「自分が幸せでなければ、人を幸せにできない」 若者が限界集落へ飛び込んで学んだ、情報発信の極意とは?

創業手帳woman
※このインタビュー内容は2015年12月に行われた取材時点のものです。

古民家宿LOOF代表 保要佳江さんインタビュー
若者が限界集落へ飛び込んで学んだ、情報発信の極意とは?

(2015/11/30更新)

山梨県芦川町は限界集落です。限界集落を救う本当の意味での「村おこし」を考え抜いた結果、自分の理想である「田舎も都会もある暮らし」をコンセプトにした団体「芦川ぷらす」を立ち上げました。田舎でもできるビジネスをする為の手段として「イナカに泊まるように暮らす宿」をオープンしました。若者ならではの視点から見た情報発信の工夫や、夢を実現するための方法論を伺いました。

保要佳江(ほよう よしえ)
山梨県芦川町出身。芦川ぷらす/古民家宿LOOF代表。大学卒業後、国立ファームに入社し、飲食部門にて、リーダーシップ、企画や経営スキルを学ぶ。その後、芦川町で芦川ぷらす/古民家宿LOOFを経営。

本当の意味での村おこしは、好きなことを続けること

ーまず保要さんの経歴から教えてください。

保要:学生の頃から海外に興味があり、大学3年生の時にアイルランドに留学していました。

その際に、「まず身近なことを変えられないと世界は変えられないぞ」と言われたことをきっかけに、日本で土台を作ってから海外に挑戦しようと決めました。

それと同じ時期に、自分の出身の芦川町が限界集落だったということを初めて知って、「まずはこれだ」と思い、大学4年生の時に復学して、芦川の村おこしをしようと思ったのです。

ー卒業後、地元に帰って村おこしを始めたのですか?

保要:いえ、面白い会社があるよと友だちに紹介されて、国立ファームという会社に働くことになりました。

社長から「うちを踏み台にして、自分のやりたいことをやりな」と言われて、「この会社で勉強してから村おこしをやろう」と考えました。

3年たって店長になったある時、同僚と一緒にふらっと芦川に遊びに行った時に、再生された茅葺きの古民家があったのです。ここで何か面白そうなことができそうだねと言って、それで考えたのが囲炉裏フレンチというイベントでした。

ー現在の古民家経営の原点ですね。

保要:そうですね。

当時フレンチのシェフも一緒に働いていて、古民家で地元の食材を使ってフレンチを提供するというイベントしたら面白そうだと思い、立ち上げたのが芦川ぷらすです。

そのイベントを開催するのは年に4回だけだったのですが、イベントは全て満席で、好評でした。

しかし、収支はずっと赤字で、「村おこしって最終的にどうなるのが理想なんだろう?」と考えるようになりました。

限界集落だから何かやってあげたいみたいな善意の押し付けみたいになるし、地域のために自分を犠牲にしてもきっと幸せにならないなと思って、まずは自分の好きなことをやってみようと考えました。

東京も好きだし、田舎も好き。両方の生活を送れるようなライフスタイルにし、田舎でも可能なビジネスとして、古民家の宿を経営することにしました。

若者ならではの情報発信の工夫を田舎へ持ち込む

ー改修は自分たちで行ったと聞きましたが。

保要:そうです。専門家が2人居る以外は、Facebookのイベントでボランティアを集めました。

友人はもちろん、古民家に興味がある人とか、地域に戻って仕事をしたい人とか、そういう人がふらっと100人ほど手伝いにきてくれました。

ー100人もボランティアを集めるってすごいですね。

保要:ただ募集するのではなく、「宿造りアカデミー」という形にして、プロの建築家さんや大工さんに教えてもらって、勉強しながら作業をやってくださいという感じで募集をかけました。

建築科の学生さんなんかにも良い経験になったようで、ものづくりの部活動みたいな感じになりました。

本当に知らない人たちが興味を持ってくれて、「何だこの団体は?」と探りがてら(笑)お手伝いに来てくれたりして、山梨で起業している人とか活動的な人とは、そこで結構つながりができました。

ー宿自体はどう広めていったのでしょうか?

保要:目立った広告は打っていません。

雑誌『ブルータス』に掲載させてもらったんですけど、そういう雑誌とかを見て来てくださった方は多少います。

若者や訪日観光客をターゲットにしているのもあり、積極的にSNS投稿を促していたりはします。

もともと朝食は付いていないのですが、滞在の様子をSNSで発信してもらうと朝食サービスを付けていて、それは100%近いお客様が使われています。

地元の食材を用意してあげて、そのかわり宿の写真をinstagramやfacebookで発信してもらっています。

それを見た友人の方が来てくれたりと、効果が出ています。

ー「三姉妹から始まる村おこし」というのもキャッチ―ですし、発信の仕方をすごく工夫されているイメージです。

保要:前の国立ファームという会社が、野菜のブランド価値を高めることに熱心で、農家さんの野菜の価値をどうやってお客様に伝えるかを学んだ経験が生きています。

それと、クラウドファンディングのmakuakeを使ったのも、資金調達というよりは、話題作りや広告効果に期待したウェートが大きかったです。

いいものを作っても、どう売り込むかまで考えないと価値は分かってもらえません。

農業も同じで、例えば農家さんは職人だから、いいものを作っていれば売れると思っていて、販売の努力をしないのですが、いくら良いものがあってもちゃんとした形で発信しないと、価値は分かってもらえません。

それは前の会社にいたからこそ気付けたことかなと思います。

自分が幸せでなければ、人を幸せにできない

ー「村おこし」という自分の夢を実現するために心がけていたことはありますか?

保要:とにかく周りに言い続けていました。

途中で本気でやめたくなって「やめたい」と言った時もありました。

でも、逆に周りがやる気が出ちゃっていて、もうなんかやめられない、後戻りできないみたいな感じで完全に立場が逆転していて、頑張ろうと励まされながらやってきました。

やっぱり周りに言い続けるのはすごく大事だなと思いました。

ー最初はあまり協力的でなかった人が変わっていった瞬間はありますか?

保要:結果を出すことだと思います。

よく行動が大事って言うけど、実は地道に結果を出し続けるために続けることが、大変だし地味だし目立たないけど、最も大事なことだなと思っています。

これまで地道にやってなんとか黒字になってきましたが、地道に活動していった結果を出していくということで、周りが本気だと思ってくれて、「それなら協力するよ」といった感じになってくれたと思います。

とりあえずやってみようっていう人は結構多いのですが、その後を続けるのって地味だし本当に大変だなと思います。

でも、地道な活動をしていると見てくれている人は見てくれます。

ー立ち上げるにあたり、ベンチマークにしていた宿とか人はいましたか?

保要:芦川ぷらすを始める前に、西日本を旅行して古民家の宿やゲストハウスを一通り見て回りました。

いろいろな宿に行って良いと思う部分やうちでも導入出来る部分等たくさん見て来ました。

この宿も、最初はポジショニングが分からぬまま走っていたのですが、お客様に言われて「ここが他の宿とは違うんだな」みたいなのがちょっとずつ見えてきて、他の古民家宿とは違うなというのがやりながら見えてきました。

古民家の宿って「建物の良さで勝負している」とこが多いので、サービスが伴っていない事がすごく多かったんです。

ーせっかく良い建物でも勿体ないですね。

保要:そうなんです。

旅行に行って感動するって建物とかのハードの部分より、人とのやりとりとかのソフトの部分だから、そこは強みの一つになるなと思いました。

そこで、私をコンシェルジュという肩書きにして、お客様の滞在期間の予定を相談したり、お料理をお出ししながらお客様と一緒にいて、話をしたりとか、そういうのを大事にしています。

女性起業家へのメッセージ

ー最後に女性起業家に対してメッセージをお願いします。

保要:会社とかってプランを立てるところから始まる「PDCA(Plan Do Check Act)」です。

でも私の場合は「Do See Plan」。やってみて、考える。いつもそのパターンでその分失敗も多いのですが、考えても分からない。

とにかくやってみたらいいかなと思います。山梨の知り合いをどうやって作ったのとか言われるのですが、飛び込んでみたら勝手にできちゃった。

やってみることって大事だと思います。山梨戻って古民家の宿やるって決めた時も、失敗したら別荘にしようと思っていて(笑)。

失敗してもまた一生懸命働けば、借金ぐらいどうにかなるかなと思っていました。とにかくやってみることが本当に大事だなと思います。

(編集:創業手帳編集部)

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