こんなにあるの!? 経産省・創業支援のキーマンに聞く、ベンチャー支援施策

創業手帳

起業家支援策から見える日本ベンチャーの未来

(2016/10/21更新)

政府は、さまざまな角度から起業家の支援策を実施しています。前回に引き続き、経済産業省の石井芳明さんに起業家支援の実態をお聞きしました。

今回は、政府の抱える課題や現在行っている起業家支援を中心にお話していただきました。

japan-venture

石井 芳明(いしい よしあき)
1987年に通商産業省(現:経済産業省)に入省し、中小企業・ベンチャー企業政策、産業技術政策、地域振興政策に従事。2012年からは経済産業政策局新規産業室新規事業調整官として、創業促進、ベンチャー支援を推進。岡山県出身。岡山大学法学部卒、青山学院大学大学院国際政治経済学科卒、2012年に早稲田大学大学院商学研究科卒 博士(商学)。

政府が創業支援に抱える課題

ー創業支援を行うにあたって、抱えている課題を教えてください。

石井:ベンチャーや創業を支援する政策の課題としては、重点施策を中長期で継続して実施することだと思います。政府の施策は、成果が出るまでに一定の期間が必要なのです。特に、社会意識を含め創業を取り巻く環境を変える、ベンチャー・エコシステムをつくる(ベンチャーだけでなく、大学、大企業、中小中堅企業、専門家など様々な主体が新しい取り組みに挑戦する生態系をつくる)ということを考えると、10年、20年と支援を続ける必要があります。例えば、米国では、1950年代の終わり頃から30年ぐらいかけて技術ベンチャーの支援やベンチャーキャピタルの育成などベンチャーが成長する基盤を築いてきているのです。今の米国のベンチャー経営者に政策の話を聞くと、あまり関係ないと答える人が多いのですが、実はベンチャーが成長するエコシステムづくりでの政府の役割は大きかったのです。
一方、今の日本の予算や政策評価の仕組みでは、1つの施策を継続するのが難しい。新しい施策は作りやすいのですが、短い期間での成果を求められてしまうのです。もちろん、新事業に対する補助金のように短期間で成果を出さなければならない施策はありますが、人材育成やエコシステムづくりは、中長期で施策を評価し、継続する必要があります。そこは政府全体としての課題ですね。

ーなるほど、時間がかかるのですね。

石井:そうですね。10年から15年ぐらいの周期でベンチャーブームがきて、そのときは盛り上がるのですが、その後は冷え込んでしまうのが過去の傾向でしたが、継続してベンチャーを巡る環境が向上してゆくようなトレンドが必要です。そのための支援策を継続して実施する必要があるのです。

政府の各省庁が連携して行う起業家支援

石井:あと、政府の各省庁の政策の連携が重要です。現在のベンチャー支援は、経済産業省、文部科学省、総務省を中心に、いろんな省庁で実施しています。文部科学省では、大学発ベンチャーを育成するSTARTプログラムをはじめとしてJSTの支援などがあり、総務省はICTベンチャーを応援するI-Challenge!プログラムをはじめとしてNICTの支援などがあります。また、最近は厚生労働省や農林水産省でもベンチャーの支援を始めています。これらの政策が連携、連動することで、効果は上がってくると思います。
このようなことを背景に、官邸に設置された日本経済再生本部が「ベンチャーチャレンジ2020」を策定し、2020年を目標に官邸主導で政策連携を図る試みを実施しています。
ベンチャーチャレンジでは、「地域と世界を直結するベンチャー支援」、「大学・研究機関・大企業等の潜在力を最大限発揮する」を各省庁共通の目標として設定し、イベントの共同開催や補助金の申請書の共通化、調査・データベース整備など政策効果を高める努力を図ります。また、各省庁のベンチャー支援窓口を明示して企業からの問い合わせに対応できるようにしています。ベンチャーチャレンジのパンフレットでは、ベンチャー支援策マップも掲載されています。まずは施策の「見える化」から取り組んでいます。
あわせて、都道府県や市町村のベンチャー支援とも連携を進めることができれば、と考えています。

image2
引用元:
http://www.kantei.go.jp/jp/topics/2016/seicho_senryaku/venture_challenge2020.pdf

その他の支援制度

掲載されているのは一部です。詳しくはこちらをチェック!

「事業化」の資金・ノウハウ提供
・NEDOによる研究開発型ベンチャーの立ち上げを目指す
 起業家候補の事業化活動支援(SUIプログラム)
・VC等の支援を受けるIT系ベンチャーの事業化を補助
 モデルケース形成(I-Challenge!等)

「成長」の機会を増やす
・シリコンバレーでの現地企業・VC等との
 交流機会の提供(シリコンバレーと日本の架け橋プロジェクト等)

ーなるほど、ベンチャー支援に関して役所の横の連携も進んでいるんですね。複数の官公庁で、横断的に事業を進めることが必要そうですね。

石井:そうですね。例えば、教育の総本山は文科省ですが、学校に「起業家教育をやるべき」と言っても、教師は起業家じゃないから何をしていいか分からないといった状態になるんです。そんな時、学校と地域、学校と企業を繋げるのは経済産業省かもしれないし、ICT関係で総務省の支援が効果を発揮するかもしれない。こういうふうに、いろんなところで影響しあっているのです。

ベンチャーによるイノベーションを多様化させたい

ー今後は、どういった分野でベンチャーを広げていきたいですか。今後の目標について教えてください。

石井今までベンチャーにあまり馴染みがなかった農業分野や、健康・医療分野などにベンチャーが出やすい仕組みを作っていければと思っています。また、ベンチャーチャレンジでも目標になっていますが、既存の大学や大企業にある資源を、創業やベンチャーとの連携など、使える部分で活性化していきたいなと。
ちなみに、農業で、米作りの生産効率を画期的に上げる方法は、何だと思いますか?

ー肥料を増やす?逆に、最低限の肥料にするとか。

石井:肥料を増やすのではなく、生産にかかるコストを下げることが大事です。収穫できる米の量は同じでも、かかる労力が減れば、生産性は上がる。休耕地を使っての生産もできますよね。

ー単に収穫量を増やすということじゃないんですね。機械化っていうのはありきたりですし、ノウハウを人工知能で管理して、指示したりでしょうか。

石井:僕も最初は、機械化、ロボット導入、品種改良かなと思ったのです。でも、他の方法もあると、大手建設機械メーカーの方の話を伺ったのです。
実際、農家のみなさんにとって一番労力がかかるのは、苗を作って、それを田植えする作業。だから、直接種をまく「直播の水稲栽培」が効率的なのだそうです。でも、普通の直播きだと、種をまいて、苗が育った時に水を張ると、水没する苗や干からびる苗ができて、かえって生産性が低くなるそうです。原因は、種をまく田んぼの中がでこぼこになっていること。そこで、プラスマイナス数mmで土壌を平らにするための土木機械で田んぼをならした後で直播きをすると良いそうなのです。生産性の改善には、フラットに耕せる土木機械が必要だと気づいたのは、メーカーの力ですね。農業やっている人と他の産業の人の連携で思わぬイノベーションが起きるのです。

ー農業の世界も奥が深いですね。

石井:本当に面白くて、水のコントロールとか、例を挙げるとたくさんありますよ。IOTで水門を制御するとか、ビックデータを活用するとか。先程の例のように、農家の人が気づかないところに新たな目線で気がついて、そこを変えていくと世の中が良くなるということは多いと思います。そういったイノベーションを起こせるベンチャーが増えればいいなと思います。

ー今は資金調達が容易になってきたり、表彰制度などでスポットライトを浴びたりする機会もあるので、今後はベンチャーの活躍の分野はより広がっていきそうですね。

石井:そうですね、農業に限らず、いろいろな分野でベンチャーの活躍が期待されています。日本ベンチャー大賞で総理大臣賞を受賞されたユーグレナの出雲社長のお話を聞くと、最初は、ミドリムシの機能性食品といっても全く売れなかったが、粘り強く営業を続けることで、先見の明のある大手企業に認められ、そこから売れるようになったということでした。今では、食料分野、環境分野で大きな事業を実施されています。さまざまな分野で、夢を掲げ、新しいことに挑戦し、努力を続けることによって、そこを評価されて事業成長につながりやすくなっていると思います。

坂本竜馬に学んだ仕事の心得

ー石井さん個人のお話をいくつか教えてください。一番影響を受けた本はなんですか?

石井:司馬遼太郎先生の「竜馬がゆく」ですね。中学生の時に一気に読みました。本の中の彼の生き方にとても惹かれ、今でも時々「竜馬さんだったらどうするか」と思うことがあります。

ーどんな生き方が印象的でしたか。

石井:薩長連合、大政奉還のお膳立てとか、大きなことを成し遂げているところもありますが、土佐を脱藩して、自由な立場から、国や社会が良くなるためにどうするか、しがらみにとらわれずに、どんどん進んでいったという生き方全体が印象深いです。
あと、高杉晋作も好きです。「おもしろきこともなき世をおもしろく」という言葉が好きで。竜馬も自由な人ですから、そういった人物に惹かれるのかもしれません。

ー仕事の中で、「自由さ」を感じることはあるのですか?

石井:役所の中では、「石井さんって仕事を面白そうにやっているよね」とよく言われています。下積みの時代の雑用の中でも面白い企業を見つけて応援したり、企業が成功する要因を研究したり、そんなことをやっていたら上司や仲間もちゃんと見てくれていて。もちろん、公務員ですから、やるべき仕事はきちんとやった上で、さらに面白いことを加える。「面白いことを自由にやる」という精神は、竜馬さんから学んだものかもしれません。

ー座右の銘はありますか?

石井:あえて座右の銘という言葉はないですが…とにかく「前向きに考え、行動する」ということです。

起業家へのメッセージ

ー最後に、起業家のみなさんにメッセージをいただけますか。

石井:とにかく、起業にしても新しい事業の取り組みにしても、一歩踏み出してくださいということ。あと、政府は起業家を応援しているのを忘れないでほしいということ。いろいろお話したように具体的な支援策もありますし、困ったらなんでも相談してほしいです。各省庁連携して応援していますから、どんどん挑戦してください。

image3

(取材協力:経済産業省/石井 芳明
(編集:創業手帳編集部)

創業手帳は、起業の成功率を上げる経営ガイドブックとして、毎月アップデートをし、今知っておいてほしい情報を起業家・経営者の方々にお届けしています。無料でお取り寄せ可能です。

創業手帳
この記事に関連するタグ
創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
創業時に役立つサービス特集
このカテゴリーでみんなが読んでいる記事
カテゴリーから記事を探す
今すぐ
申し込む
【無料】