起業するために押さえておきたい円満退職のポイント

創業手帳

脱サラして独立した社会保険労務士が解説します

(2018/11/02更新)

これから起業を考えている方にとって、現在の勤務先を退職することは非常に大きな出来事ではないかと思います。勤続年数や役職などによってそれぞれの状況は異なるとは思いますが、勤務先にとってもご本人にとっても、退職がかなりの影響を与えることは間違いありません。一歩間違えると、大きなトラブルになってしまう危険性も…。

起業に向けて円満退職するためには、どのようなポイントに気をつければいいのでしょうか?今回は、自身も脱サラして独立開業し、現在は起業志望者をはじめ労働者からの労働相談を受けている社会保険労務士の黒田英雄さんにお話を伺いました。

日本の起業・創業の現状

中小企業庁が毎年作成している「中小企業白書」の2017年度版によると、日本の開業率は国際的に見てかなり低く、2000年以降はおおむね5%前後で推移しています。起業に無関心な人の割合は8割近くにまで上り、日本は雇用されることが中心の労働形態であることが分かります。

一方、起業に関心を持った人が起業準備を始めて、実際に起業にまで至る割合は約19%。これはアメリカの約20%と肩を並べており、ヨーロッパ各国に比べても高い数値になっています。つまり「起業に関心を持つ人は少ないが、一度やると決めたらやり通す!」というのが、日本の傾向のようです。

ちなみに、起業に関心を持つきっかけは、男性では「周囲の起業家・経営者の影響」「勤務先ではやりたいことができなかった」「勤務先の先行き不安・待遇悪化」などが上位を占め、女性では「周囲に勧められた」「家庭環境の変化(結婚・出産等)」などが大きな理由です。これらのことから、男性は主に自分の意思で起業を決断することが多く、女性は自分の意思以外の要素も大きく影響しているのではないかと考えられます。

いつまでに退職を申し出ればいい?

起業を目指すことになると、お勤めの方の場合は勤務先に退職の意思を伝える必要が出てくるわけですが、ではどれくらい前に申し出るべきなのでしょうか?

この点については、実は労働法には規定がありません。勤務先に就業規則があれば、原則的にはその中に記載されている期間までに申し出ることになります。もし就業規則が勤務先にない場合は、民法に則って2週間前までに申し出れば退職の自由が認められています(ただし、契約の内容や報酬の形態によっては例外もあります)。

しかし現実問題として、あまり直前に退職を申し出ても勤務先は困ってしまうことがほとんどでしょう。「退職するギリギリまで言わない」というのは、起業を目指す一社会人としては、あまりよろしいことではありません。

起業した際に、以前所属していた会社が取引先になることもあります。先に書いた通り、勤続年数や役職によって個人差はあると思いますが、できれば十分な引き継ぎが可能なくらいの期間を想定して、勤務先に退職の意思を伝えることが大切です。

起業志望であることを伝えよう

今の勤務先と同じ業種で起業するか、異業種で起業するかによっても状況は変わってきますが、可能であれば、退職の申し出とともに起業を考えていると伝えることをおすすめします。

例えば、私の場合は前職が医療業界で、社会保険労務士とは違う業種でした。そのため、独立開業のために退職したい旨をはじめから伝えました。退職希望日の半年前には直属の上司に意思表示をして、後任を準備する時間を取ることができるよう自分なりに配慮しました。それから退職までは、有休を活用して開業準備ができましたので、今となってはとても大切な時間だったと感謝しています。

退職希望を勤務先に拒否されてしまったら


今は全国的に人手不足で、より良い条件の会社に移ることができるならと転職を希望する人も増えています。「起業のための退職なんです!」と言っても、勤務先からしたら人員が減ることは同じですので、猛烈な引き留めにあうことも考えられます。

ここのところ労働相談で急激に増えているのが「社長が退職を認めてくれない」というものです。転職先や起業の時期が決まっているのに、退職の手続きを勤務先がまったくしてくれないという、数年前まではあまりなかったような悩みが増えてきています。

先ほど書いたように、法律上は2週間前、就業規則でも一般的には1ヶ月前くらいに申し出れば、労働者は自由に退職できます。しかし、それはあくまでも法律上・規則上のこと。実際にはやはり話し合いであったり、起業への想いをしっかり伝えるということが重要です。どちらかが一方的に辞める・辞めさせるという形ではなく、勤務先も労働者も納得の上で労働契約を終了する「合意退職」を目指すのが、いちばんトラブルになりにくい道筋です。

残念ながらそれでも勤務先が受け入れてくれないということであれば、退職届を作成して規定の時期までに提出しましょう。雇用保険の再就職手当を受給できる場合もありますので、離職票を発行してもらう必要があります。もしも退職した勤務先が発行してくれないということであれば、お近くの社会保険労務士にご相談ください。

まとめ

今回は、起業するために押さえておきたい円満退職のポイントについて解説しました。

円満に退職できるかどうかは、テクニックではなく普段からの人間関係に関わっています。
労働相談に来られる起業志望者の中で、「起業への想いをあえて表には出さずに、まわりを驚かせたい!」と考えている方がいらっしゃいますが、それは残念ながら逆効果だと思います。むしろ、いずれ起業したいことをオープンにして、その上で勤務している間はしっかりといいお仕事をしていれば、いざ退職するときにトラブルになることは少ないでしょう。

起業に向かってはやる気持ちはとてもよく分かりますが、その前から勤務先の人間関係を良くしておくことが重要です。せっかくであれば応援されて勤務先を去ることができるように、普段から心がけておきましょう。

ほんの少しの心遣いで状況は変わる
人材不足解消のカギは 障がい者・難病患者の雇用

(監修:社労士オフィスこころこ 社会保険労務士 NPO法人 労働者を守る会 黒田英雄
(編集:創業手帳編集部)

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