社労士モリの「5分で解る労務管理」(その2 社会保険と労働保険)

創業手帳

社会保険と労働保険の違いとは?加入対象や手続きを徹底解説!


(執筆:社会保険労務士 モリ事務所 森克巳)

(2015/12/25更新)

社会保険労務士モリ事務所の森克巳です。
これから創業する、または創業したばかりの皆さんに、少しでも人事・労務の有益な情報をお伝えできるよう、なるべく噛み砕いて解説していく本シリーズ。

前回は、「労働契約」について説明しました。
今回は、「社会保険と労働保険」についてです。

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ちょっと定義がややこしいぞ「社会保険」

まずはじめにお話ししたいのですが、この「社会保険」「労働保険」という言葉、実は意外とやっかいなんです。社会保険には大きく分けて次の区分があります。

  • 会社が加入する社会保険
    健康保険、厚生年金、介護保険
  • 地域の社会保険
    国民健康保険、後期高齢者医療制度、国民年金、介護保険
  • 労働保険(会社が加入します)
    労災保険、雇用保険
  • 公務員などの社会保険
    私学共済、国家公務員共済、地方公務員共済

新聞やテレビのニュースで「社会保険」と言うと、上記すべてを含む総称として使っている場合があります。しかし、会社の総務担当者が事務処理として行う場合は、1の「会社が加入する社会保険」、3の「労働保険」の2種類を指します。さらにこの「1.社会保険」と「3.労働保険」は届け出先や管轄が全く異なります。

保険の種類を確認しましょう

では、改めて会社が加入する保険を確認しましょう。
ここでは、保険の定義を社会保険(健康保険・厚生年金)、労働保険(労災保険・雇用保険)というくくりでご説明します。

  • (社保)健康保険:いわゆる風邪や自宅で怪我をしたなど、個人の理由で病気や怪我をした場合に使う医療保険です。保険料は会社と従業員の折半で支払います。
  • (社保)厚生年金:個人事業主は国民年金、会社員は厚生年金と思われがちですが、会社員は国民年金+厚生年金の2階建て構造の年金に加入しています。もちろん、老後に受け取る年金も多くなります。年金保険料は会社と従業員の折半で支払います。
  • (労保)労災保険(労働者災害補償保険):従業員が業務上、または通勤途中に病気や怪我になった場合に労働者を保護するための保険です。保険料は全額会社が支払います。
  • (労保)雇用保険:従業員が失業した時や育児・介護で就業が困難な時に保険が給付されます。よく耳にするのが「失業保険」という言葉ですが、これは失業した時の基本手当である「失業給付」を指していることが多く、失業保険という保険はありません。保険料は毎年割合が変動するのですが、大体会社7:労働者3くらいでそれぞれ負担します。

社会保険と労働保険に加入すべきか?

さて、これらの保険ですが、法律で適用事業所にあたる場合は強制加入となります。

「いやー、ウチの会社は人数少ないしいいですよ」・・・というわけには残念ながらいきません。あなたの会社が加入対象かどうか調べてみましょう。

社会保険(健康保険・厚生年金)の加入が義務づけられている事業所

(1)法人事業所で常時従業員(事業主のみの場合を含む)を使用するもの
(2)常時5人以上の従業員が働いている事務所、工場、商店等の個人事業所
※ただし、5人以上の個人事業所であってもサービス業の一部(クリーニング業、飲食店、ビル清掃業等)や農業、漁業等は、その限りではありません。
(年金機構HPより)

労働保険(労災保険・雇用保険)の加入が義務づけられている事業所

労働者(パートタイマー、アルバイト含む)を一人でも雇用していれば、業種・規模の如何を問わず労働保険の適用事業となり、事業主は成立(加入)手続を行い、労働保険料を納付しなければなりません(農林水産の一部の事業は除きます。)。
(厚生労働省HPより)

※個人事業主の非適用業種としては、農業、林業水産業などの第1次産業、旅館、飲食業などのサービス業、弁護士、税理士などの法務、神社、教会などの宗教があります。

文章だとややこしいので法人・個人事業主の雇用状況別に加入の可否を表でまとめてみましょう。また、勤務条件により、従業員の加入の可否がありますので、それもまとめます。

社会保険に加入が必要な事業所
事業所 従業員数 業種 適用の可否
法人 常時1名以上
すべての業種 強制適用
個人事業主 常時1名以上

非適用業種
・第一次産業(農業、林業、水産業など)
・サービス業(旅館、飲食業など)
・法務(弁護士、税理士など)
・宗教(神社、教会など)

任意適用
常時5名未満 非適用業種以外のすべての業種 任意適用
常時5名以上 非適用業種以外のすべての業種 強制適用

※法人の常時1名以上には事業主のみの場合を含む

社会保険に加入が必要な従業員

次の(1)、(2)の条件を満たす従業員がパート、アルバイトを問わず加入が必要になります。
目安は一般従業員(正社員)のおおむね3/4以上の労働時間があることです。

(1)1日または1週間の所定労働時間が正社員の3/4以上
(2)1ヶ月の所定労働日数が正社員の3/4以上

労働保険に加入が必要な事業所
事業所 従業員数 業種 適用の可否
法人 常時1名以上 すべての業種 強制適用
個人事業主 常時1名以上 農林水産業以外 強制適用
常時5名未満 農林水産事業
(農業用水供給業を除く)
任意適用
常時5名以上 農林水産業 強制適用
雇用保険に加入が必要な従業員

雇用保険の加入条件は、次の(1)、(2)の条件を満たす従業員です。こちらもパート、アルバイトを問わず加入が必要になります。

(1)1週間の所定労働時間が20時間以上
(2)31日以上の雇用見込みがある

労災保険に加入が必要な従業員

労災保険については、雇用期間・所定労働時間に関わらず、賃金を支払っている人すべてが強制加入となります。

経営者の労災保険について(特別加入)

労災保険は、本来、労働者の業務または通勤による災害に対して保険給付を行う制度で経営者(事業主等)は加入できません。

ただし、会社の取締役等であってもその業務の実情、災害の発生状況などからみて、労働者に準じて保護することが適当であると認められる場合は特別に労災の任意加入を認めています。これが、特別加入制度です。

特別加入は「労働保険事務組合」を通さなければ加入できません。事務組合は各業種別の組合や商工会議所などがあります。詳細はハローワークに問い合わせてみてください。

これであなたの会社および従業員が、加入が必要かどうかわかりましたでしょうか?

では、実際にどんな手続きが必要か?社会保険の手続き

それでは、会社を設立した場合にどのような手続きが必要か見てみましょう。

社会保険への新規加入手続き

会社を設立し、社会保険へ加入する場合は、事業所の新規加入手続きが必要になります。
加入時期は加入義務の事実発生から5日以内です。

【申請先】
社会保険(健康保険・厚生年金)は事業所の所在地を管轄する年金事務所に申請を出します。

例えばモリ事務所は埼玉県新座市なので、管轄は埼玉県川越年金事務所です。
※実際に事業を行っている事業所の所在地が登記上の所在地と異なる場合は、実際に事業を行っている事業所の所在地を管轄する事務センター(年金事務所)となります。

【申請書類】
年金機構のホームページ「新規適用の手続き」に申請書類の様式、記入例、必要な添付書類が記載されていますので確認をしてください。
健康保険・厚生年金保険 新規適用届

また、日本年金機構のサイトに記入例・事業所業態分類票がありますので参考にしてください。
事業所を設立し、健康保険・厚生年金保険の適用を受けようとするとき

【添付書類】
・法人事業所の場合
法人(商業)登記簿謄本(コピー不可)※1
・強制適用となる個人事業所の場合
事業主の世帯全員の住民票(コピー不可・個人番号の記載がないもの)※1
※1 事業所の所在地が登記上の所在地等と異なる場合は「賃貸借契約書のコピー」など事業所所在地の確認できるものを別途添付。

【提出方法】
この手続きは、電子申請、郵送もできますが、書類一式を持参して窓口へ直接行かれることをお勧めします。記入不備などがあれば、その場で指摘をしてもらえるからです。

従業員の加入手続き

続いて、社会保険に加入する人(被保険者)の「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」を日本年金機構に提出します。

【提出先】
事業所の所在地を管轄する年金事務所

【申請書類】
健康保険 厚生年金保険 被保険者資格取得届

日本年金機構のサイトに「従業員を採用したときの手続き」に届出様式と記入例があります

事業所の新規加入手続きと従業員の加入手続きは同時に行えます。

2回目からは郵送、電子申請などで問題ないでしょう。受理されてから約10日〜2週間程度で健康保険証が会社に届きます。

社会保険料の決定方法

さて、気になる保険料ですが、従業員の被保険者資格取得届に「報酬月額」を記入する欄がありましたが、この報酬月額により保険料額が決まります。

全国健康保険協会(協会けんぽ)より毎年の保険料額表の提示がありますので、その表から算出されます。また、保険料は都道府県によって異なります。
都道府県毎の保険料額表」(協会けんぽ)

例:東京都 35歳 報酬月額20万円 2015年12月現在
健康保険料:19,940円(本人負担・会社負担それぞれ9,970円)
厚生年金保険料:35,656.円(本人負担・会社負担それぞれ17,828円)

20万円の給与の従業員一人でも毎月の会社負担は27,798円です。保険料は会社にとって、かなり大きな負荷になることを意識してください。

社会保険料の支払い方法

従業員の毎月の給与から、前月分の保険料を徴収します。

毎月下旬に年金事務所から前月分の納入告知書が届くので、被保険者負担分と会社負担分を合わせた保険料を納付します。

事前に年金事務所に届出をすることで、口座振替が可能です。

労働保険の手続き

労働保険は労災保険→雇用保険の順に手続きを行います。

さて、ここでまたややこしい言葉が出てきますが、労働保険には「一元適用事業」「二元適用事業」があります。

これを詳しく説明すると長くなるので
二元適用事業:農林水産業、建築業
一元適用事業:上記以外
と覚えておいてください。

一元適用事業とは、労災保険と雇用保険の保険料の申告・納付等を両保険一本として行う事業です。

二元適用事業は、例えば建築業は大きな建築現場ごとに労災保険をかける必要があるので、その事業の実態からして労災保険と雇用保険の適用の仕方を区別しています。

次の表に一元適用事業と二元適用事業の労働保険の申請方法をまとめました。

一元適用事業の場合(労災保険・雇用保険を一本化で申請)
届出順序 申請内容(書類名) 届出期間 届出先
(1) 労働保険 保険関係成立届 保険関係が成立した日から10日以内 所轄の労働基準監督署
(2) 労働保険 概算保険料申告書 保険関係が成立した日から50日以内

次の3カ所のいずれか
・所轄の労働基準監督署 
・所轄の都道府県労働局 
・日本銀行(代理店、歳入代理店(全国の銀行・信用金庫の本店又は支店、郵便局)でも可)

(3) 雇用保険 適用事業所設置届 設置の日から10日以内 所轄の公共職業安定所
(4) 雇用保険 被保険者資格取得届 資格取得の事実があった日の翌月10日まで 所轄の公共職業安定所

・(1)(2)は同時に申請できます。
・(3)(4)は必ず(1)の手続きの後に申請します。

二元適用事業の場合(労災保険に係る申請)
届出順序 申請内容(書類名) 届出期間 届出先
(1) 労働保険 保険関係成立届 保険関係が成立した日から10日以内 所轄の労働基準監督署
(2) 労働保険 概算保険料申告書 保険関係が成立した日から50日以内

次の3カ所のいずれか
・所轄の労働基準監督署 
・所轄の都道府県労働局 

・日本銀行(代理店、歳入代理店(全国の銀行・信用金庫の本店又は支店、郵便局)でも可)

二元適用事業の場合(雇用保険に係る申請)
届出順序 申請内容(書類名) 届出期間 届出先
(1) 労働保険 保険関係成立届 保険関係が成立した日から10日以内 所轄の労働基準監督署
(2) 労働保険 概算保険料申告書 保険関係が成立した日から50日以内

次の3カ所のいずれか
・所轄の労働基準監督署 
・所轄の都道府県労働局 

・日本銀行(代理店、歳入代理店(全国の銀行・信用金庫の本店又は支店、郵便局)でも可)

(3) 雇用保険 適用事業所設置届 設置の日から10日以内 所轄の公共職業安定所
(4) 雇用保険 被保険者資格取得届 資格取得の事実があった日の翌月10日まで 所轄の公共職業安定所

・(1)(2)は同時に申請できます。
・(3)(4)は必ず(1)の手続きの後に申請します。

ここまで見てきた通り、労働保険には4つの提出書類が必要です。それぞれに必要な添付書類を次にまとめます。

提出書類 届出先 添付書類
・労働保険 保険関係成立届
・労働保険 概算保険料申告書
労働基準監督署

・法人の場合は登記事項証明書および法人番号

・個人の場合には代表者の住民票および個人番号

・雇用保険 適用事業所設置届
・雇用保険 被保険者資格取得届
公共職業安定所 ・保険関係成立届の控え
・法人の場合は登記事項証明書もしくは法人番号
・個人の場合には代表者の住民票もしくは個人番号
・事業開始を証明する書類(営業許可証など)
・従業員との雇用契約書
・賃金台帳、労働者名簿、出勤簿など記載内容を確認できる書類
・事業所の場所が本店(代表者の住所)と異なる場合には事業所の存在を証明する資料(賃貸借契約書等)

※法人番号、個人番号の扱いはあくまで予定です(2015年12月現在)

厚生労働省のホームページに事業主向けの労働保険加入パンフレットもありますので、合わせてご覧ください。
労働保険の成立手続きはおすみですか

労働保険料の決定方法と支払い方法

労働保険料は「労災保険料」「雇用保険料」をあわせて「労働保険料」として、原則1年分を1回で納付します。

労働保険の保険料は、例年6月1日~7月10日までにその年の賃金支払い額を概算で申告し、保険料を納付します。

(要するに前払いです)そして、翌年度の同じ時期に確定した金額との差額を精算します。

結果、毎年6月~7月10日に前年度の確定保険料と当年度の概算保険料を併せて申告・納付することとしています。

例えば、平成28年5月1日に起業した場合は次のような流れになります

➀起業時:平成28年5〜平成29年3月の支払賃金の見込み額を申告し、保険料を納付
➁平成29年6月:➀の確定した支払賃金を申告し、保険料を精算
➂平成29年6月:平成29年度の支払賃金の見込み額を申告し、保険料を納付

労働保険料は以下の計算式によって計算されます。

・労災保険料=労働者全員に支払う賃金総額×労災保険料率
・雇用保険料=該当する労働者全員に支払う賃金総額×雇用保険料率
労災保険料+雇用保険料=労働保険料

保険料率は事業の種類によって異なります。また、毎年変更されます。
平成27年度労災保険料率
平成27年度の雇用保険料率

例えば、年収200万円の事務員を1名雇入れた場合の労働保険料を試算してみましょう。

年間賃金総額=200万円 一般の事業 事務員
労災保険料率 0.0045
雇用保険料率 13.5/1,000(労働者負担5/1,000 会社負担8.5/1,000)

①労災保険料200万円×0.045=9000円
②雇用保険料27,000円(会社17,000円 従業員10,000円)
納付額:①+②=36,000円(会社負担額 年額26,000円)

もし、保険料を払わなかったら……

最後に、適用事業所にもかかわらず、もし保険料を払わなかった場合ですが、社会保険・労働保険とも過去2年間に遡って支払い義務があります。

よくあるケースが、従業員を雇ったにもかかわらず、試用期間中の数ヶ月間は保険に加入させないことがあります。

しかし、これも年金事務所の調査が入れば当然その期間の支払いを命じられます。

また、労災保険の未加入で事故が起きた場合、従業員に対して労災保険はおりますが、会社には保険料の最大2年遡り+ペナルティとして労災給付額の40〜100%の徴収金が課せられます。

2015年から国は本気で社会保険未加入問題に対応していますので、起業する者の義務として、保険は正しく支払いましょう。

最後にまとめです

  • 自分の会社が社会保険の適用事業所であるかどうか確認しましょう
  • 今は加入義務がなくても、従業員が増えた場合はすぐに加入しましょう
  • 従業員が社会保険や雇用保険の加入対象となるか確認しましょう
  • 社会保険は「人を雇った」タイミングで加入手続き・支払いが発生します
  • 労働保険は年度初めにその年度の見込み賃金総額から算出し、前払いで支払います
  • 年金は法律に則り、正しくきちんと納めましょう
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(監修:社会保険労務士 モリ事務所 森克巳
(編集:創業手帳編集部)

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