飲食店開業術!三度の開業白紙化から学ぶ20年経営者の“失敗論”

飲食開業手帳

三度にわたる開業の白紙化。そこから得た、飲食店創業者が注意する点とは?

(2016/07/20更新)

度重なる不動産契約の解除と、創業にまつわるトラブル。時は過ぎ、借金がかさむなか、融資申請3度目にして過去最高額での融資が決定。2014年末に、臼木淳さんは念願の『串焼酒場じゅんちゃん』をオープンしました。
以来、新宿から電車で1時間離れた住宅街・是政で、地域の人に近い居酒屋を目指しています。「失敗を多く経験したからこそ、今がある」。臼木さんの実体験から、創業時に気をつけておいたほうがいいポイントをお聞きしました。

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最初の試練:融資審査前日に気づいたある間違いで、融資が白紙に。

ー今までいくつもの飲食店に勤められたんですね。

臼木:初めて修行したのは、もつ焼き屋さん。

20年前でした。

まさに職人肌の現場で、料理の技術を学びました。次の会社は居酒屋で、いろいろな業態を展開していました。

入社3年目で10坪ほどの立ち飲み店を7年間任せていただくなかで、「いつか自分のお店を持ってみたいなあ」と思ったんです。通算で10年間勤めましたが、体調を崩して退職しました。

その後は知人の飲食店を手伝っていたのですが、体調の回復とともに、やっぱり自分のお店をやりたいという気持ちが強くなり、開業に踏み切ったんです。

ー開業準備、何から始めましたか?

臼木:まず、開業資金についてインターネットで調べました。

実は、お金って簡単に借りられると思っていたんです。商工会の無料相談に行って、初めて融資の仕組みを知り、自己資金や定期収入などの条件があることを知りました。

貯金はなかったので、生保の終身保険を解約したりと、なんとか資金を集めました。

無我夢中でしたね。

商工会にも3ヶ月かけて10回ほど相談しました。担当の方も親身になってくれ、事業計画書も作ってくれたんです。

400万円ほどの融資を受けるため、その計画書を持って信用保証協会に申請をしようとしていたんですが……いざ面接の前日になって計画書の数字を確認したら、数字が間違っていた箇所があったんです。

結局書き直しは間に合わず、融資の審査には落ちてしまいました。

40歳をすぎてアルバイトで、開業融資も白紙。頭が真っ白になりました。

二度目の試練:融資が決まり開業準備が進む中、不動産契約が白紙に。

ー融資が受けられないと決まって、どうしたんですか?

臼木:また勤め人に戻るつもりはありませんでしたが、どうしたらいいのかわからなくて開業のための専門家を探したんです。

東京から大阪まで、数名の税理士さんに相談しました。けれど誰もが私の話を聞いて「開業はやめなよ」と言いました。

4人目でやっと、「やろうよ」と言ってくださった先生がいて、やっと前へ進む事ができました。

専門家の先生にもいろんな方がいます。それぞれの意見もわかるけれど、味方になってくださる方が見つかれば心強い。

税理士さんのアドバイスも受けながら、今度は政策金融公庫に融資の申請をすることにしました。


(大野税理士と)

ー融資の申請を進めながらも、まだ物件は決まっていませんよね?

臼木:そうなんです。

つねにiPadで不動産サイトを探しまわっていました。

そのうちに気持ちが悪くなってきて、あまりの吐き気に病院に行ったこともあります。

けれど診断結果はなんともなく……神経性のものだったんでしょうね。

そのうちに、八王子にいい物件が見つかりました。居抜き業者さんに申込をし、公庫から600万円の融資も決まりました。

前の時は保証協会に400万円の融資申請が通らなかったのに、それ以上の額が得られたのは税理士さんのおかげです。私は親の援助があるわけでもないし、貯金もない。

わからないながら自分で進めるより、専門家の方に聞くのが一番だと実感しました。

開業後のことも考え、熱心に営業してくださった飲食系情報サイトにも登録しました。

しかし……大家さんの都合で、急に不動産契約が解除になってしまったんです。

さすがに、ショックでした。

三度目の試練:二度目の物件白紙化、飲食情報サイトへの痛い出費。

ー二度にわたる開業の白紙。それからどうされたのですか?

臼木:諦めるという選択はなかったので、その後も物件を探しました。

そして下井草で良い店舗物件を見つけたんです。駅3分、厨房設備も揃った居抜き物件で、これはいい!と飛びつき、やっと開業ができると思いました。

しかし……今度は物件を売る相手の方が、「やっぱり売れない」と仰ったのです。

実はその方は店舗を売りに出すことをご家族に話していなくて、いざ決まったら大反対されたそうなんです。

不動産屋さんも説得を試みてくれましたが、もうどうしようもありませんでした。

残念ながら、ここでも時間を無駄にしてしまいました。

しかもこの間、八王子の時に契約した飲食系情報サイトへも月額料を支払い続けていました。

というのも契約書に『オープン後半年は解約できません』と記載があったのです。

でも飲食業界はおそらく他の業界ほど契約書を重要視していません。開業を前にして気分が良くなっていたこともあり、ちゃんと契約書の隅まで読み込んでいなかったんです。

そのせいで、物件の契約すらできなかったのに、半年間料金を支払い、数十万円をどぶに捨ててしまいました。

ー時間だけでなく、お金も棒に振ってしまった……

臼木:もしかして強く言えば払わなくてすんだのかもしれません。

でも自分の浅はかさだったので、しょうがない。契約書をちゃんと読んでいなかったのも自分のせいです。

でも、この経験あったから、それからは契約書はきちんと確認するし、しつこい営業電話も断るようになりました(笑)失敗から得ることもあるのだと思っています。

その後やっと、今の物件を見つけました。

四度目の試練:内装工事の延期、予想外の出費。

ーやっと、今の物件を見つけられたのですね

臼木:はい。

都心から遠い住宅街ですが、駅から30秒だし、とここに決めました。公庫からも融資が690万円おりました。

過去最高額です。

長年の経験や内装業者の選定方法など、諸条件をクリアしていたことが評価されたようですが、一番は税理士さんのアドバイスがあったからだと思います。

もし税理士さんがいなければ、融資がもらえず破産していたと思いますよ。

この時、2014年10月。今度こそ開業だ!と意気込んだ時に、今度は、内装を作るにあたって失敗がありました。

ー内装の失敗、ですか?

臼木:はい。

内装費で予定外の出費がありました。私はソファや食器棚などの設備は内装費に含まれていると思ってしまっていたのですが、そうではありませんでした。

『内装』と『設備』は違うということを理解していなかったんです。

ほかにも、洗い場やテーブルの導線がスムーズに引けなかったり、お店の看板でも悩んだりと、いろいろ手間がかかってしまいました。

そのため、ひとつひとつ改善するために、想定していなかった費用がかさんでしまったんです。

結局、5週間の予定だった内装工事は2ヶ月近くかかってしまいました。

この経験からアドバイスできることがあるとすれば、これから内装工事を考えられている方は、たとえお金がかかっても、飲食店工事経験が豊富な業者さんにすべてお願いできればいいと思います。

内装は完成したら終わりではなく、その後もメンテナンスがありますから、信頼できる飲食店経営者の方などに専門の内装業者さんを紹介していただければ、手間も余計な出費もかからないと思いますよ。

ーそこで、やっと開業はできたのですね。

臼木:2014年12月25日のクリスマスに開業しました。

ここでももうひとつ勉強になる“失敗”があったんです。それは、居酒屋に欠かせないビールメーカーさんの選定に関することでした。

最初は、契約報奨金がいただけるということで、大手の顧客が多いメーカーさんと契約しました。

資金がない中での開業だったので、少しでも元手をいただけることはありがたいと考えたのです。

けれども報奨金の支払いがスムーズにいかなかったりと、良い関係が作れませんでした。

そこで、個人店が顧客に多い別のメーカーさんに変更したんです。

報奨金はありませんでしたが、無料で炭酸水のサーバーを設置してくれたり、お店のドリンクメニューを考えてくれたりと、とても丁寧に対応してくださいました。

自分のお店の規模に合ったお取引先を選ぶことが、大事なんですね。また、営業さんが親身になってくださるか、良い関係を築ける方かというのも、とても重要だと感じました。

開業後月30万の赤字から一変、地域に愛される繁盛店へ。

ー開業後、集客はいかがでしたか?

臼木:最初の一ヶ月くらいは、応援してくれた前のお店のお客さんたちがタクシーで来てくださったんです。

でも当然ながら長続きしませんでした。原価率も上がり、月30〜40万の赤字を出してしまうようになりました。

ー販促はされたんですか?

臼木:チラシのポスティングが主です。

住宅街は口コミが大事ですから、情報サイトへも登録しませんでした。

でもポスティングは無闇にやると「なんで入れたんだ!」とクレームが来てその処理に追われてしまう。

『投函禁止』の張り紙はポスティングしてもいいけれど、『警察に通報します』の張り紙は法的効力が発生するので投函してはいけない。

幸いにもポスティングのバイト経験がありましたから、自分で撒きました。閉店後の夜中3〜5時までの2時間や、営業前にポスティングしてまわるんです。

同じマンションには2週間は空けてまた行くというのを繰り返し、半年で3000枚ほど配布しました。

でも、焦っていたんでしょうね、やりすぎてしまったんです。

チラシに書いてあったキャンペーンが大人気になり、結局100〜200万円の赤字になってしまいました。

けれど、キャンペーンが終わった後もお客様のほぼ1割がリピーターになってくださったので、結果的には良かったかな。

もう「新しいお店できたんだ」とは言われなくなり、確実に認知が広がったことを実感しました。まさに、損して得とれ、ですね。

ーお客様は地域の方が多いですか?

臼木:ほとんど近隣からです。

仕事帰りのサラリーマンの方や、土日にはご家族やお子さんも多い。

だからお店の壁には子どもが絵を描いたお箸袋が貼ってあるんですよ(笑)

アルバイトスタッフも近所の学生さんです。歩いて帰れる距離なので、親御さんも安心みたいですね。

結局、知らない町で開業したのは良かったんだと思います。過去を引きずらないから、昔のお客様を大事にしつつ新しい方にも来ていただけます。

ー地域のお店として定着されましたか?

臼木:1年で全く状況が変わりました。

2015年は月110万円ほどだった売上も、2016年には月150万円にまで増えました。

今は29営業日でのべ580人のお客様が来店してくださいます。『石の上にも三年』という言葉が身に染みています。

でもまだまだ成功ではありません。

今は借金を返すという目的のために、日々頑張っています。クラウド会計で税理士さんと一日の売り上げを共有してアドバイスをいただいたりとサポートしていただいています。

いろいろありましたが、すべての試行錯誤が今に繋がっています。

悩んで何もやらないよりは、少しでも進んだ方がいい。失敗しても、実行を繰り返していけばいいんです。

(取材協力:串焼酒場じゅんちゃん 臼木淳 / 飲食店開業融資専門税理士 ITA大野税理士事務所 大野晃)
(編集:創業手帳編集部)

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