データ分析術|数年先の市場を見越す方法と信頼できるデータの収集法

創業手帳

(2016/10/25更新)

経営者の方はご自分の会社の売上や経費の計算で頭がいっぱいかもしれません。しかし、その重要な売上の大元となるのが、マーケット(市場)の動きです。

例えば、毎年10%で拡大しているマーケットならば、あなたの会社の売り上げも年率10%で成長できる可能性が高くなります。逆に、マイナス10%ならどうでしょう? より経営努力、斬新なアイデアが求められることになります。

マーケットの趨勢を知っているといないとでは、ビジネスに対する気構えや思考が違ってきます。会社の売上や利益の現状と将来を見る上で、マーケットの動向を捉えることは、お客様の情報を得るのと同じぐらいに重要なことなのです。

データの取得先

上場企業や中堅クラスの企業の経営企画やマーケティングの担当者が、どのような市場データを集めているかを簡単にまとめてみました。意外と地味なデータの収集方法だと驚くかもしれません。誰にでもなじみのある順にご紹介します。

  • 日本経済新聞をはじめとした経済紙、東洋経済新報社などの雑誌の記事
  • その産業やビジネス専門の業界紙
  • 政府の統計データ(総務省「家計調査」、経済産業省「工業統計」など)
  • シンクタンクや調査会社が自主的に調査を実施し発表する記事。
  • 競合会社や競合店のリスト、商品の販売開始時期、価格帯、事業別の売上や人員構成。
  • 調査会社やシンクタンク等へ委託して調査したオリジナルで機密性の高い情報。

「⑤」については、ライバル店や会社の製品のカタログを入手することから、信用調査会社へ依頼し、信用情報(主に売上高や利益、社員数、取引先)を購入するなどがあります。これもマーケットやその地域などで明らかな競合関係が生じる規模の企業に限られた話です。

上記の「⑥」は新規の事業立ち上げや製品の開発時、競合の活動状況を探るときなどに実施されます。フルオーダーなので調査費用は50万円から数千万円に昇ることも珍しくありません。データ収集にそこまでの資金がある会社は上場企業やそれに準ずる会社、あるいは海外からの参入企業などに限られます。この他、小売業のPOSデータ取得による売れ筋商品の分析、インターネット調査による消費者ニーズの把握、顧客の満足度を測定するCS(Customer Satisfaction)調査などがあります。これも調査予算が潤沢にある企業に実施が限られることが多いです。

データの活用例

データ取得も費用しだいでそれだけ深く、緻密な情報が得られます。しかし今回は、一般的に入手できる前掲の「①~④」についてその活用方法を考えてみましょう。

新聞や雑誌記事

あなたの会社がかかわるビジネスのトレンドは、業界紙、業界雑誌などで知ることができます。関連する政府の統計も定期的に紙面に取り上げられます。その産業やビジネスの大きな流れを捉えるのに適しており、記事をスクラップ化したり、エクセルに入力して時系列化したりすることで、データとしての価値が上がります。あなたの会社の売上の増減は企業努力なのか、市場の趨勢によるものなのかの判断に使えます。売上の伸び率が、業界の売上推移を下回っていたら、あなたの会社のビジネスに改善点があるということになります。

政府等の統計数値

小売業やサービス業の場合は、総務省の家計調査の結果が役立ちます。1世帯平均の消費支出(いくらお金を使ったか)の調査結果が前年同月比や前月比でその増減が景気の判断基準として発表されています。その大元となるデータは数百の品目の消費推移の積み上げです。次のグラフは、それらの数値から例として選出し、2005年の支出額を100としてその推移を表したものです。酒類に関する支出として「家飲み(家庭での酒類の購入)」と「外飲み(外食の飲酒代)」、それに「喫茶店代」並べて比較をしてみました。

image2

青い点線のグラフは家庭における酒類への支出の推移を表しています。もし、あなたが酒屋を経営していたなら、早晩、コンビニエンススタイルの店舗に改装するのが得策かと考えるでしょう。一方、外食の飲酒代はそれほど落ち込んでいない。最近話題のコミュニケーションニーズの表れかもしれません。しかし外食の飲酒代も2012年から上昇傾向にあるとはいえ、まだ2005年のレベルにまでは回復していません。若者がお酒を飲まなくなった事実を如実に語っていると言えるでしょう。

一方、喫茶店代はどうでしょう。スターバックスコーヒーをはじめとした都心部のカフェショップの盛況ぶり、郊外型喫茶店のチェーン展開企業が上場するなど、ここ数年話題の喫茶店ビジネスが好調であることをデータの推移が裏付けています。

この総務省の家計調査は、世帯主の年代別や収入別などでも統計値を分析できます(総務省統計局のサイトからダウンロードしてエクセルで集計)。無料で消費者のニーズの流れがつかめるので、ぜひとも活用したいデータのひとつです。

信頼できるデータの見分け方

政府の統計数値や大手のシンクタンク、名の通った調査会社が公表している数値は、基本的に信頼できます。また、インターネットのモニター(回答者として登録されている協力者)の回答から得た調査結果も、世間のすべての人を統計的に代表しているとは言い切れませんが、現実との間にそう大きなギャップはありません。ただし、例えばあるIT製品についてインターネットのアンケートで好感が持たれていたとしても、インターネットを使っていない人の意見は反映されていないので、その好感度の回答率が実際のマーケットにそのまま当てはまるとは言えないことがあります。

昨今はWebメディア全盛の時代、企業も積極的に発信し、自社のサービスや商品の有用度を訴えています。しかしこれらは自社に都合の良いデータを集めていることもあるので、例えばあなたの会社を訪れたセールスパーソンがどんなに素晴らしい製品であるかを力説したとしてもうのみにはせず、政府や業界団体のデータなどと突き合わせて考えてみることをお勧めします。とくにICTなど新旧交代が激しいテクノローでは、購入した機器やシステムが数年後には充分な機能とはならなくなることがあります。それでは適切な投資とは言えません。そのテクノロジーに関する政府や業界団体が公表している出荷や販売の統計値を把握していれば、そのようなリスクは回避できます。

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分析方法のフレームワーク

難しい分析・解析テクニックは考えなくて問題はありません。統計知識も不要です。それ以前に、信頼できる情報を取得すること、そして前年比(前の年との単年比較)や前年同月比(昨年の同じ月との比較)だけではなく、長期のトレンドで数値を把握することが大切です。前掲の「飲酒代と喫茶店代」のデータをもう一度見てください。前年や前前年程度の期間では、たまたま悪かった年、あるいは良かった年だったのかどうかがわかりません。5年以上、できれば10年単位で過去のデータを時系列で整理しておく必要があります。

それともう一つ、必ずビジュアルで把握できるようにグラフ化することです。平均成長率がプラス0.3%もプラス0.4%も大きな違いはないように思えます。しかしそれを長期の推移としてグラフ化することで、はじめてその差が大きいことがわかります。前掲のグラフのようにできるだけシンプルに作成することがポイントです。

そこから読み取れる事実は、かなり衝撃的であるかもしれません。あなたのビジネスの市場規模(参入企業の売上の総体)が10年間プラスマイナス0%の成長が続いていたとすると、その先数年、十数年先もほぼ同じ推移か、人口減が顕在化する日本ではマイナス成長に陥る危険が高いと判断するべきです。市場が成長している中でのビジネスは「追い風」、マイナス成長なら「向かい風」。自分がいまどの風の側に立っているのかをまず知り、打つ手を考えたほうが成功確率は高くなります。

忘れてはいけない地域の人口の推移

ここまでお話すると勘のいい方はお気づきと思います。マーケットの趨勢が売上に響くのなら、地域の人口や経済の推移も大きく影響するだろうということです。巨大な工場が新規に稼働でもしない限り、おおむね人口の趨勢とその地域の経済の成長率は比例してしまいます。そして大きな問題は、いま日本全土が人口減少の道を歩んでいるということ。それでも地域により減少率に差があり、中には増加傾向の市区町村もあります。自社のビジネスのマーケット・トレンドを知ったうえで、つぎに必ず押さえたいのはあなたの会社のビジネスエリアの人口推移です。「最近、大きなマンションが建った」など目で見たもので判断してはいけません。必ずその人口推移を自治体から公表される数値で過去から把握してください。人口減少もまた「逆風」であることも忘れてはなりません。

先日、ある大手企業のグループ会社の社長様と歓談する機会を持ちました。社長曰く「数値がすべて。お客様の事情、ニーズを数字で把握し、ビジョンも提案も数字で表さなければならない時代になった」と力説していらっしゃいました。

既存データの収集、集計分析を行っている会社もあるので、データ収集や分析を依頼してみるのも手かもしれません。資料は経営企画のデータとしてのみならず、社員やパートナー(販売店等)様への啓もう資料としても使えるでしょう。

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(編集:創業手帳編集部)

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