エクソダス・波の上商店 箕輪 厚介|ヒットメーカーが語る「いま、才能が起業家に集まっている。」 「起業は世界観の競争」

創業手帳
※このインタビュー内容は2017年12月に行われた取材時点のものです。

才能を追い続ける異能の編集者が語る「SNS時代の生き残り方」

(2017/12/29更新)

出版不況と言われて久しい状況ですが、この本が売れない時代にヒット作を連発しているのが幻冬舎。見城徹氏が立ち上げたこの出版社で、若手編集者として『多動力』(堀江貴文)、『お金2.0』(佐藤航陽)などのヒット作を連発しているのが箕輪 厚介氏。幻冬舎入社前に『たった一人の熱狂』(見城徹)を手掛けるなど、時代の最先端の才能を追い続けるヒットメーカーです。本に限らず「NewsPicksアカデミア」「箕輪編集室」などのコミュニティやイベント、商品プロデュースまで手掛けています。その箕輪氏にヒット作を生み出す考え方、時代の変化を作っている人の考え方を起業家向けに話してもらいました。

インタビュアー創業手帳(株)創業者 大久保幸世

箕輪厚介
1985年東京都生まれ。2010年に双葉社に入社。女性ファッション誌の広告営業としてイベントや商品開発、雑誌創刊などを手掛け、2014年より編集部に異動し『たった一人の熱狂』見城徹、『逆転の仕事論』堀江貴文などを担当。2015年幻冬舎に入社した後、『空気を読んではいけない』青木真也、『多動力』堀江貴文、『人生の勝算』前田裕二などの話題作を作りながら、2017年には出版とウェブメディアとイベントをミックスした「NewsPicksアカデミア」を立ち上げる。またオンラインサロン「箕輪編集室」を主宰し、従来の編集者の枠を越え、無人島や美容室、ランジェリーショップなどを幅広くプロデュースしている。

大物と仕事をする秘訣は想像力「相手に刺さる自分の強みを研ぎ澄ませ」

大久保:前の会社で幻冬舎の社長である見城徹さんの「たった一人の熱狂」を出されましたが、元々、違う出版社だったんですよね。しかも若手で。自分の会社ならともかく、同業他社の社長、しかも見城さんのような大物をよく口説けましたね。一体、どうやったんですか?

箕輪:見城さんは幻冬舎の社長で、自分はその頃、双葉社にいました。SNSで「本を出させてください」とコメントして、すぐ手紙を出しました。それで、見城さんの会社に入っているという感じですね。

どうやって口説くかと言う事ですが、メッセが良いか、メールが良いか、手紙が良いかというのは相手次第ですよね。
熱い手紙が刺さる人もいれば、逆にメッセで軽く聞いたほうが反応のいい人もいる。あくまで手段の話であって、本質は相手がどんな人かを想像しきるということではないでしょうか。

「自分が何者で、何をしたいかという目的が明確」であるということも大事です。
よくいるんですよ。わけもわからず会いたいっていう人が。まともな人はそういう人に会う理由もないし、そんな時間もないです。

大久保:理由を伝えるぐらいの想像力が無い人と話をしても、大した話にはなりませんよね。自分自身の武器を知って、相手にとってのメリットを伝えることが重要ということですね。

箕輪:そうですね。やっぱり本を作りたい、取材したいと思うような凄い人や、その道で成功している人は、物事を見る力があります。

だから丸裸になって、「自分の武器は何か」、「相手にとって美味しいところ」は何かをぶつけいくしかないですよね。
単なるパッションではなく。

起業家で人間関係を作れない人は「相手にとっての自分の美味しいところはどこか?」という問いかけがもしかしたら足りないのかもしれません。自分は何者なのか、相手にとっての魅力はなんのかという問いかけを、まずは自分にするべきでしょう。

相手を口説くために重要な事
  • メール、メッセ、手紙。伝え方は相手次第。手段に過ぎない
  • 自分が何者で何をしたいか明確にせよ!
  • 自分の武器、相手にとっての「美味しい所」をぶつけよ!

そもそもヒットを当てようと思っているか

大久保:本が売れないと言われる時代に、幻冬舎、特に箕輪さんの本はヒットが多いですよね。理由は何だと思いますか?

箕輪自分が作ったものを「売ろうとしているかどうか」の違いだと思います。大手、老舗の出版社は売ろうとしていない、自分にはそう見えます。

大手の出版社は「文化のためにやっている」と言ったりしますよね。既得権益だし、まだ余裕があるし、そもそも本気じゃないに尽きます。

対して、幻冬舎はゼロから立ち上がったベンチャー企業みたいなものですから、余裕もありません。
ヒットさせよう、当てようと思えば、テーマや著者の選び方、作り方、WEBでの仕掛けなど、いろいろやることが見えてきます。

他のビジネスでも、そもそも当てる気が無ければ当たるわけないですよね。「売れない」なんて言いながら、本当に、ヒットを当てにいってないんじゃないかなと。

本を作るだけが仕事じゃない。世界観を作ることも重要

大久保:ヒットするものって、世の中に受け入れられて「時代を作っている感」があって面白いですよね。
ところで、箕輪さんは、紙の本だけでなく、WEBやリアルでも仕掛けをしますよね。

箕輪:そうですね。その理由は、本を書店に並べるだけでなくて、その周りの全体の仕掛けを含めて編集という仕事だと思っているからです。何もしないで本屋に並べてもらっても、そうそう売れるわけがないです。

僕がやっているのは、主に20代、30代向けの本です。
日本では、50代、60代ぐらいが、人口が多くてお金も持っている大きなマーケットです。その層は、血流がどうだ、健康がどうだ、みたいな本が良かったりしますが、僕はそこのターゲットに対して本を作ってはいません。
僕は普段本屋さんに行かない若い人に向けた本を作ってるので、SNSを活用してますね。

初速が勝負を決める。コミュニティは武器

大久保:やはり売る時、スタートアップがサービスを出すときでも「初速」、つまり最初のスピードは大事なんですね。起業、スタートアップでもそういう面があります。

箕輪:何もない所から初速は生まれません。最初に盛り上げてくれる、熱いコミュニティが大事です。そのために、SNSを上手く使っています。

場合によっては、コミュニティにテストマーケティングみたいに、こういう企画どう?みたいな話を投げてみたりします。
そこで大事なのが、その反応をそのまま受け入れることではなくて、反応の様子を見ることです。凄い広がっているとかそういう動きを見ます。

でも、コメントそのものを受け入れて企画するわけじゃないんですよ。反応は見るけど、他の人が言うとおりに作って面白いものができるかというと違う話で。考えるのは作り手です。

大久保:SNSって、入り口は平等にあるもので、起業家は活用していくべきだと自分は思いますが、どう思いますか?

箕輪:確かに、入り口は平等です。でも、SNSって、持てる者と持たざる者が凄い開く世界です。フォロワーがたくさんいる、影響力がある人と、駆け出しで、誰も見ていないアカウントとが同じであるわけがないんです。

twitterのフォロワーが増えるのも何年もかかるし、コミュニティを作るのもものすごい手間がかかる。でも、一度、出来上がってしまうと財産になります。そういう意味では、コツコツと資産を作っていく感じですね。

SNS時代のヒットの仕掛け方
  • そもそもヒットを当てに行っているか?
  • 新商品は初速が大事
  • 最初に盛り上げてくれるコミュニティが必要
  • 言われたことそのままではなく、反応から考える
  • SNSは入り口は平等だが、凄まじい差が付く世界
  • 一度コミュニティが出来ると財産。手間をかけてコツコツ育てる

トップに行く人はカネじゃない

箕輪:自分は、編集者としては、本当にトップの人か、異端の人じゃないと興味無いんです。根っこがオリジナルのものを持っている、自分で考えている人ですね。

そういう人って尖りすぎていて、そのまま出すと、突き抜けすぎていて、ついていけなかったりするんですけど、そういう人が素材としては良い。他に無い素材の良さを見せていくのが編集者の役割です。

大久保:他とは違う人と言う事ですが、そういう人は、皆が行く、逆に行った方が美味しいと思っているっていうことなんですかね。

箕輪:それは、全体の逆、逆張り戦略っていうことですね。

でも、僕が興味あるのは、さらにその先です。
大勢が行く、大勢の逆を行くことすら意識していない、自分の道を行っている人です。人の目など、目に入らない、そもそも気にしていないっていう人です。

例えば、僕の編集で本を出した人に、総合格闘家の青木真也選手がいます。

彼は「格闘技はスポーツじゃない」って言っていて、試合で関節技で、相手の骨を折っちゃたりします。いわば、格闘技に狂ってる人なんです。これは本人の本能、生き方で、本人にすらどうしようもありません。

他から見てとか、その逆とかじゃなくて、本能的にそうしたいっていう世界で、普通じゃない世界に突き抜けて行っちゃっている。そういう人は、その世界でも凄いんだけど、他に無いし、やばいけど面白いんです。だから皆が気になるし、本が売れる。そういう人を自分は追いかけています。

例えばホリエモン(堀江貴文氏)であれば、誰も見たことが無い世界を見たくなる、宇宙に行くとカネが集まるとかじゃなくて、本当に宇宙に行きたいっていう、そういうピュアな所があります。

トップに行く人はカネだけじゃないと思います。でっかい夢を思い描ける人だと思います。
カネだと、どこかで、満足してしまうでしょうね。

大久保:日本人は「大きな夢を描かない」ように学校でも会社でも教育される傾向があると思います。その呪縛を脱した人には魅力があるんでしょうね。

箕輪:ボクなんかは、いつも学校で怒られていて。言うことを聞かないから。でも、世の中が評価経済になってきた。そうなってくれて本当に良かったと思います。

twitterやSNSが出てきて、個人の影響力や信頼が重要な時代になってきた。だから、生きやすくなってきたなと思います。

編集者とプロデューサーは料理人。素材を生かす仕事は他でも応用できる

箕輪さんがもし起業するとしたら?

箕輪:編集者という強みをいかしたプロデュースですね。既に編集者をやりながら、今でも10社くらいプロデュースの仕事をしています。今は文脈があるものが売れる。文脈、ストーリーを考えるというのは、編集者の仕事に通じる面があって、今まで培った感覚が生きるんです。

背景や文脈を考えて、研ぎすましたものを作っていきたいですね。

大久保:素材を生かす、引き出すというと、料理人みたいですね。

箕輪:そう。編集、プロデュースもそうですが、料理に似ていますね。素材を選んで、特徴のある素材、どう料理するか。

デザイナーもそうですよね。できるデザイナーは、デザインという一部分だけじゃなくて、会社の医者みたいなもので、会社のコンセプト、人事制度とかから直すわけです。

例えば、ユニクロの佐藤可士和さんとかは、そのタイプだと思います。かかりつけ医みたいなもので、経営者と話して、どういうビジョンがあるのかを聞いてからデザインする。だから価値が付くんです。

昔みたいに、例えば飲料売る場合に、マーケティングして、開発して、広告使ってどかーんと売る。このタレントを使いましょう、とかそういうのは効かなくなってきています。そういう意味では、しっかりと全体を考えるプロデューサーの時代だと思います。

大久保:ちなみに、箕輪さんは何を目指しているんですか?

箕輪:どこも目指していないです。仕事でこうしたいとかって本当に無いんですよ。もう、好きなことをやっているだけで。

大久保:正直ですね。でも編集者って、その場その場で、旬な面白い人を狙って、企画していくわけですよね。
下手に目標がありすぎると、そっちに引っ張られてつまらない本になってしまうかもしれない。だから、今みたいに、目標を持たない、ありのままに、面白いと思うことをやっている方が、目が曇らなくて良いかもしれませんね。

箕輪:うーん、自分は本当に好きにしたいだけなので。

でも、テレビや大手メディアの人なんかで多いですけど、我々はすごいものをつくっている、自己満足の世界になってしまう人って多いんです。「こんなすげー番組を作っているぜ」とか。でも、実態が無い、中身がスカスカなんてことはあります。

評論家の宇野常寛さんに、「箕輪さんは本という権威を巧みに利用して商売している人だ」と言われたんですが、確かにと思いました。本をハックして体験を売っています。

本物は「量」が凄い。見せているのは氷山の一角

大久保:一人くらい、自己満足がいても良いと思いますが、業界全体が自己満足になっている、そんな業界は危ないですよね。

箕輪:そうですね。出版業界の飲み会は自分は嫌いなんで行かないんですが、そういう飲み会では「本が売れない」の「若者のレベルが低い」の、挙句の果てに「読者が悪いだの」そんな話を延々としている、なんて光景は良くあるんです。

人が悪いの、読者が悪いのって、そういうことを言っている人は、えてして成長が止まっているんじゃないでしょうか。本の価値を語る人ほど本気で本を考えていません。

見城さんなんかは、「売れるものが正義」という感じですが、誰よりも文学も語ることができる。週刊文春の編集長も、ネットでのマネタイズを必死で模索していますが誰よりもコンテンツ愛を持っているんです。

ビジネスを考える人ほどコンテンツ愛もあって、お金じゃないと言ってる人ほど大したコンテンツを作ってないですよね。

本を出す前の地獄に行くか売れるかのヒリヒリした感じが好き

大久保:「たった一人の熱狂」を出した箕輪さんが一番、熱狂する瞬間は?

箕輪:「たった一人の熱狂」を出したので、よく誤解されるんですが、自分は熱狂しないんです。「いつも南の島で遊んでいたい」って思ってますから。

でも、強いて言うと、本を出す前の、売れるか売れないか分からない不安感にはすこし感情が動きますかね。
どうなるかわからないっていうのが好きです。もう、上手くいってしまうと、飽きちゃうから次に行きたくなってしまいます。

大久保:自分は政府の会社設立を緩和する委員会に出席していて、起業家の負担を減らそう、という立場で発言しています。

日本は12ステップ会社を作る過程があって、世界的にみて煩雑なんです。それで、内閣府とか、経産省とか、経済団体とか経済団体も一生懸命、変えようとしており、その議論を一緒にしているんですが、反対する役所があるとステップを一つ減らすのも凄い難しい。代表が出てきても、その場では答えを出さないで、結局、多大な時間がかかるだけ。関係者が大勢出てきて、結局決まらないっていうのは日本は多いですよね。

箕輪個として生きている人がなかなかいないんです。だから決定権が無いんだと思います。
僕なんかは好き勝手やってますけど、その分、責任は自分にあると思っています。

忙しい人を狙え!

中村(創業手帳twitter中の人):今回、創業手帳に出ていただいた理由は?

箕輪:創業手帳のやり取りが異常に早かったですよね。うわー、なんだこれ、面白いなと。twitterで書いたら、次の日、本当に取材に来たみたいな、この感じがいいですね。

忙しい人、できる人ほどレスポンスが早いというのがあります。
そういう人は、メールでもチャットでも電話でも、どう考えても、一人じゃさばけない量が来るんです。そうなると「永遠に返信しないかすぐするか」なんです。ホリエモンとかも異常に早いですけど。そうしないと埋もれてしまうんですよ。相手にするならヒマな人ではなく、忙しい人です。

一番才能が集まる場所は起業。世界観の競争をして欲しい

大久保:最後に、これから事業をスタートさせる起業家へ一言お願いします。

箕輪:起業家でもサラリーマンでも、自分でビジネスを作れる人以外、価値がなくなってきます。

若者は時代の一番かっこいい仕事に集まります。
今までも一番最先端の仕事に才能が集まってきました。昔なら作家、テレビ、ミュージシャン、お笑いとか。
それが、今は起業家だと思います。起業家は才能の宝庫だから、話をしていて、ほかのどんな職種の人たちより面白いんです。

最近では、本田圭佑さんや柴咲コウさんが会社を始めましたよね。今、「才能が集まる場所」は起業なんです。

AI的な世界が進んでいくと、今度は文脈、背景のストーリーが大事になる。これは、機能では超えられない。
歴史的なもの、常識的な機能の目線では理解不能なものが価値を持ってきます。

起業家は、同じ土俵で勝負してもつまらない。他の人ができないことをやる世界観の競争をして欲しいです。

箕輪厚介

今、「時代の才能」が
集まる場所は起業

(取材協力:株式会社 幻冬舎/箕輪厚介)
(インタビュアー:創業手帳・創業者 大久保幸世)



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