はじめての「労働紛争」 創業時から知っておくべき理由

創業手帳

創業期でも他人事ではない!

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(2016/07/31更新)

皆さんは、「労働紛争」という言葉をご存知でしょうか。

労働紛争とは、労働条件や労働関係に関して労働者個人と事業主との間で生じる紛争のことを言います。一見、創業期には無縁の、大企業の問題として捉えがちですが、実は、創業期にも意識しておくべき要素があります。

今回は、労働紛争の現状、注意点、解決法について解説します。

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1.創業時から労働紛争に注意しておくべき4つの理由

(1)実は、国内企業の1/4が抱える労働問題!

総合労働相談の件数は8年連続で100万件を超え、平成27年度は103万4936件となりました(厚生労働省「平成27年度個別労働紛争解決制度の施行状況」)。

更にこうした数字に表れていない潜在的な労働問題を含めると、その数は膨大でしょう。全国の企業数は約400万社(うち99%が中小零細企業)なので、およそ4社に1社以上の国内企業が労働問題を抱えているといえます。

(2)実は、労働紛争の当事者の大半は「中小零細企業」

冒頭で、労働紛争は、大企業の方が多いイメージと言いましたが、むしろ統計的には中小零細企業が当事者となるケースが大半です。

後述する、

  • 都道府県労働局のあっせん手続
  • 労働審判
  • 民事裁判

といった紛争解決手続が実際に利用されたケースにおいて、当事者となった企業の従業員規模は、従業員数30人未満の企業が4割強、従業員数100人未満の企業が6割強となっています(労働政策研究・研修機構「労働政策研究報告書No.174」(2015)(以下「報告書No174」))。

(3)労働紛争が生じやすいのはなぜ?

労働紛争の予防や解決には、労働法等の法的知識が不可欠です。しかしながら、中小零細企業では、人事や法務を専門に取り扱う人員がおらず、経営者が自ら対応せざるをえないケースも珍しくありません。そのため、法的判断ミスによる労働紛争が発生しやすい環境にあるといえます。

(4)創業期のベンチャーにとって金銭的・時間的ダメージは深刻

従業員の請求が認められると、通常、使用者は従業員が被った損害を賠償しなければなりません。

例えば、解雇処分が違法と認められた場合、当該従業員の復職に加え、解雇日から復職日までの給料相当額に遅延損害金を加算した金額を支払うことになります。

従業員の会社に対する請求金額の中央値は、都道府県労働局のあっせん手続では65万円、労働審判では260万円、民事裁判では528万円となっています(報告書No174)。弁護士を選任した場合、弁護士費用の負担も生じることになります。

また、使用者側は、労働紛争解決手続のため、事実関係の確認、証拠集め、弁護士によるヒヤリングへの対応、裁判所への出頭や提出書類の確認などに多くの時間を費やすことになります。

各手続に要する平均期間は、あっせん手続では約1.6か月、労働審判では約2.3か月、民事訴訟では約10.8か月となっており(報告書No174)、決して短い時間ではありません。その結果、本来のビジネスに注ぐべき時間の多くが失われてしまいます。

2.労働紛争が起きる5つの理由

では、労働紛争はどのような理由で起きるのでしょうか。実際の労働紛争の事案を分析してみると、概ね以下のような分類となります。

①賃金不払い、退職金不払い、残業代不払い

②解雇、雇止め、退職勧奨、内定取消

③配置転換、出向、昇進など

④労働条件の不利益変更

⑤いじめ、嫌がらせ、セクハラ、パワハラなど

会社が従業員に対して不利益処分を行った場合(②③④)や、会社が行うべきことを行わなかったことにより従業員に不利益が生じた場合(①⑤)に労働紛争が生じています。なお、従業員同士のトラブルや紛争については、ここでいう労働紛争には含まれません。

3.労働紛争の解決手段

労働紛争解決手続には様々なものがあります。代表的なものとして、①紛争調整委員会によるあっせん、②労働審判、③民事訴訟の3つの手続があります。

① 紛争調整委員会によるあっせん

紛争調整委員会によるあっせんとは、第三者である労働問題の専門家が間に入り、話し合いにより紛争を解決するという手続です。

ア 申立て

都道府県労働局総務部企画室の総合労働相談コーナーにおいて、あっせん申請書を提出することにより申し立てを行います。

イ あっせん委員の指名

都道府県労働局の紛争調整委員会があっせん委員を指名します。あっせん委員は、中立かつ公平な第三者である弁護士や大学教授などの労働問題の専門家が選ばれるのが一般的です。

ウ あっせん

あっせん委員は、従業員と会社の双方の主張を確認し、また必要に応じて証拠の精査や参考人からの事情聴取を行いながら話し合いによる解決を促します。あっせん委員は、両当事者が求めた場合、あっせん案という和解案を提示します。手続は全て非公開です。

エ あっせんの終了

あっせん手続は、両当事者が和解に合意した場合、または合意ができず打ち切りとなった場合に終了します。

なお、和解した場合、当事者間の和解契約として法的効力を有しますが、相手方がその内容に従わない場合に強制執行を行うことはできません。強制執行力を持たせるためには、別途、公証役場にて強制執行認諾文言付の公正証書を作成する等の対応が必要となります。

② 労働審判

労働審判は、労働紛争を迅速かつ適正に解決することを目的として作られた制度です。裁判所で行われる民事訴訟の1つですが、原則として3回以内の期日で審理を終えることとされているため、迅速な紛争解決に適しているといえます。

ア 申立て

労働紛争の当事者である使用者及び労働者は、地方裁判所に対して、申立書を提出することにより労働審判の申立てを行うことができます。

イ 労働審判委員会

労働審判は、裁判官である労働審判官1名と、労働問題に関して専門的な知識経験を有する労働審判員2名とで組織する労働審判委員会が審理を行います。

ウ 審理の進め方

第1回期日において各当事者は、民事裁判の場合と同様、事実関係及びその証拠を互いに裁判所に提出します。労働審判委員会は、各当事者の主張や証拠を整理しながら、話し合いによる解決を促します。

なお、審理手続は原則非公開であり、事件の関係者等、労働審判委員会が相当と認めた者のみ傍聴が可能です。

第1回目の期日は、申立書が提出された日から40日以内に指定されます。使用者側は、その7~10日前までに答弁書を提出しなければなりません。申立人(通常は従業員)は、自分のペースで申立てを行うことができるのに対し、相手方(通常は使用者)は、限られた時間の中で事実関係や証拠の整理を行い、答弁書の準備をしなければなりません。

書面による主張は、原則として申立書と答弁書のみを予定しているため、この第1回期日までの期間が使用者側にとって最も重要かつ過酷な期間と言えるでしょう。

なお、第2回期日は、第1回期日の約2~5週間後に、第3回期日は、第2回期日の約2~5週間後にそれぞれ開かれます。

エ 労働審判の終了

両当事者間で和解の合意ができれば「調停成立」として、労働審判手続は終了します。一方、調停が成立しなかった場合、労働審判委員会は「審判」を言い渡し、申立人の主張する権利や義務の存否を確定させることにより紛争を解決し、労働審判手続は終了します。

但し、各当事者は労働審判に対し異議申立てを行うこと可能です。異議申立てがなされた場合、その事件は通常訴訟(民事訴訟)に移行することになります。

③ 民事訴訟

民事訴訟は、裁判官が、原告・被告双方の主張及び提出証拠に基づき事実を認定し、法を適用し、原告の請求する権利の有無を判決により確定させる手続です。

事実関係に争いがあり慎重な分析が必要とされる事案や、話し合いによる解決が困難な事案等の解決に適しているといえます。一方、訴訟は原則として手続が公開されるため、外部に知られたくない事案の場合には民事訴訟は適さないといえます。

ア 訴えの提起

原告(通常は従業員)が、管轄の地方裁判所に訴状を提出することから訴訟手続はスタートします。訴状は裁判所を通じて被告(通常は使用者)に送達され、被告は第1回期日までに答弁書を提出します。答弁書には、原告の求める請求内容(請求の趣旨)及びその根拠事実(請求原因事実)について認めるか否か、また反論がある場合にはその旨を記載します。

なお、原告の請求や主張がどんなに事実に反するものであっても、答弁書を提出せずに第1回期日を欠席すると被告は自動的に敗訴となりますので、絶対に訴状を無視してはいけません。

イ 審理手続

裁判所は、第1回期日及びその後の期日において、原告及び被告双方の主張する事実と証拠の整理を行います。必要に応じて証人への尋問や、当事者本人への尋問を行います。

ウ 民事訴訟の終了

裁判所が判決を言い渡すことにより訴訟手続は終了します。裁判所は、判決において、審理の結果を踏まえた事実の認定を行い、法を適用し、最終的に原告の請求が認められるか否かの判断を行います。

また、審理の途中で両当事者が和解に合意した場合は、判決の言い渡しはなされず、訴訟手続は終了します。

エ 不服申立

判決内容に不服がある場合、高等裁判所への控訴、最高裁判所への上告が可能です(三審制)。

4.労働紛争の当事者になった場合の対処法

労働紛争の当事者となった場合、事案や選択された紛争解決手続により準備すべき事項に差はあるものの、一般的には以下の準備をすることになります。

なお、労働審判の場合は、第1回期日までに下記の準備を行ったうえで、更に詳細な答弁書を完成させ、証拠と共に提出することまで求められるため、特に迅速な対応が必要です。

① 事実関係の整理

  • 入社時から現在までの事実関係をまとめた時系列
  • 問題となっている処分の理由と詳細な経緯のまとめ

【注意】当該従業員に対する個人的な評価や主観のようなものは入れないこと。労働紛争となると使用者側も感情的になり当該従業員に対する不満や個人的な思い等をいろいろと伝えたくなりますが、客観的な事実のみを整理すること。

② 証拠の整理

  • 申立人の履歴書、雇用契約書、労働条件通知書、誓約書等の入社時の書類
  • 辞令、業務指示書、懲戒処分通知書等の入社以降の交付書類
  • 申立人の報告書、始末書
  • 事案に関係する申立人のメール
  • 関係者(証人候補)からのヒヤリング

【注意】最初の段階から取捨選択はせず、関係のありそうな証拠資料は片っ端から集めること。

③ 主な争点の把握

  • 申立書等に記載されている従業員の主張事実に対する認否と反論の確認

【注意】事実については一文ごとに細かく事実か否かを○×チェックすること。

④ 日程の調整

  • 第1回期日の日時の確認、及び日程調整

【注意】労働審判の場合、使用者は、原則として期日に出席する前提で日程調整をすること。期日変更は裁判所に直ちに申請する必要があるため注意すること。

5.まとめ(心構え)

会社を経営するにあたり労働紛争は決して対岸の火事ではありません。
経営者としては、従業員に不利益処分を課す場合、常に労働紛争の可能性が潜んでいることを意識し、当該処分の①根拠となる事実、②証拠、そして③法的問題の有無をあらかじめ確認しておくことが重要です。有事の際に迅速に対応するためには普段からの心構えが肝要といえます。

(監修:光和総合法律事務所 野原俊介(のはら しゅんすけ) )
(編集:創業手帳編集部)

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