「SmartHR」に学ぶ、組織の生産性を極限まで高める “仕組み化”のコツ

創業手帳

株式会社KUFU代表・宮田氏に聞く、仕組み化のコツ

(2016/09/30更新)

労務担当者の負担を減らすソリューションとして生まれた「SmartHR」は、今までにないサービスとして話題となり、プロダクトも高く評価され、シェアを拡大しています。
今回は、「SmartHR」を考案した株式会社KUFUの宮田氏に、急成長を遂げたサービスを支えた組織の力についてインタビュー。労働時間は短くなったのに、開発スピードは上がったという組織運営のコツを教えていただきました。

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宮田 昇始(みやた しょうじ)
1984年熊本県生まれ。大学を卒業後、複数のベンチャー企業でウェブディレクター・ウェブプロデューサーとして勤務。会社員時代に難病を経験し、完治して復職後に起業を決意し、2013年に株式会社KUFUを創業。2015年にSmartHRのサービスを開始した。

社員へのフィードバックを”仕組み化”

ー組織が成長していく課程で、だんだん緩んできてしまうという悩みを持つ経営者が多いです。そういう兆候に対して何か対策をしていますか?

宮田:結構色々な仕組み化を進めています。例えば、開発というか、会社の運用自体は、一週間単位で回しています。具体的に言うと水曜日はほぼ終日、会議の日と決めています。午前中には経営会議をやって、各自が目標の進捗の確認をする会議をやって、「KPT」という開発の振り返りをやります。午後には、一週間で進める開発の仕様を全部決めて、工数出しまでやってしまいます。

開発内容は全部定量化しています。例えば「このタスクは3」「このタスクは8」といった具合です。最終的に「今週の56」と決めたら、一週間でそれをやりきって、また翌週に振り返る……この繰り返し。このようにかなり仕組み化しています。

ーKPTで修正点を洗い出したり、いいところをそのまま残したり、ということを行うんですね。こういった振り返りで、サービスはまたどんどん良くなっていくと。開発以外にも、仕組み化が進んでいる印象です。

宮田:そうですね。創業間もないスタートアップだと、特にエンジニアは昼から出社という会社も多いと思うのですが、うちは10時出社で朝礼もやっていて、割と普通の会社に近いと思います。

また、エンジニアだけではなく、社員全員と個人面談を毎月1回必ずやるようにしていますから、スタートアップにしては珍しく、早い段階から仕組み化を行っていると言われています。

ーそうやっていかないと、確実な成果というのは出て来ないですよね。

宮田:スクラム開発(※1)というやり方で進めているんですが、それを始める以前は、全体を把握できずに進めていました。そうすると、タスクに終わりが見えないですし、今の進捗がいいのかどうかも分からないんです。

スクラム開発で全てのタスクを定量化したことによって、今は進捗がいいのかどうか、誰が見てもわかるようになりました。「先週は60できたのに、今週は55しかできていない。それはなぜだ?」という感じで原因をさぐっていけるので、効率良く回っています。

※1:スクラム開発とは
スポーツの様にチーム全体で目標に向うための開発手法。ある一定の開発期間で区切り、計画を立て、レビュー(振り返り)を行う。課題に対して柔軟に対応することができ、自律的な組織を育成することが可能。

開発工数を定量化し、ToDo管理を“仕組み化”

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ー開発のタスクは、どうやって管理されているんですか?

宮田:「トレロ」というツールを使って管理しています。「ふせん」のようにあつかえるタスク管理ツールです。これを使って定量化をしていますね。

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(トレロのイメージ画像)

左にあるToDoが、どんどん右に流れていくような図式になっています。
最初のToDoに上がるのは、ユーザーから上がってきた要望や、自分たちで見つけたバグです。その中で仕様を詰めなければ工数を出せないというものは、「仕様策定が必要」というリストに入れておきます。来週やることは「候補」というリストに移し、今週やることは「今週やること」のリストに移す。

こうやって開発タスクを事前に洗い出しておいて、順番にドンドン流していきます。毎週水曜には空になった状態の「今週やること」にタスクを移していって……というイテレーションの繰り返しです。

タスク自体にも、重みをつけています。全部重み付けして総量を把握しています。着手したら「Doing」と言う枠に動かします。必殺仕事人のように、それぞれが好きなタスクを持っていくんです。終わったら、コードレビューっていうのを他のメンバーがチェックして、最終的にCSチームが「QA」という品質確認をして問題がないかどうかを確かめます。QAが終わったら本番にアップするという決まりになっていて、開発のフローもかなり仕組み化しています。

組織を“仕組み化”した転換点

ー開発の会社というと、どうしても過剰労働になるというか、毎日徹夜とか終電みたいなイメージがありますが、実際はどうですか?

宮田:一般的なベンチャーやスタートアップだとそういったイメージが多いですよね。でも、うちは20時半ぐらいには皆帰ります。これは、先ほどのスクラム開発のおかげです。今週やれる量を先に決めておくので、早く終われば早く帰れてしまうんです。

ーなるほど、無限に仕事があるわけではないということですね。

宮田:逆に、今週やる量を決めておかないと、無限にやれてしまうんですよね。どうしてもダラダラ続いてしまって。スクラム開発を導入すると、もしかしたらやれる量が減ってしまうかもしれないと思ったのですが、実際やってみると、むしろ開発スピードは上がって、体感で2倍以上になりました。

やはり、終わりが見えると皆走りやすいんですよね。1週間でこれをやるぞと。だから、開発量が増えているのに帰るのが早いみたいな感じになりました。工数出しのタイミングで仕様を全員で確認してから着手するので、手戻りもほとんどなくなりました。

ースタートアップの根性論的な覚悟として、18時間働けという考え方と、一定量休みながらやったほうが、頭が冴えて生産性が上がるのではないかという考え方と、2つあると思います。もちろん、両方違うことでそれぞれ成功している人はいるのですが、宮田さんはどちらが良いとお考えですか?

宮田:タイミングにもよると思います。今はプロダクトの方向性がなんとなく見えている状態で、ユーザーも増えて売上も上がり始めていて、「こういう方向でやっていけばそんなに間違いはない」というのが分かっていますから、先ほどの仕組み化した開発が非常にマッチしています。バイクで言うと3速とか4速で走っているような。

一方で、何がユーザーに必要か分からない状態の「初期段階」では、仕組み化した開発では全然うまくいかないです。とにかくその日できることは全てやって、3日ぐらいで立てたプランを3日ぐらいでヒアリングして、採用か否かを判断するという状態ですから。そういう段階の時は、やはりハードワークにならないとうまくいかないような気がしますね。

ー方向性が定まっていない時には臨機応変にやっているということですね。

宮田SmartHRも、「方向性が定まって、これでいけるぞ」というタイミングで、スクラム開発に切り替えました。サービスを作り始めたのは去年の3月ぐらいで、切り替えたのが去年の10月ぐらいでしょうか。最初の半年間ぐらいは泥臭いやり方でやっていて、半年超えてニーズが掴めたタイミングからは、スクラム開発に切り替えました。

ー方向性が決まった段階で、一定のゴールが見えないことをすると、逆に効率が悪くなってしまうわけですか?

宮田:なかなか明言しづらいところではありますが、だんだん振れ幅が収束していくような感覚があるので、ある程度詰まったぞと思ったら、転換するイメージです。

ー自社サービスだと、そこを自分たちでコントロールできるというのが良いのかもしれませんね。

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「SmartHR」が企業にもたらす価値

ーSmartHRのサービス概要をお聞かせいただけますか。

宮田:例えば、従業員さんを正社員として雇う時にはたくさんの書類が必要でしたが、そういうのが要らなくなって、会社側は従業員さんをメールで招待するだけ、というサービスです。紙の書類の用意も不要です。

ー書類手続きは、どうやって進めるんですか?

宮田:新入社員に「入社手続きをやってください」といった連絡がいきます。それに従って、新入社員が入社前や入社初日のオリエンテーションなどで、自分の情報をPCやスマホで入力するだけです。

入力が終わると、人事担当者に「入力が完了した」、という通知が届きます。この段階でほとんどの情報が揃っているので、あとは入社日や給与など、会社側が情報を入力します。一通りの情報が集まると、役所に提出する書類がすべて自動でできあがります。

ーいちいち入力や記入をしなくて良いのは、かなりの省力化ですね。

宮田:さらに、便利なポイントは、役所へのWeb申請ができる点です。届け出に行くと2〜3時間かかりますが、それが15秒ぐらいで終わってしまうんです。

手書きの書類も不要ですし、役所で待つこともありません。また、間違いのない従業員情報が集まりますので、そのまま従業員データベースとして管理もできるというところがメインのサービスです。あとはおまけとして、給与明細がWebで発行できたり、マイナンバーの収集・管理もできたりします。規模が小さな会社であれば、いわゆる「労務」というジャンルは、このサービスを使えばWebで完結できるようになります。

ーどのくらいの規模の会社を対象にしているんですか?

宮田:ユーザーとしては社員が50〜100名ぐらいの会社さんが多いです。とはいえ、設立間もない会社さんもかなりの数がいます。その規模の会社さんだと、手間が省けること以上に、労務手続きの学習コストが無くて済むという点を、すごく喜んでもらっています。

ー手続き的なものは、意外と複雑ですし、1から学ばないといけませんもんね。

宮田:スタートアップの時は、そもそも何の手続きをしたらいいのかわからないんですよね。SmartHRでは、やるべきことをToDoリストとして用意しています。「これを見ながらやっていただければ、初めての方でも簡単にできます」という状態にしています。特に創業したての会社さんからは、知識がなくても使えるという点で評判が良いです。

特に、IT系ベンチャーのスタートアップの会社さんが多いです。今後、スタートアップにとっては必須のサービスと呼ばれるようになっていきたいです。

ー他に、力を入れているところはありますか?

宮田:チャットサポートを頑張っています。ご質問をいただいて、中央値で3分から4分ぐらいで回答ができるようになっています。分からないことがあれば、作業を中断しなくても、その場でわかるような仕組みにしています。

事務作業を自動化して、企業の生産性を上げる

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ーSmartHRが、社会保険労務士の仕事を奪ってしまうという懸念はありませんか?

宮田:そういった心配をされることもありますが、実際にはそうではありません。最近多いのは、社会保険労務士(以下、社労士)さんが顧問先にSmartHRを導入するというケースです。実は、社労士さんとしては、社会保険と雇用保険の届け出ってあまり面白くない仕事なんですよね。誰がやっても変わらないアウトプットなので、単純に事務作業なんです。

そういう付加価値のない作業が機械化できると、社労士さんにとっても嬉しいようですし、もっと他のことに集中できるようになったという声が増えてきています。

ちょうど9月26日に社労士さんの意見を踏まえた「SmartHR for Adviser」という社労士さん向けの機能をリリースしました。すでにかなりの数のお問い合わせをいただいています。これをうまく活用してもらえたら企業だけではなく、社労士さんの効率化にもなると考えています。

ーなるほど、届け出というのは誰でもできるから、社労士のコアな仕事を奪っているわけではなく、むしろ生産性を上げているということですね。

宮田:そうですね。社労士さんの仕事は「手続き系」と「相談業務」の2つにざっくり分かれます。相談業務とは、コンサルティングや助成金の申請ですね。

この2つのうち、手続き系の業務は誰がやってもアウトプットが同じで、かつ月初に集中するので、社労士さんたちも毎月最初の営業日あたりは家に帰れない状況なんだそうです。それでいて、月初以外は業務が落ち着くようです。

SmartHRを導入することで、社労士さん側にとっても、このピークを減らせますし、安定した処理ができてメリットが大きい。会社側としても、手続き系の業務は社労士さんとのやりとりがない分、内製化したほうが早くできたりするんです。社労士さんとしても、手続きのやり方を教えるのではなくて、空いた時間を活用して、もっと踏み込んだ話ができるようになるという訳です。

ーそもそも、手続きで書類を持っていくだけで、高額な金額は請求しにくいでしょうからね。

宮田:今、弊社のトップページに、モンスター・ラボさんという会社のインタビューがあります。この事例では、以前は社労士さんに全部頼んでいたらしいのですが、それを全て社内で巻き取ったそうです。それで工数が増えるのではないかと思ったら、半分ぐらいに減ったのだとか。社労士さんの契約もそのまま結んでいて、手続きのお願いなどが減った分、色々な相談ができるようになったそうです。

あとは、社労士さんがSmartHRを紹介してくれるというパターンもあります。READYFORさんという会社では、手続きのやり方を教えてもらうだけで社労士さんとの定例ミーティングが終わっていたそうです。これを問題視した社労士さんが、労務担当者にSmartHRを紹介して導入することになりました。その後は、SmartHRで簡単に手続きができるようになったので、社労士さんには別の相談ができるようになったという話を聞きました。

ー社労士さんの仕事を奪うのではなく、共存して、紹介もしてもらっているんですね。ちなみに、利用料金はどのくらいなんですか?

宮田:従業員数で値段が変わる仕組みです。年払いと月払いがあって、年払いだとおおよそ2か月分お得です。
5名未満だと月額980円で使えます。50名ぐらいだと20,000円ぐらいの値段になります。100名だと50,000円ぐらいになるというイメージです。

また、5名未満の売上は全体の比率でいうとかなり低かったので、月額料を払うほど手続きの頻度が多くない小さな会社さんでも使ってもらえるかなと考え、9月には無料プランも開始しました。

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あえての“無料化”で社会に良い影響を与えたい

ー今後、サービスをどのような方向性で広げていくお考えですか?

宮田:先ほどの無料化の何がいいかというと、頻度が高くない企業でも使えるようになることです。例えば従業員の入れ替わりや引越しが1年に1回あるかないかという会社さんだと、月額料を払うのはちょっと……という抵抗があるんですよね。
そういった会社さんでも、無料で導入して活用してほしいと思います。

ーでも、無料化を進めると、会社的にはメリットがないのではないですか?

宮田:もちろん、ウチは商売的にはそんなにおいしくありません。でも、規模の小さい会社だと、「そもそも社会保険の手続きちゃんとやっていなかった」ということも多いですから、そういった状況を解消できるので、良いと思っています。
私がかつて病気をしたときの話をしましたが、社会保険に未加入だと、私が病気をして傷病手当がもらえたような、本来受けられるはずの恩恵が受けられないかもしれません。その状況で病気になると、その会社の社長が無理して給料を払うか、もしくは払われないか、という状況になるんです。

そういうことを解消するために、小さな会社でも社会保険の手続きを抜け漏れ無くやってもらえる環境を作りたいですね。

無料にすることで、結構様々な会社さんが使ってくれるはずですから、それをきっかけに、世の中に広まっていったらいいなと思っています。

ー会社にとってもいいことですし、世の中の従業員の方々にとってもとてもいいことですよね。

宮田:はい。社長さんや人事・労務の方からすると、面倒な仕事が減りますし、従業員さんからすると、「ちゃんと手続きをやってもらえている」という安心感や、会社への信頼感が出ると思います。

全ての労務手続きの自動化を目指す

ーサービスを見たところ、すごくUIがきれいですよね。これはサービスをリリースしてからも何回もヒアリングとかをして改善を重ねておられるのですか?

宮田:そうですね。頻繁にやっています。UIに関しては、たまたまUIにこだわるメンバーがたくさんいたことが大きな理由です。私もこだわるほうですし、エンジニアのメンバーもこだわるので、それは活かされていますね。

ー「クラウドサイン」というWEB完結型のクラウド契約サービスをSmartHRで提携されていると伺ったのですが、利点や今後の展望を教えていただけますか?

宮田:まだシステム連携とまではいっていないのですが、今後やっていきたいなと思っている分野です。

例えば、従業員を雇う時には、会社との間でたくさん契約書を結びますよね。雇用契約書や、秘密保持契約書、誓約書など。でも、契約書がバラバラに保管されていて、どこに誰の書類があるのかわからなくなる、といった状況がよくあります。

SmartHRは手続きを行うだけではなくて、従業員さんのデータベースにもなっていますから、個人のデータベースの中に雇用契約書や誓約書、NDAをクラウドサインにリンクしておけると、データベースとしてかなり便利になると思っています。

つまり、今後は労務まわりの煩雑な書類作成などの作業を、全部クラウドで完結させることを目指しています。

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株式会社KUFU代表・宮田氏に聞く、事業成功のコツ
「SmartHR」に学ぶ、ユーザーニーズの本質を知る“3段階ヒアリング”とは

(取材協力:株式会社KUFU/宮田 昇始
(編集:創業手帳編集部)

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