契約社員の雇用期間が終了しても辞めさせられない?創業者必読の「雇止め」とは

創業手帳

誤解されがちな「雇止め」について、伊澤弁護士が徹底解説します

(2016/04/11更新)

皆さんの中には、「契約社員は、雇用期間が終了すればいつでも辞めさせられる」と考えている方も多いのではないでしょうか?
正社員と実質同じ扱いでも、契約社員としての雇用。会社にとって都合の良いタイミングで辞めさせられるように、契約社員として更新を繰り返す「雇止め」をテーマに、経営者・ビジネスパーソンの“美しい誤解”を解きほぐしていきましょう。

会社の経営には、さまざまな専門的な知識や情報が必要となります。起業に関する情報やノウハウを提供している創業手帳は、専門家・起業家の生の声を聞きながら、記事を書いています。
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今回の相談者

相談者:電機メーカー「北芝」代表取締役社長A氏

わが社では、使い勝手のよさから、人を雇う際には、なるべく“正社員”としてではなく、“契約社員”として雇う様にしているんです。

社員のうち、30%は契約社員でして、賃金も低めにし、契約期間を2か月と短く設定しております。

ただ、正直なところ、契約社員も正社員も、やらせている仕事の種類とか内容については、全く変わりはありませんし、多くの契約社員が、契約を5回〜23回更程更新して、長く働いてもらっています。

それで先生、今回の相談です。実は、能力が乏しい社員に、契約期間が終わる今月末で、辞めてもらおうと思っているんです。

ただ、雇い入れる際に、「2か月の契約期間が満了してもマジメに働いていればクビにするようなことはない。

安心して長く働いてほしい」「1年経てば正社員になれる」と言ってしまったので、少し心配になりまして。

でも先生、雇用期間は2か月とバッチリ契約書に書いているわけですから、雇用期間が終了すれば、それでクビに(更新を拒絶)しても、何の問題もないですよね?

1)正社員と契約社員の違い

相談にお答えする前に、まず、正社員と契約社員の違いから見ていきましょう。

労働者は、大きく2種類に分けられます。

①特定の期間を決めることなく、入社してから定年まで勤務することが予定された“正社員”と言われる人(専門用語で、「期間の定めのない労働者」「無期労働者」などといいます。)

と、

②雇用期間を数カ月から1・2年といった形であらかじめ特定し、長期間の勤務を予定していない、いゆわる“契約社員”と言われる人(専門用語で、「期間の定めのある労働者」、「有期労働者」などといいます。)たちです。

この違いは、色々あるのですが、最も大きな違いは、会社から出ていけ!と言われても、居座り続けることができるかという「雇用の安定性」にあります。

2)雇止めについて

正社員をクビ(専門用語で、「解雇」といいます。)にするためには、解雇が「労働者の飯の種を奪う過酷な行為」であることを理由に、会社の財産を横領したなどの、よほどの理由がない限り、解雇はできないとされています(労働契約法16条)。なお、このルールを難しい言葉で、「解雇権濫用法理」(カイコケン ランヨウホウリ)といいます。
 
そのため、社員の能力が芳しくなかったり(東京地決平成11年10月15日)、遅刻・欠勤が多かったり(最判昭和52年1月31日)という程度の理由では、会社からクビにされることはなく、その意味で、正社員になれば、その地位がある程度は保証されているといえます。

他方で、契約社員についてはどうでしょうか?

契約社員の場合は、入社の時点では、はじめから雇用期間を数カ月・数年といった形で限定しています。

その意味で、契約社員自身が、会社に長居しないことを受け入れているともいえますし、会社側もだからこそ、その人を雇っている関係にあります。

そのため、正社員とは対照的に、契約期間が終了した際には、直ちに労働者の地位を失います。

その結果、契約期間終了後は、原則として、会社側に対し、「このまま雇い続けてほしい」と主張しても、会社側は、「ごめんなさい」と言って、一方的に“雇用契約”の更新を“止める”ことができるのです(これを、それぞれの頭文字をとって「雇止め」といいます。)。

なお、雇止めは、「解雇」とは違うので注意が必要です。

「解雇」は、契約期間が“継続”している最中に、会社が労働者を一方的に辞めさせる行為であるのに対して、「雇止め」は、契約期間“終了後”に、会社側が一方的に契約の更新を拒絶し、労働者を締め出す行為をいいます。 

そのため、契約社員についても、当初予定した契約期間中に、会社側の都合で辞めせる場合には、「雇止め」ではなく、「解雇」に当たり、正社員をクビにする場合と同じように、簡単には辞めさせることはできません(民法第628条)。

3)雇止めが無効になった事例(東芝柳町工場事件/最判昭和49年7月22日)

会社側の雇止めが無効になった裁判例があります。

そこでは、いわゆる契約社員として採用されたものの、正社員と契約社員で仕事の内容等について特段の差が設けられておらず、しかも、5回から23回以上契約を更新した社員に対する、雇止めの有効性が争われました。

設例は、この裁判例を下にしたものですが、裁判所は、
(i)契約社員Xは、5回ないし23回という多数回にわたって契約の更新を重ねている上
(ii)契約社員と正社員とでは、こなしている仕事の種類、内容の点において違いはなく、しかも、
(iii)採用に際しては会社側に、長期間継続して働けることや正社員になれることを期待させるような言動が認められること

を重視して、契約社員Xは、契約書の雇用期間(2か月)にかかわらず、実態としては、正社員と同じであるとの評価を下しました。

そして、正社員をクビにする際には、解雇権濫用法理というルールによって規律されるところ、Aによる雇止めも、このルールに従い、よほどの理由(横領等)がない限り、無効と判断されることになります。

設例についてみますと、Xには、勤務成績が悪いといった事実はありますが、横領等に匹敵するような事情は見当たりませんので、「よほどの理由」があるとはいえません。

そのため、会社側(A氏)による契約社員Xへの雇止めは、無効と判断されてしまうでしょう。
  

4)雇止め有効性の判断基準〜6つのポイント〜

経営者の方が雇止め(労働契約法19条)をする際には、裁判所が示したルールを読むのでは分かりにくいため、厚労省が、上記裁判例などを参考に作成した「ガイドライン」(http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/12/dl/h1209-1f.pdf)を参照するのが便宜です。

判断基準のポイントだけ示しますと、

①仕事の内容・勤務形態や労働条件が、正社員とどのくらい同じなのか
→同じと言える程、無効と判断されやすくなります。
②継続雇用を期待させる会社側の言動・労働者側の認識の有無・程度
→期待を強く抱かせるような言動である程、無効と判断されやすくなります。
③反復更新の有無・回数、勤続年数等
→多く長い程、無効と判断されやすくなります。
④更新手続きの有無・時期、方法、更新の可否の明示を適切に行っていたか
→手続きがずさん、あるいは、そもそも行っていないなどの場合には、無効と判断されやすくなります。
⑤同じ様な地位にある労働者の雇止めが過去に行われていたかどうか
→行われていない程、無効と判断されやすくなります。
⑥その他有期労働契約を締結した経緯等が特殊であったかどうか等
→特殊といえるような事情がない程、無効と判断されやすくなります。
の6つのポイントに留意して、雇止めの有効性を判断していくことになります。

5)対応策

それでは、契約社員を抱えた経営者が、雇止めをしたいと考えた場合、どうすればよいのでしょうか?

まずは、契約社員だからといって、自由にクビ=雇止めができるわけではないことをキッチリ認識する必要があります。

その上で、裁判所に無効と判断されずに、上手く雇止めをするためには、上記ガイドラインが示す要素を満たすような対応をすべきです。

具体的には、

  • 業務内容や業務上の権限などの違いを明確に分けておくこと
  • 将来的に更新を拒否する可能性がある場合には、契約締結時(更新をすることがあるとしても、その度)に、その旨の説明をキッチリしておくこと
  • また、クビにする必要がある契約社員については、堂々と更新を拒否し、あるいは、条件を見直した上で再契約するなどの対応を取っておくこと

が必要です。

このような対応をしておくことで、後々、「正社員と同じような扱いを受けていた!」とか、「更新してもらえると期待していたのに、裏切られた!」といった難癖をつけられたとしても、雇止めを有効と判断してもらえる可能性が高まります。

また、このような対策については、専門家のアドバイスを受けながら考えることで、より安心できるものになるでしょう。創業手帳では、無料会員向けに専門家を紹介しています。紹介を受けるに際して、料金は一切かかりません。(創業手帳編集部)

まとめ

最後に、これまでの解説のポイントをまとめると、以下のようになります。

  • 契約社員だからといってクビ=雇止め(更新を拒否すること。)は自由ではなく、解雇と同様に、簡単には認められません。
  • 雇止めが認めらえるか否かは、厚労省作成のガイドラインが示す6つのポイントを参考に判断するのが便宜。
  • そして、契約社員に対して上手に雇止めをするためには、「2」のガイドラインを参考に、「正社員と同じような取扱いをせず」「更新を期待させるようなこと避けること」が大事です。

具体的には、
(ⅰ)正社員との業務内容・権限を明確に区別すること
(ⅱ) 更新拒否の可能性を、契約締結時・更新時に、説明すること
(ⅲ)クビにする必要のある社員がいれば、適時に、更新を拒絶し、あるいは、条件を見直した上での再契約を締結しておくこと
が大切です。

雇用に関する手続きや業務は、デリケートで専門的要素も多分に含まれます。創業後で、組織づくりのノウハウがあまり蓄積できていない起業家にとっては、とくに慎重に確認しながら取り組みたいところです。

創業手帳は、専門家のアドバイスを受けながら、起業家の役に立つ記事を提供しています。冊子版の創業手帳の別冊である総務手帳(無料)では、雇用など、労務面の基礎的なノウハウを解説しています。ポイントをしっかり押さえて、トラブルのない組織運営を目指しましょう。(創業手帳編集部)

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(監修:IT弁護士 伊澤 文平(いざわ ぶんぺい)
(編集:創業手帳編集部)

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