飲食店開業する場合「個人事業主」が圧倒的に有利な3つの理由

飲食開業手帳

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生き残りが難しいと言われている飲食業界。初めての飲食店開業ならなおさら「緻密な計画を立てた上で、開業に臨みたい」と思うはず。特に「融資」や「税務」を考えたとき、「個人事業主」か「法人」の判断は重要なポイントです。

今回は、飲食店を開業する場合の「個人事業主にするか法人化するかのポイント」と、「メリット・デメリット」についてまとめてみます。

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飲食店開業なら、法人より個人事業主がお得!

初めて飲食店を開業する方にとって、「個人事業主」と「会社設立(法人化)」どちらで開業するかは悩みどころだと思います。

しかし、ご安心ください。私があなたの悩みを解消します。結論から言いますと、「個人事業主」としての開業が、圧倒的に有利です。これから詳しく「融資面」と「税務面」の話をお伝えしますので、個人事業主と法人のどちらで飲食店を開業するか迷っている方はぜひ参考にしてください。

理由①個人事業主でも融資審査上、不利になることはない

飲食店の開業を検討されている方の中には、「会社を設立した方が日本政策金融公庫の融資審査上、有利なのでは?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、審査面で言えば、「個人事業主」と「法人」のどちらが有利というのはありません。

違うとすれば、融資時の責任です。日本政策金融公庫の融資制度である「中小企業経営強力化資金」を利用して、無担保・無保証で融資を受けた場合、個人の場合ですと、万が一事業が傾いたときの融資責任は個人に帰属します。一方、法人の場合、法人の自己破産という形になるので、個人生活に直結するほどの影響はありません。

理由②個人事業主の方が、すぐに融資申請ができる

融資申請をする際に、法人の場合は法人化しないと融資申請ができません。つまり、法人設立をしている間は、融資を受けられないことになります。

法人は登記することで、「登記簿謄本」という会社の身分証明書にあたるものを取得します。これがないと銀行口座の開設などもできないのですが、登記には1週間ほどの期間が必要です。また、定款やオフィスをどうするかなどさまざまな手続きを自分で行う場合は、さらに数カ月の準備期間が必要となる場合もあります。

一方、個人事業主は飲食店の開業前にこうした登記や定款準備等は必要ないためすぐに融資申請ができ、申請までのスピードで見れば個人事業主の方が有利と言えるでしょう。

なお、融資ありきのビジネスモデルを計画している法人の場合、融資の審査が通らなければ、そもそも会社を設立することができず、設立費用を無駄にしてしまうリスクもあります。

理由③個人事業主から始めることで税務面でもメリットがある

飲食店に限らず、資本金1000万円以上の基準期間がない法人の場合、原則的に2年間消費税が免除されます。※参考:納税義務の特例(国税庁HP)、特定期間の特例(国税庁HP

一方、個人事業主として開業した場合、1年超消費税が免除されます。

つまり、消費税が課税される年度の少し前に個人事業主から法人になれば、約3年間消費税が免除されることになるのです。※飲食店の開業日および造作の法人への譲渡金額によって消費税の免許期間は異なります。

さらに、飲食店を法人化して個人の所得規模が大きくなった場合も、役員報酬を受け取ることで消費税以外の税金を抑えることができます。個人の所得税は所得が増えれば増えるほど高くなる「累進課税」になるため、一定の所得に達した場合は、法人化をした方がお得です。

具体的に、1000万円の所得があった場合の例をご紹介します。ある企業が法人化して仮に代表が役員報酬で1000万円を取り、会社の利益が0円だったとしましょう。その場合、会社で支払う税金と代表たちが役員報酬から引かれる源泉所得税と個人住民税の合計は約190万円になります。一方、個人の場合個人税金の合計額は約270万円となり、年間で80万円もの差額が生じるのです。

これらの事実を踏まえると、飲食店開業当初から爆発的な利益が実現できる場合を除き、まず「個人事業主」で始めた方が賢明と言えるでしょう。

飲食店の個人事業主は青色申告と白色申告どっちがいい?

税務面のお話に関連して、飲食店を個人事業主で始めた場合の税務申告についても触れておきたいと思います。

事業所得などの確定申告には「青色申告」と「白色申告」があるというのは、聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。具体的にはどのような違いがあり、飲食店の個人事業主にはどちらがおすすめなのかについてお話しします。

青色申告と白色申告の違い

大きな違いとしては、青色申告は複式簿記で帳簿を付けなければいけないのに対し、白色申告は簡易帳簿で良いとされている点があります。また、青色申告をする場合には事前に青色申告の承認申請が必要ですが、白色申告には事前の申請は必要ないという違いも。

このため、飲食店の開業に限らず「青色は煩雑で、白色はシンプル」というイメージを持っている人も多いかもしれませんが、どちらもそれぞれメリットとデメリットがあります。

青色申告のメリット・デメリット

個人事業主の青色申告のメリットやデメリットとしては、それぞれ次のような点が挙げられます。

青色申告のメリット

青色申告のメリットは、

  • 最大65万円の特別控除を受けることができる
  • 3年間赤字の繰越ができる
  • 家族への給与を必要経費とすることができる
  • 30万円未満の固定資産を一括で経費にできる
  • 自宅とオフィスを兼ねている場合、家賃や電気代の一部を経費にできる

といったことがあります。融資の視点からしても、どれが飲食店の事業経費かわかりやすいので融資を受けやすいというメリットも。

青色申告のデメリット

一方、青色申告のデメリットとしては前述の通り、

  • 事前の申請が必要
  • 複式簿記が必要で、提出書類も多い

という点が挙げられます。事前の申請についてはその年の3月15日までか、開業から2ヶ月以内(年度の途中で開業した場合)の税務署への申請書提出が必要です。

白色申告のメリット・デメリット

一方、白色申告のメリット・デメリットとしては次のような点があります。

白色申告のメリット

白色申告のメリットは、

  • 事前の申請が不要
  • 単式簿記で帳簿付けができるので、比較的簡単

ということです。逆にいうと、それ以外のメリットはそれほどありません。

白色申告のデメリット

一方、白色申告のデメリットとしては、

  • 特別控除が受けられない
  • 赤字の繰越ができない

ということがあります。青色申告のメリットで述べた通り、青色申告なら最大65万円の特別控除や3年間の赤字繰越ができますが、白色申告にはそれがありません。
また、融資の視点からいうと、簡易的に計算できるぶん、どれが飲食店事業用のお金なのかといったことがわかりづらく、融資を受けづらいというデメリットもあります。

飲食店の個人事業主なら「青色申告」がおすすめ

青色申告と白色申告それぞれのメリット・デメリットをご紹介しましたが、個人事業主として飲食店を開業する場合におすすめなのは「青色申告」です。実際、青色申告で確定申告を行うほうが一般的です。

「飲食店を開業したいけれど、自分で青色申告をするのはハードルが高い…」という方は、税理士に相談するのもおすすめです。創業手帳では飲食店開業に強い、信頼できる税理士を無料でご紹介していますので、お気軽にご相談ください。

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個人事業主か法人か検討したほうがいいケース

ここまで飲食店の開業には個人事業主がお得であることをご説明してきましたが、中には法人として開業することを検討してもいい場合もあります。ここでは2つのケースをご紹介します。

共同で飲食店を設立する場合

2名以上で出資して複数の代表を立てる場合、税金支払いの平等性の観点から、法人として飲食店をスタートした方が賢明といえるケースもあるかもしれません。また、諸々の負担を複数人で分担できるので、単純に一人当たりの負担が減るというメリットがあります。

ただし法人として飲食店などを開業した場合、何かを選択しなければならない際に意見が割れると意思決定までに時間がかかってしまうというデメリットがあります。意見が割れた場合、一般的には誰が何%の資本金を出しているかによって意見の優先度が決まってきます。資本金を多く出している人の意見が常に優先されてしまったり、あるいは全員が平等に出資して開業している場合にはなかなか意見がまとまらないといったリスクもあります。

一方、個人事業主として飲食店を始める場合は、個人事業主登録をした1名を代表にすることになります。

代表の所得は「事業所得」という形で税金を計算する必要がありますが、その他共同経営者たちの所得は「給与所得」で税金計算をすることになり、平等な「可処分所得」にすることができなくなります。そのため、共同で出資して複数の代表を立てる場合には、法人化して全員役員として平等に役員報酬を受け取る方法を検討しても良いでしょう。

このように、税金の計算や、最適な報酬の受け取り方など、税務面では専門的な知識が必要となります。また、個人事業主と法人どちらの形態での飲食店開業にもメリット・デメリットがあり、自身のケースにおいてどちらを選べばいいのかわからないという方も多いでしょう。

飲食店開業にあたっての税金やお金については、税理士に相談するとよいでしょう。創業手帳では、無料会員向けに、専門家の紹介を行っています。サービスを受けるにあたって料金は一切無料です。また、専門家紹介のほか、創業コンサルティングも無料で利用することができます。(創業手帳編集部)

家族に給与を払う場合

旦那様が経営する飲食店に奥様が専業するといったこと自体は、個人事業主でも法人でも問題ありません。しかし、旦那様が飲食店の「個人事業主」で、奥様がパートなどで収入を得ている場合、旦那様は開業した飲食店での奥様の給与を経費にすることができません

※個人事業主として経営している飲食店で働く専業の奥様に給与を支給する場合、「青色事業専従者給与に関する届出書」を期限までに提出する必要があります。

もし、他に収入がある奥様に支給した給与を経費計上したい場合は、法人化して奥様を役員にして役員報酬にすれば問題はありません。ただし、奥様が勤めている会社の就業規則に「掛け持ち禁止」と書かれている場合は、規則違反になるので注意が必要です。奥様が勤め先と旦那様の飲食店との掛け持ちをする場合は、まず奥様の勤め先に確認・相談した上で、法人化して奥様を役員にすることをおすすめします。

まとめ

「融資」「税務」の観点から「個人事業主」「法人」それぞれで飲食店を開業する際のメリット・デメリットについてお伝えしてきましたが、いかがでしょうか。まだ、どちらで開業するか迷っている方もいらっしゃるかもしれませんが、私個人としては「個人事業主としての飲食店開業」を強くおすすめします。

もちろん、状況によっては法人開業の方がいい場合も十分にあります。今回はお伝えしていませんが、「融資」「税務」だけでなく、「社会保険」も考慮した上で、検討してみるといいかもしれません。

当然、ここに記載した内容は私個人の意見なので、他にも様々な意見があると思います。あくまで代表的な例として参考にしていただければ幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました。

この記事のポイント
  • 個人事業主としての飲食店開業が融資の審査で不利になることはない
  • 個人事業主のほうがスピーディーに融資の審査申請ができる
  • まず個人事業主として開業し、一定所得に達してから法人化するとお得
  • 共同出資して複数の代表を立てる場合は法人化を検討してもいい
  • 個人事業主の場合、収入のある親族の給与を経費計上できない
  • 結論、飲食店を開業するなら、「個人事業主」で始めた方がいい

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(監修:ITA大野税理士事務所 大野晃 飲食店開業融資専門税理士)
(編集:創業手帳編集部)

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