなどもあるんですね。プロジェクトで終わってしまうのではなく、いかに得られた成果を社会で使っていくかまでを考えたほうが日本の国益にもプラスになると感じています。
絶対的な投資量が足りない事例でわかりやすいのが、熊本に台湾の半導体工場を3000億円で誘致しようとしているのに対し、インテルが1兆5000億円を投入して半導体工場を作っていること。国の投資金額が民間企業1社の5分の1ですよ?もうお話にならないわけです(笑)。
こうした事例が山ほどあり、結果として世界のグローバル競争では追い抜かれ、勝てそうなのは自動車くらいしかない状況に陥っている。これは非常にまずいです。
産官学連携の強化や、国としての重点投資項目にきちんとお金を入れるなど、国策は重要だと痛感しています。もっとグローバルで戦える企業を増やしていかないといけません。
世界市場での勝負で重視するのは製品力
大久保:世界市場で戦うために重視していることをお聞かせください。
松田:製品力です。アプリなどのサービス系はアメリカと中国がすでに独占しているため、勝ち目はありません。だから他にはない製品が必要なんですね。
海外企業と取引する上でわかったことは、ベンチマークしている競合よりも製品力と品質を担保できれば採用してもらえるということです。政治力など一切関係ありません。海外展開をするためには、やはり製品力を高めていくことが重要だと思います。
大久保:日本以上に実力主義でフェアに入れるわけですね。
松田:はい。きちんとした製品を持っていけば、日本企業との商談より早い段階で導入してもらえる事例もあります。
大久保:海外製品と比較したとき、日本は相対的にこの分野がいけるのではないか?というところをお聞かせください。
松田:弊社が挑戦している組込み機器の分野は強みがあると思っています。地味なのですが、日本企業として高品質を担保できる世界だからです。
日本は汎用品より、特化した組込みの領域が得意な傾向があります。車でもモーターやワイヤー、電気自動車のインバーターといった組込み部品の製造に強いですからね。
AIのような全般的な分野は、物量的にアメリカや中国に分がありますから、その中のどこの領域を取りにいくのか?を考えたほうがいいです。競合が少ないところを狙って尖らせていく方向性ですね。
大久保:なるほど。新型コロナウイルス感染拡大前にイスラエルに遊びに行ったのですが、小さい国ながら尖った企業が多いですよね。
松田:はい。イスラエルは軍事利用を前提として社会実装していますので、多くの先端技術を生み出しています。
大久保:社会実装というのはひとつの鍵なのでしょうか?
松田:やはり技術は使われてなんぼで、使われなければ意味がないと思っています。
先ほどの東大の話で言うと、研究所で基礎研究だけを行うのではなく、民生用に使うことで技術が伸びていくんですね。不確定な世の中に出したときに、どういう反応があって、どんなふうに改善ループを回していくか?と試行錯誤しながら改良して品質を上げていく。このプロセスが最も大事です。
その点、イスラエルは軍事利用前提での開発ですので、すぐに実装されて実験できるんですね。プロセスのスピードが非常に早いため、比例して良い製品ができるのも早いです。
自分自身を信じて継続することが大切
大久保:同じように課題に取り組んでいる起業家に向けて、メッセージをいただけますか。
松田:前半でお伝えしたLeapMind創業当時の話に近いのですが、「社会のこういう課題をこんな形で解決していけば、素晴らしい世の中になるんだ」という自分自身の思いを信じてやり続けてほしいです。死なずに続けることが大事だと思っています。
死ぬとは、金銭的にゼロになることではなく、自分の心が折れることです。恐らくそれがイコール会社の死かなと。お金がゼロになっても、自分さえ信じていれば続けることができます。会社を創業したら死なせないことがポイントではないでしょうか。
そのためにも、しっかりと睡眠をとり、きちんと運動したほうがいいですね。
大久保:ちなみに松田さんは、睡眠と運動の時間は確保できていますか?
松田:8時間は寝ています。おかげさまで毎日多忙なのですが、睡眠時間だけは必ず確保していますね。運動はジムや自転車通勤など、隙間時間を有効活用しています。
大久保:勉強していることなどはありますか?
松田:毎月3〜4冊、年間で50〜60冊くらい本を読んでいます。論文をピックアップすると同じに、関連論文や情報にも目を通して知識の幅を広げる作業も欠かせません。僕にとっては、睡眠・運動・勉強の3セットが大切です。
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