【第二回】スタバ元CEO 岩田 松雄氏「アルバイトもやる気になる」リーダー論

創業手帳
※このインタビュー内容は2015年08月に行われた取材時点のものです。

スターバックスコーヒージャパン 元CEO 岩田 松雄氏 特別インタビュー

経営手腕を高く評価され、数々の企業の再生にかかわってきた岩田松雄氏。働く人を生き生きさせるリーダーとは?社員一人一人のパフォーマンスを上げる人材育成のコツ、リーダーは何を語るべきか?コミュニケーションのコツなど、二回に分け、その全貌を明かします。

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岩田松雄(いわた・まつお)
日本の専門経営者。スターバックスコーヒージャパンCEO(最高経営責任者)を経てリーダーシップコンサルティングを起業。大阪出身。大阪大学経済学部卒業後、日産自動車に入社。工場での生産管理や営業、財務など様々な業務を経験。カリフォルニア大学ロサンゼルス校アンダーソンマネジメントスクールでMBAを取得。ジェミニ・コンサルティング・ジャパン、日本コカ・コーラなどを経て、コカ・コーラビバレッジサービス常務執行役員、ゲーム会社アトラス社長、タカラ取締役常務執行役員、イオンフォレスト社長などを歴任。その後、スターバックスコーヒージャパンでCEOを務めた。
UCLAよりAlumni 100 Points of Impactに選出される(歴代全卒業生37000人から100人選出。日本人は合計4名)著書に『ついていきたいと思われるリーダーになる51の考え方』『ミッション 元スターバックスCEOが教える働く理由』ほか。新刊『リーダー絵ことば イラストでわかる人の動かし方』

リーダーシップコンサルティングHP:http://leadership.jpn.com

採用の失敗は0ではなくマイナスになることも…

-人材採用についてはどうでしょうか?

岩田:日本の企業の場合、なかなか解雇できないので、人の採用の失敗は取り返しがつかないことになります。採用は一番重要な経営課題といってもよいと思います。人材輩出企業のリクルートでは採用のハードルが高く、昔は選考者全員(13名)がOKを出さないとその人を採用しないという逸話があるぐらいです。

それぐらい間違ってしまうと後で困るのが採用。ですから採用は時間とお金を使って慎重に行うべきだと思います。

機械は壊れたら廃棄、交換すればよいですが、「人」の場合は簡単に取り替えられないし、ネガティブな事を周りに言ったり、お客さんを怒らせたり、場合によっては優秀な人の足を引っ張たりというマイナスな面があります。だから、まずは入り口で変な人を採らないことがとても大切です。

教えることが最大の学び

岩田:よい人を採用したら、人材を育成するのですが、基本的には自己啓発です。これはスキルの部分とやる気の部分と二つあるのですが、やる気のない人は、そもそも採用してはいけないのです。だから、部下のモチベーションを考えましょうという時点でもう採用を間違っているのですよ。

ただ、やる気はあるけれど、何をしていいのかわからないという人には先輩方が色々と教えてあげなければなりません。スターバックスには、教える文化があって、私がCEOとしてスターバックスに入った時にも、アルバイトの人たちに交じって研修を受けました。

その時の研修の講師は、人事の専門のトレーナーか少なくとも店長クラスの人が来るものだと思っていましたが、実際は時間帯責任者というお店でナンバー3ぐらいの人が教えに来たのです。少したどたどしく「大丈夫かな?」と正直思いました。

しかし、良く考えてみるとこの中(生徒9人と先生1人の10人)で、一番学んでいるのは教えている人なのです。たぶん2、3年前に彼女も教わる場にいたのだろうけれども、その時はおそらく右から左に話を聞いていたと思います。しかし、皆に教える立場になり、教えるのは本当に大変ですから、必死に勉強したと思います。

人は、自分が学ぶ時よりも、人に教える時に多くを学ぶのです。

その証拠に、私は今ビジネススクールで教えていますが、自分がビジネススクールで学んでいた時の3倍以上の準備をしています。教えるときは、自分がちゃんと理解していないと色々なことを聞かれても答えられない。例えば地名に出てきても、「どこにあるのですか?」と聞かれたら、答えられないと困るから一応調べておこう…みたいに。

それに、教えようと思うと自分が本当に理解していないといけません。色々な角度から質問が飛んでくるかもしれないのです。うろ覚えだったり、何となく分かったような気になっていたことを、突っ込まれたら恥をかくじゃないですか。

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「教えることが学ぶこと」なのです。

人材育成の効果的な手段として、社内に教え合う文化を作ることです。例えば新卒が入ってきたら、一年間かけて来年入社してくる後輩のためにマニュアルを作らせる。すると、必死なって勉強して仕事を深く学べるのではないでしょか。

学びになるように仕事を依頼する

-人を育成していく中で重要なことはどのようなことでしょうか?

岩田:仕事を頼む時には、できるだけ「単にこれをやってください」ではなくて、「なぜこれをやらなくてはならないのか」というその仕事の背景を伝えておくと頼まれる人の勉強になります。

例えば、これは経営会議に使うとか、お客様にプレゼンするとか、取引先の社長さんに初めてアポが取れたのでそのための資料作りするとか…。そういって仕事を渡したら、それを受け取った人は、まずやりがいを感じますし、その仕事に参加している感じになる。

大切な仕事だと分かれば、ちょっとわかりづらいから写真とかグラフとかを入れましょうかとか…次のアイディアがどんどん出てくるし、頼まれた方もそれを考えること自体が勉強になるじゃないですか。

意義とか目的とか…それを伝えてあげることで、聞いた方も、もう少しいいものを作ろうとするのです。

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社長の時間を充実した時間にするためには

岩田:私は、企業にとって一番大切な資源は、お金や設備ではなく、「社長の時間」だと思っています。その社長の時間は、役員人事や新規事業や、お金を生み出すような事など、社長にしかできないような仕事に費やすべきです。

リーダーは皆から判断を求められることがよくあります。
私はそのような場合、できるだけ皆から意見を聞くようにしています。これは、私が答えを分かっていても、「あなたはどうしたらいいと思いますか?」と聞くことで、皆が自分で考える癖をつけさせるためです。

一般的にワンマンな強いリーダーほど、部下の主体性を損なってしまう。部下は怒られるのが嫌だからとりあえず、自分は考えないで、なんでもかんでも「どうしましょうか?」と聞きにきてしまうのです。

大切なのは現場レベルで判断できることは現場で判断してもらうことです。そのために「君はどう思うか?」と質問を常に投げ返すのです。そうすることで日常の業務が判断力を高めるケーススタディーになってくるわけです。

もちろん、会社の価値観に合わない事や、お客様を大事にしないような答えが帰ってきた場合には、そこは違うよとしっかり教える必要があります。なぜそれが間違っているのかしっかり指導しなければなりません。

皆が納得するように評価する

-部下の評価に関して心がけた方がよいと思われることはありますか?

岩田:実績(数字)を上げた人に対しては、ボーナス(金銭)で報いる。昇格させるかは、その人のリーダーシップや人間性=徳によって判断すべきだと思います。性格が悪いけれども成果が挙げられる人っているじゃないですか…(笑)でもそれって評価してあげなければいけないと思うんです。だから実績に応じたボーナスを支給する。

でもその人を偉くするかどうかは全然違う話です。一般的には数字は一番わかりやすいから数字が出たら偉くするじゃないですか。説明責任がいらないからです。でも数字が劣っている人を偉くするときには、当然説明をしなくてはならない。

なんで?こっちの人は数字が悪いのに…となる。その時にちゃんと彼は会社の理念をしっかり理解し行動が伴っているとか、部下をちゃんと育ててくれるとか、でもあなたは数字を上げたかもしれないけれども、お客さんを怒らせたとか、部下が皆泣いているとか、そういう事を説明しないと納得させることはできません。

すべて社員を社長の意識にする

-人の上に立つというポジションはいろいろあると思いますが、社長とそれ以外の違いは何ですか?

岩田:よく言われている話で、社長と副社長の違いよりも、副社長と平社員の差の方が大きいと思います。社長は365日、24時間仕事の事を考えています。寝ていてもふっと思い出したり(笑)…それぐらい他の役職者とはコミットメントが違います。
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だから、皆がそれぐらい仕事にコミットメントしてくれたら絶対に会社の業績は良くなります。じゃあ、皆にどうやったら社長と同じ気持ちになってもらえるかという事を考えればいいですね。会社に出資してもらって、株を持ってもらうとかという方法もありますけれども…

よく考えないといけないことは、社員全員に自分と同じような気持ちになって働いてもらえるようにすることです。言われたことだけをやるのではなく、自分の会社のように、何をすればよいかと真剣に考えてくれるかどうか。それを仕組みやコミュニケーションによって、手を替え、品を替え、考えることが必要です。そのために大幅に権限委譲したり、業績賞与なども検討すべきです。

それは社員に限らずアルバイトの人もそうだと思います。アルバイトでも派遣でも、ちゃんと仕事のやる意味、意義を教え理解してもらい、仕事を頼むと全然アウトプットが違ってくるといます。そして評価をちゃんと報酬に連動させる。いかに社長と同じような気持ちを皆で共有化するかというところが大きいと思いますね。

-単にやらされている人と、社長と同じ気持ちの人たちが社員全員だと、競争力が違ってくるということですね。

岩田:そうですね。全然違ってくると思います。社長の時間は限られていて、全ての事に首をつっこむのは無理です。常にそれぞれがその場その場での判断を求められているわけです。その時に社長と思いを共有していれば、マニュアルがなくたって、自分で判断して動けるわけですよ。分厚いマニュアルは誰も読まないですから、それよりも、会社の<理念>『ミッション』をしっかり共有できていれば、何をすべきか、何をすべきではないかを判断できるようになるのです。

もちろん、会社全体の関わるような大きな決断の時には、きちんと社長に相談してもらった方がいいですが、日々の判断は出来るだけ現場のみんなに任せておくのです。

-よく聞く話ですが、スターバックスにはマニュアルがないと伺っているのですが。

岩田:コーヒーの淹れ方、掃除の仕方…みたいなオペレーションマニュアルは決まっています。しかし、いわゆるサービスマニュアルは無くて、「JUST SAY YES!」だけなんです。「道徳、倫理に反しない限りお客様の望むことを全てやってください」ということです。

-そのような場合、<会社の理念>が浸透して、社長の信念を共有していないと難しいですよね。

岩田:そうですね。まあ、どこの会社にもそれなりの<理念(ミッション)>はあると思います。スターバックスの理念が特別素晴らしいという事ではなくて、それをトップから社員一人ひとりまで、本気になって実現しようとしているかどうかだと思います。

<理念(ミッション)>をしっかり持って社員に浸透させていれば、その場で色々判断ができる。

つまり社長と同じような気持ちになって仕事をしてもらえます。社長の分身をいかに作っていくかという事が経営にとってとても大切な事です。

岩田松雄さん

(取材協力:飛鳥新社)
(編集:創業手帳編集部)

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