吉田 行宏インタビュー後編「正解を選ぶことはできないが、選んだ道を正解にする努力はできる」

創業手帳
※このインタビュー内容は2018年10月に行われた取材時点のものです。

人が成長していくために必要なこと

(2018/10/26更新)

前編では、株式会社アイランドクレア 代表取締役の吉田 行宏氏に、株式会社ガリバーインターナショナル(現株式会社IDOM)時代のエピソードや、現在の事業について語っていただきました。
後編では、著書「成長マインドセット」の内容に触れながら、経営者・リーダーに必要なことについて、お話を伺いました。

前編はこちら→ガリバーを創業4年で上場へ。「成長マインドセット」著者 吉田 行宏インタビュー(前編)

吉田 行宏
株式会社アイランドクレア代表取締役。株式会社LIFE PEPPER代表取締役。株式会社POL取締役。元株式会社ガリバーインターナショナル(現株式会社IDOM)専務取締役。創業4年でガリバーを全国展開させ同社を株式公開に導く。10年で1,000億円の売り上げを達成した日本でも数少ないハイパーグロースカンパニー。FC事業・経営戦略・マーケティング・人事・教育・IT・財務等の担当役員を歴任。2012年に退任するまでの18年間、一貫して人事・評価制度の構築、運営及び社員・幹部育成、教育を行い、独自の研修や育成理論を構築する。ガリバー退任後は、若手経営者の育成支援と、共同での新規事業創造のため、株式会社アイランドクレアを設立。25社以上の企業の役員、戦略顧問、出資支援を行っている。

インタビュアー 大久保幸世
GMOメイクショップ取締役として同社を、後発事業者の立場から、法人向けECシステムで導入22,000社の日本トップシェアまで押し上げる。2014年にビズシード社(現:創業手帳)創業。豊富な事業運営・経営支援の経験を生かし、日本中の創業者へ「明日使える実践的な経営ノウハウ」を届け、日本企業の廃業率の低下・起業成功率の向上を通じて経済を活性化させることを使命としている。これまでに数百回に及ぶセミナーやTV出演の実績あり。ビズシード社創業後もベンチャーイベント・大学・ビジネススクールでの講演多数。

体験が人を成熟させる

大久保:では、著書の内容について少し触れていきます。書籍で「氷山の一角のように、見えているところが仕事での成果」だと書かれています。すると、水面下にある氷の塊は成果を出すための必要不可欠な要素だと思います。この部分を大きくし、成熟させていくためには、どのようなことに気をつけたらいいのでしょうか?

吉田:拙著「成長マインドセット」では氷山(アイスバーグ)モデルという考え方で、水面下に3つの重要な要素「意識・想い・人生哲学」「ふるまい・習慣・行動」「能力・スキル」があり、これらを大きくしていくことで目に見える成果がでると書いています。

成長マインドセットのホームページより引用

この3階層をどう大きくしていくかですが、例えば起業して成功(成果を出す)するためには、私は2つのタイプがあると思っています。
「最初から絶対に成し遂げたい高い目標がありスタートするタイプ」と「当初はそこまで大きな目標はなく、しかしやりたいことがあり、コツコツと確実に良い仕事をして徐々に成長していくタイプ」です。
この2つのタイプによって、水面下の3階層を大きくしていくプロセスに違いがあることを知っておいたほうがいいですね。

例えば、前者の「最初から高い志タイプ」であれば、最下層の「意識・想い・人生哲学」は大きいので、とにかく失敗を恐れずに小さいトライアンドエラーを繰り返す(第二階層の行動)ことで上層のスキルが身についていきます。

後者の「ステップアップタイプ」では、「自分には強い信念や使命感がない」とマイナスに考えないことですね。
好きなこと、やりたいことを確実に積み重ねることで、徐々に自分のミッションやビジョンがぼんやりと見えてきます。氷山の最下層の部分が少しづつ大きくなるということですね。
このタイプでは、無理に自社のホームページ用に腹落ちしないミッション・ビジョンを書くよりも、上記のプロセスの中で腹落ちしてきたら明示するでもよいと私は思います。定款のように、決めないと事業を始めてはいけないという法律もありませんし(笑)

大久保:確かに、焦らずに目の前のことをコツコツこなしていくことによって見えてくることがありますよね。

吉田:はい、結果に焦りすぎたり、「◯◯でなければダメ」といった極論に流されないことも大事ですね。

そして、両タイプに共通して重要なことは「ふるまい・行動・習慣」の部分ですね。
長時間机上で考えているだけでは、体験学は蓄積しませんし、継続し続けることなしにアイスバーグは大きくなりません。

そして、もう一つアイスバーグを大きくするのに効果的なことは、自分が憧れている人(ロールモデル)のアイスバーグをベンチマークすることです。

「彼のアイスバーグはどんな形で、要素な何だろう?」
「その人が自分の立場だったら、どのような行動をするだろう?」
「この人はなんでこういう考え方をするのだろうか?」
といったことを考えてみると良いですね。

それから、尊敬できる彼らのふるまいや行動を真似てみて、そこから得た気づきや腹落ちしたものを自分のものにしていくのもいいと思います。

目指す中長期の目標は、高い山の頂上が霧に包まれやすいように、どうしても漠然とモヤッとしやすいですね。ですからロールモデルを完全コピーするわけではなく、その人の原理原則的、本質的な部分をマイルストーンとすることで、目標に向かう道中に迷いづらく、正しい道を見つけやすくなります。

「心のブレーキ」を踏まない方法

大久保:書籍の中で、成長を阻害する「心のブレーキ」について触れています。このブレーキを踏まないために、まず意識しておくことはなんでしょうか?

吉田:おっしゃる通り、「心のブレーキ」とは成長を阻害してしまうものですが、多くの方がこの存在を意識していません。まずは、ブレーキの存在を知ることです。「ブレーキを踏んでいたんだ」ってわかるだけでも変化があります。その次に、「ブレーキを踏まないほうが良い」ということを、感情的には難しいと思いますが、論理的には理解する努力をすることです。

「ブレーキを踏まないほうが良いよね」、「それがわかったら、ブレーキを踏まないようにするにはどのようにすれば良いのか考えましょう」という感じで、一歩ずつ進んでいくと、悩みブレーキが少しづつ減少していくことに気がつくと思います。

大久保:往々にして考え方の問題だということですね。

吉田:そうですね。ブレーキの存在を知るだけで、「だからこんなに大変だったのか!」と気付くことができます。自分の状況を客観視できるので、次の対策が立てやすくなります。

大久保:「心のブレーキ」の存在を理解できたら、次はどういう行動をすればいいのでしょうか?

吉田自分でコントロールできることだけにフォーカスすることです。

例えば、事業でお店を始めて、頑張っているつもりなのにお客さんが来ないときにどう考えるか。
「自分はおいしいものを提供しているのに、お客さんがこないのはおかしい」と考えても、お客さんの気持ちや行動はコントロールできませんよね。この分かりやすいケースでは、皆さん納得されるのですが、実はもう少し複雑な仕事だと、この考え方に近い思考になってしまう人は実はたくさんいます。
自分がコントロールできないものには「悩まない」「悩みブレーキを踏まない」ように徹底し、自分ができる行動や戦略にのみフォーカスすることは重要です。
書籍でも書かせていただいている「結果は選択できないが、行動は選択できる」ですね。

大久保:なるほど。コントロールできるのか、できないのかを、まずは分けることが必要なんですね。

吉田:そうですね。

悩んでいてしんどい時って、だいたい結果を気にしすぎている時なんです。
例えば、今こうやって取材を受けていますが、「うまく喋ろう、よい結果を出そう」と意識しすぎると大概いい結果になりません。
結果がどうであれ、「本心のままに、真摯に喋ろう」という意識で発言をすることによって、自分でも納得できます。そして、結果が思っていたものと違ったとしても、それはコントロールできないことがだからしょうがない、と受け入れるようにしています。

自分の中にある「大きな子供」の存在を認めよう

大久保:書籍の中で、様々な面白い例えが出てきます。その中の一つで私たち大人の中にいる「大きな子供ブレーキ」というものが出てきます。これについて、教えていただけませんか?

吉田:「大きな子供ブレーキ」とは、好ましくないネガティブな感情によって、普通の大人同士のコミュニケーションでは出ない態度や行動が出てきてしまうことです。

その特徴はこんな感じです。

・自己中心的
・他者を気持ちを理解しない
・好ましくないプライド・執着で行動する
・トラウマに影響されすぎている
・正しい軸がない

人は心の中にこういった「大きな子供」を抱えています。

皆さんの職場でも、チームがギクシャクしたり、会議が非生産的な議論になったりした場合、「大きな子供ブレーキ」を踏んでいるの人の仕業かもしれません。
また、家庭ではより「大きな子供ブレーキ」が出やすいですね。家族に対してはより甘えが出てしまうからです。もちろん多少の甘えは許されるかもしれませんが、親しきなかにも礼儀や思いやりは必要で、「大きな子供ブレーキ」が全開では喧嘩ばかりの生活になりかねません。

大久保:自分の中にいる「大きな子供」を認めたくない、と思う方もいるかもしれませんね。

吉田人間であれば、だれでも子供の部分はあります。社長やリーダーへのアドバイスとしては、自分の中や、部下にいる「大きな子供」をまず認めることが、チームビルディングの第一歩となることを認識してください。その前提の上で、どのようにチームが円滑に業務を進めることができるかを考えることがチームマネジメントでもあります。

目標を決めたら、好き嫌いで行動を選んではいけない

大久保:吉田さんにとって、心に残った言葉・心の支えになった言葉はありますか?

吉田私の父親がよく言っていた言葉に、「我以外皆我師なり」というものがあります。すべての人は先生であり、学ぶことはいっぱいあるんだよ、ということですね。そのためには、謙虚な心や姿勢が必要だという意味を含んでいると思います。

「自分は十分できている」と思った瞬間に、成長は止まります。
感謝の気持ちを持って、様々な人から様々なことを学ぶ機会があるということは、すごく大事なことですね。

私もこの年になってもまだまだ未熟者で、学ぶことは沢山ありますし、新しいことに挑戦しているので失敗も沢山します。

大久保:目標の設定や、そこを目指す際に注意すべきことがあれば教えていただけますか?

吉田目標を決めるまでは好き嫌いでいいのですが、目標を決めたら好き嫌いで行動を選んではいけないと私は思っています。例えば一年後にエベレストに登ると目標設定したとします。これはその人の人生での意思決定なので、登る理由が「登りたいから」で構わないと思います。ただ、とても高い危険な山なので、そのためのプランやトレーニングメニューを綿密に立てる必要がありますよね。
そして、そのプランを実行するときに「自分はトレーニングがあまり好きではないから、サボりたい」という感情は好ましくないということです。

私の例でいうと、今回の書いた「成長マインドセット」を、なるべくたくさんの人に読んでいただき、役に立ててもらうという目標を立てました。そのために考えられる施策は感情に関係なく実行しています。
実は私は、取材や、講演で人前で話すのが苦手なのですが、「たくさんの人に本を伝える」という目的のために好き嫌いを封印しました。

正解は選べない。選んだ道を正解にする

大久保:吉田さんのこれまでのキャリアで、決断に悩まれた事はありますか?また、その時はどう対処されたのですか?

吉田:ガリバーの事業展開はとても早かったので、高い山にすごいスピードで登っているようでした。そんな中で急激な店舗展開の質と量のバランスは、難しい意思決定の一つだったと思います。

「これだけ一気に展開していって大丈夫なのだろうか?」とか「もう少し減速して、店舗の質の向上を優先すべきでは?」と考えた時はあります。積極的店舗展開と、減速の両方を選択することはできません。必ずどちらかを選択しなければならないですよね。
WebマーケティングでABテストという、AとBの広告を同時に試して、結果の良い方を採用し拡大展開する手法があります。すべての意思決定にこの方法が取れればいいですが、実際には難しいですよね。

その際に注意したいことがあります。より成功の確率の高い戦略を考えることはもちろん重要ですが、「どちらかの選択が必ず正解」と思わないことです。
タイムマシーンで未来に行って確認できれば別ですが、未来は決まっているものではなく、選択したプランの実行の仕方によって訪れる未来は変わってきます。

「選択の時点で正解は選べない。選んだ道を正解にする。」という考え方が重要だと私は思います。
そして、選んだプランの実行途中で「このプランは正解だったんだろうか?」と悩んで、知らぬ間にブレーキを踏んで減速するのではなく、「この選択を絶対に正解にするぞ」という覚悟で行動したほうが、成功の確率が上がると私は思います。

大久保:ご自身がビジネスをやってきて、嬉しかったことと大変だったことは?

吉田これは難しいですね・・・。今思うと、ほとんどの出来事が大変でしたが、嬉しいことでもあったと思います(笑)。
しんどいだけ、楽しいだけという一方どちらかではなく、大変だけども成長の実感や人のためになっている実感と共存している感じですね。多分辛いだけの事業は続かなかったでしょうし、楽しいだけでは大きな成長はできなかったと思います。

例えば、ガリバーでの短期間での上場までのプロセスは、ある意味修羅場でしたが、不可能と思われる挑戦の実感がありましたし、社員全員で山に登っている楽しさもありました。

会社の成長に必要な4つの要素

大久保:最後に、起業家に向けてのメッセージをお願いします。

吉田:創業期は、自分がプレイヤーとしても頑張らないといけない時期です。ですが、自分自身だけでできることには限界があります。起業したら、チーム・組織を作らなければいけない段階がくることをわかっておかないといけません。事業を立ち上げながら強い経営チーム・経営メンバーを育てていくのは大変ではありますが、とても大事なことですね。

人は採用するにしても、育成するにしても時間とお金がかかります。短期的には変化が見えづらいかもしれませんが、長期的に育った人材は会社に大きな貢献をもたらします。その視点を忘れずにいてほしいですね。

最後に、会社が成長するための重要な4つの要素についてお話しします。
会社が成長するために、私は「ミッション・ビジョン」、「戦略力」、「組織力」、「市場創造力」が重要だと考えています。この図がそうですね。

私が知る成長している会社は、正しく強い「ミッション・ビジョン」に向けて、他社に勝るユニークな戦略を持ち、その戦略を素早くしっかり実行できる両輪としての強い組織力があります。そして、その実行を継続して、社会に新たな価値を提供し、イノベーションを起こして、市場を創造しています。
これから起業する、または起業したての皆さん、そして現在会社を成長させようと頑張っている皆さん、是非、この4つの要素を理解して、社会に大きく貢献していきましょう!

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(取材協力:株式会社アイランドクレア/吉田 行宏
(編集:創業手帳編集部)



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