石坂産業 石坂 典子|産業廃棄物処理業なのに“おもてなし経営企業” 社長が語る「見せる経営」とは?

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※このインタビュー内容は2016年03月に行われた取材時点のものです。

「石坂産業は出てけ!」の中、社長に立候補。女性だからできた?マイナスをプラスに変える改革術をインタビュー

埼玉のとある駅からタクシーで15分。視界からはどんどん建物が消えてゆく。複数の大型ダンプカーが入っていく、そこは石坂産業。車を降りると即座に声がかかった。「お待ちしておりました!こちらへどうぞ!

石坂産業(埼玉県)は、産業廃棄物を資源に変え97%減量化・リサイクルを実現している企業だ。2002年の「脱産廃屋!」宣言から一変、徹底した“見える化”を行い、訪れる人々の心を豊かにすることに力を入れ、経済産業省主催の「おもてなし経営企業選」にも選ばれた。

石坂産業2代目社長 石坂典子氏は、社長になるつもりなどまったくなかった。しかし産業廃棄物処理業の現状を目の当たりにし、自ら社長に立候補する。2002年に“脱産廃宣言”と声をあげ、社内改革を実施してきた。社内を変えたら、人が変わった。人が変わったら、会社が変わった。「女性にはバイタリティーがある」。そう語る女性社長に、そのパワーのヒントを伺った。

石坂 典子(いしざか のりこ)
1972年東京生まれ。高校卒業後、米バークレー大学に短期留学。帰国後、92年に父親が創業した石坂産業に入社。99年、地元・埼玉県所沢市周辺の農作物がダイオキシンで汚染されているとの報道を機に、石坂産業が批判の矢面に立たされたことに憤慨。社長である父親に直談判し、2002年社長に就任。 「社員が自分の子供も働かせたい」と言える企業創りを目指し、女性の感性と斬新な知性で様々な経営改革に取組んでいる。“見せる・五感・ISO経営”で業界を変革するユニークな女性経営者として注目されている。

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社員が自慢できる会社に変えていく

ー石坂産業に入る前は、なにをされていたのですか?

ずっと将来はデザイン関係の仕事に就きたいと思っていました。

アメリカへの留学を機にネイリストを志すようになったため、アルバイトをしていました。

父が、それなら「自分の会社の手伝いに来てほしい」と声をかけてくれ入社しました。

実際に勤めてみると、産業廃棄業界の悲しい部分が見えてきました。

1999年のダイオキシンの報道もあって、今でもこの業界を多くの人達がマイナスな目で見ているのを感じたんです。

その大きな環境問題をきっかけに「ぜひ社長をやらせて欲しい」と手を挙げたのが、私の経営者としてのスタートです。

ー代表になる覚悟を決められた時の心境は?

会社が今日か明日にはもう無くなるという窮地ですから、そういう状況の中で選択したり考えたりする余裕はなかったのです。

「すぐに出ていけ」と毎日住民反対運動が起きているような状況だったんです。

ここで働いている社員の方や、会社を作ってきた父のことを考えると居ても立っても居られなくなりました。

自分にもまだ小さな乳飲み子が二人いましたが、自分の生活やリスクなんて考えている時間もなかったのです。

ーその後、2002年には“脱産廃宣言”など様々な取り組みをされたと思いますが、どのように改革を進められましたか?

マイナスの状態からのスタートでしたから、どうプラスに転じていくかと考えていきました。

逆転の発想ですね。みんなが「これ常識的だよね」と思っているところからはみ出していく。

自分自身に、誰が決めた?と問うていくんです。「誰が、こういう業界だ、こういう仕事だ、こういうふうなやり方が普通だと決めた?」と。

そうやって突き詰めていくと、今の状態を全部変えていこう、となっていく。

だから別に、新しい事をイノベーション的にやろうというわけではなく、今まであるものの価値観や考え方ややり方を変えていくというだけ。

一つひとつの課題をクリアしていくしかないんですよ。だけど、社員さんによってはすごく温度差がありましたね。

ー改革には反発も多かったと思いますが、それを断行できた理由を教えてください。

まずは、働いている人の満足感とか幸せを考えなければと思ったのです。

入社直後、父の仕事を手伝いながら一社員として社員さんたちを見た時に「彼らはやりがいや幸せを感じているのかな。

いや、どうやらそうじゃなさそうだ」と感じたんです。せっかく縁があって働いているのに、仕事に価値を感じてないともったいないですよ。

我々は大手企業じゃないから、給料ではなくやりがいや達成感を持てないと幸せではいられない。

だから、周囲の人に自慢できる会社を作ろうと“脱産廃宣言”をしました。

それは父のやり方とは違うし、父には毎日のように苦言を呈されるけれども、最終的には父が望んでいる「続く会社」になるためには、プロセスや目標は違っても、大事なのは目的がどこにあるかですから。

また、負けん気が強いのも、改革を続けられた理由の一つだと思います。

負けたくないから、自分が決めてきたことは折れずやる。そして、皆を巻き込んでいくのです。

関わる人が増えれば、どんどん大きなエネルギーになっていく。

当然、反発もありますよ。ISOを取った時にも社員がどんどん辞めていきました。

そんな時、父には「自分で決めたことなんだから、責任を持って付き進め」と言われました。

そうですよね。くじけていては改革はできません。

ー具体的にどのような取り組みをされましたか?

工場で職場環境を変えようと『3S(整理・整頓・清掃)』に取り組みました。

6つあった社員の休憩室を1つにまとめ、置かれた荷物をすべて整理し、最低限のものだけにしました。なにかが必要な時には、適宜取り出すようにしたんです。

そうすれば自ずと、必要なものをどのように取りやすくするか、自分たちでどう管理するか、どう大切にするかと考えるようになります。

それをISOを導入しながら、徹底的に習慣づけしました。それって心の3Sにもなるんです。

心の中を整理し、余計な仕事を持ち込まないようにする。当社の独特なイズムですね。

「見せる経営は、一石四鳥」

ー石坂さんが実践している『見せる経営』とは?

会社の一番いい状態とは、社長がいてもいなくても3Sが整っていることです。

それを目指すために、『見られる職場作り』『見せる経営』を心がけました。

まず堂々と「うちの社員を見てください」と言い、社外の方に来ていただけるようにするんです。

すると、人に見られるからと社員がいつも3Sを保つんです。

それが自然に「4S(躾)」になる。そして、「5S(清潔)」を気にするようになります。

さらに社員に、「自分たちの職場をお客様の目線で歩いてみなさい」と言うと、普段とは見る目的や見る箇所が違うので、「あ、ここを綺麗にしよう。でもどうやって?」と3Sの展開を考えるようになります。そうやって主体的に考え行動する社員になると、多能的な視点で物事を考え、非常に組織の活性化に繋がります。

この話を以前、自動車部品大手㈱デンソーの有馬浩二さん(現社長)にお話したら、「その感覚は石坂さん女性だからかもしれませんね」と言われました。

そうかもしれません。女性は、見られることで美しくなります。正確には、「見られる」というより「見せようと思える」ことで美しくなるからですね。

女性の多くは、美しくなるために「こうしよう」と行動するバイタリティーが半端じゃないんです。

ですから女性をたくさん活用しているほうが会社の売り上げ成績がいいなんて会社もたくさんありますし、起業される女性も増えてきました。

それでも、大企業で経営者に抜擢される女性はまだ少ないですけれどね。

ー女性だから、“見せる経営”に向いていたのでしょうか?

女性だからというわけではないでしょうが、男性経営者で「自分たちの仕事をあえて外に見せる必要があるのか」と思っている方は多いと思うんです。

でも思い切って外に見せてみると、実はものすごく社員教育に繋がる。

たとえば一般の市民の方に職場を公開してみたら、「なにこの会社、汚い」と指摘されるかもしれない。

多くの人は自分の会社のことを悪く言われたくないですから、自分達で改善していこうと力が沸いてくるのですよ。

無理やりやらせてもできませんから、社員それぞれの力をどうやって引き出していくかが大事です。

ー社員教育が重要ということでしょうか

石坂産業では今も、お客様が見学にいらした時に説明をするのは、基本的に一年未満のスタッフばかりなんですよ。

他者ではベテランの方達に会社案内をさせるのかもしれませんが、私は新入社員たちにも自社を知ってもらいたいのです。

お客様に質問されて答えられないということは、自分たちのスキルが足りないということ。

だからもっと会社の事を学びましょうね、と感じて思うことが大切。

『見せる職場づくり』をすれば、どんな業種・業態でも組織の活性化に繋がるのではないか、というのが石坂流なんです。

ー『見せる職場』などの活動をして、社員さんはどうでしたか?

最初は「なんで外に見せるの?」という反応でしたよ。

でも実施しているうちに、皆の意識が少しずつ変わっていきました。

すると今度は、来られるお客様が社員の変化に気づき、「ここの社員さんは自発的に動けるな。

何かの賞に推薦してあげよう」となったのです。

結果、ホワイト企業選やホスピタリティー関係のおもてなし企業選、多様性な働き方の大賞などをいただくことができました。

さらに「産廃屋」らしからぬ綺麗な工場というイメージの意外性をマスコミさんが報道してくれ、それを見た方が「賞を取れるなんてどういう会社なの?」と興味を持ってくれる。

自社で一生懸命プレス広報しなくても取材していただけたんです。

でもそれはもともとマスコミ戦略ではなく、社員の意識改革をしようとしたことで、来られるお客様たちの見え方も変わり、結果的に話題にしていただいたので、一石四鳥になりました!

ー『見せる経営』が成功したのですね

たしかに周囲からは客観的に「ずいぶん変わってきたよね」という声をいただき、私自身も、社員の方たちの意識が変わってきているというのは間違いなくわかります。

しかし達成感は全くないです。なぜなら、皆まだ100%満足していないと思うからです。

だから社員それぞれに、「何のために働くの?」「その働き方で満足なの?」と問うていく。

私の側もつねに「石坂がやっていることは本当に利益が出るのか? 社会的な価値があるのか?」と問われています。

私としては、続けることが重要だろうなと思っていることを日々粛々とやっている。

それに共感してくれる人達が評価をしてくれ、今に至っているのだと思うのです。

知の融合と独創「人の話を最後まで聞きます」

ー3Sや『見せる職場』など、具体的な取り組みのアイデアはどこからでるのでしょうか?

閃きかな。

街中でふと目に留まったものを、大きなヒントとして得られるかどうか。

例えば、今、石坂産業で管理している東京ドーム四個分の森をどうやって守っていくかというアイデアは、地元のおばあちゃんたちと話していたなかで「これだ!」と閃いたんですよ。話を聞く、というのが重要なんです。

「有志交流」というのですが、同業者とも色々な地域でも交流し、その対話の中で何かを見つけることでヒントが生まれます。

人じゃなく、自然でもいいんですよ。バイクで山をバーッと走って自然と一体化することで、閃きが湧いたりします。

今自分がいる世界ではなくて、少し離れた異空間に旅してみて、そこで感じたり、人と交流することがヒントに繋がります。

そこで出会った人や自然と対話し、話を最後まで聞いて、共鳴するのです。

私が社長になった時に父から「謙虚な心、前向きな姿勢、そして努力と奉仕」という言葉をもらいました。

謙虚な心で人の話を聞くことで、ヒントが芽生えるだけでなく、何かしてあげたいという思いが生まれ、互いに支え合うという良い循環が生まれます。

また、本を読むよりも、専門家に話を聞きます。プロの方に聞いた方が、自分で調べるより早いですからね。

それと、誰かが私のために「これ素晴らしいよ」と紹介してくださったら、それは絶対に試してみます。

その人の時間を使ってせっかく紹介していただいたのだから、結果的にはダメだったとしてもまず確かめないと失礼だなと思うんですよ。

それに、やってみないと結果はわかりませんからね。

ーまず話を最後まで聞いたり、相手を受け入れるんですね

そうです。

私は社長として、会社のビジョンを作り上げるためのヒントが欲しいと思っています。

だからアンテナを張って、パッと引っかかった方を訪ねて行って、話を聞いて、自分で噛み砕いて、自分の形で会社の運営に導入していくんです。

『見せる職場』も、経営者が人から話を聞くことも、外部から意見がいただけるんですよ。

これを『知をもらう』と言います。その中には当然、「こうした方がいいよ」というご意見もあります。

賛否両論を聞いた上で、なにが重要でなにが他愛もないのかという取捨選択をすることが重要です。

経営者としてなにを率先しなければならないか、常に考えなければいけません。

多くの「知」を得て融合していくことで、会社の大きな方向性ができていくんです。

苦言もあえていただく勇気を持ち、その後、集まった「知」を生かすも殺すも我々自身なのです。

今までを振り返ってみると、自分の独創性と、地域や社員など今あるものと、先代の社長の価値観とを、いかに融合させていくかの繰り返しなんですよ。

相反しそうなものを常にタイミングを見計らいながら融合していくことが大事なのかな。

『環境を考えるメッカ』をつくる!

ー今後はどのような取り組みに力を入れたいですか?

本業としては、原料化・リサイクル率が今95%を超えているので、100%にすることが使命ですね。

また、業界内への取り組みとして、やりがいや価値を感じられる業界にしたいです。

環境ってなくてはならないものだし、もっと注目されて浮上していかなければ成長産業にならない。

そのためには、たくさんの人が「入りたい!」と思える会社にしなければいけないんです。

今、私の話を聞きたいと言ってくださるのは、浄化槽関係やし尿処理のお仕事をされている方が多いのです。

その仕事って、絶対になくてはならないライフラインじゃないですか。

今トイレの水洗が壊れてしまったら、国内は大変なことになってしまいます。

でも、彼らがやりたい職業のトップランキングには入ってこない。

産廃処理業にはまだまだネガティブなイメージがありますから、4大を卒業してこの業界に入りたいという人はほぼいません。

でもプライドを持って働く人達が業界に増えて、そのことが発信されていくと、これから働きたいと思う人たちが出てくるはずです。

新しく入ってくる方たちが、この会社で将来自分のやりたいことが見える環境にすることが重要だから、「私たちは社員の働き甲斐ややりがいを大事にできる業界にならなくちゃいけないね」というメッセージを伝えていきたいんです。

そして新しい人たちが業界に入ってくると、多様なアイデアが生まれ、今までにない何かを生み出せるかもしれない。

きっとこれから環境業界も変革の時代に入っていきます。だから、今までのやり方ではないアイディアや人材が欲しいんですよ。

ー業界内に対して、成長産業となるような働きかけをしているのですね。業界外へ対してはどうでしょう?

業界外に対しては、「リサイクルしやすいものを買いましょう」「ポイ捨てはしないようにしましょう」と発信していきたいですね。

また、この産業廃棄業界って、フェアトレードの業界と同じなんです。

多くの方は、不要なものを処理するのだから料金は安いほうがいいと考えています。

だから安売り合戦が行われ、どんどん価格が安くなっていく。

でも安い料金の裏側の労働背景はどうなっていると思いますか? 安い価格で買いたたかれて、働いている人は十分なお給料をもらえず、社員教育もしてもらえません。

そうなると、サービスの質も下がります。よくニュースで、安いお弁当は実は廃棄される食品が使われていた……なんてありますよね。

そんな価格の裏側にある現状を、多くの方に知って欲しい。

価格だけで産廃業者を選んで欲しくはないので、「価格の価値をどう見ていくか」ということを啓蒙しています。

ーサービスの質が保たれた適正な価格で取引されることが、利用者と産廃業者両方にとっての“フェアトレード”なのですね

そうです。

社員への待遇を切り詰めた会社と、設備投資や人材育成をし続ける会社とでは、同じ価格では運営できません。

そんな価格競争が行われた状態では、本当のCSRやコンプライアンスは生まれないのです。

さらに競争が激しくなるほど、下請け企業へ「安くしろ」と圧力をかける事業者も出てきてしまいます。

それは人として悲しいですよね。ですから日本人としても、人間性を伝えていけるメッセージ力のある会社になりたいです。

ーほかに、環境イベントの開催などもされていますね

当社が管理している里山は、東京ドーム約3.5個分の広さがあります。

この自然をどう守って行こうかという取り組みのひとつとして、環境を考える場として交流プラザを作り、2016年4月23〜24日に「里山と共に生きるエキスポ」を開催します。

2日間で6000名規模を目標とし、80団体以上に出店していただいて、地域の方々にやっていただきます。

皆で共催して、本当の自然と暮らしを考える場を盛り上げるワンステップにします。

この場所を、世界的な課題である「地球温暖化防止」「省エネ」「生物多様性保全」「循環型社会の実現」などの『環境を考えるメッカ』にしたいのです。

次のステップとしては、オープンラボ(多様型研究所)を作ろうという計画がスタートしています。いずれは海外と提携したいですね。

(取材協力:石坂産業株式会社)
(編集:創業手帳編集部)

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