大企業に勝つベンチャーの条件| 有名企業の役員・顧問を担う守屋氏に聞く

創業手帳
※このインタビュー内容は2016年08月に行われた取材時点のものです。

事業成功のために見極めるべき、たった1つのポイント

(2016/08/18更新)

「新規事業の立上げ」の専門家・守屋実さんに学ぶ本記事。前回は、「ベンチャーにありがちな上司と部下のトラブルパターン」「うまくいく社長といかない社長の違い」についてお伺いしました。今回は、「大企業に勝つベンチャー企業の条件」や「事業成功のために見極めるべきポイント」を教えて頂きます。

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守屋 実(もりや みのる)
1992年に株式会社ミスミ入社。2002年、ミスミ創業オーナー田口弘氏と新規事業専門会社エムアウトを創業。2010年、守屋実事務所を設立。ベンチャーを主な対象に、新規事業創出の専門家として活動。ラクスル、ケアプロの副社長を歴任後、メディバンクス、ジーンクエスト、サウンドファン、ブティックス、SEEDATA(博報堂DYグループ)の取締役、サーキュレーションなど各社顧問を兼任、リクルートなど各社アドバイザーもあわせて歴任。

「当たり前」を切り離せない大企業は、負ける

――数々の有名ベンチャー企業の創業期を支えてきた守屋さんですが、大企業がベンチャーに負ける場合、どのような要因があるとお考えですか。

守屋:大企業って、普通に考えたらベンチャーに負けるわけ無いと思うんです。
人材も、取引先も、資金も有利だから。
でも、ベンチャーが勝てるのはなぜか。それは、構造上の理由です。

大企業は、本業の路線やしがらみがあるので、「構造的に新規の事業を生み出すこと」に向いていないんです。本業の汚染から新規事業守るには、資金と、意思決定と、評価を切り離さなくてはならないんです。

新規事業は、どうなるか先が分からないし、最初の段階は過度に数字を追う必要はない。むしろ、どれだけ試行錯誤をしたかということのほうが大切です。

例えば、あるECサイトを立ち上げた時には、1日に30箇所も40箇所もいろいろな所を微調整して、ABテストを繰り返しました。注文ボタンの色はオレンジと緑どっちが良いのか?そういうことを繰り返していくんです。

ベンチャー企業では、最初の段階ですぐに成果が出ないということは、ある意味「当たり前」なのです。逆に、大企業が行っているような既存事業からすると対前年比は超えて当たり前。ベンチャーと大企業の「当たり前」を切り離すことができない限り、大企業はベンチャーに負けてしまうのです。

また、よく大企業は「純血主義」を貫こうとしますが、それは間違いだと思います。少なくとも、大企業にとって外部の視点は必要です。そこが上手く行っていないと、いくら事業開発室を作って取り組んだとしても、社内に配慮した事業が乱立することになる。こんなことがあるから、ベンチャーに大手が負けることがあるんです。

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あなたの事業は「日本一」と言えるだろうか

――なるほど。大企業が負ける場合の、理由が分かりました。では、大企業に勝つベンチャーはどのような特徴を持つ企業なのでしょうか。

守屋日本一と言えるかどうかですね。

何でも良いんです。尖った一点突破な部分だけでもいい。兎に角、「ここが日本一だ」と言えるものがない企業は苦労します。

2番手、3番手であればやっぱり大企業でやったほうが良いです。体力が必要なので。だから、日本一になるか、もしくは思い切って2番手・3番手狙いで大企業に買ってもらうことを前提で事業を進めていくことだと思います。

少し昔は、2番手・3番手でも十分に成長できる時代でした。1番手でもまかないきれないほど需要がありましたから。でも今はパイが減ってきて、1番手以外はなかなか売れません。売るためのコストが重い時代なのです。このダウントレンドの中では、シンプルに「日本一」と言える部分がないと、競合との販売競争に巻き込まれてしまいがちなのです。

小さくても大きくても、「この部分では日本一になることができる事業だ」と語れる要素があるかどうかが、判断基準の1つです。

「なんで日本一なの?」「ほんとに日本一なの?」「どうして他の企業に抜かれないの?」と掘り下げていって、「やっぱりやっていけそう」「この部分で日本一を取ろう」という認識ができてから、具体的な事業の作りこみに入っていきます。ここがないと、何をやっても苦労するだけです。

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起業家には「ネタ切れがない」感覚が必要

――守屋さんは、これまで数々の新規事業立ち上げを経験されたと思いますが、数をこなせば上達するものなのでしょうか。

守屋:確かに、「相当起業が上手なんでしょうね!」とよく言われます(笑)

でも、起業が上達しているとは、あまり感じていません。いくぶん結果は出せていますが、その分打席数も多いので、あまり打率は上がっていないです。あえて言うなら、見極めは早くなったかもしれません。

以前は飛んで来る球に全部フルスイングして三振した後に、今のはボール球だったかも、と気づく状態でした。2,3球、球筋を見ることで「このままではダメだな」と何となく判断できるようになったという感覚です。

――その判断方法が「日本一と語れる事業かどうか」ということですね。

守屋:その通りです。もう一点、「起業のネタは尽きないのか」とも、よく聞かれます。

新規事業は、手がければ手がけるほど、新たな事業が増えてくる感じがしています。

例えば、1滴の血液から健康診断をする事業を立ち上げたことをキッカケに、唾液を採取して遺伝子を検査する事業にも着手、その後は、便から採取した腸内細菌を調査するのはどうだろう、ガン検査を尿でできたらどうだろう…と、やればやるほど未着手な事業が増えてくるんです。

だから、新規事業を立ち上げると、やっていない事業が減るのではなく、逆に増えていく。この感覚が、起業家には大切なんだと思います。

創業者にメッセージ

――最後に、創業者に向けてのメッセージをお願いします。

守屋:創業は、とても楽しいことだと思います。ほぼ苦しいことしか無いけれど、それでも最終的に楽しいこと。

だから、迷っている時間があるのであれば、私はどんどんやってしまったほうが良いと思います。創業しようかな、どうしようかな、と迷っているのであれば、創業することをお勧めします。そういう自分なりのワクワクするもの・楽しい物を選択したからこそ、邁進して頑張って欲しいです。

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(取材協力:守屋実事務所 守屋 実)
(編集:創業手帳編集部)

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