KLab 真田 哲弥|「創業期の成功体験の作り方」と若手の才能を引き出す「大器”早”成型」育成戦略<インタビュー後編>

創業手帳
※このインタビュー内容は2017年05月に行われた取材時点のものです。

若き経営者よ、”根拠のない自信”を持て

(2017/5/17更新)

KLab株式会社社長・真田哲弥氏は、波乱万丈な起業家人生を経て、36歳にしてKLabを創業し、同社を東証一部上場企業に成長させました。

後編では、「スマホゲーム」という分野を選択した理由や、優秀な若手を育てるために心がけていること、起業家として成功するために必要な要素について教えていただきました。

真田 哲弥(さなだ てつや)
1964年、大阪府生まれ。関西学院大学在学中に、合宿制運転免許学校のあっせんビジネスを起業。大学中退後、ダイヤルQ2を利用した情報提供会社を設立し、短期に成長を遂げるも、事実上の倒産を経験。1997年に株式会社アクセス(現:株式会社ACCESS)に入社して会社員生活を経た後、1998年に堀主知ロバート氏らとともに株式会社サイバード(現:株式会社サイバードホールディングス)を設立し、取締役副社長CTOに就任。2000年に株式会社ケイ・ラボラトリー(現:KLab株式会社)を設立し、代表取締役社長 CEOに就任。モバイルゲーム分野に事業転換したことなどにより、急成長を果たし、2011年に東証マザーズ、翌年東証一部へ上場。現在は、ゲーム事業だけでなく、新規事業開発にも積極的に取り組んでいる。

ゲーム分野への進出を決定づけたのは”絶対来る”という確信

-大久保:IT会社での修行、そしてサイバードと分離する形で、ケイ・ラボラトリーが生まれたんですね。
今はゲームの分野で多数のヒットを生み出されていますが、その方向性はどのように固められていったのでしょうか。

真田:ケイ・ラボラトリーを作った時、「スマホのアプリを作る」というところが創業の理由だったんです。でも、今でこそゲーム以外でも儲かるスマホアプリが出ていますが、当時は全く儲からなかったので、他のことも手がけていました。

-大久保:ゲームに舵を切られたきっかけは?

真田:アメリカのソーシャルゲームブームですね。「これ絶対来るわ」と思いました。だから、「ゲームが作りたい」という気持ちから始めたというよりも、「これは来る」と思ったからやった感じですね。案の定、大当たり。

-大久保:その「来るぞ」とう感覚は、95年ころに感じたという「インターネットが来る」という感覚と似ていましたか。

真田:はい、近いものがありました。

-大久保:本能というか、嗅覚で感じたということなのでしょうね。今はさまざまなゲームを展開されていますが、「このパターンだと当たる」というような視点は持たれているんですか?

真田:いえ、そこには関与していません。ただ、ゲームなどのコンテンツ系のビジネスは、当たると思って作ったものが当たると限らないんです。コミックでも、小説でも、ミュージカルでもそうです。いいものが売れるわけではない。ダメなものが売れることがないというのは間違いないんですけどね。当たると思って作ったら大外れで、こんなのウケるのかなというものが当たったりするので、そこに関して何か言える立場にはないと思っています。

今や全世界3000万ダウンロードを超えている大ヒットゲームが、開発当時は当たると思ってませんでしたからね。そのあたりのセンスはもう分からないです。ビジネスだったら、「そのビジネスは無理」「売れる」という判断はできますけど、コンテンツについてはお手上げですよね。正直。

-大久保:コンテンツの中身については、若い社員たちがうまく力を発揮してくれたら良いということですよね。

真田:そうですね。

有望な若手を育てる「大器早成」育成戦略

-大久保:若手の力を引き出す上で、なにか工夫されていることや方針はありますか?

真田:新卒の学生の子たちにアピールしている会社のキャッチフレーズとしては、「大器早成」というものがあります。大器晩成ではなく、大器“早”成。学生時代からビジネスを始めたりして、こいつはいける!という若者を早めに抜擢して、ある程度の失敗も含めて経験させていこうというのが方針の一つです。可愛い子には旅をさせろ、ではないですけど。

-大久保:修羅場というか、大変なことをあえて経験させる方が早く育つということですか。

真田:ゲームの開発にしても、ある程度任せていくと修羅場も起きるわけです。システムトラブルとか、ギリギリのスケジュールとか。1回そういうことを経験しておくと、強くなりますよね。トラブルに直面しても、冷静でいられるんです。

失敗する人は、「先のビジョン」がぶれている

-大久保:起業すると、いろいろ大変なことが起きますよね。困難な状況に直面して先が見えない状況での心の持ちようについては、どう考えておられますか。

真田:言い出すといっぱいありますよ。零細企業の人のほとんどは、あまり「先のビジョン」と「中長期の計画性」を持っていませんよね。そこを変えた方がいいかなと思います。

-大久保:大局的な視点が必要、と。長期的なビジョンを持つことで、そこに向かって近づいていけるということですよね。

真田:はい。加えて、考えているだけじゃなくて、紙に書くことをおすすめします。何がやりたくて、何を目指していて、その手段としてどういうことをして、いつの時点でどうなるのかの具体的な目標などを明らかにする。零細で悩んでいる人は、ここがぶれている人が多いのではと感じています。逆に、ここに筋が通っている人は、そのまま成長しています。

-大久保:なるほど。とりあえずビジョンを可視化する。具体的な期限も定めることが重要なんですね。

真田:「俺はビッグになるんだ」という夢物語だけではどうしようもありませんから。そこまでの道筋と手順を考えておくべきです。

事業計画書は、「人に見せるために作る」と思っている人が多いんですが、それは違うと思います。「自分が決めた道を外れないため、自分の頭を整理するために作る」ものが事業計画書だと考えています。だから、資金集めが必要なくても、事業計画書を作ることをおすすめしますね。最初に地図を書いてから散歩に行く方がいいんじゃないの?ということです。

行き当たりばったりの散歩でもいいですけど、それではあんまり事業になりませんから。

-大久保:ビジョンを形にすることで、時間の使い方も情報の集まり方も変わってくるでしょうね。ちなみに、紙に書くだけではなくて、人に話すことは重要だと思いますか?

真田:私は、思いついたアイデアはどんどん人に話した方がいいと考えています。世の中には、「パクられるから」と隠そうとする人もいますが、しゃべることでどんどんアイデアが発展しますから。「紙に書け」と言いましたが、相手がいるなら、話していくべきです。

紙は3年後でも、5年後でも10年後でも残って比較ができるから、紙に残すことはそれ自体に意味があること。でも、話すことで新たな視点が得られます。誰としゃべるかにもよりますが。だから、私は人にどんどん話しますね。

-大久保:確かに、「すごいアイデアがあるけど、パクられるから言いません」という創業者の方はよくお見かけします。でも、そういうのに限って、大したアイデアじゃないんですよね。

真田:そうなんですよ。人に話していないアイデアは練られていませんから。

社長としての”踏ん張り”を支えるのは、体力

-大久保:将来に向けてのビジョン以外に、社長にとって重要なものは何だと思いますか。

真田体力は、なんだかんだ言っても重要だと思います。「気合と根性」はベースに体力がないと成り立ちませんから。20代の頃は気合で何とかなる部分もありますが、30、40と歳を重ねると、最後の踏ん張りどころを乗り越えるためには、体力が不可欠です。

会社を立ち上げる、新しいサービスをリリースする等、「ここで踏ん張らなくちゃ」というタイミングが、人生では何回かあると思います。睡眠時間3時間とか、1ヶ月休みなしとか、2週間泊まり込みなんてザラで。今は残業問題がクローズアップされていますが、会社経営者は「毎日何時間勤務」という枠では絶対成功できません。

成功する人は、誰でもみんな「踏ん張りどころ」を乗り越えてきています。そんな時に、若い時は気力だけで何とかなるんですが、30を超えると体力がなければ踏ん張れません。

-大久保:なるほど。体力あってこそ、さまざまな山を乗り越えられるということですね。

ピンチを救ってくれるのは、積み上げた人脈

-大久保:起業とは、壁を乗り越えていくことだと思うのですが、今まさにどうにもならない壁に直面している経営者にアドバイスをするとしたら、どう声をかけますか。

真田:本音を言うと、行き詰ってしまった時点で、どうにもならないことが多いです。そこで助けてくれる人が現れるかどうかというのは、その人の生きざまに左右される。つまり、普段からどういう人間関係を作って、どういう生き方をしてきたかということが、いざという時に出るんだと思います。

マラソンと同じで、普段何もしていない人が急に走れるほど、世の中は甘くありません。毎日ちょっとずつ運動していることが大切ですよね。それと同じで、会社が行き詰まった時にどうにかなるかという問題も、行き詰まってから動いたのでは遅いと思います。

だから、私が言えるのは「あきらめなかったらできるとは限らないけど、あきらめたらできないことは間違いない」ということくらいです。

-大久保:困難な状況になってしまう前に、コツコツと関係性を構築しておくことが大切ということですね。

真田:そうですね。私のところにも、「困ったから助けてくれ」と言いに来る人いますよ。普段から人間関係ができている人が、最後の最後に「ごめんなさい、助けてください」と来るなら話を聞こうという気になりますが、普段は疎遠で、困ったときだけ都合よく頼ってくる人には「世の中も、私もそんなに甘くないよ」と言います。

だから、困ってから動いたのでは遅いんですよね。

”根拠のない自信”を持てば、結果がついてくる

-大久保:真田社長は、何度も壁を乗り越えて成功を収めた経営者だと思います。一度壁にぶつかると、経営をあきらめて会社員になるという選択肢を持つ方もいますが、その考えに至らなかったモチベーションは、どこから来るのでしょうか。

真田:若くして起業をする人に、「起業する際に一番必要なものは何ですか」と聞かれたとき、私はいつも「根拠のない自信」と答えています。私が経営を続けるモチベーションも、同じです。

自分を信じて「俺はできるはず」と思っていると、1度自分を裏切っただけでもう自分を信じられなくなってしまいます。だから、「うまくいかなくても、そんなことはない。俺はできるはず」という根拠のない自信を持ち続けること、自分を裏切らないことが大切だと思います。

-大久保:根拠のない自信に、結果がついてくるという形ですね。

真田:結局、結果論でしかないですけど。でも、自分に言い聞かせて、自分ならできると思い込んだ者勝ちですよ。思い込んでいる限り、あきらめずに努力を続けられますから。

-大久保:根拠のない自信がビジネスの広がりを生むんですね。

起業家へのメッセージ

-大久保:最後に、起業家へのメッセージをいただけますか。

真田:まずは、創業期には根拠のない自信を持つこと。そして、成功体験を1つ作ること。

私は若い時に1回でも成功体験があるから、それが自信の根拠の一つになっていると思います。だから、「こういう風にやれば、うまくいくはず」といった考えが生まれるんです。でも、全く成功体験がない人の根拠のない自信は、ちょっと危険ですね。何に対して自身を持つかというのは、慢心と紙一重の部分もあるので。

だから、起業した直後は実績を1つ作ること、成功を追うことが大切かなと思います。

私は、若い人の起業をどんどん応援していきたいと考えています。少しでも視野を広げてもらうために、若いスタートアップのみなさんと対談をして、「このビジネスモデルはこうした方がいいんじゃないか」というアドバイスをするブログを始めました。

-大久保:ビジネス本だけでは分からない、実践的なアドバイスが受けられるんですね。

真田:経営学の本って読みにくいですから。それよりも、「このビジネスのキモはここ」「ここを伸ばした方がいい」という具体例を通すことで、より起業について理解してもらえたらと考えています。

「いずれ起業したい」と考えている方は、ぜひ見ていただけると嬉しいです。

Klab真田社長のブログはこちら

若き日の失敗と逆転から学んだもの
「あきらめたら、そこで終わり」 Klab真田社長に学ぶ、限界を突破する条件<前編>

(取材協力:KLab株式会社/真田哲弥)
(編集:創業手帳編集部)

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