物件契約までの流れ【美容室・サロンの開業手帳 ~5.店舗物件を決める~】

創業手帳

物件選びは「現地で確認」と「専門家を交えて」でが鉄則

(2015/12/07更新)

「キレイになって喜んでもらいたい」「美しくなって夢を叶えたい人をサポートしたい」という想いだけでは生き残れないのが、美容業界。

業界規模は、約2兆円ですが、美容室の数はコンビニの約4倍と言われ、非常に競争の激しい業界です。

また、近年増えているサロンですが、廃業率は1年以内が6割、3年以内が9割と言われています。

美容室・サロンは、店舗の固定費がかかるため、開業前に廃業するかしないかが決まっていると言っても過言ではありません。

開業前に情報を集め、きちんと準備をして、必ず成功させましょう!

美容室・サロンの開業前から開業後までを、ゼロから解説する、開業手帳シリーズ。今回は、「5.店舗物件を決める」です。

物件契約までの流れ

「物件契約の流れと注意点について」

サロンのための物件の申し込みは、必ず徹底した現地調査の後に決定しましょう。

希望に合う物件が見つかったら専門業者(店舗設計デザイナーや施工業者等)による現地調査が必要です。

物件契約後や工事開始後にトラブルにならないよう事前に全てをチェックしましょう。現地調査のポイントは4つあります。

「現地調査の注意ポイント」

ポイント①引込水道管口径(給水)

引込水道管口径の大きさは、主にシャンプー台の水量に影響を与えます。

美容室で必要な水量を確保できるか、必ず確認しましょう。水道効率を込める引込水道管口径は、20ミリ以上あれば安全です。

ポイント②排水管口径(排水)

美容室の水トラブルの多くは排水トラブルです。

排水管口径の大きさの目安は75ミリ以上です。水トラブルは自店舗のみならず同ビル内別テナントにも損害を与える可能性がありますので、調査は専門業者にお願いしましょう。

ポイント③電気

美容室で必要な電気容量は、使用するドライヤーやその他の電気を使用する機器を考慮して算出します。

ドライヤー1台あたり約15Aの電力が必要です。

ポイント④ガス

ガスは「都市ガス」「プロパンガス」のどちらかを調べてみましょう。

料金や設定条件に違いがあります。

「都市ガスは来ているが容量が足りない」「プロパンのボンベを置くスペースがない」等というケースがありますので、事前に確認しましょう。

専門業者の現地調査の結果、見積もりと平面図を確認して希望通りのサロンができると判断された場合は、物件の申込みを行います。

申し込む際の注意ポイントは3つあります。

「申し込みの際の注意ポイント」

ポイント①物件申し込みと契約の優先順位

一般的には、物件申し込みの順番で契約の優先順位がきまりますので、条件に見合う物件が決まったら、早めに申し込みを入れましょう。

ポイント②競合に取られるケースがある

契約時期や家賃、保証金、礼金等がオーナーと折り合わなかったり競合相手が物件オーナーの利益となる契約提示をした場合は、申し込みを早く行っても競合に取られてしまうこともあります。

ポイント③物件契約は融資が決定してから

融資が通らなかった場合は、開業を見送る場合もあります。

物件契約を行うということは契約に関わる費用を(保証金や仲介手数料を)支払うということ。融資が通らなかった場合は、その費用は保証金を除き返金されません。

「融資申請について」

融資を希望している場合は、物件申込みを行ったらすぐに融資申請をする必要があります。

なぜならば融資決定までには時間がかかるからです。大きな流れは以下です。

融資申請→面談→審査機関→融資決定

日本政策金融公庫の場合は結果がでるまで約1ヶ月。

制度融資の場合は、約1ヶ月〜2か月程かかります。

また申請書類に不備があったり改善が必要な場合等は結果がでるまでの時間も長くなりますので、書類準備は入念に行いましょう。

「融資の決定について」

金融機関からの融資決定の通知で、開業は確定します。

また、制度融資の場合は営業許可が出てからの融資実行となりますので、物件取得費や内外装工事費や器具など、開業にかかる費用は開業者自らがまず工面しなければなりません。

物件契約のポイント

「契約時に支払う費用について」

物件契約時に支払う費用には大別して以下の4つがあります。

①保証金(敷金)

保証金(敷金)は本来、退去後に返還されるものです。

その預かり目的は、借主が家賃を滞納した場合の担保金や、借主が通常の使用を超えるような使用をしたことによる部屋の損傷などを復旧する場合に使われます。

②礼金

礼金は謝礼として支払う費用です。退去しても返還されません。

一般的に賃料の1ヶ月分、2ヶ月分の場合が多いです。

③仲介手数料

不動産業者に仲介料として支払う費用です。

貸主との契約時に月額賃料の0.525ヶ月分の範囲内で仲介手数料が必要となります。

物件によっては、最大で月額賃料の1.05ヶ月分の範囲内で必要となる場合もあります。

④保証料

保証料は、借主に連帯保証人がいない場合等に家賃保証会社へ支払います。

家賃保証会社とは、連帯保証の代行を行っている会社で、万一家賃滞納があった場合は、家賃保証会社が一定の範囲で家賃を立て替えます。

「契約期間について」

契約には、「普通借家」か「定期借家」の二種類があります。

以下のポイントについて十分に理解した上で契約をしましょう。

「普通借家契約とは?」

契約期間

契約期間を2年とすることが多いようです。契約期間を1年未満とした場合には、期間の定めのない契約となります。

中途解約

中途解約に関する特約を定めることができます。解約の予告期間や直ちに解約する場合に支払う金額について定めることが多いようです。

貸主からの解約依頼

借り主が引き続き住むことを希望している場合には、貸主からの解約や契約期間終了時の更新の拒絶は、貸主に正当な事由がない限りできません。

「定期借家契約とは?」

契約期間

契約更新の無い契約です。契約期間が終了した時点で借家の明け渡しをします。

中途解約

居住用建物の定期借家契約では契約期間中に借り主に転勤、療養など、やむを得ない事情が発生し住宅に住み続けることが困難となった場合には借り主から解約の申し入れができます。

ただし解約権が行使できるのは床面積が200㎡未満の住宅に居住している借り主に限られます。

契約終了時

契約期間が1年以上の場合は、貸主は期間満了の1年前から6ヶ月前までの間に借り主に契約が終了することを通知する必要があります。

なお貸主と借り主が合意すれば、再契約することは可能です。

普通借家契約の定期借家契約への切り替え

定期借家制度は、平成12年3月1日から施行されていますが、それより以前に締結された住宅の普通借家契約は、借り主を保護する観点から、借り主と物件が変わらない場合当分の間、定期借家契約への切り替えは認められていません。

「比較」定期借家契約と普通借家契約

  定期借家契約 普通借家契約
契約方法 (1)公正証書等の書面による契約に限る
(2)さらに、「更新がなく、期間の満了により終了する」ことを契約書とは別に、あらかじめ書面を交付して説明しなければならない
書面か口頭
更新の有無 期間満了により終了 正当事由がない限り更新される
賃貸借期間の上限 制限なし

2000年3月1日より前の契約 は20年まで。
2000年3月1日以降の契約に制限はない

建物賃借料の増減に関する特約の効力 賃借料の増減は特約の定めに従う 特約にかかわらず、当事者は、賃借料の増減を請求できる
借り主からの中途解約の可否 (1)床面積が200㎡未満の居住用建物でやむを得ない事情により生活の拠点として使うことが困難となった借り主からは特約がなくても法律により中途解約ができる
(2)上記(1)以外の場合は中途解約に関する特約があればその定めに従う
中途解約に関する特約があれば、その定めに従う

「修繕について」

通常、物件の使用に必要な修繕は貸主が行うこととなっていますが、借り主の故意や過失によって必要となった修繕は、当然借り主が行うことになります。

取り決めが不明確な場合は入居中のトラブルとなることもありますので事前に細かな取り決めをしましょう。

「原状回復について」

原状回復とは、退去時に店舗を契約前の状態へ戻すことを言います。退去時の修繕等の義務については以下のように取り決めをされています。

  • 借り主の通常の居住、使用による物件の破損、損耗は、貸主の負担
  • 借り主の故意や過失などによる物件の破損、損耗」が借り主の負担

ただし、本来は貸主負担とするべきものを、借り主負担としている特約がある場合もありますので内容について詳細を確認しましょう。

スケルトン物件

「居ぬき物件とスケルトン物件」

居抜き物件とは、前のテナントが使用していた内装や設備、什器が残っている物件のことです。

必要なものを引き継ぐことができれば内外装工事費を大幅に減額することができます。

しかし実際に引き継いでみたら、使えると思っていた設備等が機能せず、解体や廃棄費用等が上乗せされて予想以上に費用がかかったというケースもあります。

一方のスケルトン物件とは室内が建物躯体のみで内装設備等がない状態の物件のこと。

スケルトン物件の場合は室内の内装、設備といった工事は新しい開業者が行ないます。

費用はかかりますが希望通りのデザインをつくりやすいのが特徴です。

それぞれに特徴がありますので、物件を決める際は必ず専門業者による現地調査を依頼し、希望の内装や設備機器の導入、そしてレイアウトなどを詳しく伝えて見積もりや平面図を慎重に確認することが大切です。

「居抜き物件のメリット・デメリット」

メリット デメリット
・美容室としてそのまま使える設備や什器が多い場合はコスト削減になる。
・以前の店もそれなりの固定客があった場合、認知度があり顧客を引継やすい
・使い回せない設備が多い場合は、解体費が発生し逆にコスト高となる。
・以前の店の評判が悪かったりすると負のイメージも引き継ぐことになる。

「スケルトン物件のメリット・デメリット」

メリット デメリット
・自分が望むような店づくりを一から企画でき、以前の店の負のイメージを引き継ぐということは無い。 ・コストがかかり、新店舗のため店の存在を認知してもらうのに時間がかかる

商圏分析はプロに依頼

「成功への鍵を握る出店候補エリアの調査」

「商圏分析」とは、ある店舗を中心にして半径何km以内にどれだけの人口が、どんな世代で、どのような行動パターンで生活をしているのか分かるデータです。

このデータを活用することは、サロンを成功させるために大切な作業です。

20代を狙ったカジュアルなサロンを目指しているのに、退職者や年配者が多く住んでいる住宅地にお店を構えても成功は難しいでしょう。

また、場所は良くても自分が考えているサロンと似たコンセプトをもつ店が近くにあればクライアントの奪い合いになります。

競争に打ち勝つために、この商圏分析はとても大切な作業です。専門家のアドバイスを参考にしましょう。

「導線と交通量を注意深く見る」

その店がお客様にとって通いやすい場所なのかどうかを判断することも必要です。

駅近の物件でも周辺に人が集まるような施設がなかったり、裏路地で人通りがなければ好条件とはいえません。

一方、駅から離れた物件でもターゲットの客層が多く住む住宅街の手前にある物件などで人通りも多ければ、集客が望める物件といえるのです。

こういった「導線分析」は地図情報から読み取ることもできますが、あくまでも予測的数値になります。正確な分析をするには何よりも実地調査が必要です。

「物件をみるポイントとは」

上の「商圏」や「導線」をみてエリアが条件に合えば、最後に物件そのものも条件や状態も確認しましょう。

同じビル内や近所にターゲット客層となる人々が嫌がるような施設などは無いのか、物件の築年数、階数等などはもちろんのこと外を歩く人々から店内の様子はどの程度見えるか等の「間口のガラス張り比率」なども重要です。

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(監修:「理・美容室の創業融資・開業支援に強い税理士事務所」
ライズサポート税理士事務所
武渕将弘 税理士)
(編集:創業手帳編集部)

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