エピテみやび 田村雅美|「エピテーゼ」を美容として誰もが楽しめるものへ。外見を補った先のおしゃれまで提案する

創業手帳
※このインタビュー内容は2024年07月に行われた取材時点のものです。

エピテーゼ需要の高まりに対応するために。後進の独立までをサポートする協会を設立し、合宿講座をスタート


事故や病気・先天的により手足の指や耳がない方、乳がんでバストを失った方・・・。
そのような誰にも言えないコンプレックスを抱える人たちの「見た目」や「心」を補うのが、人工パーツのエピテーゼです。

エピテみやびでは、つけはずしが可能で本物さながらの指や耳、バスト等のエピテーゼを完全オーダーメイドで製作・販売しています。前回の取材では、代表の田村さんにエピテーゼとの出会いから起業までを中心にお伺いしています。

そこで今回は、ここ数年のエピテーゼ認知度の変化や後進を育てるスクール事業、今後の展望についてお話しいただきました。

田村 雅美(たむら まさみ)
エピテみやび株式会社 代表取締役
歯科技工士として経験を重ねる中で、自身の技術力向上を目的に渡米。渡米中、エピテーゼによる「外見回復」の場に立ち会い、その効果に感銘を受ける。帰国後、歯科技工士として働くかたわら、エピテーゼの技術を習得するための学校に通い始める。友人の乳がん手術後の精神的苦しみを知ったことをきっかけに、エピテーゼ事業に本格的に取り組むことを決意。2018年に「女性起業チャレンジ制度」でグランプリを受賞し、エピテみやび株式会社を設立した。

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エピテーゼ認知への追い風!千葉県では購入を助成する自治体も

ー前回取材させていただいたのが2020年でした。それから現在にかけて、エピテーゼの認知度は高くなってきましたか?

田村:いいえ、認知度としてはまだまだですね。ごく一部の人たち、特に私の周りにいる方々はよく知ってくださっているといったレベルです。

ただ大きな流れとして、今後エピテーゼの認知度が大きく高まりそうな動きがあります。

というのも、2023年ごろから国としてアピアランスケア(外見の変化に対するケア)に重きを置き、助成金を出すようになったからです。

アピアランスケアは、主に乳がんが原因で髪の毛が抜けたり、爪の色が変わったり、バストをなくされたりといった「外見が変化した方に対するケア」です。

ー国の助成金の対象は、がんで外見が変わった方のみが対象ですか?

田村:そうですね。がんに対するケアに限定されています。

ですから、エピテーゼの中では「バストのエピテーゼ」のみが対象です。

ただ、ただ、千葉県では流山市や酒々井町をはじめ、多くの自治体でエピテーゼの購入に対して助成金を出しています。

これはエピテーゼへの助成金なので、がんで外見が変わってしまった方たち以外も対象です。

つまり、指を後天的に切断してしまった方の「指エピテーゼ」や、生まれつき外耳がない「小耳症(しょうじしょう)」の方たちの「耳エピテーゼ」なども含まれます。

エピテーゼに対してのサポートは、まだ全国でもこの2地域だけだと思います。でも他の自治体でも同じ動きが出てくると思いますね。

「エピテーゼ作りを教えてほしい」という声に応えて日本エピテーゼ協会を設立

ー御社は、起業してから現在までにどのような活動をされてきましたか?

田村:まず大まかにお伝えすると、起業をしたのが2017年、「エピテみやび株式会社」と名称を改めたのが2018年。そして、エピテーゼに関わる人材を作るための団体を作ったのが2019年です。

ですから私は今、エピテみやび株式会社と一般社団法人日本エピテーゼ協会の2つを経営しています。

ー「エピテみやび株式会社」と「一般社団法人日本エピテーゼ協会」の違いをお伺いできますか?

田村:エピテみやびは、事故や病気で体の一部を失くされた方にエピテーゼを提供するサロンです。

一方、日本エピテーゼ協会は、エピテーゼの周知と認知、そして技術を教えるスクールの運営が主な活動になります。

ー日本エピテーゼ協会を立ち上げたのは、施術を受けた方から「技術を学びたい」というお声が多かったからでしょうか?

田村:もちろんお客様からの声もありましたが、それ以外の方からのご相談の方が多かったですね。

私は元々歯科技工士ですので、歯科業界の人たちから「自分も学びたい」と相談を受けることも多いんです。他にも「お客様の外見を整えて美しくする」というつながりから、美容サロンやネイルサロン、エステを経営している方、美容師さんから「エピテーゼを学びたい」と言われることも少なくありません。

「お客様に身体の欠損でお悩みの方がいるから」「サロンの差別化のために、オンリーワンのメニューとしてエピテーゼを取り入れたいから」など、学びたい理由はさまざまですね。

そのような需要を受けて、2019年に一般社団法人を設立することを決めたのが「日本エピテーゼ協会」を作った経緯です。

ーその後、群馬から東京に進出されたんですよね。

田村:そうですね。そのころ「エピテみやび」の活動をテレビで全国放送してもらう機会がありまして、全国からご相談をいただくようになったんです。

でも、地元の群馬だとお客様との距離が遠すぎてご依頼を受けられないケースも出てきたので、「東京に行こう」と決断しました。ちょうど、2018年に女性限定のビジネスコンテスト「女性起業チャレンジ制度」で賞金200万円をいただいていたので、そちらを使って東京に進出しましたね。

ー2019年に、日本エピテーゼの立ち上げと東京進出をされたわけですね。

田村:はい。ただ、2019年秋に東京へ進出したものの、2020年2月ごろからコロナ禍に突入してしまいまして。せっかく「全国のお客様のご依頼に対応できる体制」を整えたのに、お客様に来てもらえない状況になりました。

でも、お客様が来ないからと言ってじっとしているわけにはいきません。そこで、日本エピテーゼ協会として「オンラインでエピテーゼについて学べるスクール」を立ち上げました。

私がマンツーマンでエピテーゼの基礎から作り方までお伝えするコースです。それがスクール事業の出発点ですね。

合宿講座では独立するサポートまで実施

ー日本エピテーゼ協会で実施されている講座の内容を教えてください。現在は、オンラインだけではなくて、合宿講座もご案内されていますよね。

田村:そうなんです。実は2024年1月に講座内容をリニューアルしまして、通信講座型と合宿講座型の2種類をご案内しています。

通信講座を新設し、コロナ禍にスタートした「オンラインのマンツーマン講座」を「対面の合宿講座」に移行したイメージです。

ー通信講座はどのような内容で実施されているのでしょうか?

田村:私が作ったオリジナルのテキストや材料を、ご自宅にお送りしています。自宅や好きな場所でエピテーゼの講座を受けていただけますね。

授業もオンデマンドなので、好きな時間に何度でも視聴できるのがメリットです。また、内容は初級から上級までございます。

ー通信講座に対して、合宿講座はどのような内容なのでしょうか?

田村合宿講座は、合宿講座は、私がスパルタで教える「将来自分のサロンをもちたい方向けの講座」です。

指のエピテーゼとバストのエピテーゼの2種類があり、通信講座の初級コースと中級コースがミックスされた内容です。材料の名前を覚えるところから、エピテーゼを作れるようになるところまで短期間で鍛えます。

このようなスパルタな内容なので、同時に受講できる人数は限定3名です。

ー3名限定ということは、競争率が高くなりそうですね。

田村:申し込みが多い場合は競争になるかもしれませんが、それだけ本気度の高い人を集めたいと考えています。その方が、受講生がお客様の元へエピテーゼを届けるスピードも速くなると思いますので。

ー合宿講座を受講された生徒さんが、「エピテーゼをお客様に提供できるようになるまでサポートする」ということでしょうか?

田村:おっしゃる通りです。合宿講座は一年以内に独立開業を目指す方向けのコースです。

「エピテみやび」というサロンの名前を使用しての独立開業までをサポートしていく予定です。

合宿講座自体はこれから始まるのですが、コロナ禍にオンラインでマンツーマンの講座を受けた方の中には、もう少しでサロン開業ができそうな方もいます。ですから、来年再来年には、生徒さんによる「エピテみやびの支店」ができているのではないかと思っています。

需要の高まりに備えて今から人材育成を

ー田村さんはスクール事業で「エピテーゼの後進を育てる活動」に力を入れておられたり、スクールの生徒の方々に弊社の創業手帳などの冊子をお配いただいていますが、その理由をお伺いできますか?

田村:先ほど、国や自治体による「アピアランスケア(外見の変化に対してのケア)」支援事業が始まったとお話をさせていただきました。

アピアランスケアだとバストエピテーゼのみが対象ですが、千葉県の2地域のようにエピテーゼ自体に助成がされる自治体もきっと増えていくと思います。実際に、現在東京都でも助成の対象となるように働きかけています。

ところが、エピテーゼが多くの自治体で助成の対象になったとき、エピテーゼの作り手や相談を受けられる人がいなければ意味がありせん。

なので、後進を育てて「エピテみやび」の看板を各地に配置したいなと。エピテーゼを作りたい地方のお客様がわざわざ東京に来なくても、その地域で依頼できるようにすることが目標です。

そのためには、今から人材を作らないと間に合わないと思いますので、日本エピテーゼ協会では後進の育成に力を入れています。独立を目指してもらうために、生徒さんへも創業手帳の冊子をよく配らせてもらっています。

ーいつも本当にありがとうございます!生徒さんの独立はぜひサポートさせてください。

田村:さらに、今後協会では人材育成のためのスクール事業のほかに、協会の会員メンバーも集めていきます。

会員は当事者・医療従事者・アーティスト・スクール生・学生など、私の目指す未来に賛同していただける方なら誰でも入会が可能です。会員が増えることで、エピテーゼの周知と理解を加速させたいと思っています。

ー起業してからのこれまでの活動をお伺いしてきましたが、大変だったことをお伺いできますか?

田村:スクールに関しては、前例がないことですね。

エピテーゼの講座はこれまで存在していなかったものですので、カリキュラムを組むところから私がすべて行っています。つまり、私自身が「エピテみやび」でお客様のエピテーゼを作ってきた経験を元に、未経験の方にもわかるような教材を一から、数年がかりで作っているんです。

生徒さんに「どこがわかりにくかったか」をヒアリングしながら、少しずつアップデートもしていっています。

ーエピテみやびの方で、ご苦労されたことはありますか?

田村:とにかく認知してもらうことですね。現在でも一番苦労していますが、特に初期の頃は「エピテーゼを誰も知らない」という状態でしたので、本当に大変でした。

一般の人にエピテーゼを知ってもらうために個展開催やフェス・イベント出展を毎年実施

ーー認知にご苦労されたとのことですが、ハンドメイドインジャパンフェス(HMJ)に出展されているのも、認知拡大のための活動でしょうか?

田村:そうですね。認知してもらうために、HMJに限らずハンドメイド業界のフェスにはなるべく参加するようにしています。

フェスに参加しているのは、「エピテーゼを一般の人に知ってもらうべきだ」と考えているからです。それは実は、私が起業を始めたきっかけとも同じです。

私は友人が乳がんになったとき「エピテーゼを友人が知らなかったこと」、さらに「病院の先生からもエピテーゼの案内がなかったこと」がきっかけで起業をしました。とにかく「エピテーゼを必要としている方に、その存在を知ってもらわなければ」と思ったんです。

もし友人が胸を失う前からエピテーゼのことを知っていれば、ショックを和らげることができたかもしれませんから。

ー実際にフェスへの参加は認知拡大につながっていますか?

田村:つながっていますね。

大きなイベントは基本的に土日に開催されますので、何万人規模の来場者が見込めます。ですから、「これはなんですか?実は自分も指がないんです!」「このバストエピテーゼについて教えてください!乳がんで胸をなくしたんです」といった、エピテーゼのことを知らずに訪れる「当事者の方」との出会いも少なくありません。

エピテーゼを知ってもらうとてもよい機会なので、ハンドメイド業界のフェスには今後も毎年出るつもりです。

ー個展も開催されていますよね。

田村:個展は起業した2018年から開催しています。地元の群馬県の小さなギャラリーを借りて実施したのがスタートでした。

東京へ進出後は、自分自身が好きだった銀座にある「ヴァニラ画廊」さんに企画を持っていったところ、OKをいただけまして。2019年からほぼ毎年個展を開催させてもらっています。

今年は3回目を実施する予定ですね。

ー今年の個展の内容を教えていただけますか?

田村:2024年はコロナも落ち着きましたから、これまでとは違う活動として「指」「耳」「バスト」それぞれのエピテーゼ個展を開くことにしました。すでに2回開催しているので、残りは10月のバストエピテーゼのみです。

ただ、今年個々のエピテーゼを展示してわかったのは、みなさん全てのエピテ―ゼを見たいんだということです。だから来年2025年には、ゴールデンウィークに1週間、すべてのエピテーゼを展示する個展の開催を決定しました。さらに来年は、地元群馬でも個展をする予定です。

ー個展にいらっしゃる方は、もともとエピテみやびをご存じの方が多いのでしょうか?知らずに訪れる方もいますか?

田村:もちろん、すでにエピテみやびを知っている方が私のSNS発信を見て来てくださる場合もあります。

でも、エピテみやびやエピテーゼをもともと知らなかった方もよく来てくださいますよ。

例えば、前回ゴールデンウィークに個展をしたときは、聖教新聞さんが個展の記事をのせてくださったので、それを見て来てくれた方がとても多かったです。

あとは、今借りてるギャラリーさんがマンションみたいな造りですから、他のアーティストさんが来てくれたり、訪問された方ものぞいてくれたりします。原宿にあるので、外国人の方がフラッと入ってくることもありますね。

外見を整えるのは当たり前。将来の自分を想像してもらう

ーエピテーゼを広めるための活動として、田村さんはテレビ出演なども多くこなされていますよね。お話をするときに意識されていることがあればお伺いできますか?

田村:私だけがお話しするのではなく、「リアルなお客様のお声を届けること」を大切にしています。私が1人で説明をするよりも、お客様が実際に使ったときの感想やビフォ―アフターをお見せする方がずっと説得力がありますので。

でもそれができているのは、私の努力というよりは、快く出演を引き受けてくださるお客様に恵まれているからだと思っています。あとは、エピテーゼは「外科的治療ではなく、脱着できるパーツであること」を必ず伝えるようにしていますね。

ー他にも「必ず伝えるようにしていること」があれば教えてください。

田村:エピテみやびは、「エピテーゼをつけたお客様に、その先の自分の姿を想像してもらっている」ということを意識して伝えています。

エピテーゼで外見を元通りにするのは当たり前のこととして、エピテみやびではそこから先の「これまで我慢していたおしゃれを楽しむこと」のお手伝いもしているんです。

例えば生まれつき外耳がない方は、生まれてから一度もピアスやイアリングをしたことがないケースも少なくありません。それだけでなく、耳が出てしまうのを防ぐために、髪を結んだりショートカットにしたりすることも我慢されてきた方が多いんです。

そのような方々に「お耳ができると、こんな髪型もできますよ」とか、「こんなピアスはいかがですか?」などと、今まで我慢されていたおしゃれの部分まで提案をしています。

耳だけでなく、足の指であればサンダルを我慢されてきた方もたくさんいますから、エピテみやびには20足くらいサンダルを用意しているんです。指のエピテーゼをつけてサンダルも実際にはいていただいて、「こういうふうになりますよ」とお見せしていますね。

このように「おしゃれを楽しむ将来の自分」を想像してもらうように心がけています。

エピテーゼを眼鏡やウィッグと同じファッションとして誰もが楽しめるものへ

ー田村さんの今後の展望をお伺いできますか?

田村:目指しているゴールは「エピテーゼを誰もが知るようなワードにすること」です。

今、義手や義足はほとんどの方が知っていますよね。同じようにエピテーゼも、みんながイメージできるようなものにしたいと考えています。

さらに「ファッションや美容としてのエピテーゼ」を定着させることも目標の1つです。

眼鏡やウィッグなどは、ファッションとして使うことが当たり前になりましたよね。でも、昔のメガネは目の悪い人がつけるものでしたし、ウィッグも髪の薄い人だけがするものでした。つまり、マイナスなイメージが強かったと思うんです。

それが今では、多くの人が眼鏡やウィッグをおしゃれなものとして身に着けています。

エピテーゼも「体の一部をなくした方が使うもの」ではなく、「綺麗になるためのファッションアイテム」として認識してもらいたいなと。

例えば鼻が低いのがコンプレックスならエピテーゼのつけ鼻をしたり、唇が薄いのが気に入らないのであればエピテーゼを唇につけてみたり。エピテーゼをファッションとして誰もが楽しめるものにしたいですね。

ー海外展開も目指しておられますか?

田村:もちろん日本だけでなく、海外にも進出できたらと考えています。

すでにモンゴルから個展に足を運んでくださる方や、アメリカに永住している人がエピテーゼを作りに来てくださった例もあります。

スクールの生徒さんの中にも語学が堪能な方がでてくると思います。そのような生徒さんたちと一緒にエピテーゼを海外へ発信したり、生徒さん自身に海外へ行ってもらったりして、海外にもサービスを提供できるようになれたらいいですね。

ー最後に、起業したいと考えている方へ一言いただけますか?

田村:起業をするのは、ものすごく勇気がいります。

しかも「誰もやったことのない事業」をスタートしようとすると、周りの人たちは心配して止めてきます。私自身、起業の相談に行くたびに「誰もしていないことだからやめなさい」と言われました。

でも、「自分はこんな人たちを幸せにしたいんだ」「自分がしなければならないんだ」という使命感を持っているならば、きっとビジネスチャンスに繋がるはずです。

だから、自分の信念を曲げずにやり続けることが大切。そうすれば、ある日突然何かしらの形で道が開けると思います。

そして無事に起業した後は、仲間を大切にしてほしいですね。同じ業種じゃなくてもいいんです。女性起業家なら女性起業家仲間でもいいと思います。

とにかく仲間との交流があると、「みんなもこんなに頑張ってるんだ」「自分も負けてられない」という刺激がもらえますから、長く続けられるのではないでしょうか。

あとは常に勉強をして、いつチャンスが来てもいいように動けるようにしておくことが、運を手に入れる近道ですね。

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(取材協力: エピテみやび株式会社 代表取締役 田村 雅美
(編集: 創業手帳編集部)



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