海外事業成功のカギを握る!外国商標・マドプロの基礎知識

創業手帳
※このインタビュー内容は2015年05月に行われた取材時点のものです。

髙橋伸也氏インタビュー 外国商標の基礎知識とトラブル回避の秘訣を聴く

(2015/05/25更新)

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アベノミクスの3本の矢の1つとして「海外展開戦略」があります。これは、国が積極的に海外進出する企業を支援するという内容です。海外進出を行うにあたって問題の1つとして挙げられているのが、海外での商標権の問題です。例えば近年では人気漫画「クレヨンしんちゃん」を発行する双葉社が中国への進出を行った際、すでに中国企業によって「クレヨンしんちゃん」が商標登録されていることが発覚し、訴訟に発展する事態となりました。これから海外進出する企業は、外国での商標権の問題についてどのように考えるべきか、外国商標に詳しい商標専門のフルブルーム国際商標事務所の弁理士、髙橋氏に話を伺いました。

髙橋 伸也(たかはし しんや)
早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、即独立して複数の事業を運営。その後、企業のブランドを守る商標弁理士を志し、2012年に弁理士試験に一発合格。国際商標専門の特許事務所で経験を積んだ後、2014年に商標専門のフルブルーム国際商標事務所を開業。外国商標・マドプロに強みを持つほか、大卒後即独立した自身の経歴からベンチャー・スタートアップの商標にも力を入れている。日本弁理士会の海外支援委員会及び貿易円滑化対策委員会に所属。

大手からベンチャーまで、海外事業で悩む商標権問題

-海外で事業を行う際、商標登録はどのくらい重要なのでしょうか?

髙橋:商標登録は当然日本においても重要なのですが、海外においてはその重要性は日本よりも高いと思います。

欧米などの先進国では日本に比べ権利意識が強く、正当な権利もなく自社と類似の商標を使っている第三者がいればためらうことなく警告状を送付したり訴訟を提起したりします。よって、事前の商標調査なしに商品の輸出やサービスの海外進出を行うことはそのまま訴訟リスクを抱えることであるとも言えます。

一方で、発展途上国においては商標の模倣が問題となります。この場合、相手側も商標登録していなければ商標権うんぬんの問題にはなりませんが、自社商標が粗悪な模倣品に付されてしまうとせっかく築き上げた評判が崩れてしまいますし、自社に入るはずの売り上げが模倣品業者に流れてしまいます。

-外国商標というと、「クレヨンしんちゃん」や「森伊蔵」のような日本で有名な商標が先取りされてしまうというニュースも聞きますね。

髙橋:そうですね。中国をはじめとした東アジアにおいては冒認出願(商標の使用者が商標登録出願していないのに乗じて不正の目的で行われる第三者による抜け駆け出願)が盛んです。

冒認出願をする側の狙いはその商標を高額で買い取らせたり、独占販売権の取得を強制したりというところにあります。著名な商標であれば審判・裁判で冒認商標を無効にする手だてもありますが、膨大な時間・費用・労力がかかってしまいますので、不本意でも交渉に応じざるを得ないケースも多いと思われます。

-それらのリスクを回避できるのが、商標登録ということなのですね。

髙橋:はい。商標登録を取得すればその商標と同一の範囲内では自社が独占して使用することができますし、類似の範囲では他社の使用にストップをかけることができます。

もちろん、その対価として一定の費用は発生しますが、先ほど述べたようなトラブルと無縁でいられることを思えば、時間・費用・労力の節約になる費用対効果の高い投資だと思います。

外国商標・マドプロ(国際商標出願制度)のキソのキソ

-では、実際にどうやって外国で商標権を取得すればよいのでしょうか?

髙橋:大きく分けて二つのルートがあります。一つは、各国に直接出願するルート、もう一つは、マドプロ(マドリッド・プロトコル)と呼ばれる国際商標出願のルートです。

-それぞれのルートの特徴を教えてください。

髙橋:各国に直接出願するルートは、通常、日本の弁理士を通して外国の弁理士(現地代理人)に出願を依頼することになります。

この方法だと必ず外国の弁理士の費用もかかりますので、その国だけに出願する場合はいいのですが、出願国数が増えると費用面の負担や管理の煩雑さというデメリットが出てきてしまいます。

一方のマドプロルートは、日本の弁理士が一つの願書を提出することで複数の国に出願することができる非常に便利な制度です。

マドプロの基本手数料はかかってしまうのですが、出願時に外国の弁理士を経由しないので費用が節約でき、出願国数が多い場合にはお勧めです。また、海外進出の段階に応じて後から出願国の追加もできますし、更新や名称変更も複数国一括でできますので、ユーザーフレンドリーな制度であると言えます。

-それでは、基本的にはマドプロルートを選ぶのがいいということでしょうか?

髙橋:その判断がなかなか簡単ではないですね。単純に費用だけ見れば、複数国出す場合であればマドプロの方が有利であることが多いでしょう。

しかし、マドプロで出願できるのはマドプロ加盟国だけです。たとえば、日本と密接な関係を持つ台湾は未だマドプロに加盟していませんし、東南アジアや中南米、アフリカも未加盟国が多いです。(2015年5月現在。東南アジアの主要な国々は2015年中にマドプロ加盟予定と言われています。)

また、マドプロ出願の場合にはその基礎となる日本の出願又は登録が必要で、商標は基礎出願(登録)と同一でなくてはなりません。

したがって、日本での登録が日本語と英語を二段に併記した商標であるような場合、英語だけのものを新たに出願して基礎とする必要があるでしょう。また、指定商品・役務は基礎出願(登録)の範囲内である必要があるなどの制約もあります。

-要するにケースバイケースで、専門の方でないと判断するのは難しそうですね。

髙橋:海外商標の場合は専門性が高いので、最適解を導くのにはプロの手を借りる必要があると思います。市販の本には記載されていないようなさまざまな注意点がありますので、外国商標経験の豊富な弁理士さんに依頼するのがベストだと思います。
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費用対効果を考えて賢い外国商標保護を

-外国商標の重要性や手続の概要はよくわかりましたが、どうしても費用がかさみそうですね。

髙橋:これも国によるのですが、マドプロが使える国ですとかなりリーズナブルであると思います。また、マドプロがなくても台湾などでは知的財産権関係の制度も整備されており、台湾の弁理士間の競争原理も働いているので、気軽な費用で出願することができると言えますね。

一方で、たとえば中東の国々ですと委任状の公証・領事認証費用がかかったり、公告費用を出さなければならなかったりでかなり高額になったりします。

ただ、これも海外進出の必要経費のうちですので、それも含めた上で進出するかしないかの経営判断を行うことになりますね。高額だから登録しないでいいやというスタンスでは後で登録費用の何十倍もの労力・費用・時間を取られることとなりますので。

-なんとか費用を抑える工夫はできないのでしょうか。

髙橋:弊所も力を入れている部分ですが、一つには、助成金や補助金を利用する手があります。外国商標出願は政府としても奨励していて、数十万単位の助成金を受けることができる可能性があります。

海外進出する場合も、進出はしないけど冒認出願対策をしたいという場合もそれぞれ助成金が適用されるので、要件にあてはまる場合には積極的に利用したいところですね。

あとは、リーズナブルな価格で質の高い仕事をしている弁理士さんを見つけることだと思います。外国商標はちょっとしたミスが大きな損失につながるので、価格の安さだけでも選べませんし、質が高くても高額な手数料を請求されたら中小企業の皆様には負担になってしまいます。

弊所では、中小企業の皆様にも利用しやすいように、リーズナブルな価格で質の高いサービスを提供することを常に意識しています。

-最後に、海外進出を考えている企業にメッセージをお願いします。

髙橋:海外進出される企業様のお話を聞かせていただくとき、私はいつも胸を高鳴らせています。我が国の商品やサービスが世界に発信され、受け入れられ、信用を確立していく。そして、商標弁理士としてそのお手伝いをすることができる。

考えてみるだけでもワクワクしますし、心からこの仕事を選んでよかったなと思います。

商標の話に限らず、海外進出にはさまざまな困難がつきまといます。しかし、弁理士をはじめとした専門家の適切なサポートを受けることで、トラブルを回避し、スムーズな事業運営及び自社ブランドへの信用の蓄積が可能になるのだと思います。

弊所では、志高い企業様の海外進出を全力で支援することで、共に日本商品・サービスのブランド力を高めることに貢献したいと思っています。

(取材協力:「ベンチャー支援・外国商標・マドプロに強い商標専門事務所」
フルブルーム国際商標事務所
 髙橋伸也 弁理士)
(編集:創業手帳編集部)

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