ベンチャー企業の活躍が日本には必要。「エンジェル税制」の仕掛人 元日本IBM社長・北城氏インタビュー(後編)
エンジェル投資家たちに応援団になってもらう方法
(2017/07/10更新)
前編では起業家はもっとエンジェル税制を活用してエンジェル投資家を味方につけてほしいと語る元日本IBM社長・北城恪太郎氏。後編では、エンジェル投資家が会社を成長させる応援団になってもらう秘策を伺いました。
1944年生まれ。
慶應義塾大学工学部、カリフォルニア大学大学院(バークレー校)修士課程修了。
日本アイ・ビー・エム株式会社代表取締役会長、経済同友会代表幹事などのほか、文部科学省中央教育審議会委員など公職も多く歴任。国際基督教大学理事長
応援団になってくれる社外取締役を探せ
北城:会社ができて事業がこれならいけそうだなと思えるようになったら、社外取締役をお願いすると、より経営が成功する可能性が高まると思います。
経営にいろいろアドバイスもらうほかに、社外取締役がいると会社の信用補完につながることもありますし、販売先を探すのにも社外取締役が役に立ちます。
社外取締役には大学の先生とかOB、弁護士でもいいですけれども、特に元経営者の方は経営者としての経験、信用とか、経営者仲間のネットワーク持っているので良いと思います。
例えば、自分たちで大会社に売り込みに行ってもなかなか役員までたどり着くのは難しいです。ですが、元経営者の社外取締役なら、知り合いの経営者に電話して「私この会社の社外取締役やっていて、こういう事業で、非常に将来性があるし、御社の仕事にも役に立つ可能性があるので、担当の役員紹介してください」と連絡ができます。そして説明に行くとちゃんと話を聞いてくれるし、良ければ買ってくれます。
そういう意味で社外取締役が応援団になるので、いろんなネットワークを使って社外取締役に就任してくれる方を見つけたほうがいいと思います。
北城:そうですね。社外取締役がいると、自分たちが決めた通りにすべて進まなくて面倒だと思うかもしれません。ですが、自分たちでは思いもつかないような意見やいろいろな考え方を聞くと、もっといい判断ができます。
今、上場企業は基本的に複数の社外取締役入れる方向に進んでいるので、そういう意味でもベンチャーの段階から社外取締役に1人、できれば2人参加していただくことは良いことだと思います。
本来、取締役っていうのは取り締まる役です。株主がお金を出す。でも株主は日々投資した会社の経営に参加できないから誰か信頼する人に取締役をお願いして、取締役が社長、副社長を探してくる仕組みです。ところが、日本の場合には社長に一番権限があって、社長が誰を取締役にするか決めて、株主総会にかけている。これは本来の組織運営とは違うと思います。
北城:その通りです。社員は執行役になるべきです。取締役はできるだけ独立して、会社の経営が健全に行われるように監督し、時には支援をする。だから「取り締まり」役ですし、本来は外部の人が良いのです。
ベンチャー企業の活躍が日本には絶対に必要。だから投資をする。
北城:今社外取締役を引き受けているのは2社です。私がベンチャーを応援しているのを知っている方や会社から時々頼まれますが、十分な時間を使えなくなるので3社を上限にしています。
北城:そうですね。もちろん社外取締役だから、毎月取締役会があります。あとは社外取締役をやってないベンチャーにも何社かエンジェル投資をやっています。農業関係、介護関係だとか、ネット販売の会社とか。私が社外取締役やっていた会社にいた社員が外へ出て独立した会社もあります。
北城:私は投資が目的というよりも、日本でもっとベンチャー企業がたくさん出ることが必要だと思っています。エンジェル税制っていう良い制度もあるけれど、なかなか知られてないですしね。
あと、最近一番注力しているのは若い人を育てることで、国際基督教大学の理事長を務めています。また、ISLっていう将来のリーダーを育てるNPOの理事もやっています。
北城:若い人と若い会社を育てる。それが日本の将来に重要だと思って、社会貢献のつもりでやっています。
北城:そうですね。経営者OBは、ベンチャー企業の社外取締役やるか、大学の理事、評議員に就任して教育分野で社会貢献したほうが良いのではないかと思っています。その方が活き活きしているかもしれません(笑)。
日本では起業家も少ないですが、エンジェル投資家も少ないのです。もっとエンジェル投資家が増えたほうがいいと思いますが、個人で大きな資産を持っている人は日本にそんなに多くいません。
ベンチャー企業って、事業がだめでもう見切らなきゃいけない時に借金があるとなかなかやめられないんです。無理してでも続けようとして、より大きな負債を作ってしまうことがある。しかし、出資を受けて創業したベンチャー企業は、事業に失敗した時には見切りをつけて、また次の事業を考えてもいいわけで、出資の方がやめる判断がしやすいと思います。
北城:創業した段階ではなかなか収入がないので、毎月出てくお金を抑えながら次の資金調達を早めにやっていくことが必要だと思います。あと3か月か6か月で資金がなくなってしまうような段階になると次の資金調達もなかなか難しいので、できるだけ早めに、できれば1年ぐらい前から次の1年のための資金を確保しながら経営したほうがいいと思います。
野球で言うと、大企業は空振りを3回できます。1回失敗しても大丈夫。でもベンチャー企業は1ストライクで資金が続かなくなってアウトです。だからお金を集めるのは大胆に集めて、使うのは慎重にというのがいいと思います。あとは不屈の精神というか、もう絶対やり抜く、何があってもやり遂げるっていう熱意をもって取り組んでほしいですね
不屈の精神を持って
やり抜く
(取材協力:日本アイ・ビー・エム株式会社 名誉相談役 北城 恪太郎)
(編集:創業手帳編集部)