経営者から横浜市長へ “おもてなし経営”から生まれた林文子氏の組織論

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【第一回】横浜市長 林文子氏インタビュー

(2016/04/20更新)

BMWやダイエー、日産など、名だたる大企業の経営職を経て横浜市長へと転身を遂げた林文子氏。セールスウーマンから実力で大企業のトップへ登りつめた成功の背景には、どんなストーリーがあったのでしょうか。市長になるまでの成功の転機、女性の強みを活かした組織運営の手法についてお話を伺いました。

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林 文子(はやし ふみこ)
東レなどを経て、1977年ホンダ販売店に入社。トップセールスとして活躍。その後、ファーレン東京㈱(現フォルクスワーゲンジャパン販売㈱)代表取締役社長、BMW東京㈱代表取締役社長、㈱ダイエー代表取締役会長兼CEO、日産自動車㈱執行役員等を歴任。2009年8月、横浜市長に就任、現在2期目。2014年在日米国商工会議所(ACCJ)「パーソン・オブ・ザ・イヤー」等受賞歴多数。「おもてなしの行政サービス」を信条に、保育所待機児童対策や放課後児童の居場所づくりなど、女性の活躍支援に力を注ぐ。

「おもてなし経営」でトップセールスに

ー数々の会社を渡り歩き、現在市長を務められていますが、どのようなキャリアを歩まれたのでしょうか。

:小学生のころから母とふたり暮らしで、苦労する母の背中を見て育った私は「少しでも母に楽させてあげたい」と、高校を卒業してすぐに当時の花形企業だった大手繊維メーカーに就職しました。

でも当時は、仕事の内容に男性と女性ではっきりとした差があり、女性は男性のアシスタントというのが当たり前の時代でした。

「もっとやりがいのある仕事がしたい」「男性と同じように責任ある仕事がしたい」と転職を繰り返し、31歳の時にようやく出会ったのが自動車販売の仕事でした。

最初は、女性には無理だと断られましたが、3ヶ月だけでもとお願いして何とか採用していただきました。

「お客様のお役に立ちたい」「喜ぶ顔がみたい」と、お客様に寄り添って、相手の気持ちを大事にする「おもてなしのセールス」を徹底した結果、トップセールスになることができました。

支店長に抜擢された時には、営業成績の振るわない部下たちに寄り添い、褒めるうちに、営業成績が最低だった支店がトップの成績をあげるようになりました。

その後、4つの企業の経営者を経て市長になりましたが、社会人としてスタートを切った当時はこのような未来が待っているとは思いもよりませんでした。

ー名だたる企業の経営を経験されましたが、転機となるエピソードと、なぜ経営者としての道を選んだのかを教えてください。

:最初の転機は、当時女性がほとんどいない車の営業職に就いたことです。

「おもてなしのセールス」は私が第一号で始めたと自負しています。

今では当たり前のことですが、当時はなかなか理解されませんでした。しかし、数字が全ての世界だったこともあり、トップセールスを続けることができました。

社長職への打診をいただいた時は本当に驚きました。不安がなかったと言ったら嘘になります。

でも、お声掛けいただいた外国人経営者に「私の会社の社員を幸せにしてほしい」と背中を押され、思い切って飛び込みました。

また、女性経営者が本当に少ない時代でしたが、「あなたに向いている」と言ってくれた先輩女性社長がいらしたことも心強いことでした。

厳しい選択を迫られた時には、難しい方を選ぶ。そうすることで、新しい世界が開けてきます。

私は尊敬する経営者の本を常に枕元に置き、苦しいとき悩んでいるときだけでなく、時間があるときには折に触れて読み返してきました。

また、遠く海外で活躍する女性政治家にエールを送ることで自らを鼓舞することもありました。

ロールモデルを持つことも、壁を乗り越える力になると思います。

女性の共感力を生かした「調和の時代」へ

ー女性が代表として組織を運営していくなかで、女性起業家へ向けての注意すべき点やアドバイスはありますか。

:女性ならではの強みである共感力、受容力を生かし、男性中心の組織に女性が参画することで、組織が活性化し業績があがることを私自身体験してきました。

あらゆるビジネスにおいて、人の気持ちに寄り添う共感力や、相手の立場を思いやる受容力は、素晴らしい強みになると思います。

ぜひ、その素晴らしい強みをご自身の事業に活かしていただきたいと思います。

また、事業のグローバル化や消費者ニーズの多様化が進む中で、女性ならではの多様な生活体験や価値観は、新たな商品やサービスの創造につながる大きな可能性を秘めています。

起業は、そうした可能性を最大限に活かせる選択肢だと思います。女性ならではの感性を活かして積極的にチャレンジしていただき、経済の活性化にも大いに貢献していただきたいと思います。

女性と男性の性差は当然あるのですが、これからは批判し合うのではなく、お互いに良いところを活かし、寄り添って、力を出し合っていく「調和の時代」だと思います。

女性が組織の代表となることで、女性も男性もいきいきと働ける企業が増えていくことを期待しています。

ー林市長は“女性が働きやすい、働きがいのある都市”を目指していますが、女性が活躍していく強みとは何でしょうか。

:女性活躍支援は、50年以上にわたり男性中心の社会で働き続けてきた私の使命です。

少子高齢化とそれに伴う生産年齢人口の減少といった局面において、「量」の観点から女性の社会進出の必要性が語られますが、「質」の面からも極めて重要であることを幾度となく体験しました。

男女が共に強みを活かし合うことで、組織は活性化し成果につながります。

女性のしなやかな感性や多様で柔軟な視点を商品開発やマーケティングといったビジネスの現場に活かすことで、新たな市場が生まれ、豊かで持続的な社会の発展と経済成長を実現できると確信しています。

日本の成長戦略の柱には「女性の活躍促進」が掲げられています。

平成27年8月には「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」が成立し、女性の活躍推進は国・自治体・企業が一丸となって取り組む新たなステージに突入しました。

“日本一女性が働きやすい、働きがいのある都市”へ

ーでは、横浜市としてはどのような女性への支援を行っていきますか。

:横浜市はこれまでも女性の活躍推進が「成長の鍵」であると考え、女性の就業・起業の支援、ネットワークづくり、ワーク・ライフ・バランスの推進など様々な取組に力を入れてきました。

しかし、現状を見ると結婚・妊娠・出産を機に仕事を離れる女性が7割にのぼり、女性の年齢階級別労働力率、いわゆる「M字カーブ」は全国と比較しても底が深いなどまだまだ課題が山積しています。

こうした状況に、より有効なアプローチができるよう3月に策定した「第4次横浜市男女共同参画行動計画」には、女性活躍を阻むあらゆる壁を打ち破るため、働きたい・働き続けたい女性への就業等の支援や男性中心型労働慣行の見直しなどに向けた具体的な取組とその目標数値を盛り込んでいます。

ー目標数値というと、どういった指標があるのでしょうか。

:KPIとして「管理職に占める女性割合」のほか、新たに「女性有業率」や「男性の家事・育児・介護参画の割合」などを数値目標として示しています。

こうした目標を達成するためには、行政だけではなく、市民の皆様や、企業・NPO等の皆様の力を結集し、オール横浜で取り組む環境づくりが必要です。

現状では、既に女性活躍支援に相当程度取り組んでいるご企業から、色々なご事情で着手できていない事業所まで様々あります。

そこで、女性の活躍推進のための様々な主体によるプラットフォームの構築を進め、ベストプラクティスの共有や合同研修などを実施していきます。

また、女性活躍に取り組む企業を積極的に評価し、公共調達の受注機会の増大を図るなどの働きかけも行っています。

 “日本一女性が働きやすい、働きがいのある都市”を実現することで、男性にとっても活躍の場が広がります。

女性も男性も、いきいきと活躍できる真に豊かな社会の実現に向け、横浜市は市民の皆様、企業や事業者の皆様とともに邁進し、日本をリードしていく決意です。

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(取材協力:横浜市長/林文子)
(編集:創業手帳編集部)

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