商標権に8億円!「東京ガールズコレクション」が「鷹の爪」のDLEに買われた理由

創業手帳

強み(ブランド力)×強み(マーケティング力)で、商標権の価値は大きく跳ね上がる!


(執筆:「ベンチャー支援・外国商標・マドプロに強い」髙橋伸也 弁理士)

(2015/10/16更新)

商標権の売買金額が表に出てくることは珍しいので、商標権に8億円と聞いてビックリされた方も多かったのではないでしょうか。

売り手のファンドの保有者、株式会社ドリームインキュベータのプレスリリースによれば、2012年2月に「東京ガ-ルズコレクション」関連の商標権に5億円で出資を行い、2015年6月に8億円で売却したので3年ほどで3億円(!)の収益を得たことになります。

また、そもそも商標登録自体は10万円前後から取得可能なので、商標登録が数件あるのを考慮しても取得価額の千倍程度に価値が膨れ上がったこととなります。

どうしてこんな金額になったのか、不思議ですよね?その裏には、二つの重要なポイントがあるんです。今回は、その不思議にせまってみたいと思います。

商標権の価値って、どうやって決まるの?

二つのポイントに迫る前に、そもそも、商標権の価値ってどうやって決まるのでしょうか。ざっくりと分ければ以下の三つに分けることができると思います。

コストアプローチ

商標の取得価額やそれまでの更新費用などに基づく計算方法です。ほとんど使っていない商標の譲渡を受けるような場合に採られるアプローチです。

マーケットアプローチ

類似の取引事例などを参考にして、市場価格を算定する計算方法です。商標の場合は不動産などに比べて流通性に乏しいですし、あっても金額が表に出ないことがほとんどなので、あまり使われていません。

インカムアプローチ

最も納得感の高い数字が得られるのが、インカムアプローチです。その商標を使用することにより今後追加的に得られる収益をもとに計算することとなります。

画一的な数字が出るわけではなく、企業さんごとの展望によって大きく数字は変わってきます。つまり、うまく活用できる企業ほど高額で商標権を購入できることになります。

今回「東京ガールズコレクション」に8億円の値がついたのは、インカムアプローチを採用したからにほかなりません。細かい計算式は抜きにして、なんでこんなに高額になったのかを見ていきたいと思います。

ポイント1:強力なブランド力(信用力)

当たり前のように聞こえるかもしれませんが、「TOKYO GIRLS COLLECTION」に強力なブランド力、つまり、需要者の方々の信用が積みあがっていたからこそ今回の高値がついたものと思われます。

一口にブランドといっても、ただのブランドではなく、突き抜けたブランドである必要があります。

その点、「東京ガールズコレクション」ブランドは、いわゆるF1層(20歳から35歳の女性)の認知率が驚異の94%(2015年6月8日付DLEプレスリリース参照)ということで、若い女性であれば知らない人はごく少数という希少価値の高いブランドだったわけです。

このような需要者に「刺さる」ブランドは、本来の事業分野の枠を超えて広まっていく可能性も持ちます。たとえば、みんな大好きな不二家のミルキーは、本来の事業分野であるお菓子分野における知名度が突出しているため、携帯電話カバーやクッションなど幅広い分野で派生商品が生まれています。

今回で言えば、「東京ガールズコレクション」のもともとの分野であるファッションイベントとしての知名度が若い女性のほとんどにいきわたるほど強力なものであることから、他分野へ幅広く展開していくポテンシャルがあったわけです。

ポイント2:強力なマーケティング力(展開力)

とは言え、ブランド力だけがあっても、それをうまく展開していかなければ収益化が見込めず、商標権を高額で購入してもその投資金額を回収できないことになってしまいます。

ここに、今回DLEが高額にもかかわらず「東京ガールズコレクション」の商標権を取得した理由があります。DLEは、キャラクターなどが持つ顧客吸引力を活かして、著作権・商標権をガッチリ握った上で、地方自治体と連携したり、海外パートナーとの共同事業を行ったりすることによって急速に伸びてきた企業です。

つまり、コンテンツのビジネス化という領域においては右に出るものがいない企業だったわけです。

そうした企業だからこそ、言い換えれば、自社のアプローチに自信を持っているからこそ、高額で「東京ガールズコレクション」の商標権を購入し、投資金額を遥かに上回る収益を得る算段が出来ているのだと思います。

実際に、同社プレスリリースを見ると、国内外でのガールズカルチャーECの立ち上げ、化粧品・食品メーカー等とのコラボレーション、海外パートナーとの共同事業、インバウンド事業支援サービスなど、さまざまな手立てを用意しているようです。

なんだか、こちらとしてもワクワクしてしまいます。

今回の事例から得られるビジネスのヒント

こうして見ていくと、商標権を利用して莫大な収益を得るには二つのアプローチがあることがわかります。

一つ目は、何らかの分野で突出したブランドを構築することです。いろいろな層にそこそこウケているブランドを作るよりは、どこか特定の層に突き抜けて人気を得ているブランドの方が価値があるように思います。

たとえば、イカしたバイクのハーレーダビッドソン。あの世界観にハマってしまった人は、ハーレーダビッドソンブランドの商品であれば何でも欲しくなってしまうのではないかと思います。

他にも、F1好きな私はフェラーリのスマートフォンケースを愛用していますし、フェラーリTシャツを着ています。

そんな突き抜けたブランドであれば、商業的な活用余地も大きいので、高値で買われる傾向にあります。ターゲットを絞るのは勇気が要りますが、十分検討余地があると言えるでしょう。

二つ目として、コネクションやノウハウを生かして、ブランドを上手に活用できる企業になるという手もあります。

DLEがちょうどそんな企業であり、知的財産権の活用、地方自治体や企業へのアプローチ、海外のパートナー開拓などを通して、一定以上の魅力的なコンテンツさえ手に入ればあとは自社の保有するマーケティングノウハウ・コネクションを活かして収益化を図るという自信が感じられます。

この辺は、マーケティング・メディア畑で歩いてきた人の起業ヒントになるのではないでしょうか。

まとめ

このように分析するのは簡単ですが、この仕組みを実際に築き上げ、自社でリスクをとって実践しているDLEは本当に素晴らしい企業だと思います。商標弁理士の私としては、このような挑戦的な企業が次々と出て、商標権の活用という視点が世の中に広まっていけばいいなと感じる次第です。

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(監修:「ベンチャー支援・外国商標・マドプロに強い商標専門事務所」
フルブルーム国際商標事務所 髙橋伸也 弁理士)
(編集:創業手帳編集部)

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