社会保険はなぜ法人だと強制加入なの?個人事業主・一人社長との違いを解説
法人は社会保険への加入が原則必須

法人を設立すると、「なぜ社会保険への加入が強制なのか?」「個人事業主・一人社長でも加入は必須なのか?」と疑問に感じる人もいるでしょう。
原則法人は社会保険への加入が必須となりますが、原則必須となるのにはきちんと理由があります。
そこでこの記事では、法人の社会保険加入が強制の理由と、個人事業主・一人社長との違い、さらに法人が社会保険に未加入だとどうなるのかなども解説していきます。
法人設立にあたって社会保険が気になるという人は、ぜひ参考にしてください。
この記事の目次
法人はなぜ社会保険に強制加入するの?その理由とは

法人は社会保険に強制加入となるのは、以下3つの理由があるためです。ここで、その理由について詳しく解説していきます。
健康保険法が定める「強制適用事業所」に該当するから
1つ目の理由に、法人は健康保険法で定められている「強制適用事業所」に該当している点が挙げられます。
健康保険は基本的に一人ひとりで加入するのではなく、事業所単位で適用を受けることになります。
適用を受ける事業所は、強制的に適用される「強制適用事業所」と、厚生労働大臣から認可を受け、任意に適用されている「任意適用事業所」の2種類です。
法人の場合、労働者を常時1人以上使用している事業所は強制適用事業所となるため、社会保険に加入する必要があります。
法人(使用者)は労働者を守る責任があるため
法人(使用者)と労働者の関係は労働契約書によって成立しており、この契約をもとに双方が義務を負っています。
労働者の義務は労務を提供することになりますが、使用者の義務は労働者の生命や身体などの安全を確保しつつ、労働できる環境づくりや必要な配慮を行うことです。
社会保険は病気やケガはもちろん、障害や老齢で働けなくなった場合や加入者が死亡した場合などに、加入者と家族の生活を保障する重要な制度になります。
つまり、労働者を守る責任がある法人は、労働者のために社会保険への加入が強制となっているのです。
財政の安定化を図る必要があるから
社会保険に強制加入を採用している理由に、逆選択を防いでいる点が挙げられます。
社会保険には、その人の支払い能力(所得・資産などの経済力)に応じて負担額を決める仕組み(応能負担)が採用されています。
しかし、給付は標準化されており、所得再分配機能が組み込まれています。
任意加入性を採用してしまうと、有病者や低所得者など社会保険加入で有利になる人ばかり加入し、そうでない人は加入しなくなるため、財政的に成り立ちません。
健康な人や高所得者にも加入してもらい、財政の安定化を図るために強制加入を採用しています。
また、“ただ乗り”を防ぐことも強制加入を採用している理由の1つです。
基本的に日本では生活保護などの公的扶助による救済が用意されていますが、この救済に使われるお金は社会保険加入者が負担しています。
社会保険加入者としては、未加入者で同じように救済を受けられていることに不公平さを感じてしまいやすいため、ただ乗りを回避するためにも強制加入にしているのです。
個人事業主と法人では社会保険の扱いがどう違う?

法人は社会保険に強制加入となりますが、個人事業主だと社会保険の扱いはどのように異なるのでしょうか?ここで、個人事業主と法人の社会保険での違いについて解説します。
個人事業主は従業員数や業種によって異なる
個人事業主の社会保険は、従業員の数や業種によって強制適用事業所に該当するかが決まります。
個人事業主で強制適用事業所の対象になる条件は、従業員が常時5人以上いて、法定17業種に当てはまっていることです。
この条件に当てはまる場合、事業主の意思と関係なく社会保険に加入しなくてはなりません。
なお、加入対象の従業員には正社員だけでなく、アルバイト・パートも含まれています。
アルバイト・パートの場合は正社員の4分の3以上となる勤務時間・日数が確保されていた場合、1人としてカウントすることが可能です。
法定17業種の例
上記でも紹介したように、個人事業主で強制適用事業所の対象になるには、法定17業種に当てはまっている必要があります。法定17業種は、以下のとおりです。
-
- 製造業
- 土木・建設業
- 鉱物採掘
- 電気
- 運送
- 貨物積卸
- 焼却・清掃
- 小売業
- 金融・保険
- 保管・賃貸
- 媒介周旋
- 集金
- 教育・研究
- 医療
- 通信・報道
- 社会福祉
- 弁護士や税理士、社会保険労務士など、法律・会計事務を扱う士業
現在は農業・林業・漁業・宿泊業・飲食業などはこの17業種に含まれず、強制適用の対象外です。
しかし、2029年10月施行の法改正により、業種を問わずすべての事業所(常時5人以上を使用するもの)が適用対象に拡大される予定です。
ただし、この拡大には経過措置があります。2029年10月の施行時点ですでに存在している事業所については、当面の間は対象外となります。
新たに設立される事業所や、施行後に規模が拡大した事業所が主な対象となる点に注意が必要です。
個人事業主本人は原則として厚生年金・健康保険に加入できない
上記は個人事業主が従業員を雇用した場合でしたが、社会保険が適用されるのは従業員であり、個人事業主本人が厚生年金や健康保険に加入できるわけではありません。
また、労働保険に関しても加入できないため、万が一個人事業主が廃業した場合や業務上のケガなどで仕事を休まざるを得なくなった場合でも、失業給付や休業給付はもらえないことになります。
ただし、特定の条件を満たすことで個人事業主でも労災保険に特別加入することは可能です。
国民健康保険と国民年金への加入はできるものの、保障は手薄になりやすいため、小規模企業共済や民間の医療保険などでリスクに備えるか慎重に検討することが大切です。
一人社長でも社会保険に加入しなければならない?

従業員を雇用せずに法人化する「一人社長」の場合、社会保険に加入するべきなのでしょうか。続いては、一人社長の社会保険について解説します。
役員報酬がある場合は加入対象になる
一人社長であれば個人事業主と同様に、社会保険に加入する必要はないと考える人もいるかもしれませんが、実際は法人から役員報酬を受け取っている場合は強制加入となります。
また、一人社長として会社を設立した後に、さらにもう1社を設立した場合も、それぞれの会社が強制適用事業所に該当するため、どちらも社会保険への加入義務が生じることになります。
この場合、健康保険証はいずれかの主たる事業を行う会社を選択し、届出の提出が必要です。
社会保険料は各会社の役員報酬額に合わせて按分して、納付すべき社会保険料を算出することになります。
役員報酬がゼロの場合は加入できないことがある
一人社長で会社から役員報酬を受け取っている場合、社会保険への加入は強制となりますが、役員報酬をゼロにして受け取っていない場合は加入できないこともあります。
社会保険料は基本的に役員報酬から天引きして会社が代わりに納めますが、役員報酬がゼロだと保険料を徴収できなくなるためです。
そのため、例えば会社設立直後で利益が出なかった場合などは、役員報酬を自分に支払うことができず、社会保険に加入できないことになります。
従業員がいない場合は労災保険・雇用保険の加入は原則不要
一人社長で従業員がいない場合、労働保険(労災保険・雇用保険)への加入は原則不要です。
従業員を1人でも雇用していれば加入しなくてはいけなくなりますが、労働保険は労働者が対象であり、社長は1人でも労働者にはならないため、労働保険への加入はできないことになります。
ただし、労災保険には特別加入制度が設けられており、特定の条件を満たすと一人社長でも労災保険に加入することが可能です。
法人が社会保険に未加入だとどうなる?

すべての法人は強制適用事業所となり、社会保険の加入義務がありますが、万が一未加入のまま会社を運営しているとどうなるのでしょうか。
ここで、法人が社会保険に未加入だとどうなるのか解説します。
過去2年の未納分を負担する必要がある
社会保険に未加入でそれが発覚した場合、過去2年間を遡って保険料の未納分を負担する必要があります。
健康保険と厚生年金だけでなく、労働保険でも過去2年分を遡って未納分を納めなくてはなりません。
仮に月5万円の社会保険料を未納していた場合、5万円×(12カ月×2年)=120万円の支払いが必要となります。
なお、社会保険料は通常、事業主と従業員がそれぞれ負担する仕組みとなっていますが、未納分の支払いに関しては、従業員負担分も事業主側で全額負担する必要があるため、注意してください。
追徴金が課される
最大2年分の未納金の支払いに加え、追徴金が課される場合もあります。
追徴金とは、納付しなくてはならない金額を期日までに申告納付しなかった場合に課される懲罰的金銭です。
追徴金は、確定保険料の額を決める際に、確定保険料の金額もしくは不足額に対して10%の割合で徴収されます。
なお、追徴金が1,000円未満だった場合、社会保険料の未納分だけ負担することになります。
刑事罰を受ける可能性がある
未納分・追徴金の支払いに加え、法令に違反したとして刑事罰を受ける可能性もあります。
健康保険法第208条では、「6カ月以下の拘禁刑もしくは50万円以下の罰金」と明記されています。
例えば、被保険者に関して虚偽の申告を行っていたり、送付された督促状が指定した期限までに保険料を納付しなかったりすると、刑事罰を受ける可能性があるため注意が必要です。
助成金の申請ができない場合もある
法人なのに社会保険未加入だと法令違反に該当してしまうため、助成金を申請したくてもできない場合があります。
特に雇用関係の助成金には、社会保険に加入していることが前提となってくることから、いくら完璧に申請書類を準備して提出したとしても、受理されない可能性が高いです。
会社設立時に助成金の申請を検討している人は、まず社会保険にきちんと加入できているか確認することが大切です。
ハローワークに求人情報が出せない
社会保険に加入していない法人は、ハローワークに求人情報を出したくても出せない状態になってしまいます。
ハローワークでは基本的に社会保険未加入の法人に対して、まずは加入手続きを実施するよう指導をしてくれます。
社会保険が完備されているかどうかは、求職者にとって就職先を選ぶ上でも重要な要素の1つです。
社会保険未加入の法人は、未加入を理由に求職者から敬遠されてしまう可能性もあるため、人材を確保したい場合は、まず社会保険に加入することが大切です。
社会保険への加入で得られる法人側のメリット

労働者を守るための社会保険制度ですが、社会保険に加入することでどのようなメリットを得られるのでしょうか。
ここで、社会保険への加入で得られる法人側のメリットを紹介します。
リスクに備えられる
法人が社会保険に加入した場合のメリットに、様々なリスクに備えられることが挙げられます。
例えば病気やケガをして一時的に働けなくなってしまった場合、健康保険から傷病手当金が支給されます。
また、業務中に発生した事故・病気などには労災保険が適用され、手厚い補償を受けやすくなります。
法人の場合、従業員だけでなく経営者も保障の対象となることから、法人で社会保険に加入するメリットは大きいと言えるでしょう。
福利厚生が充実し、人材を確保しやすくなる
社会保険への加入によって保障内容が手厚くなり、会社の福利厚生を充実させることも可能です。
例えば健康保険組合に加入した場合、定期的な健康診断の実施や保養施設・スポーツクラブなどの割引利用、出産手当金の給付などが利用できます。
また、企業年金や退職金制度、育児休業・介護休業の導入などもあります。
これらは労働者側のメリットでもありますが、法人側は福利厚生を充実させることによって人材を確保しやすくなるというメリットを得られます。
多くの求職者は給与・賞与だけではなく、福利厚生も重視される傾向です。
「福利厚生が充実している会社は、安心して働ける環境が整っている」とイメージできることから、人材確保につながりやすいと言えます。
法人の社会保険に関するよくある質問【Q&A】

最後に、法人の社会保険制度についてよくある質問に答えていきます。
アルバイト・パートも社会保険に加入しなくてはいけない?
アルバイトやパートなどの非正規雇用労働者は、社会保険に加入しなくてもいいというイメージを持つ人もいるかもしれません。
しかし、法改正に伴い段階的に対象範囲が拡大しており、アルバイトやパートでも社会保険に加入できるケースが増えています。
社会保険の対象になる従業員の要件は以下のとおりです。
-
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 所定内賃金が月額88,000円以上
- 2カ月を超える雇用の見込みがある
- 学生ではない
- 従業員数51人以上の会社で働いている
なお、2026年10月からは「所定内賃金が月額88,000円以上」が撤廃され、短時間労働者の加入対象範囲が広がります。
従業員が加入を断ってきたらどうする?
万が一従業員から「社会保険に加入したくない」という要望があったとしても、強制適用事業所である限りすべての従業員を加入させなくてはなりません。
そのため、会社側で社会保険に加入したらどのようなメリットがあるかを説明することが大切です。
例えば、年金を受け取る際に社会保険へ加入していた場合、国民年金だけでなく厚生年金も受け取れることから、将来受け取れる年金額が増えます。
また、保険料は会社と折半をして支払うことになるため、保険料を抑えつつ充実した保障を受けられることなども、加入するメリットとして説明しましょう。
メリットや法人は加入が義務付けられていることを丁寧に説明し、納得してもらうことが大切です。
休職中の社員の社会保険料は免除される?
病気などで休職中の社員がいる場合、免除されることはなく、休職前と同様の社会保険料を支払う必要があります。
ただし、給与額に対して計算される雇用保険料・所得税に関しては、休職中だと0円です。
また、健康保険の傷病手当金は、休職中に加入者と家族の生活を保障する手当金が支給され、支給金は非課税となります。
社会保険料が免除されない代わりに、このようなメリットがあることも理解しておきましょう。
社会保険の加入手続きが不要な社員はいる?
法人でも一定の要件を満たす労働者に関しては、社会保険の加入手続きが不要となる場合があります。以下のいずれかに該当している場合、加入手続きは不要です。
-
- 日雇い
- 雇用期間が2カ月以内(契約更新の可能性がある場合を除く)
- 所在地が一定していない事業所で雇用されている
- 4カ月以内の季節的業務に従事している
- 臨時的事業(6カ月以内)の事業所で雇用されている
まとめ・社会保険は強制加入だが経営を支える重要な仕組みでもある!
すべての法人は強制適用事業所に該当するため、社会保険への加入が必要です。
個人事業主だと常時雇用する従業員数と業種によって異なりますが、一人社長も原則社会保険の加入が必要となります。
社会保険は強制加入となりますが、従業員の安全・安心と企業としての信頼を守る上で重要な制度です。
また、単に法的義務を果たしているだけでなく、安心して働ける環境を整えることで、法人にとっても人材確保などのメリットが得られます。
社会保険制度は経営を支える重要な仕組みでもあるため、法人を設立した際には忘れずに加入手続きを進めるようにしましょう。
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(編集:創業手帳編集部)
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