飲食特化クラウドファンディング「キッチンスターター」活用術

飲食開業手帳
※このインタビュー内容は2016年05月に行われた取材時点のものです。

無料でお金とお店のファンを集めるコツ 代表・渡辺氏インタビュー

(2016/04/21更新)

日本で初めて食に特化したクラウドファンディングを展開するキッチンスターター。日本ではまだ馴染みのないクラウドファンディングをインフラ化させようと挑戦している渡辺氏に、新しい活用方法を伺った。

渡辺 浩志(わたなべ・ひろし)
幼少期から実業家である父親の影響を受け、中学生時代から様々なビジネスに携わる。明治学院大学卒業後、総合商社にて携帯関連ビジネスに着手。中国・韓国等の基幹部品を初めて日本に導入。その後英国Symbian社にて、日本支社の立ち上げ、ライセンス拡大に従事。2003年からKLab社に参入し、黎明期から営業部長、事業部長等を歴任。大規模法人向けのビジネス戦略立案、責任者として活躍。2010年からフリービット株式会社にてクラウド事業の総責任者として参画。2013年株式会社セマンティックゲートの設立を経て、2015年株式会社キッチンスターターを設立し現在に至る。

お金もファンも、無料で集められる?一石二鳥のサービス

ーキッチンスターターというサービスを詳しく教えてください。

渡辺:キッチンスターターは食に特化したクラウドファンディングです。

クラウドファンディングとは、ネット上でPR活動をして支援者(資金提供)を募り、集まったお金でプロジェクトを実行するサービスです。

キッチンスターターでは食に特化した事業であれば、不特定多数に対するリサーチと、マーケティングとPRを無料でおこなえるのがメリットです。

プロジェクトを登録すると、スタッフが丁寧にヒアリングして、セールスポイント・アピールポイントを踏まえて、プロジェクトページの制作を代行します。必要に応じ動画制作・写真撮影までも行います。

プロジェクトは紹介ページに掲載され、私たちはプロジェクト達成の支援をします。

活動への想いに共感して支援したいと思った人が、プロジェクトにお金を出資する仕組みです。

キッチンスターターは、資金調達面の機能はもちろん、それと同時に新規オープンする飲食店にとって最も重要である「お店のファン」も同時獲得できるというメリットがあり、まさに一石二鳥のサービスなのです。

ー現在クラウドファンディングサービスは増えていますが、実際にどれくらい資金調達ができるものなのでしょうか?

渡辺:クラウドファンディングですから当然資金を集めることはできます。

しかし、単純に開店資金が集まる夢のツールではありません。

アイディアはあるけれどお金が全くないという方は現段階では達成は難しいと思います。

ネットでお手伝いできる部分は、1を10にするとか、ひょっとしたら100にする拡大の部分です。

厳しいようですが、自分の企業を0から1にするにあたり、完全に人のお金だけでやるのは良くないと思います。

ーなるほど。では、何を目的に利用すればよいでしょうか。

渡辺:「リサーチ」「マーケティング」「PR」です。飲食店のプロモーションに長けたスタッフが、といっても今は私自らが(笑)、コンサルも含めこれら3つのお手伝いをしています。

プロジェクトが成功しても失敗してもある程度の露出があり、作成した動画等はご自身のHP等でもご使用いただけるので、活用の価値は十分あると思います。

つまり、最悪失敗しても無料でプロモーションができる。更には、プロジェクト終了後も支援者とコミュニュケーションが図れるよう、無料HPとブログ開設ツールの制作に取りかかっています。

また、こちらは有料ですが、動画を使ったPRには特に力を入れています。

なぜなら、動画は食べ物との相性がよく、字幕にすれば海外の方へのアピール性も抜群だからです。

スタッフが入念なヒアリングをもとに撮影・製作しており、プロジェクトの持つ魅力を存分にPRできるので、オススメです。

ーグルメ系のクーポンサイトは数多くありますが、違いはどういったところでしょうか。

渡辺:お店のオーナーさんにたくさんお会いましたが、クーポンを出してよかった!とおっしゃる方はゼロでした。

理由は、値引きをすることで、値引き目当てのお客さんしか来ないため、リピーターにならないからです。

働けば働くほど儲からない、これではお店のモチベーションも下がります。

従来のグルメ系クーポンサービスは、お店に「理不尽な値引き」を強制しすぎました。

私はこの悪循環を断ち切りたいと思っています。

キッチンスターターは逆の発想で、理不尽な値引きをするくらいなら、特別な理由をつけることで値上げをしたほうが良いと考えています。

出資したからこそ食べられるメニューや座れる席、入れるお店などを、リターンとして、支援者に提供するのです。

また、使う側からすると、「クーポン」という言葉の響きが悪いですよね。例えば、クリスマスに女性とレストランに行くとします。

その場で2割引きのクーポンを出す男ってどうですか?一方、「このレストランに出資したんだ。」って言われたら、なんか格好良くないですか?(笑) 表現一つでがらりと印象がプラスに変わるのです。

オススメの活用法と、絶対使っちゃいけないNGワード

ーPR動画も作れたり、無料でプロモーションできるって至れり尽くせりですね!どのように活用してもらいたいと考えていますか?

渡辺:プロジェクトが成功した時に支援した人が参加できるパーティーの開催や募集期間中にレンタルスペースを借りて試食会など、イベントの要素を盛り込んだ企画をしてほしいです。

なぜなら、クラウドファンディングは、プロジェクト作成者と支援者が「あなたのアイデアを応援する」と言う気持ちで交流できる、唯一の「コミュニケーションツール」だからです。

これらを通して、飲食店を一緒に育てていきましょうという関係性を作るのが良いと思います。

また、レストランとはあまり縁のない業態との融合も大歓迎です。食に関連するものと考えるならば、家電・調理器具・食器など、何でもいいのです。

最近では、中国の人達が10万円の電気釜を3つ4つも買って行く姿を目にしますね。

例えば、中国人向けに20万円で限定の最高級の炊飯器を作りませんか?というプロジェクトであれば、来日中国人をレストランに連れていって炊飯器をPRしたり、有名なお米の生産地へ行き、お米を炊いて食べてもらったりといった形で炊飯器の販売もできます。旅行商材との融合です。

キッチンスターターを活用することで、その場でクロージングまで持っていけるようなイベントと体験連動型の新しい形のマーケティングも実現できるのです。

ー具体的にPRにおけるポイントや注意点はありますか?

渡辺:2つNGワードがあります。「おいしい」と「安い」です。

これらは主観なので、こちらから「美味しいですよ」とアピールしてお店を作るからお金を出してくださいと言っても、お店が開店したら行けばいいやとなるのが人間の心理です。

有名なシェフでない限り、1割2割安いからと言って、簡単には動かないですね。

それより、限定メニューや、限定の席、限定のお店など、“限定”のほうが、心が動きますよね。

ー実際のプロジェクトで、どのような成功例がありますか。

渡辺:大阪に4軒パリに1軒のお店を持つフレンチレストランのオーナーシェフが、ショコラ工房「CHOCOLABO(ショコラボ)」を京都にオープンさせました。

このショコラ工房「CHOCOLABO(ショコラボ)」は、障がい者の雇用の場の創出と賃金の改善という目的を持って、開設されました。

そこで、その社会的問題のアピールで支援者を募ったところ、目標金額 1,000,000円に対して1,333,000円と、133%の金額を集めることができました。

支援者の総数は230人を超えています。金額以上に、アイデアに共感する支援者の母数を獲得できた事が非常に大きいと考えています。

ちなみに、なぜショコラ工房かというと、障がい者の雇用を行う上で、チョコレートを作るには刃物ややけどを負うような熱い工程がなく、ほぼ常温といった快適な作業環境で行えるので、体に負担が掛からないように考慮しているからです。

「料理人としての立場から障がい者の雇用改善に少しでも役に立ちたい。」と考えるこのシェフとは、おそらく2回目3回目をまたキッチンスターターで一緒にやっていく予定です。

新しい“食のITバリューチェーン”を目指して

ー今後はどのような展開を考えていますか?

渡辺:まず、食のクラウドファンディングの確率、レストラン、生産者、その他食に関する要素が集まる場として、プロジェクトの魅力向上に努めます。より実験的な要素も試せる場として、アイディアが良くも悪くも客観的に評価して貰える環境を創ります。

そして、クラウドファンディングの良さである「アイディアを応援し」「共に育てる」と言う観点に基づく、飲食メディアを創ります。

既存の飲食メディアと違い、顧客が一方的にお店を評価するのでもなく、店側が一方的にクーポンをばらまくのでもなく、お店と顧客が対等に交流できるメディアです。

だからこそ、クラウドファンディングで集まった支援者が顧客となり、ずっと一緒にいられるのです。

また、雑誌社や大手メーカーと提携して、様々な企画をしています。

例えば、新たな味に果敢に挑戦しているメーカーで、自分だけのオリジナルアイスを作ったり、今は潰れてしまった当時の人気レストランを、期間限定で復活させたり、子どもの頃結局当たりを引けなかった駄菓子をもれなく当たり付きにしたり。

誰しも、欲しいものや夢のあるものに投資をしますよね。

これらの様々な要素を融合して、新しい“食のITバリューチェーン”を創りたいと考えています。

原材料のレストランとのマッチングから料理やサービスとなって顧客に届くまで、その一連に付加価値をつけたいのです。

原材料のマッチングという点では、特にマイナーでも一所懸命良いものを作っている産地の生産者に対して積極的なアプローチをしています。

例えば、四日市で作られている和牛。四日市の隣は松坂です。

この時点で不利です(笑)。似たような和牛を作っても、価格は松坂牛の方が上。一所懸命に作っているけれど、PRや、どうやって製品にするか、マーケティングするかという手法を多くの生産者は持っていない。

今までのITサービスの提案は「値下げ」。そこで我々の出番があります。美味しい、安いではなく、新たなブランドとなり得る要素を分析して、付加価値を与えてストーリーにするのです。

「限定で高級なものを、それを求める適切な価値が分かる人に売りませんか?」というアプローチを、行政とも連動しながら、海外も視野に入れて形にしてゆきます。

今後も、新しい町や村おこしをして日本の農業や生産業を盛り上げる活動にも力を入れていきます。

(取材協力:キッチンスターター/渡辺 浩志)
(編集:創業手帳編集部)

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