起業家の落とし穴「キャズム」を乗り越える方法【起業家のための経営学講座】

創業手帳

キャズム理論とは。ベンチャー企業の成長ステージと課題

(2017/09/05更新)

発売した新製品がすぐに売れたので、「これは売れる!」と販売を拡大しても、期待するほど売れない場合があります。順調にマーケティングを行っていても、「途中から売れ行きが悪くなった」という場合もあります。

もしかすると、ビジネスの成長に伴って、「キャズム(深い溝)」に落ちてしまったのかもしれません。

今回は、起業家がキャズムを乗り越える方法について、キャズム理論とその前提となるイノベーター理論の説明と合わせて解説します。

キャズムとは

キャズムとは、直訳すると深い溝という意味を持ち、マーケティング理論においては

”新しいものが好きな人だけが持っている状態”

と、

”大流行し、みんなが持っている状態”

の間にある大きな隔たりのことを指します。

例えば、スマートフォンが世に出てきた頃を思い出してください。
あなたは発売初日から行列に並んで、いち早く手にしましたか?それとも、周りの人が持つようになってから、ようやく手を出しましたか?

革新的な商品であるほど、新しもの好きの層と、流行ってから取り入れる層とでは、考え方に大きな違いがありますよね。

これが、みんなが持っていて当たり前の商品になるためのキャズム(大きな溝)です。この考え方は1991年に提唱された「キャズム理論」と呼ばれるもので、起業家が自分の商品・サービスを広く普及させるためには、このキャズムを乗り越える必要があります。

さて、このキャズム理論ですが、正しく理解するためには前提知識となる「イノベーター理論」をおさえておく必要があります。

イノベーター理論とは

イノベーター理論とは、新商品が市場にどのように浸透するのかを説明した理論です。アメリカのエベレット・M・ロジャース氏が1962年に提唱したもので、別名を「普及学」ともいいます。

この理論においては、消費者の新商品の購入態度を、時間軸に合わせて5つのグループに分類します。

1:イノベーター(Innovators:革新者)

全体の2.5%。
好奇心旺盛・冒険好きで、新しいもの好きのタイプ。いわゆる”オタク気質”である人が多いです。誰よりも早くてにすることに重きをおくため、商品の細かいメリットまではあまり吟味しないことが多いです。

2:アーリーアダプター(Early Adopters:初期採用者)

全体の13.5%。
市場の流行に敏感で、自ら情報収集を怠らないタイプです。商品をよく吟味し、良いものだと思うと情報を発信し、他の消費者へ影響を与えます。そのため「オピニオンリーダー」とも言われます。

3:アーリーマジョリティ(Early Majority:前期追随者)

全体の34%。
アーリーアダプターからの影響を受け、メリットやコストを考えて購入するかどうかを決める傾向があります。新しいシュオ品の採用には比較的慎重なタイプです。

4:レイトマジョリティ(Late Majority:後期追随者)

全体の34%。
アーリーマジョリティよりも慎重で、新しいものには懐疑的なタイプです。まわりのみんなが使っていると、安心して行動する傾向にあります。

5:ラガード(Laggards:遅滞者)

全体の16%。
最も保守的で、流行には関心が薄いタイプです。商品が市場に根付いて、「持っていて当たり前」という状態になって、初めて手にする傾向にあります。

ロジャース氏によると、「イノベーター」と「アーリーアダプター」を合わせた16%に浸透するか否かが、商品が普及するかの分岐点になります(「普及率16%の論理」)。

イノベーターはわずか2.5%に過ぎませんから、マーケティングにおいてはアーリーアダプターへの対応が重要とされています。

キャズム理論とは

ロジャースのイノベーター理論をさらに展開させたのが、アメリカのマーケティング・コンサルタント、ジェフリー・A・ムーア氏です。

ムーアの分析によると、アーリーアダプターとアーリーマジョリティの間には容易に超えられない大きな溝(キャズム)」があるといいます。すなわち、いち早く手にしたがる層と、ある程度浸透した後に欲しがる層とでは、商品を欲しがる理由が大きく異るということです。

イノベーター、アーリーアダプターは「新しい」という理由で新商品を手にします。メリットについても考えますが、新しいものを手にしているということ自体に価値を感じます。
一方、アーリーマジョリティ以降は、「みんなが持っている安心感」「費用対効果」があることが商品購入の大きな理由になります。

このキャズムは、利用者の生活が大きく変わるようなITをはじめとするテクノロジー関連の先端産業において特に顕著となります。

キャズムの存在を無視していると、アーリーアダプターまで商品が浸透したとしても、市場規模が広がらないまま衰退してしまう可能性があります。

キャズムを超えるためには

「キャズム理論」では、アーリーアダプターへのマーケティングとは別に、アーリーマジョリティへの働きかけが重要だと説いています。

それでは、キャズムを乗り越えるための、「アーリーマジョリティがスムーズに新商品を受け入れるための働きかけ」とは一体なんでしょうか。

アーリーマジョリティは、「周りが持っていること」に加えて、「商品を持っていることでメリットがあるか」をじっくり考えます。
技術の新しさではなく、いかに価値のあるものかという点に重きをおくからです。

そのため、イノベーター・アーリーアダプターからの良い口コミを流すというマーケティングが効果的です。マジョリティ層に影響度の高いインフルエンサー(インスタグラマー、ユーチューバー、ブロガーなど)とコラボレーションすることで、アーリーマジョリティに訴えかけることができます。

アーリーマジョリティへ普及させるために、現アーリーアダプターに商品のメリットを改めて訴求し、良い口コミを増やすというのも1つの考え方です。

また、利益よりも投資を優先して浸透を目指したり、ターゲットを絞ってニッチ市場を相手にしたりして、一定数のアーリーマジョリティを獲得することを最優先にするという方法もあります。

いかに「口コミ」をうまく活用できるかが、キャズムを乗り越えるためのキーポイントとなりそうです。

まとめ

特に、ベンチャー企業においては、「キャズムを乗り越える」ことが事業の成功に大きな意味を持ちます。そのためには、イノベーター理論をベースに各層の価値観に合わせたマーケティングを行うことが必要です。

ただ、成熟した市場ではキャズム理論は該当しないので、「売れないのはキャズムのせい」とは限りません。

自社の商品がハイテク業界に当てはまる場合は、キャズム理論に沿ってマーケティングを組み立て、事業を成功へと導きましょう

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(執筆:創業手帳編集部)

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