農業×ホームレス!? えと菜園代表小島希世子氏インタビュー

創業手帳woman

「できるかではなく、やるかやらないか!」注目の女性社会起業家の原動力とは?

えと菜園代表・小島希世子氏は、広い湘南の畑の近くの直売所で、土にまみれた手を拭きながら、インタビューに答えた。「やるかやらないか」「妥協のないサービスを送り出す」一言一言が、朴訥だが、飾り気の無い答えの合間に、強い新年と情熱を感じる。農業×ホームレス、農業×都会の住民を結びつけるビジネスモデルは展開する注目の女性起業家にお話しを伺った。

(2016/02/19更新)

本文を読む

小島希世子(おじまきよこ)
熊本県うまれ。実家は農家ではないが、周りに農家が多かったことから「いつか農業を仕事にしたい」と志す。慶應義塾大学卒業後、産地直送の会社に勤務。しかし農家の夢をあきらめられず、2006年にネットショップを開業。2009年には法人化し、農業体験ができる『コトモファーム農園』をスタート。その後、株式会社えと菜園を設立し独自の販路開拓を模索。2011年には、生活保護受給者などの就農支援プログラムで「横浜ビジネスグランプリ2011ソーシャル部門 最優秀賞」受賞し、『NPO法人農スクール』として事業化した。

好きなことを仕事にすると、良い!

ーえと菜園さんは農業に関するさまざまな事業を実施されていますね

小島:メインは直送のオンラインショップです。

ほかに、農業体験『コトモファーム』の実施や、『NPO農スクール』で農業を通して社会復帰を支援する活動などをしています。

ー農家になるという選択肢もあったかと思います。なぜあえて会社にしたんですか?

小島:農家さんをめぐるコミュニティを作りたいな、と考えたのが始まりです。

農家さん同士のコミュニティや、農家さんと作物を購入する商社や消費者とを繋ぐコミュニティ、人手不足の農家さんと求職中の方を繋ぐコミュニティなど、“繋がり”を作ることで農業の現場を改善できたら……と思いました。

そもそも農業とは『人類の食料を生産する』食料生産の現場です。

そして農家さんにはいろいろなタイプがあり、環境を守る農家さん、地域を守る農家さん、食の安全を守る農家さんなど、様々な価値観があります。

いろんな考え方の農家さんによるコミュニティを作り、食の安全や流通・生産・透明性が直接消費者の目に見えるようになることで、消費者が自分に合った野菜を購入できるはずです。

今では熊本県内で16軒くらいの農家さんのコミュニティができています。

ー農業をビジネスにするのはハードルが高いと思うのですが……

小島:小さい頃から農業が大好きだったので、幸せです。

好きなことを仕事にすると、1日どれだけ働いていても誰にも何も言われないから、すごく良いですよ!

それに、自分が楽しいことで誰かに喜んでいただけるなら、そこにお金が生まれる可能性があると思います。

やりたいことやっていると、応援してくれる方がどんどん集まってくる。

農業体験『コトモファーム』を始めた後には、知り合いが「近くのスーパーに野菜を出さない?」と声をかけてくださったり、バイヤーさんがわざわざ畑まで見に来てくれました。

でも農園では量を作っていなかったし、できるだけ農薬を使わず天候に任せて作りたかったので「いつ何キロ出せるかの約束はできないんです」と話したんです。

すると、「それでもいいですよ」と言ってくださった。ありがたかったです。

でも『NPO農スクール』は、ホームレスや生活保護の方の参加が多いのでほとんど寄付で運営しています。

けれども『NPO農スクール』も農業体験『コトモファーム』も儲かるからやっているのでなく、周囲の要望に応えている結果なんです。

ーその農業体験『コトモファーム』と『NPO農スクール』とは、どんな活動ですか?

小島:まず、農業体験『コトモファーム』では無農薬の野菜を作っています。

そこでは誰でも、種まきから収穫までを体験することができます。最近では、企業の人材育成としての新入社員研修や、福利厚生分野で畑を使いたいという要望を多くいただきます。

来てくれた方が農家さんのことを理解してくださるといいなという思いもありますし、農効果を期待した活動でもあります。

ー『農効果』とは?

小島:農業は自然や生物と接するため、心の癒やしやストレス発散、メンタルヘルスケアの効果もあるんです。

また体を動かすので健康にもなります。体験後には、生きる気力を取り戻す方もいらっしゃいますよ。

それを活かして『NPO農スクール』では一般の農業体験のほか、ホームレスの方や生活保護受給者の方、うつ病、メンタルの病気を抱えていらっしゃる方、ニート、引きこもりの方に来ていただいています。

農スクールのトレーニングでは、明るく元気な挨拶や遅刻をしないといった基本的なコミュニケーションから始まり、「たとえ仕事で注意されてもあなたの人格を丸ごと否定しているわけではないんだよ」ということを根気強く伝えます。

自信のない方が多いので、自信を持てる長所を見つけて再確認するというプログラムもあります。

しかし多人数は受け入れられないので、1クールにつき約12人を年2.5クールほど開催しています。

今後はその体験を通して、「農業をやっていきたい」と思った方が人材を募集している農家さんへ行く流れを作りたいな。

ー農作物を作るだけでなく、NPOなどの社会貢献活動をしたいと以前から考えていたんですか?

小島:いえ、実際に農業に携わってみて「人が足りていないな」と感じたからですね。

田舎には空家がいっぱいあるのに、かたや都会では働く意欲はあっても仕事も家もない。そんな方たちと田舎を繋げられないかと考えて、NPOを立ち上げたんです。

最初は、働きたいけれどホームレスだから履歴書に住所と電話番号が書けずなかなか就職できないという方を対象に農スクールを実施していました。

その後いろんな方が来てくれるようになり、最近は引きこもりの子も増えています。

でも、“誰か”に特化しているわけではなく、誰にでも平等にチャンスがあるべきです。

そのため農スクール参加者の選定は、本人のやる気や姿勢で判断しています。

女性経営者の“利点”“難点”

ー社長として大変なことも多かったと思います。どんなことがありましたか?

小島:『NPO農スクール』では、参加者の方に気持ちが伝わらなかったり、スタッフとうまく意思疎通ができなかったりといったことはよくあります。

また、長雨で収穫期を逃してトウモロコシが全部ダメになったこともあります。

でも空に向かって「ばか野郎」って言うわけにもいかないですしね(笑) 怒りをぶつける場所はないけれど、自然は努力でどうにもできないことを教えてくれる。

だから楽観的に捉えられるようになりました。また次チャレンジしたらいいや、とね。

今まで「辛いな」と思ったことは数えきれないほどありますけど、自分で選んで好きでやっているので、やめるという選択はなかったんです。

結果だけじゃなく、やっている過程も楽しいんですよ。

ー女性起業家ならではの悩みはありますか?

小島:子育てとの両立は大変でしたよ。

子供を預けるところが休みの時は、営業先に連れて行くしかない。

一度、取引先さん先での打ち合せ中に子どもが会社の全部の引き出しを開けてまわったことあったんです。

「もう連れて来ないで」と言われました(笑)

でも農業という面では女性で良かった部分もあります。一般的に女性が家庭で料理をすることが多いですから、消費者である“奥さん”の視点を想像することができます。

奥さんは農家さんが作った物をどう食卓に並べるのか、奥さんに売れる物は何なのか……とイメージしていました。

ー消費者目線として、作物を育てる時に気を付けていることはありますか?

小島:農薬・化学肥料は一切使わないことですね。

基本的には、本来の生態系であれば、有機肥料も農薬も必要ない。そこで生まれた雑草や虫や小動物が死んで土に還り、ぐるりと回って野菜の栄養になっているので、農薬や化学肥料はなくてもいいはずなんです。

たしかに、農薬や化学肥料を使えば、収穫量が増えたり、量のコントロールがしやすくなったりするとは思います。でも、そこまでする必要ってあるのかな。

考え方は人それぞれですが、私としては、生態系を活かした栽培に魅力を感じるので、農薬・化学肥料は、使いたくないんです。

生き物たちのおかげで野菜ができていると感じている農家さんはまわりにも多くて、自然を恐れながらも敬意を払っている。

自然は人間の敵でも味方でもないから、お互いに譲り合っていきたいですね。

ー生態をコントロールした農業と、自然に合わせた農業……今後の農業界はどうなると思いますか?

小島:TPPだけじゃなく、農業を取り巻くいろんな環境の変化があると思います。

世界の農業の流れとしては、施設栽培か遺伝子組み換えかの覇権争いが起きて、シェアを取った方が一気に浸透するんじゃないかな。

また価格のせめぎ合いがあり、食の安全も脅かされると思います。

そんな時に、ただ商品とお金を交換するだけじゃなく、農家さんとお客さんがきちんと繋がっていれば、安いからという理由では選ばないんじゃないかな。

だから今のうちに、未来の農業や食卓について一緒に考えられる仲間関係やコミュニティを強固にしていく必要があります。

そうすれば、生産者と消費者が結びついた「小さい経済」がちゃんと成り立つと思います。

ーそういったコミュニティを作るために、今どんなことをしていますか?

小島:一人一人のお客様に買っていただき、支えていただいていることを心において、農家さんと一緒に活動していくことですね。

日々、積み重ねていくことがなにより大事ですから。

まずこちらが、目に見える範囲に向けて信念を込めた妥協のないサービスを送り出す。

それをキャッチしてくれた人が、次にはきっと他に広めてくれる。そうしてじわじわと少しずつ、自分が思い描く未来が広がるんじゃないかな。

今も私たちの活動を知って、湘南藤沢のコトモファームまで、横浜や埼玉から来てくださる方もいます。

たぶん近所にも農業体験できるところがあるんでしょうけれど「コトモファームがいい」と言って来てくださる。ありがたいです。

起業とは、できるできないじゃない、やるかやらないか

ー今後、新たに挑戦したいことはありますか?

小島:現在、コトモファームの上級者コースでは、退職して田舎暮らしをしたり、自給自足しながら野菜を販売して生活していこうと考えている方に多く来ていただいています。

今後は、田舎暮らしをしたい都会の方へ向けて、田舎暮らしを体験できる環境を充実させたいです。

家庭菜園よりも一歩踏み込んで、トラクターに乗ったり、田舎の空き家に寝泊まりできるようにしていくつもりです。

というのも、たとえ田舎暮らしに憧れていても、やってみないとわからないことも多いと思うんですよ。

実際に田舎に移った後で、理想と現実が違うことに気づいて「やっぱり都会に戻ります」というのは、かなりリスクが高い。

でも事前にシミュレーションしていれば傷も浅いので、まずは体験してみてほしいです。

やってみて自分に合えば、そのまま田舎生活に飛び込めばいいんですよ。

ー事前にイメージできていると働くハードルは下げられそうですね。

農業を仕事にしようと思っている人が事前にしておいた方がいいことはありますか?

小島:やっぱり、現場に足を運ぶことが何よりも大事。最近は、地域や畑に触れずに農業をやってみようと考えている人も少なくはないんじゃないでしょうか。

でも目と耳だけの情報じゃなく、畑に来て自分の手を汚すことでわかることがある。

肌で感じる風や、手でさわる土や、虫の声や、畑の匂いなど、五感を使って情報を得られるので現場に出ることをおすすめします。

農家さんと話をすると、その野菜が何を欲しているか、見るだけでわかる人は多くいます。

ただ、どこを見ればわかるのかを具体的に言葉にするのは難しいんですが……。

例えるなら、100頭くらい牛を飼っている知人が「今、何番と何番の牛は体調悪いんだ。

全然顔が違うだろう」と言ったことがあるんですが、私にはどの牛も全部一緒に見える。

きっと野菜でも似た感じなんだろうな。五感全部を使って風や匂いを感じ、野菜の全体像を捉えると、野菜のことがわかるようになると思いますよ。

ーでは最後に、これから起業を考えている方で、心に留めておいた方がよいことはありますか?

小島:まず、やってみることですね。

起業って、できるかできないかではなく、やるかやらないかだと思うんです。

私は体力を使うこと以外はあまり得意じゃなくて、農業においてもできないことはたくさんあります。

でも、やるかやらないかは自分の心一つで決められる。だからまず、チャレンジするといいんですよ。駄目ならその時考えればいいですから。

(取材協力:えと菜園/小島希世子)
(編集:創業手帳編集部)

創業手帳woman

カテゴリーから記事を探す