GRA 岩佐 大輝|一粒1,000円のイチゴ!?震災の故郷がハイテク農業で蘇る! ”ミガキイチゴ”(前編)

創業手帳
※このインタビュー内容は2017年07月に行われた取材時点のものです。

IT社長から故郷でのUターン起業

(2017/07/20更新)

「農業を強い産業とすることで地域社会に持続可能な繁栄をもたらす」ことをミッションとする(株)GRAの代表取締役 岩佐大輝氏。IT企業の社長だった岩佐氏が、2011年の東日本大震災を機に、故郷宮城県山元町で始めたのは、なんとイチゴの農業経営。前編では、そのイチゴビジネスのきっかけと、一粒1,000円の「ミガキイチゴ」が誕生するまでの行程についてうかがいます。

岩佐 大輝(いわさ ひろき)
1977年、宮城県山元町生まれ。株式会社GRA代表取締役CEO。
大学在学中に起業し、現在日本およびインドで6つの法人のトップを務める。
2011年の東日本大震災後には、大きな被害を受けた故郷山元町の復興を目的にGRAを設立。先端施設園芸を軸とした「地方の再創造」をライフワークとするようになる。イチゴビジネスに構造変革を起こし、一粒1000円の「ミガキイチゴ」を生み出す。
著書に『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』(ダイヤモンド社)、『甘酸っぱい経営』(ブックウォーカー)がある。

一粒1,000円の「ミガキイチゴ」はどうしてできたのか?

ー岩佐さんは宮城県のイチゴの農業経営者でいらっしゃるんですよね。

岩佐:宮城県の山元町というところで、イチゴとトマトを育てています。
ITやロボットの設備投資をしているので、投資した資金を回収するために、市場規模が大きい作物を選びました。ある程度テクノロジーに投資するのであれば、市場が大きい作物を選ぶことが絶対条件でしょうね。

ーただ、イチゴっていっても市場が大きいから作っている方もたくさんいる。その中でも差別化できているっていうことですね。

岩佐:そうですね。イチゴは日本で最も産出額が高い農産物の一つですが、従来は温度、湿度、CO2、日射量、肥料といった管理を、勘と経験に基づいて農家さんが管理していました。それをITで再現性を高めて、良いものを安定して作るようにしているというのが我々の農業です。例えば、農場の中にセンサーを張り巡らせて、あらゆる条件をコントロールできるようにしています。

ーよく聞かれると思うんですけど、一粒1,000円のイチゴは、他のイチゴと比べて何が違うんですか?

岩佐:糖度や糖と酸のバランス、あるいは食感、香り、大きさ、果実のツヤ、そういったいくつかの項目をクリアしたものを「ミガキイチゴ」というブランド名で売っています。収穫したイチゴはランク分けしていて、その中で最高のものをプラチナクラスと呼んでいるんですが、それを一粒1,000円程度で販売しています。なので、1,000円のものは、全体のほんのわずかですね。

ーちなみに高いイチゴを買う人は、どんなときに買っているんでしょうか?

岩佐:例えば、誕生日やクリスマスなどの「特別な日」に食べるものとして、あるいは贈答品として買われる方が多いですね。取り扱いのほとんどは百貨店で、通販はごく一部だと思います。

ーそのような分野を開拓するのは大変だったんじゃないですか?イチゴは日持ちがあまりしないので、管理も大変そうです。

岩佐:イチゴの難しいところは、果皮が柔らかくて日持ちがしないですから、穫ってから約3日以内に食べないといけないことです。おいしいものを作るだけじゃなくて、新鮮な状態で届けるところまでが、私たちがやっているビジネスです。

イチゴのシーズンは、11月から5月までです。特に百貨店は4月になると春の果物が入ってくるので、百貨店で一番いい時期は12月から3月。4月以降は「春イチゴ」っていうカテゴリーになりまして、冬のイチゴと比べて糖度がちょっと落ちるかわりにみずみずしさが増えたりする、という変化があります。宮城県の農場に来ていただければイチゴ狩りをやっているので、食べに来ていただくのが一番わかりやすいですね。

ー確かに、一番わかりやすいのは、イチゴ狩りをしていただくことかもしれませんね。

岩佐:そうですね。現在、山元町の人口は1万2千人くらいなんですけども、毎年2万5千人くらいの方に視察とイチゴ狩りで来て頂いています。町に人が来てくれると、交流人口が多くなって町の活性化にもつながります。

東日本大震災を転機に。IT社長から故郷でのUターン起業

ー起業の前後をうかがいます。最初IT系の事業を元々されていて、そこから農業なんですよね。

岩佐:もともと、子供のころからコンピューターの開発スキルがありました。事業を始めたのは2001年頃なんですが、その時は、オフィスに本格的にコンピューターが加速的に導入されてくるような時代で、私みたいな人が何かを開発することで仕事がたくさんあった時代でした。そこで「自分のスキルがお金になる時代がきた」と感じて、起業しました。

会社を立ち上げて10年の月日が経ったとき、東日本大震災で、自分の故郷である宮城県の山元町が被災しました。「故郷をどうやって復興させようか」と考えたときに、町の特産品だったイチゴで復興しようと思い付きました。そこで、農業40年の大ベテランの方と一緒に起業したんですが、彼は「農業っていうのは勘と経験でやるもので、イチゴと会話しながら覚えるもんだ!まずは15年俺についてこい!」という方だったんです。

長い経験を積むことも大事ですが、地方が衰退するスピードはものすごく早いです。
匠の人々の勘と経験はリスペクトしつつ、今のうちに再現可能なものに落とし込む必要があるんじゃないか?と感じていました。それで、2年目くらいに「ITの農業に投資をする」ということを始めたんです。
例えば栽培農家であれば、どういう時に植えて、葉っぱは何枚にして、温度管理は何度にして、湿度は何%にしてっていう、いわゆる勘と経験っていうのを分解することで再現性が担保できるっていうことですね。

ー農業っていうある意味古くからの慣習がある世界に、ITというテクノロジーを取り入れましたが、経営や組織作りの面では、どのようなことに取り組みましたか?

岩佐:まず経営でいうと、私達は「株式会社として農業生産法人として経営をしている」ということです。

農業生産法人とは、農地を保有して良いと認められている法人のことです。
我々が創業した当時というのは、農業生産法人に対して出資できるのは基本的には農業者だけで、「ミガキイチゴに出資したい」という投資家の方がいたとしても、なかなかできなかったんです。

それを踏まえて、最初は私を含めた3人の共同創業者が手持ち資金を出してハウスを建てて、資金調達は銀行からの借入を受けてスタートしました。
先ほども言いましたが、農業生産法人は農業者だけしか出資できません。なので、銀行から借りるしかありませんでした。
銀行からお金を借りるためには※トラックレコード(過去の実績や履歴のこと)を作らなければいけません。1年目は手持ち資金で運営して、トラックレコードを作って、単位面積あたり何トン収穫できて、どれくらいで売れるか、をきっちり示す。そうすることで銀行は貸してくれます。
当時、資金は銀行中心に調達していき、それを横展開できる段階になったときに投資家に投資してもらう、という計画でした。

最近の例でいえば、GRAの農業技術がうまく開発されていって、単位面積あたりの生産効率が1.5倍になったんですね。その技術を展開するための会社として(株)GRAアグリプラットフォームを立ち上げました。この会社は立ち上げ当初から投資家による投資を受けています。

ー農業って最初うまくいかないとよく聞きますが、GRAは、最初からある程度計画通りだったんですか?

岩佐:最初はやっぱりうまくいかなかったですね。
イチゴの研究をしている人って多いですけども、イチゴの栽培マニュアルで全部書かれているものが世の中にあるかっていうと存在しません。ですから最初は手探りでやりながらで、やっぱり失敗するわけですよ。

ですが、農業ITで一番大事なことは、失敗しても成功しても、やったことをインプットすることです。因果関係を正しく記録していくことが非常に重要で、それを数年間やりながらどこが悪くてどこが良かったかっていうのを改善していく、ということを当時やっていました。

ーちなみに(株)GRAアグリプラットフォームの他の農家が使えるイチゴのプラットフォームというのは、お金を払うと使えるっていうことなんですか?

岩佐:技術系のフランチャイズ事業だと思っていただくとわかりやすいかと思います。
「その技術を使いたい」という個人・法人の方々に山元町で1年間研修を受けていただき、イチゴの設備、最先端の設備を利用したIT農業のノウハウを学んでいただきます。あらゆる体験を、めちゃくちゃ細かく分解しているので、何をすればいいのか誰にでもわかりやすくしています。

ー実は、長年の勘って合理的ではあるんですよね。言葉ではうまく伝えられないんですが、体験を細かく分解していったら、うまく伝えられない部分が理解できてくる、ということかもしれませんね。

岩佐:まさにその通りです。
例えば我々が「このケースの場合は何度の温度がいいだろう」とコンピューターに設定するとしますよね。そこに農業40年のベテランが「社長、ここはイチゴにとってちょっと寒いんじゃないか?」っていうことを言うわけです。そこで温度を少し上げればイチゴっていうのは確実に良くなったりするんですよ。そういった勘というのを形式知に落とし込むっていう作業をずっとやっています。

もう一つ、イチゴの場合だと、苗作りから収穫を終えるまで20か月くらいかかるんです。11月ぐらいに親株を植えて、親株から子苗を採って、それを植えるのが翌年の夏。全部終えるのは翌年の6月ですから20か月かかるんですよ。

もちろん、どれだけ一生懸命働いたとしても、お金を張ったとしても、植物の成長を短縮できないですよね。農業の進化がゆっくりであるっていうのはまさにそういうことだと思っています。
農業生産法人を経営するには、農作物の成長とある程度歩みを合わせなければならないっていう難しさ、もどかしさがあります。スタートアップっぽい感じでやろうとすると途中で疲れちゃうので、ある程度ペース配分が必要かもしれませんね。

ーイチゴの成長速度ありき、ということですね。

岩佐:そうですね。
逆に言うと1年でも記録することを怠ると1年遅れますので、それはもう大変なわけです。もっと逆にいうと1年できっちりやって差をつけると他の人がそれを追い付くまで1年かかるわけですよ。
きっちりと着実に因果関係を把握して、PDCAサイクルを回していくっていうことが、競争力の向上につながりますね。

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一粒1000円のイチゴ
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(取材協力:農業生産法人 株式会社GRA 岩佐 大輝)
(編集:創業手帳編集部)

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