フレンチシェフ・居酒屋店長を経験したラーメン屋オーナーが目指す飲食業界とは?

創業手帳

「スタッフは必ず正社員」 ラーメン稲荷屋・高橋氏インタビュー

(2015/12/11更新)

利率が低い融資制度、補助金や助成金を活用し、27歳で開業。競争の激しいラーメン業界において半年でお店を軌道に乗せ、スタッフは正社員にこだわる————。その目指す先には、ラーメン業界を越えた飲食業界全体の活性化や、さらには農業展開まで視野にあると言います。元フレンチシェフという異色の経歴を持った高橋氏に、開業のノウハウとこれからの夢をお伺いしました。

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高橋 謙太(たかはし けんた)
昭和63年(1988年)生まれ千葉県出身。専門学校エコール辻東京を卒業後、都内結婚式場のフレンチに5年勤めた後、居酒屋店店長などを経て2015年3月に元浅草の稲荷町に「らーめん稲荷屋」をオープン。飲食業の地位向上、労働環境の改善(底上げ)を企業理念とし、働きやすい、技術を100%発揮できるような会社運営を目指しています。また、将来的には飲食業だけではなく飲食と関わりのある異業種(農業)への参入も考えております。そのために店では限定チャレンジ商品としてラーメン屋ではあまり使わない西洋の食材やフレンチの技術を用いて常に新しいことにチャレンジしています。

フレンチの料理人から、居酒屋店長、そしてラーメン屋店主へ…その理由とは?

ーもともとはフレンチで働かれていたんですね

高橋:最初はホテルのフレンチ料理人だったんです。

フランス料理はスープや肉・魚やデザートまでさまざまなメニューを扱いますし、調理の手数が多いので、技術を凝縮させて身につけることができるんです。

さらにホテルだと単価がとても高く、調理も難しいクラシックなメニューを作れるので、基礎から技術を身に着けようと思って、フレンチの世界に入りました。

そこで5年ほど働くと仕事に余裕がでてきたので、自分で開業したいと思うようになったんです。

「開業するためにどうしよう?」と考えて、店舗マネージメントや接客業を勉強しようと、当時全盛期だった居酒屋に転職しました。

そこで店長を経験させていただき、1年ほど働いた後に、知り合いに誘ってもらいラーメン屋を手伝いました。働きながら2年ほどで資金を貯めて、『稲荷屋』を開業しました。

ーさまざまな業種を経験したなかで、なぜラーメンでの開業だったんですか?

高橋:面白かったんですよね。

ラーメンの調理ってスピーディーだし、お客様とも接するし、ギラギラしながらやれる仕事なんです。

事業として一番手堅いのは5年間いたフレンチですが、自分のやりたいようやろうとすると、投資額がとんでもない桁になってしまうんです。

ですからまずはラーメン屋から小規模に始めて、後にさまざまな業態を展開すればいいかなと考えました。

今あえてこだわらず、流れのままに進んだ方が生産的だなと思ったんです。

開業のポイントその1〜立地とお金に関するこだわり〜

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ー2015年3月の開業に先駆け、開業準備を始めたのはいつですか?

高橋:計画書作りは2015年の8月で、店の準備は10月ぐらいかな。

ー場所を稲荷町にしたのはなぜですか?

高橋:初めはJR線沿いの店を探していたんですが、やっぱり店舗費用が高かった。

であれば、JR線沿いにはちゃんと資金が貯まってから移転なり支店なり出せばいいかなと思いました。

結局、ビジネス街と住宅街の間ぐらいがいいなと、今の場所にしました。

家賃もそれほど高くないですし、土日でも近隣にお住まいの方が来てくれるんですよ。

最近だと、ご家族でいらっしゃる方々や休日の方が日曜日に来店されることが一番多いですね。

ー内装業者はご自身で見つけたんですか?

高橋:はい。まずは開業した知り合いから一社紹介してもらい、その金額を基準にしていろいろな業者さんを探しました。

初めからネットで安いところを探すのは、後から上乗せされるかもしれないですが、紹介であれば常識的な金額を提示してくれると考えたんです。

ただ、僕は石橋を叩いて渡るタイプかもしれません。不動産も内装も、業者さんを決める時は契約書の軽いリーガルチェックもお願いしました。

契約するにも即決せずに一度は持ち帰るとか、やりとりもボイスレコーダーで録音したりとか……契約ってとても大事なことですから。

結果、候補の中で、高すぎず安すぎないところにお願いしました。

ー最終的に決めた物件は“居抜き”なんですよね?

高橋:そうです。前もラーメン屋です。最初から同じ業態の居抜き物件に絞って探していたんですよ。できるだけ初期費用を抑えて、調理の材料費にまわしたかったんです。

見つけた物件は綺麗な状態だったので、内装は3坪しかいじらず、カウンターが一直線だったのをL字にして席数を増やしただけです。

内装費のみで210万くらいかな。

細かい部分は後から変えていけばいいと思って、店内もできるだけシンプルにしました。

壁が黄色いのも前のお店のままですし、外の看板はとにかく目立つことだけを意識して、店名は覚えていただけるように最寄り駅の『稲荷町』という名称をそのまま使って、昔からここにあるような雰囲気にしています。

ー差支えなければ……開業費用はいくらほどでしたか?

高橋:総投資が借入金込みで1,500万ぐらいかな。

設備及び運転資金の投資に対する資金は自己資金が600万ほどで、融資が900万近くありました。

税理士さんには融資額1,200万円くらいでとご提案をいただいたんですが、900万で足りるかな、とストップしました。

ー普通は、もっと融資額をもらおうとすると思うんですが……

高橋:とりあえず運転資金の6ヶ月分があればいいかな、と思ったんです。

でも、機材費はかなりカットしましたよ。自分で河童橋に行ってお店ごとに値段を見て、安いお店を聞き込みして、できるだけ100均で揃えて……。

そもそも機材は中古でもいいですし、それほどお金がかからないと思っていたので節約しました。

とにかく最初の段階で自己資金を用意していたので安心でした。

ー補助金制度は利用しましたか?

高橋:創業補助金と、融資の利息が1%ほど下がる制度を利用しました。

偶然ちょうどいい時期に募集をしていたので、税理士の先生が認定経営革新等支援機関に登録されていたため事業計画書の作成支援をしていただきました。

ー専門家に融資の申請などを頼んでよかったですか?

高橋:はい。自分で作業しなくていい代わりに、人材採用やマーケティングなどの他の事に集中できました。

いい税理士さんに出会ったのは本当に運が良かったと思います。飲食店専門の税理士さんなので、他の方だったらうまくいっていなかったかもしれません。

開業後も顧問契約しているため、財務、経営、税務のサポートしていただいてます。

飲食店専門の税理士
ITA大野税理士事務所 大野晃 飲食店開業融資専門税理士

開業のポイントその2〜販促と雇用に関するこだわり〜

ー開業時には、販促などされたんですか?

高橋:宣伝もレセプションもしていないです。最初に宣伝してもあまり変わらないし、最初にお客さんが来すぎて質が落ちても悪い評判が広まるだけだと思ったので、宣伝は開業後にするつもりでした。

WEBにも情報を掲載せず、購入型のクーポンの販売だけはしました。

クーポンを購入された方は一度はお店に来てくれますから、そうなると美味いかどうかの勝負だけです。

ーでは、力を入れたのはどんなところでした?

高橋:雇用ですね。スタッフはバイトではなく正社員にしました。

飲食業界は就業規則があまりなく、残業代がなかなか出ない昔ながらの業態です。

でもそれだと、飲食業界自体が伸び悩んでしまう。経験上、「労働環境がよくなったらもっと頑張るよなぁ」と思ったこともありました。働くモチベーションが上がれば、技術も上がるんですよ。

働く環境を改善し、よりストイックでいられる状態をいかに提供するかが、たぶん一番大事ですね。

そのため、まずは信頼できるスタッフに「こちらもちゃんとそれなりの環境を用意するから」という意味を込めて、正社員として雇用することが大事だと思います。

しかし正社員を雇うには人件費がかかりますから、運転資金をちゃんと持っておこうと準備したんです。

ー正社員だと、ハローワークの『キャリアアップ助成金』も利用できますね。

高橋:そうですね。助成金については、地元の国庫にある助成金の分厚い雑誌を読んだり、税理士さんから情報をいただいたりしてひととおり調べました。

申請に関しては社労士さんを紹介していただいたんですが、自分でやれば手数料もかからないので、ハローワークに行って教えてもらいながら書類を作りました。

もちろん大変ですが、初めての創業なのでなにかのトラブルで振り出しに戻るのは嫌だと思って勉強しました。

売れる店舗づくりのコツ〜大事なのはお客様のニーズに合わせること!〜

ー価格設定やメニューはどうやって決めたんですか?

高橋:価格は、安すぎず高すぎず、微妙な値段がいい

事前リサーチもしました。近くでよく食事をしているトラックの運転手さんや、近隣のご家族に食べてもらえるには1,000円こえると高いから800円くらいかな……とか。

メニューは最初に基本的なものだけは決めておいて、あとは開業してからお客様の反応を見て変えました。地域のニーズに合わせていきたかったんですよ。

もしここが駅前ならインパクトの強いこってり系のラーメンでもいいんですが、住宅地も近いので、あまり濃い味だと飽きて次の来店まで時間が空いてしまう。

だから週に2〜3回来ていただくには、少し薄いぐらいがちょうどいいのかなとか試行錯誤しました。開業してからメニューもスープもだいぶ変わりましたよ。

今では、昼はあっさり醤油系を食べて、夜は背脂系を食べに来られる方もいらっしゃいますよ。

ーラーメン屋さんって「自分の味はこれだ!」という職人のイメージが強かったのですが……

高橋:うちは逆ですね。お客様の表情や食べ残し具合を見たり、「美味しかった」と声をかけてくださるのを参考にして味を変えたりします。

また、2ヶ月ごとに新しいメニューを出しています。今は従業員が考えた冬用の辛いラーメンで、次回はフレンチのソースをベースにした鴨のラーメン。

遊びみたいなものですが、面白いと楽しんでくれるお客様もいます。

ー従業員の方も、自分のメニューが採用されるとモチベーションがあがりますね

高橋:そうですね。それに僕一人だけだとメニュー開発は難しいので、一緒にやるといろんな意見を聞けて良いです。

将来の店舗展開と、農業進出

ー今後の展望は?

高橋:いずれはフレンチやイタリアンなどいろんな業態の飲食業に手を拡げてたいですね。

フレンチは間違いなくやります。高すぎず安すぎないネオビストロぐらいのフレンチが運営しやすくて、黒字も出しやすいかな。

「あの値段でこのメニューだったらコスパがいい」ぐらいが、いろんな方に食べに来ていただけるので一番いいんです。

さらに原価との調整もかけられるので、原価が低いために働いている調理人のやりがいがなくなる、ということもないです。

働く環境の整ったさまざまな業態の飲食店を増やす事で、雇用形態などの労働環境がブラックだと言われがちな飲食業界をもっと輝かしい業界にしたいんです。

ースタッフは全員正社員にというのも、将来、労働環境の整った店舗展開を前提にしているんですか?

高橋:そうですね。

環境がいいところには良い人材が集まってくるので、福利厚生をしっかりするとスキルの高い人材が集まってきて、必然的に会社のレベルも上がると考えています。

ーまた、農業もやりたいと考えているそうですが?

高橋:まずは10店舗以上の飲食店を展開したら、並行して農業もやりたいです。

今はTPPの問題で国産の食糧が高いし少ない。でも流通経路の確保と流通システムを作れば、国産ブランドのある食糧で自分の店舗も賄えるし、一般よりも価格を下げられるはずです。

もちろん、農業に新しく参入するのは難しいとは思っているんです……。

でも、最初はいろんな農業の方にご協力いただき、いずれは自分の会社でできるようになりたいです。

そうやって従業員も自分もステップアップできる刺激がないと、技術は伸びないし、夢が広がらない。「こんなことやってみたい」という遊び心がある方が面白いですよ。

ー最後に、これから開業する後輩へアドバイスをいただけますか

高橋:自己資金は一番大事です。自己資金があれば、開業したら楽になります。

僕もとにかく資金を貯めようと、仕事が終わった後に他の飲食店の手伝いをしたり、道路整備をしたりしました。

人に何を言われても、目標に向かって貪欲にやることだと思います。

「こうしよう」と思ってやるのだから、頑張っているとか苦しいとかいう感覚はなく、ただただ楽しいですよ。

(取材協力:ITA大野税理士事務所 大野晃 飲食店開業融資専門税理士
(編集:創業手帳編集部)

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