開発見積もりはどんぶり勘定!?開発の見積もりを正確にするには?Engineerforce飯田佳明氏に聞く
エンジニアにとって快適な職場環境を実現するために
開発が伴うスタートアップにおいて、工数管理に頭を悩ませている方も多いのではないでしょうか。工数が予想以上にかかることはあっても、減少するケースは少ないでしょう。なぜなら、常に現場では予想外のことが予想通り起こるからです。
熟練したプロマネであれば、「この工数では難しい」といったことが見積もりの段階で分かることもあるようです。開発の現場は、取り組んでみなければわからないことが多々あり、不透明で難しい世界であるといえます。
そのような業務経験から、開発工数の見積もりの精度を上げるプロダクトを作っているEngineerforce飯田佳明氏にお話しをうかがいました。

1991年、福岡県福岡市出身。東福岡高校、成蹊大学経済学部卒業。大学卒業後は富士ソフト株式会社へ入社し約6年間、受託開発や自社プロダクト開発を経験。その後、フィンランド企業であるThe Qt Companyへ転職し、自社プロダクトの拡販に携わる。日本企業と外資系企業の文化の違いを身近で体験するも、見積もり工数の部分に関しては、どちらもエクセルによる手作業で行われていることに違和感を覚え、AIで見積もり工数を弾き出す「Engineerforce」のアイデアを思いつき、会社を設立。
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開発現場のエンジニアは常にオーバーワーク
飯田:現場エンジニアの作業の多さだと考えております。実際の開発作業に加えて、見積もりの作成、顧客や上司への見積もり説明、進捗管理など、エンジニアは本当に作業が多く、常にオーバーワーク状態です。見積もりの作成や顧客への説明は営業がやると思われがちですが、技術的な部分はどうしてもエンジニアに頼らざるを得ませんので、やることは多いと思います。
飯田:お客様から要求の仕様書をいただいた後、技術的な調査を行った上で、簡単に開発できると踏んで受注した案件が、実は複雑で、全然スケジュール通りに進まないといったことはありましたね。
そうなってしまうと本当に大変で、上司やお客様から遅延理由の説明を求められます。エンジニアは本来、スケジュール通りに進まない時こそ開発に集中して状況を打開しなければならないのですが、説明資料まで作成する必要があり、結果的に夜遅くまで作業することになるのです。
見通しの難しさは技術だけではなく人間関係にも通じている
飯田:大きく3つ要因があると思っております。1つ目は開発の見通しの難しさです。上記のエピソードにも関係しますが、過去に類似案件を開発したことがあれば、ある程度の作業量が分かります。すべての案件がそうではないので、類推を行いながら開発工数を見通すのですが、人間が処理できる能力には限界があります。
2つ目は、見積もりを行うエンジニアと、実際に現場で手を動かすエンジニアの間に能力の差があるためです。見積もりの作成は非常に難しいため、中堅もしくはベテランのエンジニアが担当するケースが多くなります。高い能力を持ったエンジニアが作成した見積もりは、彼ら自身が開発をする場合を想定したものになってしまいます。ベテランが10時間で出来る作業でも、入社したばかりの新人は同じようにいきません。
3つ目は要件定義漏れです。プロジェクトが進むにつれて、そういえばあの機能も必要だということが分かってくるケースがあります。その際、本来であれば再度見積もりを行い、追加費用をいただくべきですが、見積もりを作りなおす手間や発注処理の手間、お客様との関係性などから、そのままの費用で請け負うことがあります。使える工数は変わらないので、結果として当初よりも工数が増えるケースがあります。
飯田:週次報告や定例会などで、コミュニケーションがしっかりとれているプロジェクトは、比較的成功しているかなぁと思います。ただこれにはプロマネに圧倒的な技術力があって、しっかりと深い内容まで理解していることが前提です。
またスケジュールの見直しや、リソースの配分なども組み替えながら対応することも、成功の秘訣になると思います。
ただし、プロマネは複数のプロジェクトを掛け持ちしており、トラブル案件が発生すると火消しに走らなければならないので、難しい作業だと思います
飯田:開発にかかる見積もり工数をAIではじき出すというシステムです。先のエピソードにも出ましたが、見積もりの段階で工数を見通すのは非常に難しく、人間の処理能力にも限界があるので、それをAIで類推させるようにしました。
自らの経験が生み出した新しいシステムの開発事業
飯田:もともと起業したいという思いを持っておりました。私が高校生の時、孫正義さん、堀江貴文さん、三木谷浩史さんが球団の買収で世間を賑わせていました。その様子を見て、彼らのような起業家に強い憧れを持ちました。私もIT関連で絶対に起業したいと考えて、富士ソフト株式会社へ入社し、IT業界とはどんなものか学びました。
その後、フィンランドの企業であるQt Companyへ転職したのですが、見積もりを作成するために開発内容と開発工数をエクセルに打ち込んで算出するというプロセスを踏んでおり、日本の企業も外資系企業も同じであることに気づきました。これは、もしかしたら世界中で同じよう手作業で見積もり工数を作成しているのではと感じ、調査を進めたところ、ほぼ100%の企業がエクセルで見積もり工数を積み上げていたのです。
そこに大きな市場性があると考え、株式会社Engineerforceを立ち上げ、エンジニア向けに見積もり工数をAIではじき出すというシステムの開発に着手しました。
飯田:予想以上でした。開発を始めた頃は、エンジニアの友人たちからは無理だといわれましたし、同様のシステムを開発している企業が世界中探しても見当たらなかったので、需要がないから誰も作っていないんだろうとも言われました。そのため、内心では不安と期待を持ちながら開発を行なっていました。
しかし先日、製品版をリリースした際、約80社から申し込みがあり、ニーズはあると感じられました。見積もり工数の精度は8割を超えています。もっとユーザーを増やせるように機能を改善し、良いものにしていきたいと考えています。
エンジニアが幸せに働ける環境をめざして
飯田:予実管理ができるように、プロジェクトマネージメントツールと連携を行う予定です。タスクごとに、見積もりと実際の工数実績をダッシュボードで見える化する予定です。また元々の見積もり工数に含まれていないタスクがあった場合、”その他”として時間のログを取り、後日請求できるような機能も含む予定です。
それ以外には要件定義漏れをなくすために、予測変換機能の追加、工数の分析レポート、受発注処理ができるような機能も今後搭載する予定です。
飯田:現場への理解だと思います。エンジニアを魔法使いのように何でもできると思っている経営者や営業の方が多いのですが、得意とする言語、OS、フレームワークによってもできる、できないがあります。エンジニアもできない時は反論しているのですが、無理やりプロジェクトがスタートするケースも多いのです。
また、必要な工数を提示しても、そんなにかかるわけがないと一蹴され、無茶なスケジュール工程で開発をせざるを得ない現場もあります。私たちはそういう現場を、少しでもなくしたいと思っています。
飯田:大きくは変わらないと思っております。業界構造が急にガラッと変わることはないだろうと。ただ最近では、システムを発注する側も、相見積もりを取得して多角的に評価を行っているようです。中小企業やベンチャー企業にも、高いスキルをもつ人材がいることがどんどん明るみになってきているので、多重下請け構造から、直接契約の流れになっていけば良いなと考えております。
飯田:製品を出した際には、フィードバックをユーザーからもらうようにしてください。それを繰り返すことで製品を良くしていくことができる。
なるべく早くリリースするために、例えば無償リリースという方法もあると思います。
Engineerforceでも現在無償評価できるように製品をリリースしておりますので、ぜひ触ってみてフィードバックをいただきたいです。
エンジニアの皆様が幸せに働けるような世の中を実現したいと考えておりますので、ぜひ応援の程よろしくお願いします。
開発現場の工数管理は本当に大変なことだと思います。動き出してしまえば、どんなに困難な状況でもやり遂げなければならない。エンジニアは多大な責任を抱える職業だけに、職場は快適な環境であってほしいですね。
そんな世の中が実現できるよう、応援しています。
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(編集:創業手帳編集部)
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